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Practical Reports
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2024 Volume 24 Issue 01 Pages 100-115

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石塚 歩(船橋市立二和小学校)

キーワード:Small Talk,ルーブリック,長期的な実践

要旨

学習指導要領が改訂され,2020 年より小学校高学年に外国語が教科として導入された。それに伴い,小学校高学年では,週 2 時間,年間 70 時間英語を学ぶこととなった。指導内容は,「話すこと」が,

「発表•やり取り」に分かれ,4 技能•5 領域となった。「話すこと〔やり取り〕」の向上を目指し,英語の時間に週 1 回,15 分間の Small Talk を継続して行った。2021 年 10 月~2023 年 2 月までの長期的な実践の報告である。小学校 5 年生の 10 月から 6 年生の 2 月までの約 1 年半の間,継続して Small Talkを指導した。実践開始前に ALT と児童の一対一によるパフォーマンステストを行い,児童の英語で話す力を調査した。パフォーマンステストの内容は,ALT から出題される英語の質問に答えること,児童から ALT に英語で質問をし,会話を続けることであった。作成したルーブリックにより3 観点を評価した。実践後にも同様のテストを実施したところ,評価した 3 観点全てに向上が見られた。週1回, Small Talk を長期にわたり継続して実践した結果,児童の英語でやり取りする力が向上した。また,英語で話すことに慣れ,進んで英語で話すことができる児童が増えた。アンケート調査からは,児童の最も好きな英語の活動が「話すこと〔やり取り〕」となり,児童が英語で話したいという気持ちが高まったことが確認された。

はじめに

小学校学習指導要領が改訂され,2020 年から高学年に外国語が教科として導入された。小学校高学年では週 2 時間,年間 70 時間の英語学習が行われている。指導内容は 4 技能 5 領域である。4 技能とは,「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」であり,更に,「話すこと」が「発表•やり取り」に分かれ,5 領域となった。これは,英語を学び発表するだけではなく,英語で真にコミュニケーシ ョンすることの重要性を示すものである。児童が英語で「やり取り」する力を向上させるため,小学校外国語活動•外国語研修ガイドブック(文部科学省,2017)では,第 5•6 学年ではやり取りする活動として「Small Talk」が位置づけられ,その目的を(1)既習表現を繰り返し使用できるようにしてその定着を図ること,(2)対話の続け方を指導すること,としている。この目的を達成させ,英語で

「やり取り」する力を向上させることを目的に教材を作成し,長期にわたり実践した。

先行研究

第二言語習得の分野では,Krashen (1982)が「インプット仮説」を提唱し,「理解可能なインプットが言語習得の要因であり, アウトプットは獲得した能力の結果として可能になる。」と述べている。 Long (1983) は「理解可能なインプットの量が多ければ多いほど,より良い(あるいは少なくともより早い)習得につながるようだ」と述べている。更に Long (1996) は「インタラクション仮説」を提唱し,インタラクションの重要性を示している。

城一他 (2018) は「日本の英語学習者の多くはインプットやアウトプットの機会が十分に与えられていないという事実があり,コミュニケーション能力の養成に向けて,多くの適切なレベルのインプットに学習者を触れさせ,アウトプットをする機会をいかに与えることができるかが授業に求められている。」と述べている。

教育現場では,Small Talk が初めて登場する 2020 年以前から「Small Talk」に関する研究が行われてきた。川村(2020)は,小学 6 年生を対象に 11 回の Small Talk の授業観察を行い,Small Talk の手順を示し,インプット型 Small Talk からアウトプット型 Small Talk への移行を提示した。また,1 回目の Small Talk と2 回目の Small Talk の間の中間交流の重要性についても議論した。中間交流では,児童が困っていることを共有し,児童が英語で言いたくても言えない表現をチェックした。その結果,確認,既習表現の想起,言い換え,翻訳の 4 つの方法で対処できることがわかった。岡崎他(2021)は,小

学校 5 年生を対象に「小学校外国語におけるスピーキング能力評価」の実践的研究を行った。この研

究では,パフォーマンステストと台湾とのスカイプを使った交流授業を取り入れた。児童は 2 人 1 組

でパフォーマンステストを受けた。テストは,態度,流暢さ,正確さ,反応,質問の 5 つの側面から採点された。結果を妥当性,信頼性,実用性,波及効果の面から分析検討した。その結果,テストの妥当性,信頼性,実用性が確保されていることと, 波及効果として, 児童の学習及び英語コミュニケーションへの意欲向上に影響を与えたことが明らかとなった。大多和(2022)は,小学校 6 年生を対象に「Small Talk」の授業を 10 回実施し,Small Talk の活動前後のやり取りを記録し,パフォーマンス分析を行った。その結果,児童の英語で話す力が向上することがわかった。Small Talk の長期的な研究の一つに,山ロ•巽(2020)の1 年間の実践がある。2017 年に小学 1 年生から 6 年生までの 139 名

を対象に調査を行った。2017 年 7 月と 2018 年 2 月に小学生を対象に 2 回のパフォーマンステストを

実施した。6 年生 27 名のうち 24 名は 2018 年の 2 学期に追跡調査した。その結果,Small Talk 実施後の発話総語数が増加したことが明らかになった。

これまでの研究では,Small Talk の実践が英語の発話能力を向上させたことが示されている。山ロ•巽(2020)を除いては Small Talk を長期に行った先行研究はあまり見られない。そこで,筆者は Small Talk を長期にわたり実践し,児童が英語でやり取りする力の変化を分析する必要があると考えた。

現状では英語で話すことに対して,児童側と教師側双方に問題がある。前田(2021)は,Small Talkを指導することに苦手意識を持つ小学校教員が多いと述べている。また,石塚(2022)のアンケート結果より,児童は英語で話すことを楽しいと感じた経験が少ないことがわかった。教師はより自信を持って児童に英語でやり取りすることを指導する必要があり,児童には英語でやり取することの楽しさを実感してほしいと考えた。

以上の背景から,小学校高学年児童に Small Talk を長期にわたり実践し,英語でやり取りする力と

意欲の変容を検証することを本研究の目的とし,研究課題(RQ)を 2 つ設定した。

RQ1 小学校高学年の英語の授業で週 1 回「Small Talk」を 1 年間継続して実施した場合,児童の英語で「やり取り」する力は向上するか?

RQ2 英語の授業で「Small Talk」を継続的に実施した結果,児童の英語で「やり取り」することに対する意欲は向上するか?

  1. 3.   研究方法
    1.    参加者

本研究における参加者は公立小学校の 5 年生である。参加者の英語の学習歴は,1 年次は,週 20 分

(年間 17 時間),2 年次は週 20 分(年間 17.5 時間),3•4 年次は週 1 時間(年間 35 時間),5•6 年次

は週 2 時間(年間 70 時間)であった。当初,参加者は 89 名であった。1 年間の授業実践の前半 20 回

の授業に 9 割以上出席し,更に,後半 20 回の授業に 9 割以上出席し,更に,7 回行われた全てのパフォーマンステスト(ALT と児童が一対一で行う面接型のテスト)に出席し,データ欠損のない児童を参加者とした。また,英語力の高い帰国子女や外国をルーツにもつ児童を除いたため,分析対象は 66名となった。更に,4 か月間授業実践を延長したため,2 回のパフォーマンステストが追加となった。この期間は出席率をとらず,66 名のうち,追加で行ったパフォーマンステストを 2 回受け,データ欠損のない児童を対象としたため,最終的には 60 名が分析対象となった。

手続き

2021 年 9 月,研究対象校の校長に研究協力を求める文書を提出し,承諾を得た。その後,校長から

児童の保護者に,筆者が週 1 回英語の授業に入り学級担任と一緒に指導する旨の手紙が配付された。 ALT と児童が一対一で行うパフォーマンステストでは,児童の会話の録画を行った。事前に,児童に録画をすること,録画を見るのは教師だけであること,答えられなくても心配しなくてよいことを伝えた。個人情報保護のため,集めたデータは個人が特定されないようにし,分析後,録画した全ての動画は削除した。本研究は授業の一環として行ったため,学年全ての児童に実践を行った。当初の計画では,5 年生の後期から 6 年生の前期までの 1 年間の実践であったが,児童の「話す力」を更に向上させるため,6 年生の後期まで期間を延長し,授業実践を行った。

研究期間

研究期間は,2021 年 10 月 5 日~2023 年 2 月 24 日(事前調査 2021 年 9 月 30 日)である。実践期間を 3 つに分けた。第 1 ステージ(5 年生後期:2021 年 10 月~2022 年 3 月)では,20 回の Small Talkを実践した。第 2 ステージ(6 年生前期:2022 年 4 月~2022 年 10 月)では,20 回の Small Talk を実践した。第 3 ステージ(6 年生後期:2022 年 11 月~2023 年 2 月)では,15 回の Small Talk を実践した。第 1 ステージから第 3 ステージまでに,合計 55 回の Small Talk を実践した。表 1 に研究実践日と内容,Small Talk で話したテーマについて示した。

表1 研究実践日と内容•テーマ(20219 月~2023 年2 月)

回 年 月日 内容 テーマ 回 年 月日 内容 テーマ

1 2021 9.30 英語に関する意識調

パフォーマンステストA(1),A(2)

33 2022 6.16 Small Talk 9 アイスクリー

ムとかき氷

2

10.5

Small Talk 1

34

6.22

Small Talk 10

場所

3

10.12

Small Talk 2

35

6.29

Small Talk 11

旅行

4

10.19

Small Talk 3

スポーツ

36

7.6

Small Talk 12

昼食と夕食

5

10.26

Small Talk 4

ハロウィン

37

7.14

Small Talk 13

旅行と食べ物

6

11.2

Small Talk 5

アイスクリー

38

9.7

Small Talk 14

夏休み

7

11.9

Small Talk 6

ム•味

39

9.14

Small Talk 15

8

11.16,

Small Talk 7

寿司•味

40

9.21

Small Talk 16

日曜日にした

24

こと

9

11.30

Small Talk 8

食べ物•飲み

41

9.27

Small Talk 17

昨夜食べた物

10

12.7

Small Talk 9

42

10.5

Small Talk 18

アニメ

11

12.14

Small Talk 10

43

10.7

パフォーマンス

テストA(1),A(2)

12

12.21

Small Talk 11

44

10.11

Small Talk 19

フリー

13 2022

1.11

Small Talk 12

季節

45

10.14

パフォーマンス

テストB(1)

14

1.18

Small Talk 13

46

10.21

パフォーマンス

テストB(2)

英語に関する意識調査

15

1.25

Small Talk 14

47

10.25

Small Talk 20

ハロウィン•

フリー

16

2.1

Small Talk 15

48

11.1

Small Talk 1

海の動物

17

2.8

Small Talk 16

お手伝い

49

11.7

Small Talk 2

修学旅行

18

2.15

Small Talk 17

ヒーロー

50

11.15

Small Talk 3

19

2.22

Small Talk 18

新聞

51

11.22

Small Talk 4

昨夜の夕食

20

3.1, 2

Small Talk 19

教科

52

11.29

Small Talk 5

朝食

21

3.3

パフォーマンス

53

12.6

Small Talk 6

クリスマス

テストA(1), A(2)

プレゼント

英語に関する意識調査

22

3.8

Small Talk 20

フリー

54

12.13

Small Talk 7

冬休み

23

4.13

Small Talk 1

動物

55

12.20

Small Talk 8

クリスマス

24

4.20

Small Talk 2

言葉

56

2023

1.9

Small Talk 9

冬休み

25

4.27

Small Talk 3

お気に入り

57

1.18

Small Talk 10

26

5.11

Small Talk 4

家族

58

1.24

Small Talk 11

一番の思い出

27

5.18

Small Talk 5

時間

59

1.31

Small Talk 12

週末

28

5.25

Small Talk 6

日曜日にする

60

2.7

Small Talk 13

クラブ活動

こと

学校行事

29

5.27

パフォーマンス

61

2.10

パフォーマンス

テストB(1)

テストB(1)

30

6.1

Small Talk 7

お気に入りの

62

2.14

Small Talk 14

中学の教科

場所

31

6.8

Small Talk 8

どっち?

63

2.21

Small Talk 15

32

6.10

パフォーマンス

64

2.24

パフォーマンス

テストB(2)

テストB(2)

  1. 4.   方法
    1.    指導の方法

週 2 回の英語の授業のうちの 1 回,45 分の授業の最初の 15 分を Small Talk の指導に充てた(表 2

参照)。第 1 ステージでは,5 年生 3 クラスに 15 分間の Small Talk を 20 回実施し,2 回のパフォーマ

ンステストを行った。全ての Small Talk は,T1 が筆者,T2 が学級担任であった。15 分間の Small Talk後の,残りの英語の授業は,筆者が T2 となり,教科書の内容を扱う英語の授業をサポートした。2022年 3 月まで 2 週間に 1 回(筆者が出席していない英語の授業),日本語教師アシスタント(JC)が学級

担任と ALT をサポートした。2022 年 4 月,児童が 6 年生になった第 2 ステージでは,Small Talk を 20

回実施し,更に,5 回のパフォーマンステストを行った。第 1 ステージと第 2 ステージの間で年度が切り替わり,クラス替えと学級担任の交代があった。学級担任は,教科外国語の指導経験がなかったため,筆者が週 1 回 Small Talk を含む 45 分の授業を T1 として指導した。週のもう一方の英語の授業では,学級担任と ALT が児童に英語を指導した。第 3 ステージでは,Small Talk を 15 回実施し,2 回のパフォーマンステストを行った。第 3 ステージでは,Small Talk 以外は,筆者は T2 となってサポートした。英語の時数は年間 70 時間のため,半分の 35 回 Small Talk を実践した。

表2 45 分間の授業の構成

15 分 Small Talk

学級担任とTeam Teaching(筆者T1)

30 分 教科書の内容を行う

第1ステージ(5 年後期):学級担任とTeam Teaching の授業(筆者T2)第2 ステージ(6 年前期):学級担任とTeam Teaching の授業(筆者T1)第3 ステージ(6 年後期):学級担任とTeam Teaching の授業(筆者T2)

SmaII TaIk の流れ

Small Talk は毎回 15 分間行った(表 3)。瀧沢 (2021『) 英語教師のための Teacher’s Talk&Small Talk 入

門』や New Horizon Elementary English Course 教師用指導書を参考にした。①始めに,学級担任と筆者がモデルトークを行った。次に Small Talk で使用するポイントを確認した(3.4.3 表 4)。②児童同士の 1 回目の Small Talk を行った。③1 回目の Small Talk の振り返りを行い,難しかった表現を確認したり,代表児童の発表を聞いたりした。④2 回目の Small Talk を行った。再度同じ質問をしたり,自分のことを言ってから質問したりした。そして,2 回目の代表児童による即興的なやり取りを行った。⑤本日の Small Talk の振り返りを行った。当初は,紙の振り返りシートを活用したが,児童一人一人に個人用端末が導入されたため,途中からは,『ロイロノートアプリ』を活用し,児童が回答し送信できるようにした。

表3 Small Talk の流れ

  1.   

    Teacher’s Talk (3 分)

モデルトーク(ふつうの速さで)モデルトーク(ポイントを確認しながら,ゆっくり)

  1. 2.  

    児童同士のSmall Talk ①(1 分)

  2. 3.  

    中間ふり返り(2 分)⇒ Small Talk ①のふり返り代表児童の即興的なやり取り(2 分)

  3. 4.  

    児童同士のSmall Talk ②(2 分)

代表児童の即興的なやり取り(2 分)

  1. 5.  

    ふり返りシート記入(3 分)(プリント,アプリ『ロイロノートスクール』使用)

作成した教材

上述の Small Talk の目的「(1)既習表現を繰り返し使用できるようにしてその定着を図ること」を達成するために,New Horizon Elementary English Course 6 や教師用指導書を参考に「Small Talk で使える

英語の表現集」を作成した(図1)。インタラクションシート図 1 を表と裏に合わせ,ラミネートをした。児童が「Small Talk」を行う間,手元に持ち,いつでも参照できるようにした。児童が 6 年生になった際に,更にレベルアップした表現集を作成し,配付した。

図 1 インタラクションシート(表) インタラクションシート(裏)

次に,目的「(2) 対話の続け方を指導すること」を達成するため,「Small Talk で使えるポイント」を少しずつ指導した。瀧沢 (2021)や New HorizonElementary English Course の教師用指導書などに掲載されているものを使用した。また,いくつか自作した。1 年半で合計 13 個の Small Talk のポイントを指導した(表 4)。

表4 指導したSmall Talk のポイント

  •   

    始めのあいさつ•話題の設定•質問する•反応する•くり返す•くわしく聞く•終わりのあいさつ

  •   

    自分のことを言ってから質問する•答えたら1 文たす•自分のことをくわしく言う

  •   

    反応したらくり返す•一言感想•話題のまとめ

始めからたくさんのポイントを教えることは難しいため,初回の授業で指導したポイントは「質問する」,「反応する」の 2 つとした(表 5)。

表5 初回の授業で行ったモデルスモールトーク

Unit 5 テーマ 色 Small Talk のポイント

New Horizon Elementary English Course のSmall Talk

S1: Hello. What color do you like? S2: I like blue.

S1: Me, too. / I see. / Sounds good.

S1: Hello. What color do you like? S2: I like blue. How about you?

S1: I like green.

S2: Good. / Me, too. / I see. / Sounds good.

*時間があったら,2 つ好きなものを言う。

  •    会話の続く表現が記載されたカード(インタラクションカード)を配付し,言い方を練習する。

「反応する」

「質問する」

Is this the symbol for a school?

Word link

•道案内

•位置

毎回の「Small Talk」で使用するモデルスモールトークを 17 か月の実践期間に 55 回分作成した。モデルスモールトークは簡単な内容から指導し,スモールステップで進めた。「Small Talk」の回数を重ねるにつれ,教科書に記載されている内容に合わせたモデルスモールトークを作成するようにした。また,季節にあった内容や児童が話したくなるような内容を話題にするようにした。

  1.    効果検証の方法
    1.    RQ の検証

RQ1 を検証するためにパフォーマンステストを実施した。児童の英語で話す力を分析するために, 1 年間に 7 回のパフォーマンステストを実施した。更に追加で 2 回のパフォーマンステストを行ったため,合計 9 回のパフォーマンステストを行った。また,RQ2 を検証するため,「Small Talk」の振り返りシートやパフォーマンステスト後の振り返りシート,実践前や実践 1 年後に行った英語に関するアンケート調査の結果を分析した。

パフォーマンステストの内容

パフォーマンステストは 2 種類のテストで構成した。パフォーマンステスト A (1)とパフォーマンステスト B (1)は,ALT が児童に英語で質問し(表 6 上段),その質問に児童が英語で正しく答えることができるかテストした。児童が正確な英語を話すことができるか確認するために作成した。パフォーマンステスト A(2)と B(2)は,対話力を測るために作成した。児童がシート(表6 下段)に書かれている日本語を英語にしてからALT と会話を開始し,決められた時間ALT と会話を続けるテストである。

表6 パフォーマンステストの内容

パフォーマンステストA (1) パフォーマンステストB (1)

2021 年9 月,2022 年3 月,2022 年10 月 2022 年5•6 月,2022 年10 月,2023 年2 月

ALT から児童に質問

  1.   

    What’s your name?

  2.   

    How are you?

  3.   

    Do you like chocolate?

  4.   

    What color do you like?

  5.   

    When is your birthday?

  1.   

    What subject do you like?

  2.   

    When is New Year’s day?

  3.   

    Do you usually read the newspaper?

  4.   

    Who is your hero?

  5.   

    Can you play badminton?

  6.   

    What is your favorite animal?

パフォーマンステストA (2) パフォーマンステストB (2)

児童から

ALT に質問

英語で先生に次の質問をしましょう。

すきなスポーツは何ですか?

先生が質問に答えます。先生の答えを聞いて,先生と英語でできるだけ会話を続けましょう。時間は20 秒です。

英語で先生に次の質問をしましょう。

すきな食べ物は何ですか?

先生が質問に答えます。先生の答えを聞いて,先生と英語でできるだけ会話を続けましょう。時間は1 分です。

テスト・データ収集時期・評価項目

パフォーマンステスト A(1),A(2)は,児童が 5 年生の 2021 年 9 月 30 日にプレテストとして実施し,

5 年生の 2022 年 3 月 3 日にポストテスト 1 を実施した。更に,6 年生となった 2022 年 10 月 7 日にポ

ストテスト 2 として実施した。この期間,英語の授業は長期休業や学校行事等,特別な時を除き週 2回行われた。パフォーマンステストA (1)では「知識•技能」を, パフォーマンステスト A (2)では「思考•判断•表現」と「主体的に学習に取り組む態度」を評価した。パフォーマンステスト B (1),B (2)

は,児童が小学 6 年生の時に 2 日間かけて実施した。パフォーマンステストB (1) のプレテストは 2022

年 5 月 27 日に,ポストテスト 1 は 2022 年 10 月 14 日に,ポストテスト 2 は 2023 年 2 月 10 日に実施

し,「知識•技能」を評価した。パフォーマンステスト B(2)のプレテストは 2022 年 6 月 10 日に,ポ

ストテスト 1 は 2022 年 10 月 21 日に,ポストテスト 2 は 2023 年 2 月 24 日に実施し,「思考•判断•表現」と「主体的に学習に取り組む態度」を評価した(表 7)。

表7 テスト•データ収集時期•評価項目

テスト名

学年

プレテスト

学年

ポストテスト 1

学年

ポストテスト 2

知識技能

思考判断表現

主体的に学習に 取り組む

態度

パフォーマンス

5

2021

5

2022

6

2022

テストA (1)

9.30 3.3

10.7

パフォーマンス

5

2021

5

2022

6

2022

テストA (2)

9.30 3.3 10.7

パフォーマンス

6

2022

6

2022

6

2023

テスト B (1)

5.27

10.14

2.10

パフォーマンス

6

2022

6

2022

6

2023

テスト B (2)

6.10

10.21

2.24

全てのテストを記録し,作成したルーブリックに基づき採点した。英語でやり取りする力以外にも,児童が正確な英語を話すことができるか確認するため,ルーブリックは「知識•技能」用(表 8•9)と「思考•判断•表現」,「主体的に学習に取り組む態度」用(表 10)の 2 種類を作成した。ルーブリックは瀧沢(2021)や大多和(2022)を参考に作成した。パフォーマンステスト A(1)用ルーブリックとパフォーマンステスト B(1)用ルーブリックでは「知識•技能」を 0~3 点で採点した。

表8「知識•技能」パフォーマンステストA (1) 用ルーブリック

質問内容

正確に答えられた。

正確な文ではないが,自分のことを答えられた。

文は正確ではないが,途中まで,または何か

しら答えている。

何も答えられない。または,全く異なる

ことを答えている。

3 点

2 点

1 点

0 点

1

What’s your name?

  •   

    My name is 名前.

  •   

    I ’m 名前.

  •   

    名前のみ •It’s 名前

  •   

    My name 名前. (is なし)

  •    I like 名前.

2

How are you?

  •   

    I’ m fine.

  •   

    I’ m fine, thank you, and you?

  •   

    気持ちのみ

  •   

    Yes, 気持ち.

  •   

    It’s 気持ち.

  •    I like happy.

3

Do you like chocolate?

  •   

    Yes, I do.

  •   

    Yes, I like chocolate.

  •   

    I like chocolate.

  •   

    No, I don’t.

  •   

    Yes のみ•No のみ

  •   

    Yes, I am.•Yes, I can.

  •   

    A little.

  •   

    I‘m not.

  •   

    I like

4

What color do you like?

  •   

    I like 色.

  •   

    色のみ•It’s 色.

  •   

    What’s color 色.

  •   

    I like color 色.

  •   

    I 色.

  •   

    I’m 色.

5

When is your birthday?

  •   

    My birthday is 日付.

  •   

    It’s 日付.

  •   

    日付のみ(May 2nd)

  •   

    is なし

(My birthday May 2nd.)

  •   

    I 日付.

  •   

    I like 日付.

•月のみ

  •   

    23rd⇒23, 22nd⇒22 31st⇒31

  •   

    My birthday のみ

表9「知識•技能」パフォーマンステストB (1) 用ルーブリック

正確に答えられた。 正確な文ではないが,自分の 正確な文ではないが, 何も答えられない。

質問内容

ことを答えられた。

途中まで,または何かしら答えている。

または,全く異なることを答えている。

1

What subject do you like?

3 点 2 点 1 点 0 点

  •   

    I like 教科. •教科のみ

    •   

      It’s 教科.

2

When is New Year’s day?

3

Do you usually read the newspaper?

4

Who is your hero?

5

Can you play badminton?

6

What is your favorite animal?

  •    It’s January 1st.
  •    New Year’s

day is January first.

  •    Yes, I do.
  •    No, I don’t.
  •    My hero is my brother.
  •    Yes, I can.
  •    No, I can’t.
  •    Yes, I can play badminton.
  •    No, I can’t play badminton.
  •    My favorite animal is cat.
  •    I like cat.

•日付のみ(January first)

•月のみ (January)

  •    Yes のみ•No のみ
  •    Yes, I am.•Yes, I can.
  •    A little.•Sometimes.

•人のみ ( my brother, brother)

  •    is なし (My hero brother. My hero my brother.)•my なし
  •    Yes のみ•No のみ
  •    Yes, I do.•No, I don’t.
  •    I can.•I guess so.•So so
  •    I can play badminton.
  •    Yes, play badminton.
  •    No, play badminton.
  •    I like badminton.
  •    I play badminton.
  •    I can’t badminton.

•動物のみ •is, animal なし (My favorite animal cat.)

  •    My favorite cat
  •    I favorite animal is cat.
  •    My hero is.
  •    My hero.
  •    My favorite is.
  •    My favorite.
  •    I like.
  •    No, I don’t.

New Year’s day にすることを話している。

「思考•判断•表現」と「主体的に学習に取り組む態度」を測るため,表 10 のルーブリックを作成し,使用した。児童がどのように ALT と会話を継続しているか評価項目を作り 0~3 点で採点した。表10「思考•判断•表現」,「主体的に学習に取り組む態度」

パフォーマンステストA(2),パフォーマンステストB(2)用ルーブリック

思考•判断•表現 主体的に学習に取り組む態度

3 点 4 個に0

口話題を深めようとしたり,会話の継続を図ったりしている。

口相づちを打っている。

口自分の思いや考えを伝えている。口質問している。

4 個に0 口話を続けようとしている。

口間違いを恐れず英語を話している。

口相づちをうつなど,相手の発言に反応している。口話題をふくらませるなど,たくさんの英語を話

そうとしている。

2 点 2~3 個に0 2~3 個に0

1 点 1 個に0 1 個に0

0 点 0 個 0 個

  1. 4.   結果と考察
    1.    RQ1 の結果と考察:パフォーマンステストA (1),A (2)

パフォーマンステスト A (1)とA (2)は,5 年生後期から 1 年間「Small Talk」を実践した結果である。分析対象は 66 名である。採点は筆者が 2 回行った。2 回の採点が異なるときは,再度,採点し直した。

信頼性は,1 回目と 2 回目の採点結果のスピアマン相関を算出したところ,パフォーマンステスト Aのプレテストの「知識•技能」は r=1.00,「思考•判断•表現」は r=.90,「主体的に学習に取り組む態度」は r=.94,であった(以下同順に記載)。ポストテスト1は,それぞれ r=1.00, r=.85, r=.85,ポストテスト 2 は r=1.00, r=.68, r=.59 であった。ポストテスト 2 で相関が低かった要因は,作成したルーブリックに対し,テストの測定時間が 20 秒間と短かったため,判断が難しかったことが要因と考える。

「知識•技能」は,パフォーマンステストA (1)により検証した。分布の正規性を確認できなかったため,ノンパラメトリック手法を用いて,Friedman 検定を行ったところ結果は有意であった(p<.001)。多重比較の結果,プレテスト(9 月)とポストテスト1(3 月),プレテスト(9 月)とポストテスト2

(10 月)で有意差が見られた。3 月と 10 月は有意差がみられなかった(表 11)。ポストテスト1 から

表11 「知識•技能」の記述統計量

ポストテスト 2 への得点の増加は見られなかった。要因は,プレテストから 1 年後と期間があいたこと, ALT が代わったことが考えられる。

「思考•判断•表現」を測るため,パフォーマンステスト A(2)では,20 秒間のフリートークを行った。記述統計の結果から分布の正規性を確認できなかったため,ノンパラメトリック手法を用いて, Friedman 検定を行ったところ結果は有意であった(p <.000)。多重比較の結果,プレテスト(9 月)とポストテスト 1(3 月),プレテスト(9 月)とポストテスト 2(10 月)で有意差が見られた。3 月と 10 月は有意差がみられなかった。プレテストの平均値は 3 点満点中 1 点であったが,ポストテスト1

では 1.88 点,ポストテスト 2 では 2.21 点に上昇し,Small Talk の回数が増えると平均値が上昇するこ

表12 「思考•判断•表現」の記述統計量

平均値 標準偏差 最大値 最小値

とがわかった。(表 12)。これらの結果から,児童は Small Talk で対話の

Note. 最大3 点

ができたと考えられる。

「主体的に学習に取り組む態度」が向上するかをパフォーマンステスト A(2)で検証した。分布の正規性が確認できたので,分析には一元配置分散分析を用いた。その結果,F (2,130) = 97.21,p < .001,

= .60 と有意な結果が得られたので,多重比較を行ったところ,プレテストからポストテスト 1 ま

表13 「主体的に学習に取り組む態度」の記述統計量

で有意にスコアが上昇し(p < .001,

r = .79),プレテスト 1 からポストテスト 2 まで有意な上昇は見られなかった(表 13)。

パフォーマンステスト A (2)で児童が発話した語彙数の総数を記述統計で分析した。延べ語数は,児童が発話した全ての単語数,異なり語数は同じ単語を何度話しても 1 語とした。どちらも上昇が見られ,特にプレテストからポストテスト 1 にかけて大きく上昇した(表 14)。ポストテスト1からポスト 2 でもどちらも上昇が確認できた。

表14 パフォーマンステストA (2)で児童が話した語彙数の記述統計量

延べ語数 異なり語数

平均値 標準偏差 最大値 最小値 平均値 標準偏差

最大値

最小値
プレテスト (2021 年9 月) 5.26 4.01 14 0 4.03 2.53 9 0
ポストテスト1 (2022 年3 月) 11.67 4.45 22 0 8.58 2.71 13 0

ポストテスト2 (2022 年10 月)

13.06 4.48 25 4 9.18 2.25 16 4

図 2 パフォーマンステストA(2)で児童が使用した Small Talk のポイント(%)n= 66

応する」の使用割合が大きく増加したことが確認できた(図 2)。

当初の計画にはなかったが,児童の英語で話す力がついたため,パフォーマンステスト A (2)で,児童がどのような「Small Talk のポイント」を使用したか確認した。対象児童 66名のうち何%の児童が 20 秒間に学習した Small Talkのポイントを使って話すことができたかを調べた。その結果,13 個のポイントのうち,特に「質問する」「,反

表 15 は児童と ALT がパフォーマンステスト A(2)で話した記録である。プレテストでは ALT の答えに対して何も答えることができなかった。実際にプレテストではこのような児童が多かったが,Small Talk を重ねるにつれ,反応したり,自分のことを言ったりすることができるようになった。表15 パフォーマンステストA(2) (20 秒間の会話) S=Student, T=Teacher (ALT)

S:What sport do you like? T: I like tennis.

S: (silence)

S: What sport do you like? T: I like table tennis.

S: Oh, nice.

S: What sport do you like?

T: I like basketball and dodgeball.

S: Oh, nice.

I like, I like, soccer.

T: Oh, I see.

RQl の結果と考察:パフォーマンステストB(l),B(2)

パフォーマンステスト B (1)と B (2)は,児童が 6 年生になってから実施した。分析対象は 60 名である。パフォーマンステスト B の採点の信頼性は,プレテストは「知識•技能」は,r=1.00,「思考•判断•表現」は,r=.82,「主体的に学習に取り組む態度」は,r=.76 であった(以下同順に記載)。ポストテスト 1 は,r=.99, r=.90, r=.99,ポストテスト 2 は,r=.99, r=1.00, r=.73 であった。

パフォーマンステスト B (1)では,「知識•技能」を測定した(表 16)。結果の分析で,正規性が確

認できたので,一元配置分散分析を実施した。結果は F (2,118) = 66.37,p <. 001, =.529 で有意であった。次に,多重比較を行った結果,プレテストくポストテスト 1くポストテスト 2 であった。プ

レテストからポストテスト 1 は,効果量大(r =.64)であった。また,ポストテスト 1 からポストテスト 2 も効果量大(r =.54)であった。

表16 「知識•技能」の記述統計量

平均値 標準偏差 最大値 最小値

プレテスト (2022 年5 月)

9.70 4.34 18 2

ポストテスト1 (2022 年10 月)

12.35 3.88 18 3

ポストテスト2 (2023 年2 月)

14.00 3.04 18 6

Note. 最大18 点

パフォーマンステスト B (2)では,児童と ALT の 1 分間のフリートークから,「思考•判断•表現」を測った(表 17)。分布の正規性を確認できなかったため,ノンパラメトリック手法を用いて,Friedman検定を行ったところ結果は有意であった(p<.003)。多重比較の結果は有意差が見られなかった。

表17 「思考•判断•表現」の記述統計量

平均値 標準偏差 最大値 最小値

プレテスト

(2022 年6 月)

2.57 .67 3 0

ポストテスト1 (2022 年10 月)

2.58 .77 3 0

ポストテスト2 (2023 年2 月)

2.87 .34 3 2

Note. 最大3 点

パフォーマンステスト B (2) では「主体的に学習に取り組む態度」を測った(表 18)。分布の正規性を確認できなかったため,ノンパラメトリック手法を用いて,Friedman 検定を行ったところ結果は有意であった(p<.001)。多重比較の結果,プレテスト(6 月)くポストテスト 1(10 月)くポストテスト 2(2 月)であった。平均値では,2.28→2.60→2.93 と上昇が見られ,児童は決められた時間内にできる限りたくさん ALT と会話を続けようとする様子が見られた。Small Talk を継続して行うことで,児童は ALT と英語で話し続けることができるようになった。

表18 「主体的に学習に取り組む態度」の記述統計量

平均値 標準偏差 最大値 最小値

プレテスト (2022 年6 月)

2.28 .64 3 0

ポストテスト1 (2022 年10 月)

2.60 .76 3 0

ポストテスト2 (2022 年2 月)

2.93 .25 3 2

Note. 最大3 点

パフォーマンステスト B (2)で児童が発話した語彙数について,記述統計の結果を表 19 に示す。延ベ語数,異なり語数どちらも上昇が見られた。更に,ポストテスト 2 では最小値の数値も上昇した。

表19フォーマンステストB (2)で児童が話した語彙数の記述統計量

延べ語数 異なり語数

平均値 標準偏差 最大値 最小値 平均値 標準偏差 最大値 最小値
プレテスト (2022 年6 月) 26.97 12.93 65 1 13.90 4.78 26 1

ポストテスト1 (2022 年10 月)

37.81 17.07 80 0 15.88 5.34 25 0
ポストテスト2 (2023 年2 月) 43.63 16.43 81 10 17.93 5.57 34 8

パフォーマンステスト B (2)で児童が使用した「Small Talk のポイント」を調べた(図 3)。ここでは,特筆すべき 4 つのポイントについて述べる。1 つ目は「質問する」である。17 か月後のポストテスト 2 では 100%の児童がパフォーマンステストで質問ができるようになった。2 つ目は「他の質問をする」であった。こちらも大きく上昇した。長期的に Small Talk を実践したことと,最後のパフォーマンステストということもあり,児童が1分間の中で,できる限り自分ができる質問をした結果であると考える。例えば,フリートークのテーマの「食べ物」とは関係はないが,児童自身が 1 分間の限られた時間の中で聞きたい内容を ALT に質問した。、What sport do you like?",、What color do you like?",

、Who is your hero?"等である。3 つ目は「話題を広げる」である。テーマに関連する話題を多くの児童が質問できるようになったことがわかった。例えば,児童が ALT に、What food do you like?"と質問し,ALT が、I like sushi."と答えた。それに対し,児童は、What kind of sushi do you like?"と更に質問をして,話題を広げていくことができた。4 つ目は「答えたら 1 文足す」である。6 年生の後半

では,答えたら 2 文足

図 3 パフォーマンステストB (2)で児童が使用した Small Talk のポイント(%)n= 60すことや 3 文足すこと

を目標に会話の練習をしたため,上昇が見られたと考える。更に,パフォーマンステスト B (2) のポストテスト

2 では,1 分間のフリートークの発話語彙数も増えた。Small Talk のポイントの使用の増加により,会話を続ける力がついたことが確認できた。

表 20 は,パフォーマ ンステスト B (2)で行 った児童の 1 分間のフリー会話を記載した。プレテストとポストテスト1では,あまり変化が見られなかったが,

ポストテスト1からポストテスト 2 では,英語をたくさん話せるようになったことが確認できた。す

ぐに変化が現れなくても,継続して Small Talk を学んだことで,少しずつではあるが,会話の内容が広がっている児童の様子が確認できた。また,同じテーマであっても,ALT に本当に質問したい内容を質問している児童が多く見られた。

表20 1 分間の会話 パフォーマンステストB (2)(児童の発話のみ記載)

What food do you like? Why do you like sushi? Oh, nice.

What kind of sushi do you like? Oh, me, too.

What food do you like? Oh, nice.

Why do you like ramen and pizza? Oh, nice.

What food do you like? Oh, you like steak.

Why do you like steak? Oh, nice.

What kind of meat do you like? Oh, nice.

What kind of sushi do you like? Ah, ok.

What kind of fruit do you like? What kind of fruit do you like? Oh, nice.

I like peach, too.

パフォーマンステスト A とパフォーマンステストB で,児童が英語で話す力が向上したことが確認できた。これらの結果より,「Small Talk」を継続して実践した結果,児童の英語で「やり取り」する力が向上し,RQ1 は検証されたと考える。

RQ2 の結果と考察

RQ2 を検証するため,パフォーマンステスト後の振り返りシートや Small Talk の振り返りシートの分析の結果,実践前と 1 年後に行った英語に関するアンケート調査の結果を考察した。英語に関するアンケート調査は,「平成 26 年度 小学校外国語活動実施状況調査」(文部科学省,2015)を参考に作成した。第 2 ステージ最終日に実施した Small Talk の振り返りシートでは 97%の児童が「英語で話す力は伸びた」と回答した。更に,71.2%の児童が「Small Talk を通して英語が好きになった」と回答した(表 21)。第 3 ステージ最終日に実施した振り返りシート(出席した全員分となる)でも,同様の結果が得られた(表 22)。

表21 第2 ステージ最後の振り返りシート (2022.10.25) n=66

質 問

はい

いいえ

あなたは「Small Talk」の授業を通して, 英語で話す力は伸びましたか?

97.0%(64 人)

3.0%(2 人)

「Small Talk」を通して英語が好きになりましたか?

71.2%(47 人)

28.8%(19 人)
表22 第3 ステージ最後の振り返りシート (2023.2.21) n=86

質 問

はい

いいえ

あなたは「Small Talk」の授業を通して, 英語で話す力は伸びましたか?

92.0%(79 人) 8.0%(7 人)

「Small Talk」を通して英語が好きになりましたか?

71.0%(61 人) 29.0%(25 人)

更に,1 年後に行った英語に関するアンケート調査の結果では,児童が一番好きな英語活動は「話すこと[やり取り]」となった。事前アンケートでは,「話すこと[やり取り]」は 3 番目に好きな活動であったが,1年後には一番好きな活動となった(表 23)。Small Talk の実践を通して,自分の英語が他者に伝わる経験を積み重ねたことで,児童は英語で話すことが好きになったと考える。

表23 英語に関する意識調査アンケート結果 n=66

英語の授業ではどんなことが好きですか?(複数選択)

プレテスト (2021.9.30) ポストテスト2 (2022.10.21)

No.1 英語のゲーム No.1 英語を話す(やり取り)

No.2 英語を聞く No.2 英語のゲーム

No.3 英語を話す(やり取り) No.3 英語を書く

これらの結果から,Small Talk が有効であることが確認できた。Small Talk で,児童はこれまでの学習ではあまり経験したことのない「英語を話すことの楽しさ」を実感した。Small Talk で英語を使って友達や ALT とたくさんやり取りしたことが,児童の自信につながり,英語学習の大きなモチベーションとなった。17 か月の実践から,Small Talk を長く続けることで児童が英語を使って会話することの楽しさを実感していることが示された。以上の結果から,RQ2 は検証されたと考える。

児童へのフィードバック

児童へのフィードバックは,児童一人一人のパフォーマンステストのフリー会話の文字を起こし,学年が終わる2022年3月,2023年3月に配付した。2022年3月には,2回分のパフォーマンステストA (2)で児童が話した会話を文字に起こし,児童一人一人に配付した。また,2023年3月には,実践開始から終了までの17か月間に実施した,パフォーマンステストA(2)を3回分,パフォーマンステストB (2)の3回分の会話を文字に起こしたものを一人一枚のシートにまとめ,学級担任から配付していただいた。児童は自分が話した英語を視覚的に確認することで、英語で話す力がついたことを実感でき、大変喜んでいたと学級担任から伺った。

中学校への引継ぎ

2023 年 3 月末,児童が 4 月から通う中学校の 1 年担当の英語教師に引継ぎを行った。小学校の Small Talk で使用したインタラクションシートや Small Talk のポイントを引継いだ。児童の英語で話す力を知ってもらうため,動画を視聴していただいた。中学校の英語教師からは,この引継ぎにより,児童の英語力の実態がわかり,中学入学前に小学校で学んだ英語を知る良い機会となったことを伺った。

5㸬結論

研究の結果,週 1 回 15 分間英語を使って継続的に「Small Talk」を行うことで,児童が英語で「やり取り」する力が向上することがわかった。パフォーマンステストでは,Small Talk を継続して実践したことにより,児童が英語で話す語彙数が増加することが確認された。児童は会話の中で学んだ対話のポイントを活用することができた。限られた時間の中で,児童が ALT に自分の考えをできる限り伝えようとする意欲が高まった。また,評価した 3 観点全てに良い結果が見られた。長期に及ぶ実践であるため,Small Talk のみではなく,日々の英語の授業の影響も関係していると考える。しかしながら,Small Talk を継続的に実施したことにより,児童の英語でやり取りする力が向上したことが検証されたことは意義があると考える。今後,多くの学校でこのような Small Talk が実践され,より多くの児童が英語を使って外国の人々とやり取りする喜びを体験することを強く願う。

謝辞

査読委員の先生方には貴重なアドバイスをいただき,感謝申し上げます。本研究は,筆者が県の大学院派遣研修生として,大学院に在籍中の 2 年間に行った実践です。千葉大学大学院の西垣知佳子教授には大変お世話になり感謝いたします。実践校の校長先生,学級担任,児童,ALT,JC の協力に感謝いたします。そして,2 年間の研修の機会を与えてくださり,協力してくださった皆様, ともに研究に励んだ皆様に感謝いたします。本論文に関して開示すべき利益相反関連事項はありません。

引用文献

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文部科学省(2015).「平成 26 年度 小学校外国語活動実施状況調査」

http s://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/ icsFiles/afieldfile/2015/09/24/1362168_01.pdf

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瀧沢広人 (2021).『実例でわかる!中学英語パフォーマンステスト&学習評価』学陽書房.

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References
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  • 山口美穂•巽徹 (2020).「Small Talk の継続的な実施による児童生徒の発話パフォーマンスの変化」『小学校英語教育学会誌』,20(01),84-99.
 
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