環境バイオテクノロジー学会誌
Online ISSN : 2436-5041
Print ISSN : 1347-1856
総説(特集):「カーボンリサイクルに貢献する微生物」
カーボンニュートラル実現に向けた微細藻類産業利用の可能性:ちとせグループの微細藻類の産業利用へ向けた取り組み紹介
星野 孝仁黄 湘婷青柳 裕之青木 慎一野村 純平松崎 巧実遠藤 政城Jose Romel. F. Malapascua
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2022 年 22 巻 1 号 p. 47-51

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抄録

戦後,人口増加に伴う食糧・エネルギー・環境問題等への有効な対処方法として,既存の農業による一次生産の増産に加えて,微細藻類の培養および産業利用が盛んに検討されてきた。陸上植物の栽培と比較して,微細藻類の培養は,

・有用バイオマスの生産性が高い,

・必要とする淡水の量が少ない,および

・農耕に適した土壌を必要としない,

等の大きな優位性が論じられている。そのため,微細藻類培養は,効率的な一次生産であるばかりでなく,既存の農業と競合することなく一次生産量を増加させる方法の一つとして,その応用が期待されている。微細藻類が初めて商業利用されて以降,一部の用途において微細藻類を利用した事業が継続的に確立されてきた。しかし,主要穀物で見られる規模の微細藻類の生産・産業利用には至っていない。微細藻類の産業利用が拡大しない理由として,

①大規模生産の欠如

②多様な用途の欠如

の2点が,その主たるものとして挙げられる。①や②の要因として,体系的な研究開発基盤や開発方針の欠如,特定の藻類種や培養方式の不適切な利用,未確立な産業構造やサプライチェーン,および①や②そのものが挙げられる。また,今日ほど,環境持続性の重要性が正しく認知されず,環境持続性の経済的価値が適切に評価されない社会情勢であったことも,①や②の要因として特記されるべきである。以前にも増して環境持続性がより求められる昨今,こうした課題を克服し,微細藻類が有する効率的な一次生産能,環境持続性,産業利用への汎用性を正確に評価,認知した上で,その産業利用を促進することの意義は大きい。こうした背景を踏まえ,本稿ではMATSURIプロジェクトを始めとした,微細藻類産業の確立に向けたちとせグループの取り組みを紹介する。

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