抄録
本研究では、学校が安全文化を醸成する上でどのような価値観を重要視しているのか、その現状を包括的に把握することを目的として、学校安全表彰を受賞した全国の小・中・高等学校及び特別支援学校174校を対象としてアンケート調査を行い、76校からの回答を得た。その結果、1)安全文化を醸成する上で重視して取り組んでいる事項を尋ねた結果からは、「事前の危機管理」に関する「安全教育」を通じて、児童生徒の「思考力・判断力・表現力」を育成する傾向にあることを確認した。2)安全文化を醸成する上で重視している要素・要因を尋ねた結果から、安全文化に関しては「情報に立脚した文化」を最も重視しており、安全風土に関しては「安全の学校内啓発」を最も重視していることを確認した。一方、「正義の文化」や「柔軟な文化」はあまり重視されていないことが分かった。3)学校安全に取り組むようになった《きっかけ》、周辺地域や他団体の模範となる《特色ある取組・実践》、安全文化を醸成するための《創意工夫》について尋ねた結果から、安全文化を促進させている要因ととして、組織活動に取り組むこと、安全関連の支援事業の指定を受けること、他校・他地域の被害を見聞きすることなどが分かった。一方、安全文化を醸成する上で直面している《課題》について尋ねた結果から、安全文化の醸成を阻害している要因として、教職員の意識の低下・温度差であることが分かった。4)学校安全に取り組み始めてからの年数が長い学校では、管理職の交替(異動)による影響を受けず、また、学校安全に関するPDCAサイクルが効率的に機能し、安全文化が維持されている可能性がある。その一方で、学校安全に取り組み始めてからの年数が長くなると、失敗等を報告しにくい学校環境になっていく恐れがあることが分かった。