選抜育種された抵抗性クロマツにマツノザイセンチュウを接種しても枯死に至る割合が小さいが、その抵抗性メカニズムは明らかにされていない。そこで、抵抗性クロマツ(波方73号)と感受性クロマツ(瑞浪1号)の接ぎ木苗を解剖観察し、内部病徴の進展と宿主細胞の応答の差異を明らかにすることを目的とした。その結果、皮層樹脂道のダメージ進展は抵抗性クロマツと感受性クロマツで差がなかったが、皮層組織・形成層・木部柔組織での細胞破壊は抵抗性クロマツで進展が遅れ、結果として、線虫の増殖も抑制されていた。ダメージを受けた細胞では抵抗性・感受性ともに直ちに架橋結合型タンパク質の蓄積が起こったが、抵抗性クロマツではダメージの範囲が長期間小さく維持され、周囲でリグニン化が起こっていた。抵抗性クロマツの抵抗性メカニズムとしては、構造的あるいはタンパク質レベルでの応答によって感染初期から細胞破壊の拡大が遅く、結果として、リグニン化等の強固な防御壁の形成が間に合い、そのことがさらに線虫の移動・増殖を抑制するものと考えられた。結論として、抵抗性には感染初期から細胞破壊を遅らせるメカニズムが重要であることが示唆された。