抄録
チエンソーを使用して樹木を伐採する業務に従事し, すでに振動障害として労災認定を受けた高知県内の営林署職員49例について, 聴力検査および前庭, 平衡機能検査を行った. 自覚症状は難聴感22例, 耳鳴28例, めまい26例であった. 聴力検査では両側感音難聴36例, 一側感音難聴2例, C5 dip 3例, 老人性難聴5例, 正常域値3例であった. 特に両耳の4,000~8,000Hz領域に障害が強い症例が多かった. 頭位眼振および頭位変換眼振は15例にみられた. これらは方向固定性頭位眼振9例, 一過性頭位眼振2例, 上向き垂直性眼振4例であった. 誘発眼振は18例にみられた. 温度性眼振検査は39例に行いC. P. 21例, D. P. 8例, C. P.+D. P. 1例, 無反応1例, 左右差なし8例であった. 視運動性眼振検査では後眼振のみられたもの10例, 垂直性後眼振1例, 眼振解発不良2例がみられた. 視標追跡運動検査は波型階段状が1例のみ. 四肢平衡機能検査は22例が異常であった. 前庭, 平衡機能検査では単に内耳障害にとどまらず, 中枢神経系の障害が示唆された症例が5例みられた. これは垂直性頭位眼振4例, 四肢平衡機能検査で中枢性1例であった. なお聴力検査では後迷路性所見を得なかった. 長期間治療を行ったあとにもかかわらず, 潜在性の変化を示す症例が多かった.