認知科学
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The adaptive use of heuristics: Investigations of human inferential strategies in a new task structure
白砂 大
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2021 年 28 巻 2 号 p. 316

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抄録

ヒューリスティックとは,「なじみ深い選択肢を選ぶ」,「容易に想起できる選択肢を選ぶ」など,単純で直感的・経験則的な判断方略である.人は環境に応じてヒューリスティックを使い分けることで,正確な判断を行っているとされる.この枠組みはadaptive toolbox と呼ばれ,人の知性がもつ重要な一側面を示している.しかしその有効性は,限られた課題構造でしか検証されていない.本論文では,新たな課題構造として,選択肢に2 つ,問題文中に 1 つの対象物が呈示される「関係比較課題」(e.g., 都市Q があるのは,国A と国B のどちらか)を提唱した.そのうえで,関係比較課題を解く際に従来のものと異なるヒューリスティックが使われるか,またそれが正確な判断を導き,使用可能な機会が多いかについて検証した. Study 1 では,関係比較課題でどのような方略が使われるかを検証した.行動実験の結果,難易度の高い問題で,先行研究で報告のない「familiaritymatching(問題文中の対象物となじみ深さが似ている選択肢を選ぶ)」と呼ぶべきヒューリスティックが多く使われていると考えられた. Study 2 では,familiarity-matching の正確性を検証した.実世界データの分析および計算機シミュレーションを通して,familiarity-matching が,環境構造(実世界で特定の情報が出現する頻度)に合致し正確な判断を導くことを示した. Study 3 では,Study 1 を異なる題材を用いて追試し,結果の頑健性を確認した. Study 4 では,familiarity-matching の使用可能性を検証した.なぜなら,ある方略の正確性が高くても,それが課題中で使える機会が少ない(使用可能性が低い)ならば,有用とは言えないためである.行動データの分析および計算機シミュレーションから,familiarity-matching は使用可能性の面でも他の方略より優れていることを示した. Study 5 では,課題構造は同じだが正答がない購買場面を扱った.行動実験の結果,familiarity-matching が他のヒューリスティックよりも人の選択をよく説明した.よって,関係比較という課題構造では,人が広くfamiliarity-matching を使うことが示唆された. 本論文は,従来議論されていない課題構造という切り口から,人のヒューリスティック使用がもつ適応的側面,具体的にはadaptive toolbox という枠組みの有効性を,行動実験,計算レベルのモデルを用いた行動データ分析,計算機シミュレーションなどを駆使して解明した.その結果,人が使用していると考えられる適応的なヒューリスティックの新たな発見に至った.

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© 2021 日本認知科学会
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