1996 年 17 巻 2 号 p. 162-166
要 約 : レセプターキナーゼは, 細胞表面に存在するレセプターをリン酸化することにより, 外界からの刺激による細胞の応答の感受性を調節する役割を有する酵素である. それらのなかでも, β-adrenergic receptor kinase (βARK) は, エピネフリンのレセプターである血管内皮細胞のβ-adrenergic receptorを刺激依存性にリン酸化するのみならず, 末梢白血球に多く存在し免疫機構に重要な役割を果たしている可能性も考えられている. この研究の目的は, このβARKがヒト歯髄においてmRNAを発現するか否かを調べ, さらにその発現程度が歯髄の炎症によって変動するかどうかを明らかにすることである. まず, ラットの骨肉腫由来の培養細胞から, RT-PCR法によりβARK1のcDNAの一部を得た. ついで, 矯正学的理由で抜去したヒトの齲蝕のない上顎第三大臼歯の歯髄から全RNAを抽出し, このラットβARK1 cDNAをプローブとして, ノーザンブロット解析を行なったところ, βARK1 mRNAの発現が認められた. さらに, 齲蝕を有し, 明らかな炎症症状を呈していた上顎第三大臼歯の歯髄から全RNAを抽出して, RT-PCR法でβARK1 mRNAの発現を調べたところ, 正常歯髄に比べ明らかな増加が観察された.
以上より, βARK1が歯髄における炎症において何らかの役割を果たしているものと推測された.