大日本耳鼻咽喉科會會報
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外傷性乳嘴突起炎ニ就テ
吉井 丑三郎
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1917 年 23 巻 1 号 p. 1-12

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抄録

第一例ハ電車ヨリ墜落シ、後頭部ト顳〓骨ノ乳嘴部ニ外傷ヲ受ケタル後、直チニ右側ノ耳ヨリ多量ノ出血ヲ來シ、續發性ニ中耳炎ヲ起シタルモノニシテ、該耳出血ハ乳嘴突起表面ノ骨ヨリ骨性外聽道壁ノ破潰ト皮膚ノ龜裂ヨリ來リタルモノナルハ病歴ト其手術上ノ所見トニ由リ明カナリ。然レトモ乳嘴。突起部ニ於ケル挫骨ハ、果シテ該部ニ直接ニ作用シタル外傷ニ由ルカ、或ハ後頭部ヲ強ク地上ニ打チツケタル爲ニ間接ニ來リタルモノナルヤヲ考フルニ。之レ勿論其前者ニ由ルモノナルヲ知ル。何トナレバ、モシ後者トスル時ハ、作用スル暴力一層強カラザルベカラズ。從テ患者ニ現ハル丶徴候ハ本例ノ如ク輕カラズシテ、他ニ激シキ腦症状カ、或ハ内耳振盪症ヲ呈スベケレバナリ。即チ本例ハ墜落ノ際後頭部ヲ打チツケタルモ、之レト前後シテ乳嘴部ニ外傷ヲ受ケタル爲、骨ノ破潰耳出血次デ乳嘴突起中耳炎ヲ起シ他ニ何等ノ障害ヲ及ボスコトナク治癒シタルモノナリ。
第二例ハ電車ニ衝リテ倒レタル後ニ、起リシ不幸ニシテ、外傷ハ此際極メテ複雜ニ作用セリ。然レドモ其主要ナルモノハ、頭部ノ右側顳〓部ニ於ケル骨ノ損傷ト、左側ノ乳嘴突起部ニ作ラレタルモノナリ。乳嘴突起ハ之レガ爲ニ高度ノ損傷ヲ蒙リ、破潰セラレタル骨ハ腐骨或ハ骨疸ニ陷リ、外聽道ハ骨部ノミナラズ軟部モ同時ニ破潰セラレ。聽器ニ於テハ中耳炎ヲ發起シタルノミナラズ一時性ナリシモ内耳ノ症状ヲ呈スルニ到リシモノニシテ、第一例ニ比シ損害ノ程度激烈ナリ。然レドモ本例ニ於ケル乳嘴突起ノ損傷ニ矢張リ前例ト同ジク直接ニ作用シタル外傷ニ因スルコト論ヲ俟タズシテ明カナリ。
本患者ノ斜頸ヲ有セシコトハ注意スベキ點ニシテ、之レ破潰セラレタル小骨片ガ胸鎖乳嘴筋ノ爲ニ牽引セラルヽニ由テ起リタルモノナリ。
幸ニシテ吾人ノ例ニ於テハ、深部重要器關ニ及ボシタル障害極メテ輕微ナルガ故、比較的輕易ナル手術ニ由リ全治スルコトヲ得タルモ、前記ノ如ク乳嘴突起部損傷ノ成立スルニハ可ナリ強キ暴力ノ作用スルヲ必要トスルガ故、豫後ノ決定ニハ常ニ愼重ナラザルベカラズ。局所ノ檢査ノ外、腦症状ノ有無及ビ精密ナル、聽力檢査ヲ必要トス。

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