Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Influence of Nb Content of Ti-xNb-7Al Alloys on βα″ Transformation with Tempering
Masataka IjiriYuki TomitaTakafumi IshikawaKenji KadowakiYoshito Takemoto
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2017 Volume 81 Issue 7 Pages 345-351

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抄録

The purpose of this study is to investigate the influence of Nb content of Ti-xNb-7Al alloys (x=20-35 mass%, abbreviated as xNbA) on β (bcc)→α″ (orthorhombic) transformation with tempering through microstructure, isothermal age-hardening, and shape change of a U-shaped specimen with heating. Full α″-martensite structure was obtained on the quenched 20 NbA. With increasing of Nb content, residual β-phase increased, and single β-phase was obtained in the alloys of more than 25 NbA. From the result, the MS temperature commonly decreases with increasing of Nb content. The hardness of 20 NbA and 23 NbA rapidly increased in a few seconds by isothermal aging at 450°C, and the hardness of the alloys of more than 25 NbA abruptly increased after an incubation period for 30-60 s. No compositional distribution between α″ and matrix in the aged 23 NbA was found by STEM-EDS analysis, but the obvious distribution of Nb was detected in 35 NbA. U-shaped specimen of 20 NbA exhibited no shape change by heating. On the other hand, the specimen of 23 NbA composed of β+α″ phases showed the shape recovery (SR) first due to work induced α″→β inverse transformation, then deformed toward the bending direction (SA: shape advance) due to βα″ transformation. The specimens of more than 28 NbA composed of single β-phase exhibited only SA without SR. The starting temperature of SA (MSA: βα″) with heating increases with increasing of Nb content. Merging MS (upper) and MSA (lower), it is proposed that the whole MS of xNbA alloy forms a bow shape curve. It is suggested that the low Nb alloys inside the MS curve transform immediately without atom diffusion by tempering at 450°C, but the higher Nb alloys outside the curve need an incubation period to distribute Nb concentration with atom diffusion, and martensitic α″ transformation will abruptly occur in the local domains less than 25 NbA which is the inside of the curve.

1. 緒言

β型Ti合金は添加元素の種類や添加量によって,溶体化焼入れで生成するマルテンサイトに2種類あることが知られている1,2β安定化元素が少ない合金ではhcp構造のα′マルテンサイト,それより添加量が多くなると斜方晶のα″マルテンサイトが形成される.さらにβ安定化元素が増えると焼入れマルテンサイトが形成されなくなり,高温のβ相が残留するようになる.2元系Ti合金をβ域から水冷した際,β相が残留する下限組成は,およそ 4Fe3,6Mn4,7Cr5,10Mo2,15V2,36Nb2(mass%)であるが,合金中の不純物(特にFeと酸素)によってはこの組成から多少ずれる.またβ下限組成の合金をβ-transus以上から焼入れるとβ相中に非熱的ω(焼入れωとも呼ばれる)相が大量に形成され,硬さやヤング率の増加を招くが,これは熱的ω(時効ω)とは異なり必ずしも材料の脆化を招くわけではない.例えば 4 Feの焼入れ材は非常に脆性的であるが,10Moや 15Vなどでは{332}<113>双晶変形により良好な延性を示す2ω相の生成を抑制するためにはα安定化元素のAlの添加が効果的であるが,焼戻しにおいて興味深い現象も発現する.著者らはβ下限の 4 Feや10Mo合金に,Alを7%添加(それぞれ 4 FeA,10 MoAと略称)すると,焼入れでβ+(α″)組織(α″はβ粒界近傍に少しだけ存在する)を示すが,450°Cで焼戻しを行うと,ごく短時間(7 s)で光顕では観察できない微細なα″が多量に形成され,急激な硬化や形状変化が発現することを報告した6,7,8.また焼戻しで形成されるα″についてSTEM-EDS分析を行った結果,組成分配はほとんど認められないことからマルテンサイト的な無拡散変態によるβα″変態と考えてきた.一方,β下限の 35Nbに 7Alを添加した合金(35 NbA)においては,焼入れでβ単相を示し,450°Cの焼戻しを行うと約 3 min後に微細なα″が形成され著しく硬化するが,これは原子拡散を伴ったβα″変態であった9.このように合金系によって焼戻しに伴うβα″変態に多少の違いがあることが分かってきた.他にも,10MoAのU字曲げ材を420°Cまで加熱すると,200°C付近で形状回復(SR: shape recovery)を示した後,曲げ方向に形状が進展(SA: shape advance)するが,35 NbAではSRを示さず,SAのみ現れる.これらの違いは合金組成によるβ安定性に起因すると考えられ,前者は焼入れ組織にα″を有していることから35 NbAと比較して,よりβ相が不安定であると考えられる.そこで本研究ではAlの添加量を7%に固定し,Nb添加量を変えたTi-xNb-7Al(xNbA)を作製し,焼入れ組織と焼戻し挙動に及ぼすNb量の影響について調査した.

2. 実験方法

Ti-(20,23,25,28,33,35)mass%Nb-7 mass%Al合金(それぞれ20 NbA~35 NbAと呼称)を研究対象とした.33 NbAと35 NbA9は新日鐵住金(株)で溶解した合金(いずれも酸素は0.11 mass%O)を用いた.その他の合金については純度99.98%Ti,99.99%Nbおよび99.99%Alの原料を用い,非消耗型アーク溶解炉にてAr減圧雰囲気で約 5 gのボタンインゴットを作製した.なお均質化のため3回反転させ,合計4回の溶解を行った.なお,20~28 NbAについてはエネルギー分散型エックス線分光(EDS)分析を行い,NbとAlがほぼ狙い値の組成であることを確認したが,5 gしかないため酸素等の分析は行っていない.各インゴットから約 1 mm厚の板材を切り出し,真空中,β領域の1050°Cで 30 minの溶体化処理後,氷水中にて水冷を行った(焼入れ材:WQ材と呼称).等温時効処理はそれぞれ1枚の試料(10×10×1 mm3)を用いて,450°Cの塩浴中で累積時効を行った.硬さ試験はVickers硬度計を用いて 2.94 Nの荷重で7点測定し,最大・最小値を除いた平均値を採用した.エックス線回折(XRD)測定はRigaku製RINT-TTR IIIを使用し,45 kV-200 mAにて発生したCuKα線を用い,走査角度 2 θは30~90°範囲で行った.透過型電子顕微鏡(TEM)観察にはTopcon製EM-002Bを使用して,加速電圧 160 kVで明視野(BF),暗視野(DF),制限視野回折(SAD)像観察を行った.TEM試料の作製は既報10と同じ条件の電解研磨法を用いた.焼戻しに伴う形状変化の調査には,WQ材を約 0.20 mm厚の薄板に仕上げ,室温にて 5 mmϕの丸棒に巻き付けU字曲げを行った.付与したひずみは試料表面において約3.8%であった.これをホットプレート上で,約0.4°C/sの昇温速度にて420°Cまで昇温した.試料形状の記録は,室温から10°C毎に写真撮影を行った.

3. 結果および考察

3.1 焼入れ組織

Fig. 12 は各合金におけるWQ材の光顕組織とXRDプロファイルを示す.20 NbAは試料全体に針状組織が観察され,XRDよりα″単相であることが分かった.Nb量の増加に伴って針状組織は減少し,23 NbAでα″+β,25 NbAは光顕ではわずかに針状組織が観察されるところもあったが,XRDではほぼβ単相であった.28 NbA以上の合金では光顕,XRDともにβ単相であった.

Fig. 1

Optical micrographs of the quenched (a) 20 NbA, (b) 23 NbA, (c) 25 NbA and (d) 28 NbA.

Fig. 2

XRD profiles of the quenched (a) 20 NbA, (b) 23 NbA, (c) 25 NbA, and (d) 28 NbA.

著者らは焼戻しに伴う特異現象が,β下限組成にAlを7%添加した合金(4 FeA,10 MoA,35 NbA)で発現することを報告してきた6,7,8,9,10.これらの合金の実質的なMo当量(Moeffeq=Moeq-Aleq)はいずれも約 3 Moeffeqであるが,本研究の 28 NbAでは 0.8 Moeffeq,25 NbAにいたっては,ほぼ 0 Moeffeqであるにもかかわらずβ相が残留することがわかった.2元系Ti-Nb合金で,通常full-α″となる 25Nb11でも 7Alの添加によってβ相が安定化されることは注目に値する.このことはAlがβ安定化元素として作用しているようにも見えるが,Al添加による母相の固溶強化12によってβα″変態におけるせん断応力τβαの増加が焼入れα″の形成を抑制し,見かけ上β相を安定化していると考えることもできる.

Table 1 はXRDの結果から得られた各合金WQ材の格子定数を示す.α″の斜方晶の度合いを表す軸比b/aに着目すると,Nb量の増加とともに低下し,bcc構造(1.41)に近づく傾向がある.参考までにU字曲げ材の加熱でSRとSAが発現(2-way)した 10 MoA7b/aは1.60であり,23 NbAと近い値であった.

Table 1 Lattice parameters of the quenched xNbA alloys.
αβ
a/nmb/nmc/nmb/aa/nm
20 NbA0.3020.4950.4691.64-
23 NbA0.3050.4910.4691.610.328
25 NbA----0.328
28 NbA----0.327

Fig. 3 は各合金WQ材のSAD図形を示す.観察方位はいずれも<110>βである.図中<112>β*方向(*は逆格子ベクトルを表す)にかすかにみられるストリークは不整合ω相による反射で,Al添加によってω相の生成が抑制されていることが分かる.またストリークの交点(<112>β*の1/2位置)にみられるスポット状の反射はα″によるものである.どちらもβ相中に分散した非常に微細な組織であるため,通常のTEM観察や暗視野(DF)像観察ではその形態を捉えることは難しい.またいずれの合金も矢印で示す位置<100>β*にB2(CsCl型)構造のような規則反射が観察された.この反射を用いてDF観察を行ったが,逆位相境界などB2構造に特有な組織は観察されなかった.既報9の 35 NbAでも報告したが,この規則反射はFIBで作製したTEM試料では観察されないことから,電解研磨によるアーティファクトによると考えている.またその反射強度はNb量が増加するほど強くなる傾向があった.さらに 20 NbAのWQ組織は光顕,XRDともにα″単相であり,23 NbAも大部分はα″組織であったが,TEM観察では粒界近傍でまれに針状α″が観察されるのみで,ほとんどがβ相しか観察できなかった.このβ相には積層欠陥と思われる多数の縞が観察された13.このようなアーティファクトはTi-10V-2Fe-3Al合金などでも報告14,15されており,未解決のままであるが,我々は電解研磨による試料の水素吸収が原因であると考えている.

Fig. 3

SAD (selected area diffraction) patterns of the quenched xNbA alloys. (a) 20 NbA, (b) 23 NbA, (c) 25 NbA, (d) 28 NbA, (e) 33 NbA and (f) 35 NbA, respectively. TEM foils were prepared by common electropolishing. Beams // [110]β. Faint spot indicated by an arrow in (f) was induced by electropolishing. The intensity tends to increase with increasing of Nb content.

3.2 時効硬化と微細組織

Fig. 4(a)は 23 NbA-WQ材の光顕組織,および(b)同一試料を200°C-5 min時効後,(a)と同じ視野を観察したものを示す.なお,(b)は時効後,機械研磨を多少施し,再腐食を行っている.α″→β逆変態によって針状α″が明らかに減少している.この結果から室温での加工によってβ→加工誘起α″が形成されるなら,200°C付近の昇温で,α″→β逆変態により形状回復(SR)が発現することが予想される.

Fig. 4

Optical micrographs of 23 NbA. (a) as-quench, (b) tempered at 200°C for 5 min. Each photograph was taken from the same area. Acicular martensites obviously decreased by the tempering.

Fig. 5 は各合金の450°C等温時効硬化曲線を示す.硬さ測定は熱処理毎に生成される酸化被膜および表面起伏を十分除去して測定を行った.各合金のWQ材の硬さは約 300 Hvであり,2元系Ti-NbのWQ材(約 210~240 Hv11)より硬い.一方,4 FeA6や 10 MoA7ではいずれも2元系合金(4 Fe,10 Mo)よりも 7Alの添加によって軟化したが,これはAl添加によってω相の生成が抑制されるためと考えられる.xNbAでもFig. 3 で示したようにω相の生成は抑制されているが,Ti-Nb系の焼入れω相は硬さにあまり寄与しないため,xNbAの硬化はAlの固溶強化分によると考えられる.

Fig. 5

Hardness change of xNbA alloys with isothermal aging at (a) 450°C.

20 NbAと 23 NbAは最短の時効時間(7 s)で硬化し,25 NbA以上の合金では 30~60 sの潜伏期間後に著しく硬化した.潜伏期間は 25 NbAだけわずかに短いが,28~35 NbAはほぼ一定であった.なお,33 NbAは 35 NbAの曲線とほとんど重なるため省略している.

Fig. 6 は450°C時効で硬化開始直後のTEM組織を示す.(a)は 20 NbAの 7 s時効材のBF像であり,粗大なマルテンサイト内部に多数の欠陥縞が観察され,1つのマルテンサイト晶が分割されたような組織であった.XRD測定の結果,α″の軸比b/aは1.65まで増加していた.つまりα″の構造変化に伴う組織微細化が硬化の原因と考えられる.なお,WQ材のTEM観察ではα″がほとんど観察できなかったが,時効材では光顕レベルの粗大な針状α″も多数観察された.(b)~(d)はSAD中の丸で示した反射によるα″のDF像を示す.(b)は 23 NbAの 7 s時効材で,約 300 nm長の針状α″が観察されたが,光顕レベルの粗大なα″は観察されなかった.これはFig. 4 で示したように450°Cまでの昇温途中で焼入れα″はβ逆変態により消滅し,450°Cで新たにβ中に微細なα″形成されたためと考えられる.(c)は 25 NbAの 1 min時効材で,α″は(b)と同サイズであった.(d)は 28 NbAの 3 min時効材で,約 100 nmのα″であった.さらに 35 NbAの 3 min時効材のα″は約 80 nmであったことから9,Nb量が多くなるとα″が微細になる傾向がある.なおSTEM-EDS分析の結果,いずれの時効材のα″も 35 NbA9のような組成分配は認められなかった13

Fig. 6

TEM micrographs of the specimens after abrupt hardening on the isothermal aging at 450°C. (a) 20 NbA (7 s), (b) 23 NbA (7 s), (c) 25 NbA (1 min), and (d) 28 NbA (3 min), respectively.

3.3 U字曲げ材の加熱に伴う形状変化

Fig. 7 は室温でU字曲げした薄板をホットプレート上で昇温した際の形状変化を示す.なお点線の曲線は昇温前の試料形状を示す.図には示していないが 20 NbAでは形状変化は見られなかったので省略している.23 NbA(a)と 25 NbA(b)は昇温に伴って,一旦,形状回復(SR)を示し,その後,曲げ方向に形状が進展(SA)する 2 wayを示した.一方,28 NbA(c)ではSRを示さず,SAのみ現れた(1 way).33 NbAと 35 NbA9についても同様の実験を行ったが,これらも 1 wayであった.以上の結果から 20 NbAでは焼入れ組織がfull-α″であり,変形はα″のすべり等の塑性変形によって行われるため加工誘起α″→βに伴うSRが発現しない.またβ相が存在しないため焼戻しβα″変態に起因するSAも発現しない.23~25 NbAでは焼入れでβ相が存在し,曲げ加工によってβ→加工誘起α″が形成されるため,200°C付近まで加熱するとα″→β逆変態によりSRが生じる.さらに高温では今度はβα″変態によりSAが発現する.一方,28 NbA以上の合金では,曲げ加工はすべり変形によって行われるためSRは生じず,高温でβα″変態によってSAのみ発現するといえる.

Fig. 7

Shape evolution of the bent specimens with heating to 420°C. (a) 23 NbA, (b) 25 NbA, and (c) 28 NbA. The dashed lines express the initial shapes of specimens at room temperature.

U字曲げ材の加熱によるSAの発現はβα″変態に起因することは明らかであるため,各合金のSA開始温度をβα″変態開始温度(MSA)とし,Nb組成(CNb:mass%Nb)の関数としてプロットしたものをFig. 8 に示す.MSAとCNbはほぼ比例関係にあり,(1)の近似式で表される.   

M SA = 8. 836 C Nb + 11.53 (1)
Fig. 8

Plot of SA starting temperature (MSA) with heating of the bent xNbA specimens as a function of Nb content.

3.4 xNbA合金のβα″変態機構

通常,2元系Ti-Nb合金の焼入れマルテンサイト(α′,α″)のMSは,Nb量の増加に伴って減少する16.このことはFig. 1 のWQ組織からも明らかである.しかし,xNbAの焼戻しで形成されるα″の変態開始温度MSAは,Nb量の増加に伴って逆に高温になるのは興味深い.焼入れα″と焼戻しで形成されるα″は,サイズは全く異なるが,どちらも同じ斜方晶である.MS(実線)とMSA(点線)を模式的に表すと,Fig. 9 に示すように弓なりに張り出した曲線になると考えられる.ここで高温の右下がりのMSを上部MS,低温の右上がりのMSを下部MSと呼ぶことにする.例えば 20 NbAの焼入れでは,冷却中にMSMfの内側を通過するためfull-α″組織となる.23 NbAではMS内を通るためα″は形成されるが,Mfを通過しないためβが残留するようになる.また急冷中に下部MSから抜け出たとしても,温度が低くごく短時間であるため,急冷途中に形成されたα″はβに逆変態できずα″+β組織となる.このWQ材を下部MS以下の200°Cで焼戻すと,焼入れα″は不安定となりβに逆変態する(Fig. 4).同様にWQ材を室温で加工するとβ→加工誘起α″が形成され,200°C付近の焼戻しによってβ逆変態しSRが発現する.一方,450°Cの焼戻しではMS曲線の内側に入るため,βα″変態により急速に硬化すると考えられる.25 NbAでは境界組成に相当するため,わずかにα″も形成されるが,大部分はβ相が残留し,28 NbA以上ではβ単相となる.しかし,このMS曲線に従えば 28 NbA以上の合金では450°Cで焼戻してもMS曲線の内側に入らないためβα″変態は起こらないことになる.

Fig. 9

Schematic diagram of MS curve of Ti-xNb-7Al alloy.

この矛盾を説明するため 35 NbAの450°C焼戻し挙動に着目してみると,硬化開始までに 1 minの潜伏期間を要し,わずか 3 minでもα″内でNbが希薄になっていた9.つまり450°Cでしばらく保持すると,焼入れで凍結された過剰空孔は平衡濃度まで低下しようと拡散するが,同時に溶質原子の拡散も行われNbの組成分配が生じることが予想される.その結果,25 NbAより低Nb濃度となった局所領域は,MS曲線の内側に入り,βα″変態が生じることになる.したがって高Nb合金の硬化開始までの潜伏期間は,組成分配に必要な時間と考えることができる.この仮説に基づけば,35 NbAの潜伏期間は焼入れによる凍結空孔量によって変化することが予想される.そこで凍結空孔量を変えるため,溶体化焼入れ温度を変えた試料を作製し,450°C時効における潜伏期間を調査した.なお,変態における粒径の影響をなくすため,1050°C-30 min溶体化処理後,水冷したものと,1050°C-20 min処理後,炉冷で800°Cまで低下したところで水冷したものをそれぞれ作製し,450°C時効を行った結果をFig. 10 に示す.凍結空孔量の少ない800°CWQ材の方が明らかに潜伏期間(15 min)は長くなった.したがって高Nb合金の焼戻し変態挙動は前述のように最初に原子拡散による組成分配が生じた後,25 NbAより低組成となった局所領域でマルテンサイト的なα″変態が起こると考えられる.最近,國枝らは450°C焼戻しでβα″変態が現れるTi-5Al-2Fe-3Mo合金のWQ材を加熱し,450°Cに到達直後に水冷した試料で,3次元アトムプローブ測定を行った結果,β相内でスピノーダル分解による組成分配が起きていることを報告した17.この結果は上述の 35 NbAの変態前駆現象を説明していると思われる.

Fig. 10

Hardness change with isothermal aging at 450°C in 35 NbA specimens quenched from different temperatures, 1050°C (□), and 800°C (■). The grain size was regulated to almost equal in both specimens. The specimen (■), which would have fewer frozen vacancies by quenching, exhibited remarkably long incubation period.

4. 結論

7 mass%Alに固定したTi-xNb-7Al合金(xNbA)を作製し,焼入れ組織と時効硬化挙動およびU字曲げ材の形状変化に及ぼすNbの影響について調査した結果,以下のことが明らかとなった.

(1) WQ材の構成相は,20 NbAはα″単相,23 NbAはα″+β相,25 NbAより高NbAではβ単相を示し,2元系Ti-Nbのβ下限組成(35 mass%Nb)より低Nb量までβ相が安定化する.

(2) U字曲げ材の加熱において,20 NbAは形状変化を示さず,23 NbAと 25 NbAはSRとSA,28 NbA以上ではSAのみ示した.SAの開始温度はNb量に比例して増加した.

(3) 450°C等温時効硬化では低NbAでは潜伏期間を示さず硬化したが,高NbAでは一定の潜伏期間を示した.

(4) xNbAのMSは弓なりに張り出した曲線を呈することを提唱した.

(5) MS曲線の外側にある高NbAの焼戻しでは,原子拡散による組成分配が生じ,MS曲線の内側の組成となった局所領域でα″変態が起こる.この組成分配に必要な時間が潜伏期間に相当し,凍結空孔濃度が高いほど拡散が活性化されるため,結果的にα″変態が早く起こると考えられる.

謝辞

本研究を遂行するにあたって,新日鐵住金(株)の國枝知徳博士および東邦チタニウム(株)の藤井秀樹博士には,合金作製をはじめ有益なご助言をいただきました.また研究の一部は公益財団法人 軽金属奨学会の補助金によって賄われたことを付記して深謝いたします.

引用文献
 
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