Journal of Japan Academy of Transplantation and Regeneration Nursing
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Print ISSN : 1881-5979
Survey on Actual State of Regenerative Medicine in Japan
Ikuko AbeEtsuko ToubouYumi Chiiba
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2024 Volume 18 Pages 29-36

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抄録

本調査は、再生医療看護の体系化に向けて、再生医療の実態を把握、整理することを目的に検討を行った。厚生労働省ホームページ「再生医療等提供計画「治療」区分」から、再生医療第一種から第三種計画の具体的内容等を、病理生理学体系をもとに分類し記述統計を示した(2023年7月現在)。その結果、全国5,258施設(重複含む)が届け出ており、最も件数が多かったのが東京都1,752件33.3%(第一種1件、第二種608件、第三種1,143件)であった。分類別では、第一種7件、第二種1,416件、第三種3,835件であった。第一種は、全てインスリン依存性糖尿病に対する同種膵島移植で、第二種は、関節などの運動器に関する治療が691件48.8%であった。第三種は、歯・口腔疾患に関する治療が1,647件42.9%であった。再生医療が身近な診療科で行われている実態が明らかとなったことから、今後看護がこの分野にどのように参画していくかの課題が示唆された。

Abstract

This survey aimed to grasp and organize the actual state of regenerative medicine in order to systematize regenerative medicine nursing. Using the Ministry of Health, Labour and Welfare website "Information on Institutions Providing Regenerative Medicine, etc. (Treatment)," specific details of regenerative medicine Type 1 to Type 3 plans were classified based on pathophysiology systems, and descriptive statistics were conducted (as of July, 2023). As a result, 5,258 facilities nationwide (with duplications) submitted notifications, with Tokyo having the highest number of notifications (1752 cases, 33.3%) (1 case of Type 1, 608 cases of Type 2, and 1143 cases of Type 3). By category, there were 7 cases of Type 1, 1,416 cases of Type 2, and 3,835 cases of Type 3. The first category was all allogeneic islet transplantation for insulin-dependent diabetes mellitus. And in the second category, 692 (48.9%) were for treatments related to joints and other musculoskeletal organs. The third type was treatment related to dental and oral diseases in 1,647 cases (42.9%). It became clear that regenerative medicine is being performed in familiar medical departments, indicating the issue of how nursing can participate in this field in the future.

1.緒言

日本における移植・再生医療、遺伝子医療などの先進医療は、悪性腫瘍や難治性疾患といった重度疾患を有する患者に多大な恩恵をもたらすことが期待されている。その一方で、医療に伴う未知の障害や健康問題、またそれらに関連した看護問題を惹起する可能性を有しており、将来的に安全な看護の実装を図れるよう具体的な支援内容の検討を進める必要がある。なお、日本移植・再生医療看護学会は、先進医療である移植医療と再生医療の両方をテーマにした、国内外を見渡しても珍しい、唯一無二の学会として2005年10月に創立された。本学会は、先進医療が対象にもたらす恩恵による健康に対して、また先進医療によって惹起される健康問題や看護問題を探求するとともに、その看護ケアや看護治療の開発と実践に関する研究を行うことを目的に運営されている(日本移植・再生医療看護学会ホームページ)。2017年に行った調査で、日本移植・再生医療看護学会員と第13回日本移植・再生医療看護学会参加者145名の経験した移植の内訳(複数回答)では、生体間臓器移植108名74.5%、脳死臓器移植83名57.2%、造血幹細胞移植46名31.7%、再生医療に該当する組織移植21名14.5%であった(習田ら, 2020)。

近年、我が国における先進医療技術に関する話題としては、iPS 細胞(induced pluripotent stem cell:人工多能性幹細胞)、新型出生前診断(Non-Invasive Prenatal Testing : NIPT)、悪性腫瘍治療の分子標的治療薬やエピジェネテックス(epigenetics)治療薬などのゲノム創薬(Genome – based drug discovery)などが挙げられる。なかでもiPS 細胞は、2012年12月に山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したことから、社会の人々に広く知られることとなり、その治療に対する期待感が高まっている。再生医療とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織に対して、細胞を積極的に利用して、その機能の再生を図るものである(日本再生医療学会ホームページ)。このような先進的な医療技術は、治験から通常治療へと移行・拡大しつつある時代となり、看護師は開発された医療技術の応用(試行や実施)に携わり、看護ケアを提供していく状況に置かれることがある。そのような看護活動の中で、新たな課題が発生する可能性があり、積極的に向き合い取り組むという姿勢をもたなければならず、看護が社会の中で医療技術の進歩とどのような位置関係に存在するかという大きな視野から考える必要がある(安藤, 2013)。

2014年11月には、さらに再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするために、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(厚生労働省, 2014)、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(厚生労働省, 2014)が施行された。しかし、再生医療看護に関する先行研究は、再生医療に対する看護師の意識調査(樋口, 森山, 弓削, 2006)や、再生医療・移植医療・遺伝相談・生殖医療などの先進医療看護の授業案の構築(赤星, 土屋, 古家, 2009)に関するものが散見されるだけで、再生医療の実態に関するものは見受けられず、再生医療看護の必要性を言及する十分な情報を得ることが困難である。

そこで今回、再生医療看護の体系化に向けて、基礎資料を得るために再生医療の実態を把握、整理することを目的に調査を行った。

2.研究方法

2.1 調査方法

厚生労働省が運営している再生医療等の各種申請等のオンライン手続きサイト「e-再生医療」に、申請を行った「再生医療等提供計画「治療」区分」で、公開されている再生医療等提供機関の名称、再生医療等の名称を対象とした(2023年7月現在)。

2.2 調査期間

2023年7月~8月

2.3 データ分析方法

収集したデータは、「再生医療等提供計画「治療」区分」で、公開されている再生医療等提供機関の名称、再生医療等の名称を中心に、都道府県別に施設件数や施設規模の概要を記述統計で示すとともに、再生医療第一種から第三種計画の具体的内容について病理生理学体系をもとに分類した。その際に、どの項目にも該当しないものをその他の項目とし、加齢性変化や機能低下に関するものは「アンチエイジ」、がん・悪性腫瘍に関するものは「悪性腫瘍」、脂肪組織や乳房組織の欠損に関するものは「形成・乳房再建」、慢性疼痛に関するものは「慢性疼痛」としてそれぞれ分類した。また、同一医療施設で複数の再生医療等を申請した場合は、施設が重複されて分析することを容認した。

3.結果

3.1 再生医療等提供施設の概要

本研究では、「再生医療等提供計画「治療」区分」で、公開されている再生医療等提供機関について申請された再生医療の内容を中心に分析を行ったため重複施設に関しては容認した。ただし、重複率としては、第一種申請施設は7施設(重複率0%),第二種申請施設は861施設(重複率39.2%、施設最大申請件数22件)、第三種申請施設は2,971施設(重複率23.9%、施設最大申請件数13件)であり、申請施設全体では3,377施設(重複率35.8%)であった。

再生医療等提供計画(治療)を申請した施設は、5,258施設(重複含む)存在し、最も施設数が多かったのは東京都が1,752施設33.3%(第一種1件、第二種608件、第三種1,143件)、次いで、大阪府が584施設11.1%(第一種1件、第二種167件、第三種416件)、福岡県が329施設6.3%(第一種1件、第二種103件、第三種225件)であった。最も施設数が少なかったのは、10施設0.2%の山形県(第一種0件、第二種3件、第三種7件)と、山梨県(第一種0件、第二種3件、第三種7件)であった(表1)。

病院規模では、最も多かったのが診療所で4,675施設88.9%(第一種0件、第二種1,156件、第三種3,519件)、次いで200床未満の病院が251施設4.8%(第一種0件、第二種114件、第三種137件)であった。最も少なかったのが、特定機能病院と臨床研究中核病院の両方の機能を果たす医療機関で10施設0.2%(第一種5件、第二種0件、第三種5件)、次いで大学病院が35施設0.7%(第一種0件、第二種10件、第三種25件)であった(表2)。

3.2 再生医療等の概要

「再生医療等提供計画 「治療」区分」で公開されている再生医療等の内容について、第一種から第三種までを含めたすべての再生医療等の内容を病理生理学分類で分けると、最も多かったのが口腔内組織の再生や口腔インプラント治療など歯・口腔に関する治療で1,676件31.9%、次いで皮膚や頭皮・頭髪の再生に関する治療が1,179件22.4%、その他が1,076件20.5%であった。その他の項目の中でも最も多かったのは、悪性腫瘍に関する免疫療法などの治療で849件16.1%であった。また、件数は少ないが子宮内膜や卵巣に関する不妊治療等の女性生殖器95件1.8%や、女性・男性更年期や勃起不全などのアンチエイジに関する治療28件0.5%が申請されていた(表3)。

「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」によって定められている再生医療にかかる安全上のリスクの度合いに応じて分類化された第一種から第三種では、第一種7件、第二種1,416件、第三種3,835件であった。さらに、再生医療の内容を病理生理学分類で分けると、第一種は全て内分泌代謝関連のインスリン依存性糖尿病に対する同種膵島移植7件100%で、第二種は変形性関節症等の関節に対する自己多血小板や自己脂肪組織由来幹細胞治療、脊髄損傷に対する自己骨髄由来幹細胞治療などの運動器に関する治療が691件48.8%、アトピー性皮膚炎や挫創瘢痕・皮膚の加齢性変化に対する自己脂肪由来幹細胞治療や自己皮膚線維芽細胞治療が254件17.9%、そして、その他の慢性疼痛に対する自己脂肪由来幹細胞治療が137件9.7%であった。第三種は顎顔面口腔領域の骨・軟部組織の再生や口腔インプラント治療に対する自己血由来血小板や自己血小板含有フィブリンゲル治療等が1,647件42.9%、難治性皮膚潰瘍・皮膚組織再生や毛髪発育さらに美容療法に対する自己多血小板血漿治療が925件24.1%、そして、その他の悪性腫瘍に対するアフェレーシスを利用した自己培養ナチュラルキラー細胞・ヒト自己樹状細胞やガンマ・デルタT細胞などを用いた免疫機能に関する治療が848件22.1%であった(表3)。

表1 都道府県別再生医療等提供施設件数


表2 病院規模別再生医療等提供件数


表3 病理生理学分類別件


4.考察

4.1 再生医療等提供施設について

2014年11月に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」では、再生医療を、人の生命及び健康に与える影響の程度に応じて第一種から第三種再生医療等の3種に分類した。第一種再生医療等は、ヒトES細胞やiPS細胞等を用いたヒトに未実施の高リスクの再生医療を含み、第二種再生医療等は、自己脂肪細胞等の体性幹細胞を用いた既に実施されていた中リスクの再生医療であり、第三種再生医療等は、活性化リンパ球を用いた従来の各種悪性腫瘍治療を含む体細胞を加工したリスクが低いと考えられる再生医療である。第一種再生医療等は、大都市圏の特定機能病院でかつ臨床研究中核病院に該当する医療機関や特定機能病院のみで実施されていた。第二種再生医療等は、秋田県を除く全国で実施されており特定機能病院でかつ臨床研究中核病院に該当する医療機関を除いた特定機能病院や大学病院から診療所で実施されていた。第三種再生医療等は、低リスクの治療ということもあって全国の特定機能病院でかつ臨床研究中核病院に該当する医療機関から診療所など幅広い医療機関で実施されていた。特に第二種・第三種再生医療等では、診療所が8割以上を占めていた。

「令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」(厚生労働省, 2022)では、「病院」は 8,238 施設、一般診療所と歯科診療所を含めた「診療所」は 170,486施設であった。さらに、「令和2年(2020年)衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(厚生労働省, 2022)では、就業場所別に実人員をみると、看護師及び准看護師は「病院」が最も多く、それぞれ883,715 人(69.0%)、101,628 人(35.7%)、次いで「診療所」が169,343人(13.2%)、92,389人(32.5%)であった。第二種・第三種再生医療等が多く実施されている診療所は、看護師の勤務割合が少ない医療機関であることから、再生医療に関する適切な看護ケアを供給するための情報源を共有化することが重要になると考える。

一般診療所での看護師の役割として、【多職種と連携する】【患者・家族に指導する】【短時間で情報収集する】【問い合わせに対応する】【患者・家族の精神的支援をする】【学生を指導する】が挙げられている(横井, 2021)。再生医療等に携わる診療所は、一般診療所とは異なり治療の安全性や意思決定・権利擁護などの倫理性に関する役割が存在すると考えられ、再生医療提供過程で看護師がどのような関わりを行っているのかについて明らかにする必要がある。

4.2 再生医療等の内容について

2013年10月から改訂版の「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」が策定され(厚生労働省, 2013)、再生医療用の細胞の培養が臨床研究を実施する機関と異なる機関で行う細胞培養加工の外部委託が可能となったことにより、歯科や皮膚科、整形外科などの小規模な医療機関でも取り扱うことが可能になったと考えられる。それ以前では、心筋梗塞の患者への自家骨髄を直接心臓組織内への移植や、閉塞性動脈硬化症やバージャー病に対して自己骨髄細胞を用いた治療が行われるなど、ある一定の規模の医療機関の中で、再生医療が爆発的な広がりを見せていた。そのなかで、健全な形で再生医療を進めていくために十分な基礎研究に裏打ちされた科学性を持つことや、患者や幹細胞を提供するドナーやレシピエントの安全性が十分に担保されているか、再生医療が十分倫理性や社会性を持っているのかを問いかけながら進める必要性があると述べられてきた(中畑, 2004)。

法律施行から10年の時を経て、救急医療により救命した患者の後遺症への対処や悪性腫瘍により喪失したボディイメージの形成、加齢による機能低下の再生など、傷病者や高齢者にも高いQuality of Lifeを達成することが、医学・医療の大きな目標として共有されるに至った。そのなかで、患者の自己決定という原理に大きく依存した形で再生医療が進められた場合には、不均衡なリスクを患者に負担させかねないことが危惧されていた(旗手, 2015)。

本調査の再生医療等の内容について見ると、加齢による歯や歯肉の機能低下など顎顔面口腔領域の骨・軟部組織の再生や口腔インプラント治療が最も多く、次いで加齢による皮膚・頭髪の変化に対する治療や美容に関する治療、悪性腫瘍に対する免疫療法や慢性疼痛に対する治療など、傷病者や高齢者に高いQuality of Lifeを達成する目的での治療が多く行われていた。しかし、先行文献で倫理性や社会性に関して取り扱ったものは少なく、患者と医師の知識やパワーバランスを均等化させる方法論や患者の意思決定支援、権利擁護という倫理性に着眼した研究が求められている。

4.3 再生医療看護の視点から

悪性腫瘍の二次的効果として免疫能の賦活や細胞機能の回復を図るために、アフェレーシスを利用して治療に必要な白血球(リンパ球・NK細胞・単球)だけを採取し細胞が壊れないように薬剤で特殊な処理を施し超低温で凍結保存し、活性化リンパ球療法や樹状細胞を使ったワクチン療法などに活用する方法がある。この治療には、輸血部門看護師や病棟看護師が施設横断的患者管理を行ううえでの連携や、採取・治療が可能な施設が限定されていることにより、希望と不安を抱えながらやむを得ず遠方から来院する患者家族の精神的支援の在り方などが課題となっている(高木, 2023)。また、再生医療そのものに対する看護師の意識調査を行った研究では、61.9%の看護師は再生医療について知っていると答えているが,その知識はマス・メディアからの一般的な理解にとどまっており、再生医療に対する賛否については治療困難な疾患への医療の可能性や、拒絶反応などの副作用がない治療への期待感、安全性への不安やクローン人間作製への助長への懸念といった倫理的な指摘をする意見が挙げられていた(樋口, 森山, 弓削, 2006)。

本調査により、さまざまな医療機関で提供される再生医療に、多くの看護師が携わりケアを提供している状況が示唆されたが、これら先進医療に関する知識や倫理的側面を含めた実際の再生医療看護に関する研究成果は非常に乏しい。今後は、実際に医療機関で働く看護師が、医療技術のみならず、再生医療を選択する患者の意思決定にどのように関わり、どのように患者が決定していくかのプロセスに着眼し、ICNの倫理綱領(日本看護協会, 2022)にある指針「テクノロジーや科学進歩について、安全性、尊厳、プライバシー、秘密性、人権に適合した倫理的な活用を擁護する」といった内容に、近づけられるような看護活動の展開を目指すことが必要と考える。

5.おわりに

日本移植・再生医療看護学会での教育委員会の活動として、移植・再生医療看護の実践、研究、教育の質を高めるための活動を企画運営し,広く看護界・社会に発信し、移植・再生医療看護学の向上と発展に寄与することが謳われている。今回の再生医療等の実態調査が、今後の再生医療看護の実践や研究の基礎調査となりうると考える。

謝辞

本調査に当たり、ご多忙のなかご協力いただきました日本移植・再生医療看護学会理事長添田英津子様、並びに教育委員会担当理事森田孝子様、習田明裕様に心より感謝申し上げます。

引用文献
 
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