抄録
薬物治療の不遵守(nonadherence)はさまざまな要因が背景となるが,臨床的,社会的,また経済的に負の結果をもたらす,臨床薬理学的に看過できない問題である.小児急性リンパ性白血病(ALL)は,多剤併用化学療法の後,6-メルカプトプリン(6-MP)とメトトレキサート(MTX)の内服維持療法を1.5−3年行うが,白血球数,好中球数を至適な範囲に保つように薬の量を増減する.維持療法の不遵守はALLの再発率を上昇させる.本報告では,日本とカナダ双方で経験した,維持療法に不遵守であった思春期患者の2例を提示する.いずれの症例も薬の増量にも関わらず白血球数,好中球数が至適な値より高値であることから発覚した.在住地域や文化が異なるにも関わらず,不遵守は病気や予後への理解不足といった共通の要因で起こっていた.思春期は小児から成人へ移行し心身ともに発達をする時期であり,自我の形成と社会的な自立が確立してくるが,不遵守の長期的な結果を考えることができないといった未熟さも有する場合があることを医療者は意識する必要がある.病気と予後に関する繰り返しの患者教育が重要である.また,薬の効果が予想以上に得られない場合には医療者は不遵守を積極的に疑い,問診や検査を行う必要がある.