動脈硬化
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脳動脈硬化症の精神症状
脳卒中後片麻痺患者111例における観察
山崎 博男村瀬 弘島本 達夫佐々木 俊明小林 逸郎
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1974 年 2 巻 2 号 p. 131-140

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抄録

脳動脈硬化症の診断においては, 不明確な点が少なくない. 一方, 脳血栓, 脳出血患者の脳においては, 動脈硬化が存在している可能性は極めて高い. そこで, 脳動脈硬化症の精神症状を知るため, 鹿教湯温泉療養所にてリハビリテーション中の脳卒中後片麻痺患者111例の精神症状を観察した. 男83, 女28, 年齢33歳から78歳, 脳血栓65, 脳出血46であり, 塞栓例はない. 発作後2ヵ月ないし6年9ヵ月経た症例である. 寝返り, 坐位, 立位, 歩行において著明な障害を示した患者は11%以下であった. 自覚症状発現率は, 頭重22%, 頭痛13%, めまい15%, 耳鳴り13%, のぼせ感8%, 肩こり28%とそれほど高くなかった. 意識障害は, ほとんどの患者に認められず, 明識困難が9%, せん妄が4%にみられるのみであった. 感情障害に関しては, 不安26%, 多幸25%, ゆううつ11%, 易怒粗暴29%, 感情失禁50%に認められた. 自発性低下を示すもの27%, 無関心, 拒否を示すもの11%であった. 場所, 時間, 人物に関する見当識障害はそれぞれ4, 12, 7%であった. recent memory 40%, remote memory 22%, 計算56%と比較的多数の患者が記憶および計算における障害を示した. 性, 年齢, 疾患の種類および期間, 麻痺の程度, 左片麻痺か右片麻痺か, 高血圧, 虚血性心電図変化, 蛋白尿の有無によって患者を分け, これらの精神症状発現の条件を分析した. 最も顕著な所見は, 左および右片麻痺患者の間で, 記憶および計算障害の発現に差がみられたことであった. すなわち左片麻痺54例中3 (6%) に対し右片麻痺57例中22 (39%) において remote memory の障害がみられ推計学的有意差 (P<0.001) を示した. また左片麻痺にて44%, 右片麻痺にて67%に計算障害がみられた. これらの患者はすべて右利きである. 記憶計算障害の発生頻度は失語症を示す症例の百分率よりもはるかに高い. この成績は優位脳に記憶に関連する機構が存在する可能性を示唆する所見と考えられた.

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© 一般社団法人 日本動脈硬化学会
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