福島の原発事故によって環境中へ拡散した放射性物質は,食物連鎖や物質循環過程を通じて生態系内の様々な生物へ移行しており,その過程と移行メカニズムの解明が急がれている。植物では,セシウムCsと同族のカリウムKの施肥によって,放射性Csの吸収が抑制する効果があることが知られているが,これは,生体内における複数の元素間の挙動の類似性や相互作用の結果に基づくものと考えられている。しかし,より高次の栄養段階に位置する生物については,特に微量元素の集積に関する知見は乏しく,Csとの関連性もわかっていない。そこで今回は,福島県内の森林において採集された捕食性節足動物のジョロウグモを用いて,Csと他の元素の集積状況を明らかにし,放射性Csとの関係を考察した。その結果,Kや微量元素であるRbと放射性Csとの間には正の相関関係があり,クモ体内でのこれらの元素の挙動が類似していると考えられた。併せて,ジョロウグモの放射性Cs濃度の経年モニタリング結果についても報告する。