1979 年 1979 巻 16 号 p. 15-22
日本の軽種馬におけるウマライノ1型ウイルスに対する血清学的疫学調査を行なった.
1974年から1977年に採取した軽種馬の血清, のべ1024例の中和抗体を検索した結果, 北海道 (日高地方) における明け2歳馬の抗体陽性率はのべ200例中, 平均16.5%であった. また, これは3ないし4歳の競馬場在厩の競走馬においては平均85.5%であり, 4歳以上の馬事公苑所属の乗馬においては88%の抗体陽性率であった.
一方, 宇都宮育成牧場の2ないし3歳の育成馬の調査において, 1974年に入厩した育成馬群 (57例) の抗体陽性率は約40%で, これは育成終了時の翌年3月まで変動しなかった.
しかし, 1975年の育成馬群 (55例) の陽性率は9月, 24.1%および12月, 36.4%で, 翌年3月にはすべての育成馬が抗体陽性に転じた.
さらに1976年の育成馬群 (60例) においても同様に入厩時 (9月) に45.8%から翌年3月の育成終了時には100%の抗体陽性率を示した. これらの馬群においてはいずれも高い中和抗体が検出され, この期における各育成馬群においてウマライノ1型ウイルス感染の流行があったことが示唆された.
また, このウイルスに対する中和抗体を14例の経過血清について, 生産地, 育成牧場を経て競馬場の入厩直後まで調査したところ, これらのうち, 生産地 (明け2歳時) で抗体が証明されたものは2例で, これらは調査期間を通じ, ほぼ同水準の抗体価を保持した. 他の11例は育成期においても抗体の獲得は認められなかったが, このうち4例は5月に競馬場に入厩後, 直ちに高い抗体を獲得し, このウイルス感染が推察された. この調査によってウマライノ1型ウイルスは, 日本の軽種馬においても欧米諸国と同様, 広く馬群間に伝播されており, このウイルス感染にもっとも感受性のあるウマの年齢は競走年齢に達する満2歳までが主体であり, 成馬においては高率 (平均86.8%) に, しかも高い水準の中和抗体を保有していることが認められた.