日本中央競馬会競走馬総合研究所報告
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馬伝染性子宮炎に関する研究IV
実験感染馬における病理学的所見
和田 隆一鎌田 正信福永 昌夫熊埜御堂 毅
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1983 年 1983 巻 20 号 p. 133-143

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抄録

馬伝染性子宮炎 (CEM) の原因菌であるHaemophilus equigenitalisの102, 106および1010個を3頭の馬の子宮内に接種した後, いずれも9日目に病理解剖し, 感染菌量が異なる場合の病理学的変化について検討した. また, 1010個接種例では, 3日目と6日目剖検例を加えて, 第9病日までの病理学的変化の経時的推移を調べた. 5頭の実験馬は全て, 2-4日目に子宮膣部炎および膣炎の徴候を現わし, 粘膜の充血や浮腫が認められた. しかしながら, 滲出液の流出は1010個接種例だけに見られ, 102および106個接種例には認められなかった. 病理解剖学的な主要所見は子宮粘膜の浮腫であり, 1010個接種, 6日目剖検例で最も顕著であった. 組織病理学的には生殖器粘膜上への好中球の遊走, 固有層の浮腫および主として単核細胞からなる細胞浸潤が共通所見であった. また, 子宮粘膜上皮細胞の変性脱落および子宮腺ののう胞性拡張が1010個接種, 9日目剖検例だけに認められた. 光学および電子顕微鏡を用いた観察により, H. equigenitalisは両端鈍な短桿状を呈し, 周囲に厚い莢膜を有していた. また本菌は生殖器の粘膜表面や腺腔内の粘液中に遊離の状態で存在, 増殖し, 子宮内膜上皮下への侵入像は観察されなかった. このような菌の増殖部位は感染馬における病理学的変化の形成に大きな影響を及ぼすと推察された. すなわち, CEM感染馬における病理学的変化は生殖器粘膜に限局し, 筋層や漿膜には及ばないものと考えられた. したがって, 本病は病理学的には急性カタール性子宮内膜炎に分類されるものであろう.

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