Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Effect of Cu and Ni Addition on High Temperature Deformation Behavior in Sn-Cu-Ni Solder Alloys
Masayuki TakanoKeiji KurodaKohei HaseShuuto TanakaShigeto YamasakiMasatoshi MitsuharaHideharu Nakashima
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2017 Volume 81 Issue 7 Pages 337-344

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抄録

In recent years, it has become necessary to develop lead substitutes, such as lead-free solder alloys, because of increased environmental concerns regarding the use of leaded materials. In addition, electronic components that use lead-free solder alloys will need to be smaller and usable at higher operating temperatures in next-generation semiconductor devices. Therefore, lead-free solder alloys must be made more reliable. In this work, tin-copper-nickel (Sn-Cu-Ni) solder alloys, Sn-Cu solder alloys, and Sn-Ni solder alloys, as well as 99.96 mass% pure Sn, were subjected to tensile testing. The results showed the effects of adding Cu and Ni to Sn on the high-temperature deformation behavior of the Sn-Cu-Ni solder alloys. For each alloy and Sn, the stress exponent was estimated to be >5. This result indicated that, in each sample, the high-temperature deformation was controlled by dislocation creep. Furthermore, the creep activation energy was dependent on stress, and was affected to the greatest extent when adding Cu.

1. 緒言

近年,世界的な環境負荷物質の使用に対する懸念の高まりから,環境負荷物質を使用しない代替材の開発が求められている1.電気・電子部品などの接合材として広く使用されてきた鉛はんだ合金についても,鉛を使用しない代替材として,スズを母相とした鉛フリーはんだ合金の開発1,2が進み,その採用が拡大している.

鉛フリーはんだ合金を接合材として使用しているパワー半導体モジュールなどのパワー半導体製品については,製品の更なる小型化および低コスト化に向けて,SiCやGaNなど,次世代半導体デバイスの採用による高温動作化が求められており3,4,半導体デバイスの発熱温度上昇が避けられない状況となっている.鉛フリーはんだ合金は,半導体デバイスと回路基板の接合に用いられており,半導体デバイス,回路基板および鉛フリーはんだ合金の線膨張係数差と半導体デバイスの発熱温度上昇から,接合材である鉛フリーはんだ合金に負荷される繰り返し熱応力が増大する4,5,6.その結果,パワー半導体モジュールの製品寿命が低下してしまう5,6

そのため,パワー半導体モジュールをはじめとする半導体製品の高温環境下における更なる信頼性向上が重要であり,冷却器の冷却性能向上だけでなく,接合材として用いられている鉛フリーはんだ合金そのものの高温環境下における強度特性の向上も求められている.

現在,広く用いられているスズを母相とした鉛フリーはんだ合金は,Sn-Ag-Cu系はんだ合金(融点217°C2)やSn-Cu-Ni系はんだ合金(融点227°C2)であり,融点が183°Cであるスズ鉛共晶組成(Sn-37 mass%Pb)2の代替材として開発されてきた経緯もあり,次世代半導体デバイスを高温動作化させるような高温環境下での使用を想定した合金組成にはなっていない.

また,母相であるスズは,融点が232°Cと低く,室温であっても高温域と定義される7.さらに,スズの結晶構造は体心正方晶となり,面心立方晶で等方的な鉛の結晶構造とは異なり強い異方性を示すため,これまでに鉛はんだ合金から得られた知見を活用することが困難である.

そのため,スズまたはスズを母相とした鉛フリーはんだ合金の高温変形挙動に関する知見は少なく,添加元素が高温変形挙動に与える影響についても十分に検討されているとはいえない1.したがって,スズを母相とした鉛フリーはんだ合金の高温変形挙動を良く知ることは工学上極めて重要である.

そこで本研究では,現在,電気・電子部品の接合材として広く用いられているスズを母相とした鉛フリーはんだ合金であるSn-Ag-Cu系はんだ合金とSn-Cu-Ni系はんだ合金のうち,高価なAgを使用しないSn-Cu-Ni系はんだ合金に着目し,様々な条件下で引張試験を実施した結果から,CuとNi添加が母相であるスズの高温変形挙動におよぼす影響について考察を行った.

2. 実験方法

2.1 試料

本研究では,純β-Sn(純度 99.96 mass%),Sn-0.7 mass%Cu,Sn-0.06 mass%NiおよびSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niの4種類を用いることで,母相のスズの高温変形挙動に対するCuとNi添加の影響を検討できるようにした.次に,試験片の作製方法を示す.目的とする合金組成のインゴットを鋳造し,幅 50 mm,厚さ 0.25 mmに圧延加工したはんだ箔を,打抜きによりFig. 1 に示す試験片形状に加工した.その後,圧延加工や打抜きによる加工ひずみの除去と組織の均一化をねらい,窒素雰囲気下において,Sn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niに対しては 464 K(191°C),1時間,それ以外の合金組成に対しては 438 K(165°C),1時間の熱処理を実施した.ここで,熱処理条件が異なる理由を以下に述べる.Sn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niについては日本材料学会が定めるはんだの引張試験標準8に準拠して液相線温度 533 K(260°C)の0.87倍である 464 K(191°C)を処理温度に設定した.一方で,それ以外の合金組成では,それらの液相線温度の0.87倍が固相線温度以上となる可能性があるため,母相スズの融点(固相線温度)である 505 K(232°C)の0.87倍を基準として処理温度を決定した.ただし,Sn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niに 438 K(165°C),1時間の熱処理を施した場合でもその機械的特性に大差ないことを確認している.

Fig. 1

Specimen shape of tensile-test (thickness: 0.25 mm).

2.2 微細組織観察

走査電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscopy,JEOL社製JSM-7000F,加速電圧 5 kV)を用いて,熱処理後の各試料の微細組織観察を実施した.加速電圧は 5 kVとし,反射電子検出器を用いて結像した.

観察試料は,透明エポキシ樹脂に埋め込み,観察面を切り出した後,その面に対して#180,#500,#1000のエメリー紙と 6 μm,3 μm,1 μm,1/4 μmのダイヤモンド研磨剤による湿式機械研磨を施し,その後,機械研磨による加工ひずみを取り除く目的でコロイダルシリカ懸濁液を用いた機械化学研磨を行った.

2.3 引張試験条件

引張試験機は,島津製作所製 5 kNオートグラフを使用し,ロードセルは,荷重容量が 1 kNのものを使用した.試験温度は,233 K(-40°C),298 K(25°C),373 K(100°C)および 433 K(160°C)の4水準とした.室温(298 K)以外の温度条件については,試験片を取り付け後,恒温槽の設定温度が試験温度に到達してから5分間放置し,その後,引張試験を開始した.引張試験はストローク制御で実施した.ストローク速度は,48 mm/min,2.4 mm/min,0.24 mm/minおよび0.024 mm/minの4水準とした.ひずみ速度に換算すると,2.0×10-2/s,1.0×10-3/s,1.0×10-4/sおよび1.0×10-5/sの4水準である.

3. 結果と考察

3.1 微細組織観察結果

Fig. 2 に,純β-Sn,Sn-0.7 mass%Cu,Sn-0.06 mass%NiおよびSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niにおける同倍率でのSEM反射電子像を示す.Fig. 2(a)と(b)の比較から,スズ母相にCuを添加するとスズの結晶粒が微細化し,数μm程度の黒色の析出物が結晶粒内部に均一に分散していることがわかる.この析出物は,Sn-Cu二元状態図9から六方晶のη相Cu6Sn5または単斜晶のη′相Cu6Sn5であると推察される.一方で,Fig. 2(c)から,スズ母相にNiを添加すると,Cu添加のときと同様にスズの結晶粒が微細化するが,この倍率において析出物の生成は確認できない.スズ母相にCuとNiを共添加したFig. 2(d)の場合,スズの結晶粒は微細化し,かつ(b)と同様にCu6Sn5と思われる黒色析出物の生成が確認される.Cu6Sn5の分散状態にNi添加の影響はないように観察される.

Fig. 2

SEM image of each specimen with (a)β-Sn, (b) Sn-Cu solder alloys, (c)Sn-Ni solder alloys, (d)Sn-Cu-Ni solder alloys.

次に,Ni添加の影響をより詳細に検討するため,Sn-0.06 mass%NiおよびSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niをさらに高倍率でSEM観察した結果について,Fig. 3 に示す.Sn-0.06 mass%Niでは,Fig. 3(a)中に矢印で示すように,母相スズの結晶粒界またはその近傍に棒状析出物の生成が確認される.この析出物はSn-Ni二元状態図9からNi3Sn4であると考えられる.一方でSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niでは,Fig. 3(b)中に矢印で示すように,球状または塊状のCu6Sn5が確認されるのみで,Ni3Sn4の生成は認められない.K. Nogitaは,Niを添加したSn-Cu系はんだ合金において,NiがCu6Sn5に含まれ(Cu,Ni)6Sn5となり,六方晶のη相Cu6Sn5から単斜晶のη′相Cu6Sn5への相変態を抑制する効果を持つことを報告10している.このことから,本研究でも,Sn-0.7 mass%-0.06 mass%Niに添加したNiがCu6Sn5中に含有されたためにNi3Sn4の生成が起らなかったものと考察される.

Fig. 3

SEM image of each specimen with (a)Sn-Ni solder alloys, (b)Sn-Cu-Ni solder alloys.

3.2 引張試験結果

引張試験から得られた純β-Sn,Sn-0.7 mass%Cu,Sn-0.06 mass%NiおよびSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niの真応力-真ひずみ曲線を,Fig. 4 からFig. 7 にそれぞれ示す.どの材料においても,試験温度の上昇とともに,変形応力が低下している.また同様にひずみ速度が低下する場合でも,変形応力が低下する傾向を示す.真応力-真ひずみ曲線の形状には2種類あり,降伏後に緩やかな加工硬化を続ける「加工硬化型」11と,降伏直後にごくわずかな加工硬化を示した後,ひずみが増加しても一定の変形応力を示す「動的回復型」11に分類できる.本研究で得られたすべての試験結果から判断すると,低温・高ひずみ速度ほど加工硬化型の変形挙動を示しやすく,高温・低ひずみ速度ほど動的回復型を示しやすい傾向にあった.

Fig. 4

True stress – true strain curves of β-Sn with (a)2.0×10-2/s, (b)1.0×10-3/s, (c)1.0×10-4/s, (d)1.0×10-5/s.

Fig. 5

True stress – true strain curves of Sn-Cu solder alloys with (a)2.0×10-2/s, (b)1.0×10-3/s, (c)1.0×10-4/s, (d)1.0×10-5/s.

Fig. 6

True stress – true strain curves of Sn-Ni solder alloys with (a)2.0×10-2/s, (b)1.0×10-3/s, (c)1.0×10-4/s, (d)1.0×10-5/s.

Fig. 7

True stress – true strain curves of Sn-Cu-Ni solder alloys with (a)2.0×10-2/s, (b)1.0×10-3/s, (c)1.0×10-4/s, (d)1.0×10-5/s.

次に,純β-Sn,Sn-0.7 mass%Cu,Sn-0.06 mass%NiおよびSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niの応力-ひずみ速度の関係を,Fig. 8 からFig. 11 にそれぞれ示す.なお,これらに示す応力-ひずみ速度の関係は,Fig. 4 からFig. 7 に示した各温度,各ひずみ速度の真応力-真ひずみ曲線における代表的な応力値を用いて作図した.ここで,代表的な応力値とは,加工硬化型の場合には,真ひずみ0.15の際の応力値,動的回復型の場合には,定常状態での応力値をそれぞれ用いた.各図中に白抜きで示されるシンボルは,真応力-真ひずみ曲線が加工硬化型を示す条件であり,前述のとおり,その曲線において真ひずみ0.15の際の応力値を代表値として作図している.すべての試料において,低温または低応力ほどひずみ速度が小さくなることがわかる.また,どの条件においても,応力の対数とひずみ速度の対数の間には良い直線性が認められる.

Fig. 8

Relation of stress and strain-rate in β-Sn.

Fig. 9

Relation of stress and strain-rate in Sn-Cu solder alloys.

Fig. 10

Relation of stress and strain-rate in Sn-Ni solder alloys.

Fig. 11

Relation of stress and strain-rate in Sn-Cu-Ni solder alloys.

3.3 応力指数による高温変形機構の推定

Fig. 8 からFig. 11 に示した応力-ひずみ速度の両対数プロットにおける直線関係には,式(1)で表現されるノートン則(または累乗則)12が成り立つ.   

dε/dt= A 1 σ n (1)
ここで,/dtはひずみ速度,σは応力,A1は材料定数,nは応力指数である.この式は,応力-ひずみ速度の両対数プロットにおける直線関係の傾きが応力指数nに対応することを意味している.本研究では,Fig. 8 からFig. 11 に示したデータのうち,加工硬化型の曲線から得られた点を除外したデータのみで直線関係の傾きを求めて,n値を算出した.ただし,加工硬化型のデータを取り除かずに計算した結果と比較して,その値が大差ないことを確認している.得られたn値を,Table 1 にまとめて示す.
Table 1 Stress exponent n in each specimen at various temperatures.
TemperatureStress exponent n
[K]β-SnSn-CuSn-NiSn-Cu-Ni
23311.3---
2989.410.57.29.5
3739.313.78.38.9
4336.98.65.97.5

この結果から,各試料の応力指数には大きな違いはなく,高温ほどやや小さい値になるもののすべて5以上の値であることがわかる.応力指数n≧3の場合,転位運動が変形の担い手となり,かつ格子拡散または転位芯拡散が変形を律速する累乗則クリープが,高温変形を支配していると考えられる7.さらに,応力指数n≧5の場合,転位芯拡散が高温変形を律速する低温累乗則クリープが生じていると推察される7

次にFig. 12 に,(a)233 Kまたは(b)433 Kにおいて各試料の強度の比較を行った結果について示す.どちらの温度であっても,母相であるスズにCuまたはNiを添加することでひずみ速度が小さくなる,すなわち強度が向上していることがわかる.一方で,Sn-CuおよびSn-Ni二元状態図9から,CuとNiのスズ母相への固溶限はほぼ0であることが知られており,Fig. 12 で確認された強度向上についてCuまたはNi添加による固溶強化の影響は無視できる.そのため,これらの添加の効果を議論する上では各合金に生成する析出物の分散状態を考慮することが重要である.Fig. 2Fig. 3 に示したとおり,Cuを添加した合金ではスズ母相中にCu6Sn5が生成2,9することで析出強化が有効に作用している.Niを添加した場合にもNi3Sn4が析出する2,9ことによる強度向上が起るが,Fig. 3(a)に示したように,この析出物の生成箇所が結晶粒界上または粒界近傍であり数密度も多くないことからCu添加合金に比べて強度向上への寄与が小さかったものと推察される.このように粒内析出物の生成が強度向上に有効に作用するのは,転位運動を変形の担い手とする累乗則クリープの特徴であり,上述したn値からの変形機構の考察結果と良い一致を示す.

Fig. 12

Relation of stress and strain-rate in all the specimens at (a)233 K and (b)433 K.

一方で,Sn-0.7 mass%CuとSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niの結果を比べると,それらの強度にはほぼ差がなく,三元系試料においてNi添加の効果が現れていないことがわかる.これは,3.1において議論したように,Sn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niに添加したNiの多くはCu6Sn5に含まれNi3Sn4が生成していないため,その結果,Sn-0.7 mass%Cuと同程度の析出強化能しか得られなかったためであると考察される.

3.4 活性化エネルギーに対するCu,Ni添加の影響

各試料の高温変形挙動を,拡散の観点からさらに考察するため,式(2)に示すような熱活性化過程の状態方程式に基づいたクリープ構成則を用いて,それぞれの試料におけるクリープの活性化エネルギー13を算出した.   

dε/dt= A 2 σ n exp(- Q c /RT) (2)
ここで,A2は材料定数,Rは気体定数,Tは試験温度(絶対温度),Qcはクリープの活性化エネルギーである.

応力一定の場合,式(2)のクリープ構成則は,自然対数を用いて,以下のように変換することができる.   

ln(dε/dt)=ln( A 3 )+(-1/T)( Q c /R) (3)
ここで,A3は材料定数である.

式(3)からわかるように,応力-ひずみ速度の関係を,ひずみ速度の自然対数ln(dε/dt)と試験温度の逆数1/Tの関係に変換し,その際の直線関係の勾配を用いてQcを算出することができる.例として,Sn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niの結果を,Fig. 13 に示す.ここで各応力におけるひずみ速度は,Fig. 11 の応力-ひずみ速度の関係を高応力側または低応力側へ外挿することによって求めた.

Fig. 13

Relation of ln/dt) and 1/T in Sn-Cu-Ni solder alloy.

Fig. 13 より,ln(dε/dt)1/Tには良好な直線関係があることがわかる.同様の関係が,Sn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Ni以外のすべての試料においても認められた.Fig. 14 に,各試料においてQcを算出した結果を示す.Fig. 14 から,どの試料においてもQcは応力依存性を示していることがわかる.すなわち,低応力ほどQcが大きくなる傾向を示す.また,純β-SnとSn-0.06 mass%Ni ,Sn-0.7 mass%CuとSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niがそれぞれ似た値と応力依存性を示すこともわかる.ここで,母相であるスズの自己拡散の活性化エネルギー14を,Table 2 に示す.転位芯拡散の活性化エネルギーはTable 2 に示す値の半分程度と考えて良い.純β-SnとSn-0.06 mass%Niでは,1 MPa以下でのQcがおよそ 80 kJ/mol,5 MPa以上では 40~60 kJ/molである.このことから,これらの試料では,極低応力域を除き,転位芯拡散が支配的な低温累乗則クリープが主たる変形機構であることが推察される.この結果は,3.3節で述べたn値からの考察と良く一致する.極低応力域においてQcが増加するのは,低温累乗則クリープに加えて高温累乗則クリープがクリープ変形の一部を担うようになるからであろう.一方で,n値の解析からは同様に低温累乗則クリープが生じていると推察されたSn-0.7 mass%CuとSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niにおいて,Qcは 1 MPa以下で 110~120 kJ/mol,5 MPa以上では,90 kJ/mol程度である.これらのQcはスズの自己拡散の活性化エネルギーと同等もしくはそれ以上であり,低温累乗則クリープであるとの考察との不一致が生じている.Cuの添加によりQcが増加する理由については,Cu6Sn5の生成・成長挙動の影響が考えられる15,16,17.そのため,今後,本合金においてQcへのCu添加の効果をより詳細に議論するためには,変形中に生じる微細組織変化,特に強化を担うCu6Sn5の粗大化が見かけの活性化エネルギーに及ぼす影響について考察する必要がある.

Fig. 14

Creep activation energy in all the specimens as a function of stress.

Table 2 Self-diffusion activation energy Q in β-Sn.
Self-diffusion Activation Energy Q [kJ/mol]
      Vertical direction for c-axis105
      Pallarel direction for c-axis107

4. 結論

本研究では,純β-Sn,Sn-0.7 mass%Cu,Sn-0.06 mass%NiおよびSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niに対し,SEMによる微細組織観察と様々な条件下において引張試験を実施して,CuとNiの添加が高温変形挙動に与える影響について検討した.その結果,得られた知見を以下にまとめる.

(1) スズ母相にCuまたはNiを添加すると,スズの結晶粒は微細化した.また,CuとNiの添加よりCu6Sn5とNi3Sn4がそれぞれ析出を起こした.しかし,CuとNiを共添加した場合にはCu6Sn5のみが生成し,Ni3Sn4の析出は確認されなかった.

(2) いずれの試料においても,応力-ひずみ速度の関係から求めたn値は,すべての温度,応力条件において5以上であった.そのため,本試験条件における高温変形は,転位芯拡散が律速過程となる低温累乗則クリープであると推察される.

(3) スズ母相にCuまたはNiを添加すると強度が向上した.一方で,CuとNiを共添加したSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Ni では,添加したNiの多くはCu6Sn5に含まれNi3Sn4が生成しないため,Ni添加による強度向上はほとんど認められなかった.

(4) いずれの試料においても,クリープの活性化エネルギーQcは応力依存性を示した.純β-SnとSn-0.06 mass%Niでは,Qcの値がスズの自己拡散の活性化エネルギーの半分程度であることから,極低応力域を除き,転位芯拡散が支配的な低温累乗則クリープが主たる変形機構であることが推察される.一方で,Sn-0.7 mass%CuとSn-0.7 mass%Cu-0.06 mass%Niにおいては,Qcの値がスズの自己拡散の活性化エネルギーと同等もしくはそれ以上であった.

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