抄録
本研究では、日本の知的・発達障がい児者に対する防災支援の現状と課題、特に熊本県の「福祉子ども避難所」制度を大阪府における南海トラフ地震対応として検討する必要性について考察した。災害大国である日本において障がい者、特に知的障がい者等に対する災害時の備えの重要性が極めて重要であると指摘されている(和田ら(2016)1))。東日本大震災では、健常者に比べ障がい者の死亡率が約2倍であったことからも、障がい者の避難や避難所生活の困難さが浮き彫りとなった。また、南海トラフ地震発生が予測される中、災害リスクの高い地域である大阪府でも知的障がい者等への配慮が不十分とされる。
本研究では、熊本県が導入した「福祉子ども避難所」のシステム(熊本市(2019)2))を大阪府で活用する可能性を探るため、熊本県でのインタビュー調査を実施し、その効果や課題について検討を行った。なお、「福祉子ども避難所」は熊本市が取り組む二次的避難所の位置づけである福祉避難所の一種として熊本市が定めたものであり、特別支援学校と連携し、障がい児者やその家族が安心して避難生活を送れる環境を提供するものであり、大規模災害時に支援が行き届きにくい障がい児者のニーズに応える役割を果たしている。本研究結果から大阪府での実施が可能になった場合、津波リスクが少ない特別支援学校を避難所として活用することが可能となり、障がい者の避難生活の支援に繋がる可能性が示唆された。しかし一方で、こうした避難所の運営には、備蓄や人員確保、制度整備といった課題も残されていることから今後は、行政や地域との連携による合理的配慮の実現が重要であることが明らかとなった。