対流圏オゾンは、森林樹木の光合成活動を阻害するとともに気孔開閉機能に影響を与える。高オゾン濃度下では、環境要素の変化に対する気孔応答の鈍化が誘発され、樹木の炭素獲得や蒸散に伴う水消費が変化するが、この影響は森林のオゾン影響の評価に使われているモデルには全く考慮されていない。本研究では、オゾン交換過程を考慮した多層陸面モデルと全球大気化学モデルを組み合わせたシミュレーションによって、気孔応答の鈍化がおよぼす北半球スケールの森林の炭素獲得量と蒸散量への影響を評価する。気孔応答の鈍化過程は、北海道のFree-Airオゾン暴露実験サイトで得られた個葉レベルのガス交換測定データを用いて、最小気孔コンダクタンスに基づいてモデル化して陸面モデルに取り込むことで、群落へとスケーリングアップした。数値計算の結果、気孔応答の鈍化により森林の炭素獲得の減少と蒸散の促進が同時に起こり、水利用効率が大幅に低下することを明らかにした。この結果は、過去の暴露チャンバー実験や野外観測から得られている知見と一致した。気孔応答の鈍化による水利用効率の低下は、特に東アジアの高オゾン濃度地域で著しいことが明らかになった。