2024 Volume 2024 Issue 1 Pages 150-164
丹藤 慧也(筑波大学 大学院生)丹藤 永也(青森公立大学)
キーワード:心的態度,スピーキングパフォーマンス評価,自信
本研究のねらいは,小学校教員の英語への心的態度がスピーキングパフォーマンス評価の実施に与える影響について,学級担任と専科教師を比較しながら検証することである。青森県内の外国語科を担当している小学校教員を対象に質間紙調査を行い,得られた回答に対して相関分析及び決定木分析を行った結果,英語力と評価に自信があるという項目が,学級担任と専科教師を分ける要因であることが示された。また,学級担任では「好き」,専科教師では「自信」という心的態度がパフォーマンステストの実施において大きな要因となっていることも明らかになった。このことは,学級担任が専科教師に比べ,パフォーマンス評価に対し自信を持っていないと推測され,学級担任においては,指導や評価,英語力に自信を持つことができるような研修体制の構築が急務であると言える。さらに,英語力に自信があることが,指導や評価への自信につながっていることや,専科教師では言語活動,ルーブリックの作成,個別パフォーマンステストが連動して行われている可能性が高いことが示唆され,指導が効果的に行われているかをチェックする観点としての新しい知見が得られた。本研究の成果は,今後,外国語科担当の人事配置や教員研修に活用できるものと考える。
2020 年度に小学校において新学習指導要領が全面実施され,中学年に外国語活動が,高学年に初めて教科として外国語科が設置された。教科化により数値による評価が導入され,『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 小学校 外国語•外国語活動』(文部科学省,2020)では,新しい観点での評価において,実際に知識や技能を用いた場面を設けるなど,多様な方法を適切に取り入れること,またペーパーテストのみならず,論述やレポートの作成,発表,グループでの話し合い,作品の制作や表現等の多様な活動を取り入れたり,それらを集めたポートフォリオを活用したりするなど評価の工夫をすることが挙げられている。
しかし,以前から小学校教員の英語力不足(及川,2019)や英語指導や評価能力への不安(米崎他, 2016)が指摘されており,また二宮•相馬(2019)は多くの教員が教科化に不安を感じていることを明らかにしている。教科化後の研究としては,太田(2020)はパフォーマンス評価の学校間,教員間の格差を指摘し,AEON(2021)は小学校外国語科の課題のトップは評価の仕方であることを示した。
そして,教科化 2 年目にあたる令和 3 年度文部科学省「英語教育実施状況調査」では,[やり取り]と[発表]を評価するスピーキングパフォーマンステスト(以下,パフォーマンステストと同義)の全国実施率が 96.8%(5 年生 96.6%,6 年生 97.0%)であることが示された。また全国のパフォーマンステストの平均回数は,[やり取り]では 5 年生 3.6 回,6 年生 3.4 回,[発表]では 5 年生 3.3 回,6
年生 4.1 回(丹藤,2023)であった。この数値だけを見ると,パフォーマンス評価は全国的に実施されているように思われる。しかし,前述のように多くの小学校教員は自身の英語力や英語指導,パフォーマンス評価について苦手意識や不安を抱えており,専門的な知識,経験が求められるパフォーマンス評価が正しく実施されているのか,また児童のパフォーマンスが正しく評価されているのかという懸念が生じる。そこで丹藤(2023)は青森県内の小学校教員を対象に,令和 3 年度のスピーキングパフォーマンス評価の実態について,詳細な調査を行った。その結果,パフォーマンス評価について実施していると認識している割合は 88.1%と高いものの,その形式が,教員と児童が 1 対 1 で行うような個別パフォーマンステストではなく,クラス全体で行う言語活動の中での見取りで代替しているケースが多いことが明らかになった。この傾向は特に学級担任で強かった。また,パフォーマンステストの回数が指導者によって大きな差があることや年間の評価計画及びルーブリックの作成が,それぞれ 13.5%,62.1%と低いことも明らかにしている。ベネッセ教育総合研究所(2022)も,外国語の評価に使っている材料について,「パフォーマンステスト」が 5 年生で 58.2%,6 年生で 67.0%,「授業中の様子」が 5 年生で 96.7%,6 年生で 94.8%という調査結果を示しており,丹藤(2023)と同様に,言語活動の見取りがパフォーマンステストの代替の方法として活用されていることが明らかになった。
ここでは小学校におけるパフォーマンス評価の実施に影響を及ぼすと考えられる先行研究を概観する。笹島•ボーグ(2009)は学習経験や指導経験が指導観に影響を及ぼすとしており,このことは指導教員にスピーキングパフォーマンステストに関する経験がない場合,積極的に取り組むことが少ない可能性があることを示唆している。また,Warford and Reeves (2003) は非母語話者の教員は自身の学習経験を利用していることを明らかにしているが,このことも笹島•ボーグ(2009)と同様なことが指摘される。また,矢野•泉(2016)はティーチャートークにおいて専科教員•Japanese Teacher of English(JTE)と学級担任を比較し,専科教員•JTE の方が,言語コミュニケーション能力が高いことを示した。また経験年数においても,経験年数が長い教員の方が,言語コミュニケーション能力が高いことを明らかにした。ティーチャートークとパフォーマンステストは異なる活動ではあるが,どちらも児童とのやり取りが必要であるため,苦手意識等の心的態度に類似点があると考えられる。白鳥•志村(2022)は指導歴やビリーフが授業の活動形態や活動内容に影響していることを明らかにしている。
次に小学校教員の英語指導における自信についての先行研究であるが,三宅他(2016)は自らの発音と音声指導に不安を感じている教員が多いことを明らかにし,大嶋(2020)は自身の発音•指導に自信が持てずに課題を感じている教員の現状を指摘している。これらのことは,教師が発話しなければならないスモールトークや言語活動,パフォーマンステストの実施にネガティブな影響を与えるものと考えられる。また,中村他(2012)は英語力に自信のある教師は基磋を重視しており,中村•志
村(2014)は英語が得意な教員は,児童が授業内で積極的に参加し,関与し,学びを促進するための教育活動である「活性化活動」を多く行っている傾向があると述べ,自信のある教師は,児童•生徒の学力の伸長を見極め,積極的な指導を行う傾向があることを示唆した。
外国語活動が始まった当初から指導者が学級担任であることは議論の対象であり,学級担任と専任教師のメリット,デメリットがそれぞれに示されてきた。しかし,今回の学習指導要領の改訂により外国語科が教科化されたことで,指導者にはより専門的な知識•技能と経験が要求されることになり,文部科学省も専科教師を増員する方針を採っている。専科教師のメリットに関して,米崎他(2016)は専門的な知識をもった教員の増員の必要性を指摘し,俣野(2022)は専科教員制度について,指導の充実,授業の質の一定化,安定した学習の提供等の成果を挙げている。萬谷(2019)は学級担任の実態から,英語が好きでなく自信もない教員は指導者として専科教師を望むとしている。丹藤(2023)は個別パフォーマンステストの実施率について,専科教師の方が学級担任より高いとしている。また評価計画やルーブリックの作成率についても専科教師が高いことを明らかにしている。
以上,スピーキングパフォーマンス評価の実施に関わる先行研究を概観してきた。これまでに小学校英語指導教員の意識調査は多数行われてきており,自信や不安といった心的態度に関する研究もあるが,心的態度とスピーキングパフォーマンス評価の実施との関係については明らかにされていない。これらのことから,本研究では,小学校英語指導教員の英語への心的態度とスピーキングパフォーマンステストの実施との関係について,学級担任と専科教師を比較しながら検証することとする。
学級担任と専科教師におけるスピーキングパフォーマンステストに対する心的態度を比較しそれぞれの特徴を明らかにすることにより,小学校英語指導教員に必要な資質や能力に関する示唆が得られ,それらは教員研修の内容や英語指導教員の配置等に活用することができるものと考える。以上のことから,本研究では次のようにリサーチ•クニスチョン(RQ)を設定することとする。
RQ:スピーキングパフォーマンステスト実施時において,学級担任と専科教師それぞれの心的態度にはどのような特徴があるか。
本研究の調査期間は令和 5 年 3 月の 1 ヶ月間で,青森県内全小学校 257 校を対象にグーグルフォー
ムによる質間紙調査を依頼し,令和 4 年度のスピーキングパフォーマンステストの実施状況について質間した。その結果,71 校(回収率 27.6%)101 人から回答があり,その内訳は学級担任 72 人(71.3%)うち中学校経験 1 人,英語専科教師 21 人(20.8%)うち中学校経験 12 人,授業交換等 8 人(7.9%)であった。本研究では,授業交換による授業者は専科教師ではないため学級担任に含むこととした。そして,調査対象としたのは,スピーキングパフォーマンス評価を実施したと回答した学級担任 62
人,専科教師 19 人の合計 81 人である。
質問紙調査の設問数は 12 で,(1)指導者としての立場(学級担任•専科教師),(2)担当した学年•クラス•学校数,(3)教材会社テストの使用有無•その理由,(4)スピーキングパフォーマンステス ト実施の有無,(5)[やり取り]と[発表]のパフォーマンステストの回数,(6)年間評価計画の作成の有無,(7)ルーブリックの作成の有無(5:作成した,3:時々作成した, 1:作成していない),(8)採点者の立場(ALT•学級担任•専科教師),(9)採点の時期,(10)評価する際に重視した項目,(11)評価する際に困難と感じたこと,(12)英語への心的態度(英語が好き,英語の指導が好き,英語力への自信,英語の指導への自信,パフォーマンス評価への自信)である。(12)に関しては,それぞれ 5 (とても好き•とても自信がある),4(ある程度好き•ある程度自信がある),3(どちらともいえない),2(あまり好きではない•あまり自信がない), 1(嫌い•全く自信がない)の 5 段階で回答してもらった。調査を依頼する際には,個人が特定されることがない旨の記載をした。
まず,小学校教員の心的態度を明らかにするために,学級担任と専科教師を合わせた全体の結果とそれぞれの結果についてピアソンの相関分析を行った。次に,学級担任と専科教師を分類する心的態度の要因を明らかにするために,決定木分析を行った。決定木分析では,特徴量を確率に基づいて繰り返し分岐させ,最終的な目的変数を分類または予測していくことができる。ここでは,説明変数は小学校教員の英語への心的態度(5 項目),目的変数は指導者としての立場(学級担任•専科教師)とした。最後は,心的態度とスピーキングパフォーマンステストの実施の関係を明らかにするために,決定木分析を行った。ここでは,説明変数は小学校教員の英語への心的態度,目的変数はスピーキングパフォーマンステストの実施状況とした。
表 1 は学級担任と専科教師を合わせた全体の心的態度の記述統計である。「好き」の 2 項目に比べ
て「自信」の 3 項目がいずれも低く,「好き」ではあるが「自信」はあまりないことが明らかになった。
表 1
心的態度(全体 n = 81)の記述統計
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英語力に自信 |
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指導に自信 | 2.56 |
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評価に自信 | 2.64 |
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Note. n は人数,M は平均,SD は標準偏差,95% CI は 95%信頼区間を表している。心的態度は 5(とても好き•とても自信がある)~ 1(嫌い•全く自信がない)で回答してもらった。
この「自信」についての結果は,これまでの先行研究が示してきたように小学校英語指導者全体の傾向であり,この向上が継続した課題であると言え,効果的な対策を講ずる必要があると考える。
表 2 は,学級担任と専科教師それぞれの心的態度の記述統計である。5 項目すべてにおいて,専科教師が学級担任を上回っていることが明らかになった。このことは専科教師には中学校から人事異動で小学校に派遣されたり中学校での経験があったりする教員が 63.2%(19 人中 12 人)いることも大きな要因の 1 つであると考えられる。
表 2
学級担任と専科教師の心的態度の記述統計
学級担任 (n = 62) 専科教師 (n = 19)
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[3.89, 4.85] |
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[4.16, 4.79] |
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[1.87, 2.35] |
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1.17 | [3.11, 4.16] |
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[3.38, 4.20] |
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[3.04, 4.01] |
これらの結果から,専科教師の方がよりポジティブな態度で自信を持って授業やスピーキングパフォーマンステストに取り組んでいるものと推察される。
表 3 は,学級担任と専科教師を合わせた全体の心的態度の相関を表したものである。全体的に相互に相関が高い傾向にあった。特に「英語が好き」と「指導が好き」の間(r = .88, p < .01),「英語力に自信がある」と「指導に自信がある」の間(r = .84, p < .01)に強い相関が見られた。
表 3
全体の心的態度の相関
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英語が好き |
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||
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Note. **p < .01. |
これらの結果から,英語が好きな教員は指導も好きである傾向が強いことや英語力に自信がある教員は指導にも自信があることが明らかになった。先行研究が示しているように,学級担任の中には英
語に対して苦手意識を持っていたり英語力に自信がなかったりする教員が多いと推測されるため,英語に対する苦手意識や不安を軽減させ,英語力に自信を持たせる教員研修が求められる。そして,小学校現場で指導の質やスピーキングパフォーマンステストの機会を確保するには,この心的態度に配慮し,適した人材を高学年,または専科教師として配置することが必要であると考える。
表 4 は学級担任と専科教師の心的態度の相関を表したものである。学級担任(左側の数値)では,
「英語が好き」と「指導が好き」の間(r = .88, p < .01),「英語力に自信がある」と「指導に自信がある」の間(r = .81, p < .01)に高い相関が見られた。専科教師(右側の数値)では,「英語が好き」と「指導が好き」の間(r = .87, p < .01),「指導に自信がある」と「評価に自信がある」の間(r = .80, p < .01)に高い相関が見られた。
表 4
学級担任(左)と専科教師(右)の心的態度の相関
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指導が好き |
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.87** |
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Note. **p < .01, *p < .05.
これらの結果から,学級担任では英語力が指導の自信につながっていることが推察されるため,ここでも英語力の向上というのが指導教員の育成の大きな鍵となっていることがわかる。一方,専科教師では,指導に自信のある教員は評価にも自信があることが明らかになっており,言語活動からパフォーマンステストという指導の流れがきちんと実践されていることが推察される。この相関は本研究において非常に重要な発見であると言え,今後,教員研修でも留意すべき点であると考える。
図 1 は,学級担任と専科教師の心的態度の決定木分析の結果である。心的態度に関して,「英語力の自信」が根ノードとして現れ,3.5 以上かどうかが分類の基準になり,その次に葉ノードとして「評価への自信」が現れ,3.5 以上かどうかが分類の基準になることがわかった。最終的なモデルの分類精度は 42.9%であった。なお,ノードとはツリー構造の起点となるデータグループのことで,根ノードとは分類の際に最も基準となる項目,葉ノードはその下位の分類基準となる項目のことである。例えば,根ノードの「英語力自信」が 3.5 で分類されているが,これは 3 と回答するか,4 と回答するかで学級担任と専科教師が分類されるということである。また,「英語力自信」についている口1 や「評価自信」についている口3 ,棒グラフ上部の Node 2,Node 4,Node 5 はノードの順番を表している。n=81 はノードによって分けられた人数を表す。さらに,棒グラフの目盛りは割合を表している。そして分類の精度であるが,70%以上であれば精度が高く,40~70%だと中程度,20~40%だと精度が低いとされているため,ここでは中程度の精度が確認されたと言える。
図 1
学級担任と専科教師を分類する心的態度の決定木分析の結果
このように,学級担任と専科教師を分類するノードとして「英語力の自信」と「評価の自信」が現れたことから,英語力の自信から評価への自信につながる可能性があると考えられ,これは相関分析の結果からも明らかである。そのため,「自信」という心的態度が,学級担任と専科教師を分ける重要な要因であると考えられ,学級担任においては「自信」を持つことができるような研修が必要であると言える。
表 5 は,全体のスピーキングパフォーマンステストの実施状況に関する記述統計である。言語活動に比べ,個別パフォーマンステストは低く,またルーブリックの作成はそれらよりもさらに低い状態であることがわかった。
このことは,言語活動からルーブリック作成,個別パフォーマンステストの実施という指導の流れができていないことを示しており,個々の研修に加え,一連の流れをしっかり実施できるような指導者の育成が重要であり,単元の指導計画を作成する際にもしっかり位置づけることが重要である。
表 5
全体のスピーキングパフォーマンステストの実施状況に関する記述統計
質間項目 |
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95% CI |
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評価前の言語活動 | 3.49 |
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[3.32, 3.67] |
ルーブリック作成 | 2.95 |
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[2.59, 3.32] |
個別パフォーマンステストの実施 | 3.15 |
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[2.89, 3.41] |
Note. 評価前の言語活動は 5 (十分行った)~ 1 (ほとんど行っていない),ルーブリック作成は 5(作成した)3(時々作成した) 1(作成していない),個別パフォーマンステストの実施 5(十分行った)~ 1(ほとんど行っていない)で回答してもらった。
表 6 は,学級担任と専任教師のスピーキングパフォーマンステストの実施状況に関する記述統計である。学級担任では,言語活動に比べ,ルーブリックの作成と個別パフォーマンステストの実施が低い結果となった。このことは,個別パフォーマンステストの実施まであまり連動していないことを示唆している。一方で,専科教師は,3 つの間にほとんど差がなく,連動して実施されていることが示唆された。
これらの結果から,専科教師は単元の中で言語活動からパフォーマンステストまでをひとまとまりのものとして捉えており,学習指導要領の趣旨をしっかりと踏まえた評価活動をしていると推察される。このことは,適正な個別パフォーマンステスト実施の検証において,確認すべき重要な観点であると考える。
表 6
学級担任と専科教師のスピーキングパフォーマンステストの実施状況に関する記述統計
学級担任 (n = 62) 専科教師 (n = 19)
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1.25 |
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1.06 |
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図 2 は全体の心的態度と言語活動の決定木分析の結果である。言語活動の実施に関しては,「指導に自信がある」が根ノードとして現れ,2.5 以上かどうかが分類の基準になった。
図 2
全体の心的態度と言語活動の決定木分析の結果
そして,次の葉ノードには,「英語が好きか」が現れ,4.5 以上かどうかが分類の基準になることがわかった。最終的なモデルの分類精度は 17.0%となった。
以上のように,分類精度は高くなかったが,指導に自信があり,英語が好きだという教員が言語活動を行う傾向があることが示された。言語活動は,ドリルや繰り返し練習とは異なり,「実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合う」活動で,新学習指導要領では,言語活動を通して言語能力を育成することが求められており,指導力があることは大きな鍵になると考えられ,指導に自信がある教員が積極的に取り組んでいるのではないかと推察される。また,言語活動では教員がモデルを示したり児童とやり取りをしたりするなど英語使用が必須であることから,英語が好きだというポジティブな心的態度が次のノードに現れたものと推察できる。
図 3 は全体の心的態度とルーブリック作成の決定木分析の結果である。ルーブリック作成に関して,
「英語の指導が好きか」が根ノードとして現れ,2.5 以上が分類の基準になることがわかった。そして最初の葉ノードには「評価に自信があるか」が,その次の葉ノードには「英語力に自信があるか」が現れ,どちらとも 3.5 以上かどうかが分類の基準になることが示された。最終的なモデル分類精度は 26.9%となった。
以上のように,分類精度は高くなかったが,指導が好きで評価と英語力に自信のある教員はルーブリックを作成する傾向にあることが示された。ルーブリックは今回評価の改善の中で取り上げられたもので,これを作成しようと思うには,評価を含む指導の改善にポジティブであると思われることから,根ノードに指導が好きであることが上がったものと考えられる。またルーブリックを作成するには,専門的な知識と児童のスピーキングを聞いて評価基準に基づいてどの程度の達成度であるかを判断する必要があり,評価と英語力に対する自信は重要な要因であると考える。
図 3
全体の心的態度とルーブリック作成の決定木分析の結果
図 4 は全体の心的態度と個別パフォーマンステストの決定木分析の結果である。個別パフォーマンステストの実施に関して,「英語の指導が好きか」が根ノードとして現れ,2.5 以上かどうかが分類の基準になり,その次の葉ノードには「指導に自信があるか」が現れ,1.5 以上かどうかが分類の基準になることが示された。最終的なモデルの分類精度は 11.3%となった。
以上のように,分類精度は高くなかったが,英語の指導が好きで,指導に自信のある教員は個別のパフォーマンステストを行う傾向にあることが示された。しかし,ここでは本来であれば評価に対する自信が要因として挙げられるべきであるが,それが出現しないところに小学校英語指導教員の現状の課題が現れていると考えられる。つまり,現場の教員はまだ評価に対する自信を持てていない状況であると推察され,今後,スピーキングパフォーマンステストに対する自信を構築することが急務であると言える。
図 4
全体の心的態度と個別パフォーマンステストの決定木分析の結果
図 5 は学級担任の心的態度と言語活動の決定木分析の結果である。言語活動の実施に関して,「英語の指導に自信があるか」が根ノードとして現れ,2.5 以上かどうかが分類の基準になることが示された。その次の葉ノードには「英語が好きか」が現れ,4.5 以上かどうかが分類の基準になった。最終的なモデルの分類精度は 22.2%となった。
以上の結果は全体と同様で,英語の指導に自信があり,英語が好きな教員はテスト前の言語活動を行う傾向にあることが示された。また,分類精度は依然として低いものの,全体よりは少し高くなっ
た。ここでは,全体同様,指導力が重要な要因で,指導に自信がある教員が積極的に取り組んでいるのではないかと推察される。また,言語活動では教員がモデルを示したり児童とやり取りをしたりするなど英語使用が必須であることから,英語が好きだというポジティブな心的態度が次のノードに現れたものと推察できる。
図 5
学級担任の心的態度と言語活動の決定木分析の結果
図 6 は学級担任の心的態度とルーブリック作成の決定木分析の結果である。ルーブリック作成に関
して,「英語が好きか」が根ノードとして現れた。分類の基準は 4.5 以上かどうかだった。最終的なモデルの分類精度は 18.9%となり,分類精度は高くなかった。
全体での分析においては,根ノードが「英語の指導が好きか」で,最初の葉ノードには「評価に自信があるか」,次の葉ノードには「英語力に自信があるか」が出現していた。全体と学級担任を比較すると,英語そのものか,指導に関してかという違いはあるが,「好き」という心的態度が共通して根ノードに現れた。しかし,学級担任だけの結果となると,「自信」がノードとして現れなくなった。4.5.2で述べた通り,ルーブリック作成には,専門性と児童のスピーキング達成度の判断をする必要があり,評価と英語力に対する自信は重要な要因である。このことから,学級担任にとって,指導や評価,さらには英語力においても自信を持てるようにすることが,今後の教員研修などにおいて,重大な課題となることが明らかになった。
図 6
学級担任の心的態度とルーブリック作成の決定木分析の結果
図 7 は学級担任の心的態度と個別パフォーマンステストの決定木分析の結果である。個別パフォーマンステストの実施に関して,「英語の指導が好きか」が根ノードとして現れ,2.5 以上かどうかが分類の基準になることが示された。最終的なモデルの分類精度は 10.9%で,分類精度は高くなかった。全体では根ノードが「英語の指導が好きか」で,葉ノードには「指導に自信があるか」が出現して いた。学級担任になると,ルーブリックの作成と同様に「自信」がノードとして現れなくなったこと
から,評価について自信を持つことが重要な課題となることが明らかになった。
図 7
学級担任の心的態度と個別パフォーマンステストの決定木分析の結果
本研究で得られた結果から,「スピーキングパフォーマンステスト実施時において,学級担任と専科教師それぞれの心的態度にはどのような特徴があるか」という RQ に対しては,英語力と評価に自信があるという項目が,学級担任と専科教師を分ける要因であることが示され,学級担任は「好き」,専科教師は「自信」という心的態度がパフォーマンステストの実施において大きな要因となっていることが明らかになった。このことは,学級担任が専科教師に比べ,パフォーマンス評価に対し自信を持っていないものと推測されるため,指導や評価,英語力に自信を持つことができるような研修体制の構築が急務であると言える。さらに,英語力に自信があることが,指導や評価への自信につながっていることや,専科教師では言語活動,ルーブリックの作成,個別パフォーマンステストが連動している可能性が高いことが示唆され,指導が効果的に行われているかをチェックする観点としての新しい知見が得られた。
まず,教員の心的態度の特性を生かした人事の配置ができるということが挙げられる。英語指導や評価に対して自信がある教員は,積極的にパフォーマンステストを実施する傾向があると考えられるため,外国語科の担当に適していると言える。令和 4 年度文部科学省「英語教育実施状況調査」では,外国語科の指導者の内訳が,学級担任(51.4%),専科教師(24.2%),授業交換(8.0%)となっており,まだまだ英語に苦手意識を抱きながら授業をしている教員が多いと推察され,適材適所がより推進されるべきであると考える。
そして,パフォーマンステストの実施には自信が重要であることが示唆されたため,前述したように小学校教員が自信を持つことにつながる研修が急務であると考える。そのためには,ブリティッシュカウンシル(2020)や萬谷(2019)が示しているように,体験的な研修が有効である。具体的な内容としては,今回示唆が得られたように,英語力の向上を図るものや言語活動,ルーブリックの作成,個別パフォーマンステストを連動させた研修が効果的であると思われる。
本研究の課題として 3 点挙げる。1 つめは,調査対象が青森県内に限定されており,またサンプル数も少ない点が挙げられる。特に専科教師の数が少なく,学級担任との量的比較ができなかったことから,今後調査対象のエリアを拡大して対象者を増やし,広範囲に渡る地域の実態を明らかにして一般化を図りたいと考える。
今回の結果で得られたモデルの分類精度は高いとは言えないが,実施したアンケート調査の分析から総合的に判断して,本調査から得られた知見は小学校教員の傾向を捉えるには有益であると推察される。
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