2021 Volume 16 Pages 34-44
造血幹細胞移植(以下,移植とする)は急性期の合併症リスクが大きい治療であったが,免疫抑制剤,感染症や移植片対宿主病(graft-versus-hostdisease以下,GVHDとする)に対する支持療法の進歩により移植成績が改善しているとの報告(Gooley ,2010; Kurosawa,2012)がされている.しかし,移植の長期経過後も臓器障害や二次がんといった様々な合併症のリスク状態が継続し,発症時には複数の身体症状が出現し重症化しやすい(Cooke,2017).また,移植後の晩期合併症の1つである慢性GVHDは,その免疫反応に付随する抗腫瘍効果によって移植後の再発リスクが低下するメリットがある一方で,移植後晩期の非再発死亡率と生活の質(Quality of Life,以下QOL)の低下の主要な原因となっている(Jagasia,2015).そのため,患者は,長期にわたるセルフケア行動を継続することが求められており,移植後の経過をいかに支えるかということが重要な課題となっている.
Jagasia MH (2012),Kanda(2014)は慢性GVHDを有する患者の70%程度に皮膚病変が存在し,重症化し全身治療が必要となりやすいことを報告した.皮膚の慢性GVHDは,乾燥や掻痒感といった不快な症状を引き起こし,皮膚の硬化による日常生活動作の阻害や外見の変化によって患者の生活の質に深刻な影響を与える(日本造血幹細胞移植学会,2019).加えて皮膚の慢性GVHDは,二次がんのリスク因子でもあるため移植後患者の皮膚がんの発症は一般集団の7倍超と報告されている(造血幹細胞移植ガイドライン,2018).皮膚はセルフケアが可能な部位であるため,移植により脆弱となった皮膚に慢性GVHDが生じないように皮膚のバリア機能を保護し皮膚機能回復のためのセルフケア行動をとることが重要である(日本造血幹細胞移植学会,2019).しかしながら,移植に関連した皮膚のセルフケア行動の文献検討は,移植の周術期に関連したものが多く,移植後の慢性GVHDにおける皮膚のセルフケア行動の現状や看護支援については明らかになっていない.
本研究では,移植後患者の慢性GVHDの皮膚のセルフケア行動に関連する認識と要因,課題を明らかにし看護支援の示唆を得ることを目的に文献検討を行った.
皮膚のセルフケア行動: 皮膚の生理機能を良好に維持する,あるいは向上させることを目的に治療やケア,予防などを行い皮膚全体を管理すること.
2.2 検索方法医学中央雑誌Web版version5とPubMedを用い,和文献・英文献について,2021年5月まで全年度にわたって検索を行った.医学中央雑誌Web版version5では「造血幹細胞移植」「慢性GVHD」「皮膚」をキーワードとして検索したところ21件が抽出された.PubMedでは「Hematopoietic stem cell transplant 」「Graft-versus-host disease 」「skin care」をキーワードにしたところ69件が抽出された.文献から会議録,重複文献を除外した。加えて治療の選択や決定において親の意思決定が優先され,セルフケアが困難な小児を対象とした文献を除外した.医学中央雑誌Web版にて16件,PubMedにて40件が抽出された.その後,抽出された文献を精読し皮膚の慢性GVHDの皮膚のセルフケア行動に関連した内容が含まれていることを選定基準として19文献を選定した.(表1)
文献番号 | 著者 | 発表年 | 国 | 研究方法 | 対象者 | 目的 | 皮膚の慢性GVHDの健康信念モデル | |||
個人の特性 | 慢性の皮膚GVHDの罹患性、重大性の認識 | 行動のきっかけ | 皮膚の自己管理への障害 | |||||||
1 | Hatice SANIほか | 2004 | トルコ | 量的 | 移植後患者67名 | 移植後に発症した皮膚片対宿主病の臨床症状の評価すること | ○ | ○ | ○ | ○ |
2 | 石田和子 | 2005 | 日本 | 質的 | 移植後患者13名 | 移植後患者が退院後に遭遇する困難と移植を受けたことで変化した生活を再構築できる要因を明らかにすること | ○ | ○ | ○ | |
3 | 松田光信ほか | 2006 | 日本 | 質的 | 悪性リンパ腫のため移植した患者1名 | 悪性リンパ腫と診断され自己末梢血幹細胞移植受けたAさんの生活史を記述し経験の意味を解釈すること | ○ | ○ | ○ | |
4 | K Sugimotoほか | 2008 | 日本 | 量的 | 移植後患者77名 | 成人の臍帯血移植後の慢性GVHDの臨床的特徴を明らかにすること | ○ | ○ | ||
5 | 森一恵ほか | 2008 | 日本 | 質的 | 移植に携わる看護師20名 | 移植に携わる看護師が移植前後の患者に提供している身体的、心理社会的側面への援助の内容と方法を明らかにすること | ○ | ○ | ○ | ○ |
6 | 原田真里子ほか | 2009 | 日本 | 量的 | 移植後患者11名 | 移植前後のQOLの変化および関連要因の特徴を明らかにすること | ○ | ○ | ||
7 | 平田佳子ほか | 2009 | 日本 | 質的 | 移植後患者男性4名女性5名 | 造血幹細胞移植後に慢性GVHDを発症した患者のボディ・イメージとボディ・イメージの変化がもたらす状況に適応していくための行動を明らかにする | ○ | ○ | ○ | ○ |
8 | 萩原將ほか | 2009 | 日本 | 量的 | 認定移植施設を対象とし医師からの回答100施設、看護師からの回答71施設。 | 造血幹細胞移植後の慢性GVHDや晩期障害などに対する長期フォローアップシステムについての実態を明らかにすること | ○ | ○ | ○ | ○ |
9 | 高橋奈恵ほか | 2009 | 日本 | 量的 | 移植後外来で継続治療している患者61名、血液内科に勤務している看護師16名と内科外来に勤務する看護師6名 | 現在の支援体制において患者及び医療スタッフが抱える問題や要望を明らかにし、支援体制のあり方を検討すること | ○ | ○ | ○ | |
10 | 黒澤彩子ほか | 2013 | 日本 | 量的 | 20歳以上の移植後患者47名 | 移植後の長期フォローアップシステムの構築のため現在の体制を明らかにすること | ○ | ○ | ○ | ○ |
11 | Atsuta Yほか | 2014 | 日本 | 量的 | 移植後患者17545名 | 二次がんの発生率、一般集団と比較したリスク、および続発性固形がんの危険因子を明らかにすること | ○ | ○ | ||
12 | LM Curtisほか | 2014 | アメリカ | 量的 | 移植後患者240名 | 慢性GVHDのNIH基準の妥当性を明らかにすること | ○ | ○ | ○ | ○ |
13 | 大塚敦子ほか | 2014 | 日本 | 質的 | 60歳以上の移植後患者10名 | 高齢者の造血幹細胞移植の体験を明らかにし、移植をいかに意味づけたのかについて明らかにすること | ○ | ○ | ○ | |
14 | 浜田聡ほか | 2016 | 日本 | 量的 | 慢性GVHDを発症した患者4名 | 強皮症様皮膚硬化を認める難治性慢性GVHDに対する紫外線照射の有効性を明らかにする | ○ | ○ | ||
15 | 永井康央ほか | 2017 | 日本 | 質的 | 18歳以上の移植後1年以内の患者18名 | 外来通院する造血幹細胞移植後早期の患者のライフコントロールはどのようなものなのかを明らかにすること | ○ | ○ | ○ | |
16 | Nozomi Hamadaほか | 2017 | 日本 | 量的 | 移植後患者40名 | 移植後患者の健康に関連した生活の質に影響を与える因子について明らかにする | ○ | ○ | ○ | ○ |
17 | 上野理江ほか | 2018 | 日本 | 質的 | 移植後退院後1年程度の再発のない患者6名 | 退院後1年の時期にある患者に困難と対処を明らかにすること | ○ | ○ | ○ | |
18 | Rumi Maedaほか | 2020 | 日本 | 量的 | 移植に関わる看護師237名 | 慢性GVHDの臨床判断の正確さを明らかにすること | ○ | ○ | ○ | ○ |
19 | Saro H Armenianほか | 2020 | アメリカ | 量的 | 移植後患者720名 | 移植後患者の皮膚がんスクリーニング率を高めること | ○ | ○ | ○ | ○ |
データの分析・統合には,Berkerの健康信念モデルを参考にした.健康信念モデルは,疾患の早期発見や予防のための健康行動を理解・説明するためのモデルとして提唱され,個人が勧められた予防的健康行動をとる見込みを予測することが可能となっている(日本健康心理学会,2003).本モデルでは脅威の認識が大きく,有益性の認識が障害の認識よりも大きい際に予防的健康行動をとる見込みが高まるとされている(佐藤,2021).
移植後の二次がんのリスク因子として皮膚の慢性GVHDが報告されている (日本造血幹細胞移植学会,2019).皮膚はセルフケアが可能な部位であるため患者は、皮膚の具体的なケア方法や観察が行えるように入院中より看護師から指導を受けている(日本造血幹細胞移植学会,2019).皮膚の二次がんの発症リスクは移植後1年といった比較的早い時期から10年以降まで高い状態が継続する。そのため、看護師は皮膚の慢性GVHDの早期発見の重要性や皮膚のセルフケアの継続の必要性について定期的に情報提供を行う必要がある。そのため,移植後患者が皮膚の慢性GVHDや二次がんといった脅威をどのように認識しているのかを把握し介入することで,長期的に予防的健康行動をとることにつながると考えられる.そこで,Berkerの健康信念モデルをもとに皮膚の慢性GVHDの健康信念モデルを作成した.作成したモデルに照らし合わせて「個人の特性」「皮膚の慢性GVHDの罹患性,重大性の認識」「行動のきっかけ」「皮膚のセルフケア行動の障害」の各項目の動向について検討を行った.(図1)
図1 皮膚の慢性GVHDの健康信念モデル
対象文献の研究概要を表1に示した.質的帰納的研究手法を用いた論文は7件,量的研究手法を用いた論文は11件であった.造血幹細胞移植後の皮膚の慢性GVHDの皮膚のセルフケア行動に関する論文は2004年のトルコの皮膚の慢性GVHDの臨床症状を評価する量的研究が初見であった.2005年に日本でも移植後の患者が退院後に遭遇する困難の中で皮膚の慢性GVHDが挙げられ,皮膚のセルフケア行動が継続できるようにサポートの必要性について記載されていた.2008年以降は移植後の皮膚のセルフケア行動に関する文献の増加が認められている.
皮膚の慢性GVHDの皮膚のセルフケア行動に関する項目を健康信念モデル(図1)の4項目に分類した.「個人の特性」「皮膚の慢性GVHDの罹患性,重大性の認識」「行動のきっかけ」「皮膚のセルフケア行動の障害」の項目について検討した.
3.2 個人の特性(19文献中19件)皮膚の慢性GVHDの発症に関わる個人の特性について調べた文献では,臍帯血移植は末梢血幹細胞移植より皮膚をはじめとした慢性GVHDの発症リスクが低いことが報告されており,幹細胞源により皮膚の慢性GVHDの発症に影響を与えていることが明らかになっている(NO.1,4,12).また,移植前の前処置で行われる全身の放射線治療,移植後3ヶ月以内の急性GVHDを含めた皮膚障害の既往(NO.1,11,12,19),高齢であること(NO.1,6,11-13)が皮膚の慢性GVHD発症を増やす因子となっていることが報告された(NO.2,3,4,12,19).移植後1年程度では3分の1以上の患者が皮膚症状や倦怠感,疲労感を訴えるため皮膚症状は全身の慢性GVHDの重症度を反映していることが明らかになっている(NO.2,5,6,7,14-19).
セルフケア行動を必要とする皮膚の慢性GVHDを発症する時期については9.9ヶ月程度(NO.1,12,14)とされ,皮膚がん発症リスクは移植後1年といった早い時期から10年目以降まで一貫して高いこと(NO.1,12,14)が示されている.また,移植後の免疫抑制剤の内服の増減により皮膚の慢性GVHDの症状が変動することが明らかになっている(NO.1,14,19).移植後の皮膚は抗がん薬や放射線治療により,皮膚が乾燥し皮膚炎が生じやすく皮膚のバリア機能が破綻した状態となる(NO.1-3,6,9,12,14-16,18,19).加えて,皮膚の萎縮,線維化,角化異常による皮膚のざらつき,落屑が出現する(NO.1,6,7,12,14,18).皮膚硬化が真皮に及ぶと発汗異常や色素沈着,爪が割れるといった変化も起こりやすくなる(NO.1,3,12,14,18,19).疼痛や皮膚の乾燥などの自覚症状があるため(NO.3,7,9,12,16-19),皮膚障害が重症になると皮膚のセルフケア行動や生活の質に大きく支障を来すことが明らかになっている(NO.4,6-10,12-19).
皮膚のセルフケア行動に影響する要因としては,元々の皮膚のセルフケアの技術や習慣(NO.5,7,17-19),皮膚のセルフケア行動への関心や知識(NO.5,7,13,17-19)が明らかになった.また移植時や外来などで行われる指導内容への理解度や,困ったときは医療者に相談する習慣の有無(NO.2,3,5,6,8-10,13,16-19)は,皮膚の慢性GVHDの危機を知覚する影響因子となっていることが示されている.
3.3 皮膚の慢性GVHDの罹患性,重大性の認識(19文献中11件)重症化した皮膚の慢性GVHDの治療には大量の副腎ステロイド剤の投与や免疫抑制剤の増量といった全身治療を1年以上必要とする(NO.1,4,5,11,12,18,19).加えて,長期にわたる全身治療や炎症は二次がん発症のリスク要因となることが報告されている(NO.4,11,12,19).また,移植後の副腎ステロイドや免疫抑制剤の内服,細胞性免疫と液性免疫の長期的な低下により皮膚のバリア機能が低下する.さらに,皮膚障害が発生すると外見の変化が生じ疼痛や掻痒感といった症状が増強するだけでなく,重症感染症をおこす契機となり生命予後に関わることが示されている(NO.1,4,11,12,18,19).
3.4 行動のきっかけ(19文献中17件)慢性GVHDにおける皮膚のセルフケア行動を促すきっかけは,退院前に行われるオリエテーション(NO.5,8,9)や定期的な看護師による長期フォローアップ外来での情報提供(NO.2,9,10,15-19),電話での指導(NO.9,12,19)などの看護介入により,患者のセルフケア行動に影響を及ぼしていた.医師(NO.1,5,7,8,10,12,13,15-19)やソーシャルワーカー(NO.10,19),看護師(NO.1,2,5,8,10,12,13,15-19)といった多職種からの情報提供や情緒的サポートなどの介入は,患者の行動のきっかけとなり皮膚のセルフケア行動を促す刺激となっていた.患者自身で雑誌や書籍(NO.5,9),インターネット(NO.5,9)や動画(NO.19)や指導の際に使用されるパンフレット(NO.9)から情報を得ることが皮膚の慢性GVHDの脅威やセルフケア行動の有益性の認識につながっていた.加えて,患者会などで移植仲間との情報交換や(NO.2,3,5,9,13,15,17,19),家族など周囲からのセルフケア行動の声かけや励まし(NO.3,5,9,15-19)によって,患者自身が,皮膚のセルフケア行動を実行する能力が自分にはあるという自己効力感の向上につながっていくことが示唆されている.
3.5 皮膚のセルフケア行動の障害(18文献中16件)皮膚のセルフケア行動を妨げていた要因は,移植後の易感染状態や晩期合併症による発熱や下痢,皮膚の疼痛や掻痒感といった身体的症状(NO.2,5,7,10,15,16,17,19),再発やいつ合併症の症状が出現するか不明であるといった不確かさなどによる精神的ストレス(NO.2,5-9,10,15-17)であることが報告されていた.知識不足や共感が得られないことなどを起因とする医師や看護師といった医療者への不信感(NO.5,8-10,17-19)が皮膚のセルフケア行動の有益性と障害の認識に悪影響を与えていた.また,病院へのアクセスの悪さ(NO.9,10,19)など,すぐに相談できない環境(NO.2,3,5-10,15,17-19)も物理的な障害となっていた.さらに,患者同士が情報を交換することは患者個々で移植後の経過に違いがあるため,患者にとって不適切な情報(NO.5,7,9)となる場合も否めず,そのことが不安感を煽られる場合もあることが示唆されている.そのほか,社会的な要素としては,仕事や家庭のことなどによる時間の不足(NO.2,15,16,19)や,受診や皮膚のセルフケア物品への経済的負担(NO.5,10,16,19)から,セルフケア行動に対する障害の認識を高めている.加えて,家族や友人といった周囲のサポート不足(NO.2,3,5,7,9,13,15-17,19)が,移植後患者のセルフケア行動を妨げる要因となることが示されていた.
保湿剤や軟膏,洗浄剤などの皮膚のセルフケア物品の種類が多い故の選択の困難さ(NO.18,19)がセルフケア行動を継続する障害の原因となっていた.さらに,具体的なスキンケア方法においては,外用薬の塗布の範囲が全身に及び,軟膏類の塗布回数を2回以上求められる場合があることが負担と感じるとの報告がある(NO.19).また,保湿剤のベタつきによる不快感(NO.19)や残存している軟膏や皮膚代謝物が混ざることから,皮膚に悪影響を及ぼさないためには十分に洗い流す必要性があること(NO.19)も負担感を抱き,皮膚のセルフケア行動の障害の認識を高めている.
直射日光や紫外線を避けるために季節を問わず長袖の衣服や帽子を着用し,日焼け止めクリームを使用を移植後最低2年間は継続することが推奨されている(NO.19).しかしながら,皮膚のセルフケア行動を継続していても完全に予防できず(NO.1,5,7,9,10,19),症状が年単位で改善しないことで長期間のスキンケアのストレス(NO.1,2,5-7,9,10,13-15,17-19)となりセルフケア行動の障害となることが報告された.
造血幹細胞移植後の皮膚の慢性GVHDの皮膚のセルフケア行動に関する文献は2004年のトルコで行われた量的研究手法を用いた論文が初見であり,当初は,移植後の慢性GVHDに関する臨床所見についての論文が認められた.日本では,1990年代に入ってから移植ソースの拡大などによる劇的な件数の増加や移植成績の向上に伴い,移植後患者の長期生存が可能となった(日本造血幹細胞移植学会,2019).その一方で,移植後GVHDのコントロールや二次がん,復職の問題など多くの課題が明らかとなり,移植後の経過をいかに支えるかということが重視されるようになった.
2005年に「移植後患者が退院後に遭遇する困難」について,質的研究手法を用いた論文が報告された.加えて, 2014年1月に「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」が施行されたことにより,移植後の皮膚のセルフケア行動に関する報告は,さらに増加した.
4.2 個人の特性皮膚の慢性GVHDの発症リスク要因として,年齢や性別,全身放射線治療の有無や幹細胞源,急性GVHDの既往の有無が報告されている(NO.1,4,12).急性GVHDの好発する皮膚障害は,移植の際に造血幹細胞に混じって輸注されたドナーのリンパ球による免疫反応である.それゆえに,移植治療の入院早期から皮膚科医が治療介入し,看護師による皮膚のケアも行われるため重症化が予防されている(NO.5).しかし,皮膚の慢性GVHDは,ドナーの造血幹細胞が生成したリンパ球による免疫反応のため症状が長期化しやすく,全身治療を必要とする患者の30〜35%程度しか治癒可能となっていない(豊嶋崇徳,2018).また,皮膚の慢性GVHDが発症する時期は9.9ヶ月程度となっている(日本造血幹細胞移植学会,2019).したがって,外来通院中の患者に発症することが多く,移植後の皮膚の脆弱性や免疫抑制剤の内服に関連した皮膚の慢性GVHDの症状の変動(NO.1,14,19)を理解し,患者自身が,皮膚のセルフケア行動をとることが求められている.
一方で,患者が,皮膚のセルフケア行動が実行できるように,入院中より皮膚の観察や保湿剤の塗布を看護師と一緒に行い,退院前にはオリエンテーションも受けているが(NO.5,6),皮膚のセルフケア行動が十分に実施できていない現状がある(山田,2012).その原因には,患者自身の皮膚の慢性GVHDの症状の変動(NO.1,14,19)や知識不足や指導の理解度,元々の皮膚のセルフケアへの関心の低さが挙げられる.
長期フォローアップ外来において相談対応した内容は,皮膚の慢性GVHDのセルフケアが最も多い(日本造血幹細胞移植学会,2019).皮膚の慢性GVHDは移植後の主要な晩期死亡原因である二次がんのリスクとなるため,退院後の皮膚のセルフケア行動を患者に任せるだけでなく,外来での適切な時期の看護介入が重要である.介入の際に患者の皮膚の慢性GVHDのリスク因子を把握し現状の皮膚のセルフケア行動を査定することが重要である.その上で,看護師は移植後患者自身の身体面・認知面を考慮しながら皮膚の慢性GVHDの罹患性や重大性について説明を行い,実行可能なセルフケア行動がとれるよう支援することが重要である.皮膚の慢性GVHDの症状は外見の変化が生じやすく他の職種でも発見することが可能である.加えて,治療に関連して症状が変化するため多職種で情報共有を行い連携することで早期発見,早期治療が可能になるため支援体制については今後の検討が必要であると思われた.
4.3 皮膚の慢性GVHDの罹患性,重大性の認識皮膚の慢性GVHDの罹患性の認識とは,移植後早期より適切な皮膚のセルフケア行動を行わなければ皮膚の慢性GVHDを発症するリスクとなり(Saro H Armenianほか,2020),移植後で免疫力が低下しているため,皮膚の慢性GVHDを発症すれば重症化するかもしれないという(NO.5,7,11,16,18,19)個人の感じ方である.
皮膚の慢性GVHDの発症や重症化すること(日本造血幹細胞移植学会,2019)によって,全身治療を行うことで重症な感染症を引き起こし生命予後に影響を与える.また,長期的な炎症や全身治療は二次がんの契機となる.この事から,皮膚の慢性GVHDの重大性の認識とは慢性GVHDの発症や重症化することが自分にとってどのくらい重大かという個人の感じ方である(NO.1,7,8,10,12,16,18,19).
皮膚の慢性GVHDの罹患性と重大性の認識は,何もしなければ皮膚の慢性GVHDになるかもしれないという危機感につながり,皮膚のセルフケア行動をとる見込みにつながることが考えられる.危機感が大きいほど,セルフケア行動をとる見込みは高まると考えられるが,皮膚の慢性GVHDに対する危機感が大きすぎる場合には,情報や介入を避けようとすることもあるため,患者の反応を注意深く観察しながら情報を提供し介入する必要がある.また,退院後の皮膚の慢性GVHDは,耐え難いものであるが命あっての後遺症と捉え,皮膚のセルフケア行動を仕事として捉え折り合っていることも報告(NO.13)されており,こうした移植後患者の肯定的変化を促進するような精神的援助を含めた支援の重要性が示唆された.
4.4 行動のきっかけ行動のきっかけとしては,退院前に行われるオリエテーション(NO.5,8,9),定期的な看護師による情報提供(NO.2,9,10,15-17,19),電話での指導(NO.9,12,19)が挙げられる.移植後皮膚の慢性GVHDは日常生活に支障となる症状が多く,患者は気軽に相談できる専門的知識や経験をもつ医療職のアドバイスを求めている(NO.1,2,5,7,8,10,12,13,15-19).看護介入として,移植後患者の皮膚の症状が不十分な皮膚のセルフケア行動による症状か,GVHD関連の症状か,日常生活とセルフケアの状況を総合して評価を行うことが重要である.その上で,患者の生活に即したアドバイスをすることで,適切な皮膚のセルフケア行動を促す刺激になると考えられる.
医療者からは,提供できない当事者同士のかかわりの効用が期待されている移植患者同士の交流では(国立がん研究センターがん対策情報センター,2010),情報交換の場だけでなく(NO.2,3,5,9,13,15,17,19),不安やストレスについて同じ辛い気持ちを共有し,ともに支えあう仲間を得ることができ,皮膚のセルフケア行動をとるきっかけとなる.看護師は,患者同士や患者自身で書籍やインターネットから情報を得ている(NO.5,9)際は,間違った情報や適切に理解していないかを確認し,患者の状況に合わせて介入を行うことが重要である.しかしながら,外来において,看護師は身体的・精神的・経済的・社会生活などあらゆる面においてフォローしている.そのため看護師が,患者・家族が活用できる情報や社会資源,患者会についてアクセスする支援を,患者の知識や理解度に合わせて介入することができていない現状にある.したがって,自己効力感の向上と皮膚のセルフケア行動につながるきっかけをつくれるよう支援体制を整えることが今後の重要な課題であるといえる.
4.5 皮膚のセルフケア行動の障害皮膚のセルフケア行動の障害として身体的症状(NO.2,5,7,10,15,16,17,19)による体力・活動耐性の低下や,精神的ストレス(NO.2,5-9,10,15-17)によって,抑うつや気分障害が引き起こされると,皮膚のセルフケア行動の障害となることが報告されていた.患者は,退院後,療養場所が自宅に変化し,免疫抑制剤のコントロールや感染管理,食事管理,身体状況の確認を継続的に行い,家庭や仕事と両立しながら生活を送るため,時間的制約や疲労感からも皮膚のセルフケア行動が疎かになることが報告されている(NO.2,15,16,19).また,病院へのアクセスの困難や診察代,交通費など治療に関わる経済的な負担(NO.5,9,10,16,19)に直面するため,利用可能な社会資源や経済的な助成を受けられるよう医療ソーシャルワーカーなどと連携することが必要である(日本造血幹細胞移植学会,2019).
皮膚の慢性GVHDは,皮膚の清潔保持,化学的・物理的刺激の除去,乾燥防止が求められているため継続して行うことが推奨されている(日本造血幹細胞移植学会,2019).多数存在する保湿剤などのスキンケア物品の選択の困難さや外用薬の塗布の範囲が全身に及ぶなどスキンケアの方法の複雑さ,日光暴露予防のための帽子や長袖の着用の煩わしさが皮膚のセルフケア行動に伴うマイナス面となっている(NO.18,19).さらに皮膚のセルフケア行動を行っても完全に予防することができず,症状が10年以上継続する場合もある.そのため,患者が期待する効果が感じにくく,回復する見込みの不確かさからストレスにつながり皮膚のセルフケア行動の障害になっていることが報告されている(NO.1,3,5,7,9,10,12-19).
周囲のサポートが得られるように家族へも治療や症状,外用薬を塗布する必要性など有益性について十分な説明を行い,療養生活を共に支え合えるように患者会を紹介するといった介入が大切である.そうすることで,周囲のサポート体制が整えられ患者の障害に対する捉え方の変容や自己効力感の向上につながると考えられる.
移植後早期から皮膚の観察やケアについて指導を行い,患者が継続して皮膚のセルフケア行動がとれるように,看護師は患者の身体面・精神面を配慮した上での効果的な介入が求められている(山田,2012).
しかしながら移植看護の経験の少なさや知識不足から皮膚症状の適切なモニタリングと皮膚の慢性GVHDへの評価が適切に行えず症状の観察ができていない現状がある.加えて,セルフケア行動の障害の軽減や有益性を伝えられない不十分なフォローアップは患者の皮膚のセルフケア行動を実行するための障害となるだけなく看護師の課題となっている(NO.5,8,9,10,17-19).従って,皮膚の慢性GVHDのモニタリングや評価の精度を上げるための勉強会の実施や移植に関わる看護師の育成と質向上のための継続教育が求められている(NO.18,19).
1.研究の動向として,造血幹細胞移植後の皮膚の慢性GVHDの皮膚のセルフケア行動に関する文献は2004年のトルコで行われた量的研究が初見であった.2005年に日本では移植後患者が退院後に遭遇する困難についての論文が認められた.2014年1月に「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」の施行を背景として文献数は徐々に増加していた.
2.「個人の特性」は,放射線治療の有無などの皮膚の慢性GVHD発症のリスクが挙げられた.
3.「皮膚の慢性GVHDの罹患性」として皮膚の慢性GVHDを発症した場合は,移植後の免疫低下により重症化しやすいという認識が明らかになった.また,「皮膚の慢性GVHDの重大性」として重症な皮膚の慢性GVHDを発症した場合,重症な感性症や二次がんの契機となり生命予後に関わるという認識が明らかになった.
4.「行動のきっかけ」は,オリエンテーションや患者同士の情報交換が皮膚のセルフケア行動を刺激していることが示された.
5.「皮膚のセルフケア行動の障害」として倦怠感などの身体的負担,継続することの精神的負担,スキンケア方法の煩雑さといった障害が挙げられた.