西洋古典学研究
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公職者としての元首のプロクラートル
米田 利浩
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1985 年 33 巻 p. 88-98

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抄録

周知のように,元首政期のローマ帝国には元老院身分と騎士身分のふたつの官職体系が「併存」していた.このうち,元老院身分のそれは,事実上の「一人支配」という新しい現実の中で著しい変容をとげてはいるものの,その起源を共和政期の政務諸官職にまでたどることができるものであったが,これに対して,本来私人の代理人を意味したローマ私法上の術語を冠して「元首のプロクラートル」と総称されることになる財政業務担当の諸官職を中軸とする騎士身分の官職体系は帝政期に入って生れた全く新しい官職体系であった.固より,帝政の開始とともにこの官職体系が一挙に出現したわけではなく,先年物故したH. G. プーロームの研究に拠れば,騎士身分の官職体系が,諸官職間の俸給額による官職序列も定まり,昇官階梯が整序化されて,元老院身分の官職体系と相並ぶ官職体系として一応の完成をみせるのは2世紀前半期のハドリアーヌス帝代のことであったとされている.ところで,このようにして形成された騎士身分の官職体系のもつ性格に関して,3世紀に入ると,セウェールス朝代に活躍した法学者の間に,元首のプロクラートルもまた公務(res publica)に携わる公職者であると明示的に説く学説があらわれてくる.本稿では,この法学説を,元首政期における帝国国制とその変容という脈絡の中で位置づけ,その意味するところについて考えてみたいと思う.

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