抄録
合金の分極曲線を単一成分金属の分極曲線から導くことを説明した。不均一な格子分布をもつ混合金属結晶では, 金属組成のある範囲内で活性態における合金の溶解速度は最小の溶解速度を示す主要成分金属の値に近づくのである。このような挙動は均一な格子分布をもつ混晶における化学的侵食と類似している。ここで述べる理論が正確になりたつためには, 含まれている成分金属の自由エネルギーが合金化によって, 本質的に変化しないことを必要とする。
二元合金の分極曲線の極大は, 一方の成分金属の分極曲線の増大する部分と他方の成分金属の減少部分との交点と密接に関係している。不働態域では最小の溶解度を有する酸化物が蓄積して溶解速度を決定するのである。これらの結論をフェライト系とオーステナイト系の不銹鋼の分極曲線とその各成分の分極曲線とを比較して確かめた。さらに, 不働態被膜の成長の機構について二三の特質を明らかにした。活性態, 不働態いずれの状態においても, もしも合金組成を適当に選ぶならば, 合金の溶解は最小の溶解速度をもつ金属によって制御されるのである。