カエデ科樹木イタヤカエデ類には多くの亜種が存在するが,これらの遺伝的分化については明らかでない。本研究ではイタヤカエデ類のうち日本に分布する,エンコウカエデ(en),ウラゲエンコウカエデ(ue),オニイタヤ(on),イトマキイタヤ(it),エゾイタヤ(ez),アカイタヤ(ak),ウラジロイタヤ(uj),タイシャクイタヤ(ts)の8つの亜種・品種について遺伝解析を行い,これらの系統関係を明らかにすることを目的とした。
各亜種の分布域を網羅するように,北海道2地点,東北地方3地点,関東甲信地方4地点,中国地方2地点,九州地方1地点においてイタヤカエデ類の葉を採集した。それらについて葉緑体DNAのpsbA~trnH,trnF~3’ trnLの2領域,計737bpの塩基配列を決定し系統解析を行った。
これまでに32個体について解析を行った結果,10種類のハプロタイプ(Hap)が検出された。いずれのHapも1回の置換または挿入により区別されたことから,各々のHapは遺伝的に近縁であると考えられた。このうちHap1は関東甲信から中国・九州にかけて広範囲に分布しており,en,ue,ez,tsの4つの間で共有されていた。また中国地方のezでは他の亜種に見られない特徴的なSSR部位をもつ個体が得られた。