2026 Volume 21 Issue 1 Pages 25-28
イメージ心理学研究 2023, 21, 25-28 25
シンポジウム〔講演要旨〕日本イメージ心理学会第 24 回大会(2023 年 12 月 9 日)
視覚障害者のイメージ特性とその機能
百 瀬 容美子
(神奈川大学人間科学部)
我が国の教育現場では主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善で学びに向かう力,人間性等を育成する教育の充実が図られている。主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や,自己の感情や行動を統制する力,よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等があり,自分の思考や行動を客観的に把握し認識する,いわゆる「メタ認知」(文部科学省, 2021)が重視されていると解釈できる。メタ認知とは,自分の頭に浮かんだ考えを客観的に問い直すことで,発達心理学・教育心理学でよく知られている(三宮, 2020,pp.14-15)。このメタ認知はメタ認知的知識とメタ認知的活動に大別され,前者は人間の認知的特性についての知識,課題についての知識,方略についての知識が含まれ,後者にはメタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロールが含まれる(三宮,2020, pp.16-23)。「メタ認知」とは,学習者によるイメージ生成と行動実行のプロセスだと言い換えられるのではないかと着想された。
そこで,学習指導要領解説を概観して,「イメージ」という用語の使用数を検索すると,小学校学習指導要領解説(文部科学省,2017)では 6 回,中学校学習指
導要領解説(文部科学省,2017)で 1 件であり,イメージ生成することへの着眼は少なかった。それに対し, 特別支援学校学習指導要領解説(文部科学省,2018) では,「イメージ」という用語の使用数は 122 回であっ た。具体的に,ここで取り上げる視覚障害に関しては “観察や実験,操作活動などを通じた直接体験によって具体的なイメージを形づくったり,見学・調査など の体験的な学習などによって経験の拡充を図ったりす ることが必要である”と記載されていた(文部科学省, 2018,p.4)。その他にも,『視覚障害教育ブックレット』では,算数・数学に関して,イメージを大切にした一 次方程式の指導が取り上げられていた(高村,2018)。
このように,教育現場ではイメージ生成への着目はそれ程多くないことに加えて,視覚特別支援教育におけるイメージ研究も国内外を通して極めて僅かしかなく,学習上のイメージ特性やその機能の理解には議論
の余地が残っている。しかしながら,実践心理指導では,先天全盲の国際大会に出場する我が国トップ水準の運動選手に対し,動作習熟の過程で運動イメージ生成が促進することを狙った個々の選手に適している言葉を探して声かけを工夫することで,運動学習が促されるだけでなくプレッシャーやあがりをコントロールして目標とする動きを実現する心理制御力も高まる様子が報告されており(百瀬・伊藤,2016),視覚障害者を取り巻く生活にはイメージ生成が必要不可欠であると主張できる。
以上より本シンポジウムでは,視覚障害者のイメージ特性とその機能について,シンポジストの研究活動を報告しながら考察と提案がなされた。研究上の枠組みは,イメージ生成の実態調査を経てイメージ特性を把握し,それに応じたイメージ生成指導を考案して実践効果を検証するという教育学的・臨床心理学的モデルであった。そして,特別支援教育現場における体育科のブラインドサッカーを取り上げて紹介された。ブラインドサッカーとは,全盲対象の競技種目(日本ブラインドサッカー協会,2025)で,視覚障害スポーツの中でも難易度が高い。
体育・スポーツ場面で扱われるイメージは,意識の制御下にある準感覚的,準知覚的,および準感情的な特性を含む記憶情報から生成された経験の創造または再現(Morris et al.,2005)と定義されている。スポーツ選手がイメージを活用して心理的および身体的スキルを向上させていることは周知の事実である。しかしながら,一切の視覚情報が遮断された状態でプレーするためにどのようなイメージ生成がなされているかに関しては未だ検討が始まったばかりで,畠山(2018)では質問紙を用いた検討は百瀬・伊藤(2016)が初出だと記述されている。こうした中,先天全盲を取り上げて,イメージ生成の実態を科学知化し,それに基づいた指導法の開発が開始された。先天全盲とは,先行研究での定義(佐藤,2014;Valvo,1971;鳥居・望月, 2000),及び視覚障害者スポーツ現場での慣習に準じ,
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生後 5 歳以前の失明を指す。
まずイメージ生成の実態は,百瀬・伊藤(2018)が 1 名の日本トップ水準の先天全盲ブラインドサッカー選手を対象とした個人別態度構造分析(以下,PAC分析と称す)から事例的知見を提出している。PAC分析とは,質的分析と多変量解析(クラスター分析)を組み合わせ,研究者と調査対象者の対話を重視して個人のイメージ・態度構造を明らかにする研究法である(内藤,2002)。PAC 分析の結果,ピッチという場の設定とそこに置かれている外的対象物,距離感や空間認識,主体的動作,そしてピッチで繰り広げられるブライドサッカーゲーム全体を上から俯瞰的に捉えるイメージ生成スキルが発揮されていることが明らかにされている。次に,この結果を反映させた運動イメージ生成評価尺度:ブラインドサッカー版(Evaluation Scale of Movement Imagery; Blind Soccer Version.以下,ESMI-BS と記す)が作成された。事例的な信頼性と妥当性,実用性の検討がなされ,少数事例での基準関連妥当性の確認には至っていないが,高い信頼性と内容妥当性は認められている。そして,ESMI-BSの主観的なイメージに関する質問項目とドリブルタイムの間に正の相関が,俯瞰的なイメージに関する質問項目とゴールシュート率の間に負の相関が確認されている。さらに,百瀬(2022)では,学習習熟が高まるにつれて ESMI-BS 得点の上昇がみられ日本トップ水準に至ると 7 点満点の評定がなされる縦断調査事例が報告されている。ESMI-BS の作成により,視覚障害者のイメージ特性の一般化が達成された。ESMI-BSを最尤法による因子分析の結果では,俯瞰イメージ,主観イメージ,会場イメージ 3 因子が抽出された(百瀬,2023a)。継続した一連の調査結果を総合的解釈すると,視覚なしにサッカー競技を行うためには,俯瞰すること,聴覚情報を含む主観動作を把握すること,動作の起点となる会場内にある物体情報の 3 要素が認知的な要であり,難易度の高いブラインドサッカー競技場面で必要となるイメージ特性だと考えられた。
次に,先天全盲選手のイメージ生成の実態を尺度作成プロセスで,日本トップ水準のブラインドサッカー選手が「姿勢を整えるとイメージしやすい(百瀬,2022,p.94)」という彼らの人生上で得た知恵に端を発したイメージ生成法が作成された。先天全盲児者向けに作成されたイメージ生成法は,姿勢制御のための基礎課題では,心理臨床技法である動作法の要素を取り入れた動作課題を設定して,重心位置の確認と不当緊張の解消を目指す。そして動きに直結するイメージ生成のための応用課題では,本人が望む目標動作を実際に動きながらイメージ生成させる。このように,個々人が目標とする動作や課題を扱うことができ
るため,技能水準や障害の有無を問わずに使用できる手法となった。先行研究では,本指導法が様々な身体活動における心身両面に対し同時に奏功することが報告されている。例えば,ブラインドサッカー(百瀬, 2022),音楽演奏(百瀬ら,2023),晴眼競泳選手(百瀬,2023b;百瀬・今岡,2024)といった教科や競技種目の壁を越えた奏功報告である。また,教科や競技種目といった特殊な技能を超えて,メンタルヘルスリテラシー教育の一手段として,初年次学生の気分状態と姿勢保持に着目した心身の自己制御力の向上への奏功も報告されている(百瀬,2025)。さらには,未実証だが,母国語と文化的背景を超えた英語圏での有効可能性も示唆されている(百瀬,2024)。
以上のように,先天全盲を取り上げて,イメージ特性を理解する科学的手続きを踏んだ知見が提出され,彼らのイメージ特性に対応したイメージ生成法も提案されていることが報告された。
先天全盲者が視覚記憶と視覚情報が無い中で,どのようにしてイメージが活用されているのか奏功機序に関する理論構築が開始され,その進捗が報告された。これまでのイメージトレーニング研究で支持されてきた理論モデルを概観(Morris, et al., 2005)したところ,Pychoneuromuscular 理論(Jacobson, 1931) を支持する論文が多く散見されている。 Pychoneuromuscular 理論とは,イメージすることで運動系が筋収縮や心拍といった生体反応を生起させているという説明である。先天全盲の場合でも,イメージ生成時に生体反応を示すと予想されるため,目標動作を達成させるイメージの役割を説明できるのではないかと考えられた。他方で,従来の主流な運動学習理論は,Pychoneuromuscular 理論の影響を受け体系化されたスキーマ理論がある。スキーマ理論なら,初心者にも熟達者にも適用できること,イメージ生成と運動実行系の両面を扱うこと,及び感情処理にも役立つ
(Schmidt, 1994, p.186)。しかしながら,いずれも視覚と聴覚の直接的知覚とフィードバックが大前提にあるため,先天全盲児者には適応できない。
それに対し,体育スポーツ場面に色濃いイメージトレーニングの枠組みではなく学習全般に対して,三宮
(2010,pp.74-75)が,学習者がどのような既有経験や既有知識をもっているのか,学習者がどのような方法で知識や技能を習得しているのか知っておく必要があると述べている。そして学習者の既有知識や経験,記憶を考える際に,特に重要になるのがスキーマだという。スキーマを更新するには,同化と調節を繰り返すため,視覚記憶や視覚情報の有無を問わなくても説
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明できる。しかも,人は前操作期にはイメージを生成し始めることから,この時期がメタ認知活動の準備段階にあるとすると,具体的操作期にはメタ認知活動が開始されると解釈できる。この解釈に基づくスキーマ,同化と調節,メタ認知理論といった発達理論を用いれば,前操作期からイメージを活用して,生活全般に関わる広範囲な学習に寄与すると考えられた。
なお,日本トップ水準の先天全盲ブラインドサッカー選手の場合のように,生活全般に関わる広範囲な学習に加えて,特殊な卓越した運動パフォーマンスの習得と発揮が求められることがある。生活水準から日本トップ水準の運動技法を網羅して説明するには,従来から主流であった既存の生理指標を根拠とする Pychoneuromuscular 理論を軸とし,新たにスキーマを扱うメタ認知理論や動作法理論で補完するなど複数の理論的枠組みを併用することが提案された。
最後に,視覚障害者のイメージ特性とその機能に関する研究の発展可能性について考察された。先天全盲児者向けに開発された動作法の要素を含むこの本邦開発のイメージ生成指導法が母国語や文化的背景を超えて有用かを英語圏で実践検証することが提案された。百瀬(2024)では,イメージ生成指導法の説明をし,米国ハワイ州と本邦の特別支援教育の専門家から評価を得た結果が報告されている。具体的には,米国ハワイ州と本邦の特別支援教育の実践研究者からは,
「simple」で「High versatility」「誰しもがわかりすい指導方法」だと評価された。それに対し,本邦の特別支援教諭からは「誰にとっても,実際をイメージしてから行動することは,大変有意義なこと」「比較的取り入れやすい」という肯定的な回答が得られた一方で,「授業の進行速度」や「個々に合わせた指導」をするには集団指導が困難になること,「児童生徒間での差別」が起こるのではないかという懸念,指導者養成の困難さが訴えられていた。このように,実践研究者と特別支援教諭では,国内外を問わず,共生社会とインクルーシブ教育の実現に向けた認識に差が生じていた。
この現状に対し,実践研究領域と教育現場が情報共有して,双方の相互発展につながるような現職教諭向け研修会や教員養成の機会に,実際の「inclusive events」を設けることは喫緊課題だと考えられた。そして,もし実際の「inclusive events」として本指導法を導入できれば,先天全盲児者の体育スポーツ領域から生まれたイメージ生成法が視覚障害の有無を超え,教科を超え,臨床心理学へと学問を超え,さらには使用言語をも超えたインクルーシブで全人的な学習
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