ブナ実生の土壌乾燥ストレスに対する葉の発現変動遺伝子の探索

抄録

生育土壌の乾燥化は植物へのストレスとなるが，一方で植物は土壌乾燥に対して順化する能力を備えており，個体群の維持や存続を予測する上で乾燥ストレスに対する植物の応答を解明する必要がある。そこで本研究は，土壌乾燥ストレスに対するブナ実生の葉のトランスクリプトーム応答を調査した。ブナの当年生実生（産地：福井県荒島岳モッカ平）を，人工気象器内で12日間にわたり対照区5個体（3日に1回給水）と乾燥処理区5個体（給水無し）に分けて栽培した。栽培終了後に葉のRNAを抽出し，RNA-seqによりトランスクリプトーム解析を実施した。乾燥処理区の実生の発現変動遺伝子をedgeRで検出した結果，対照区より発現が上昇した遺伝子が2692個，低下した遺伝子が1413個認められた。BLAST検索で発現変動遺伝子のうち上位50遺伝子の機能解析を行ったところ，87%の遺伝子がアノテーションされた。発現が上昇した遺伝子にはLipaseやATP-binding cassette B19，低下した遺伝子にはgermin-like protein 6やArathNictaba 5などがみられた。さらに本研究では，エンリッチメント解析により発現変動遺伝子の生物学的な機能カテゴリーの特定を試みる。