抄録
令和3年度末に厚生労働省が「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針」を発表した。ろう・難聴児教育においては、補聴器や人工内耳技術の向上を背景に、今後ますます早期療育の重要性が高まり、インクルーシブ教育が推進される見通しが示された。従来の聴覚特別支援教育では、広域から子どもを集める聴覚特別支援学校の幼稚部に、片親が毎日送迎し、付き添うことも多かった。ところが、若い世代は共働き前提の経済状況に移行しており、地域の保育所や幼稚園に通うろう・難聴児は、今後増えると予想される。補聴技術が進歩しても、地域の保育所や幼稚園の環境の構成、特に音響環境は、ろう・難聴児が偶発的学習をするのに適しているとはいえない。インクルーシブな環境でのろう・難聴児に特化した発達の支援については、知見が不足しており、検討が必要である。そこで本稿では、現在のろう・難聴児の言語と社会性の発達についての知見、支援システムについてまとめた。その上で、地域の保育所・幼稚園等でろう・難聴児がことばだけでなく、社会性を身につけるには、今後どのような対策が必要かについて整理し、新たな“特別支援保育”が必要であることを論じた。