抄録
人は,自分が大事だと思ったことを他者に伝えようとするものである.臨床や薬事の現場のように,「科学」の内容を相手が知らなければ,とにかく「伝える」ことが肝心と思うものである.だが,ただ一方的に「伝える」だけでは,相手には「伝わらない」.なぜなら,もともと興味のないものを単に提示しても,「心が動かない」からである.心が動かなければ,関心を示そうともしないし,ましてや理解しようとはまったく思わないだろう.注意すべきは,科学の面白さにはすべての人々が興味を示すという間違った思い込みである.本稿では,筆者が前職のNHKで制作してきた科学番組「すイエんサー」や「日本エコー遺産紀行ゴスペラーズの響歌」,現在大学でトライしている「コトづくり」の事例なども挙げながら,ただ単に伝えるのではなく,「伝わる」ためにいったい何をすべきか,相手の心を動かすためにはどんなコミュニケーションをとるべきか,番組制作者の目線から語っていく.