抄録
本稿の目的は,機関投資家・アナリストがESG投資を行うプロセスを,特に従業員エンゲージメントの評価の観点を中心に,TEAのTEMを分析手法として用いて明らかにすることである。実際に投資家らは,情報開示を受けることで,従業員エンゲージメントをESG投資の一要素として評価しているが,本稿ではさらに一歩踏み込んで,どのように従業員エンゲージメントの情報開示を重視しているかを質的分析により明らかにする。5人4社の研究協力者を歴史的構造化ご招待して半構造化面接を実施し,4つTEM図と統合TEM図を描いた。4つの分岐点,5つの必須通過点を経てESG投資をする等至点に至る中で,4つの時期区分を導出した。従業員エンゲージメントに的を絞ると,人的資本の有価証券報告書への情報開示義務化が始まり注目度が高まることを背景に,従業員エンゲージメントは沢山ある指標の一つと投資家らから位置付けられていることが分かった。また,ESG情報を定量面・定性面トータルでみて評価することを,必須通過点とみなせることが分かった。従業員エンゲージメント情報は,数値化されて公表されるものもあるが,現段階では他の投資指標のように客観化・一般化されたものにはなっておらず,現代的な意味での重要性は認識されつつあるが,総合評価の一要素として投資判断時に参照されているのに過ぎない。本稿の理論的貢献は,TEAを産業・組織心理学や経営学の領域に適用したこと,会社横断的にESG投資プロセスを図示化したことである。