Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
Online ISSN : 1880-6880
Print ISSN : 0021-4876
ISSN-L : 0021-4876
Regular Article
Dynamic Material Flow Analysis of Copper and Copper Alloy in Global Scale —Forecast of In-Use Stock and Inputs and the Estimation of Scrap Recovery Potential—
Akihiro YoshimuraYasunari Matsuno
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 82 Issue 1 Pages 8-17

Details
抄録

The recovery of copper (Cu) from secondary sources has received much attention because of its scarcity of natural resources. In this work, we estimated the input, in-use stock and discard of copper and copper alloy during 1950-2015 in global scale, and forecast them until 2050. In addition, we estimated the potential of scrap recovery for copper/copper alloys. It was estimated that the total amount of in-use stock of copper and copper alloy were 177,000 kt and 44,200 kt in 2015, respectively. The in-use stock, discard and input of copper in 2050 will reach 381,000-588,000 kt, 15,400-22,200 kt and 18,990-33,000 kt, respectively, whereas those for copper alloy will reach 77, 500-134,000 kt, 3,020-4,680 kt and 3,760-7,200 kt, respectively. The copper content in recoverable scraps of copper and copper alloy will reach 15,100-27,300 kt, and this accounts for 55.1-79.0% of copper content in annual input of copper and copper alloy in 2050. The range in forecast was caused by the difference in the saturation amount of in-use stock per capita and recovering rates of scraps.

1. 緒言

銅(Cu)は,その高い導電性や熱伝導性,展性・延性から,現代社会を支える重要な素材であり,単体として用いられる他,様々な元素の添加により合金として用いられる1.2016年における世界の銅の生産量は 19,400 kt,鉱石埋蔵量は 720,000 ktと推計されているため,ここから導かれる可採年数は37年と短い2.このことから,同じベースメタルである鉄やアルミニウムなどよりも資源の希少性は高く,社会中にストックされた資源からのリサイクルが重要とされる3

スクラップを効率的にリサイクルするには,社会への投入量,ストック量および使用済み製品に起因する排出量の把握が必要となる.このために有効な手法としてマテリアルフロー分析(Material Flow Analysis, MFA)が挙げられ,銅についても実施されている.単独の国を対象とした研究としては,Daigoら4による日本,Chenら5によるアメリカ,Bonninら6によるフランス,Tanimotoら7によるブラジルを対象とした研究が挙げられる他,近年における経済成長の著しい中国についてはXueyiら8やZhangら9による研究が行われている.対象を国単位から複数の国に広げた研究としては,Terakadoら10による中国・台湾・韓国,Kapurら11によるアジア,Spatariら12による北米,Vexlerら13による中南米,Bertramら14やCiacciら15によるヨーロッパを対象とした研究などが挙げられる.さらに対象を世界全体に広げた研究としては,Graedelら16,Glöserら17による研究が挙げられる.

上記の内,単年の分析を行った研究7,9,11,13,14,16では,対象年における消費量,ストックの増加量,および排出量を評価しているのに対し,複数年に渡る継続的な分析(ダイナミックMFA4)を行った研究4,5,6,8,10,12,15,17では,上記に加えてある時点での社会中のストック量合計も評価できる.以上を整理してTable 1 に示す.

Table 1 Previous works for MFA of copper.
Country, regionStatic analysisDynamic analysis
Country
specific
BrazilA. Tanimoto, et.al.7
ChinaL. Zhang, et. al.9G. Xueyi et. al.8
FranceM. Bonnin, et. al.6
JapanI. Daigo, et. al. *4
USAW. Chen, et. al.5
RegionAsiaA. Kapur, et. al.*11R. Terakado, et. al. 10
EuropeM. Bertram, et. al.14L. Ciacci, et. al.15
Latin AmericaD. Vexler, et. al.13
North AmericaS. Spatari, et. al.12
GlobalT. E. Graedel, et. al.16S. Glöser, et. al.17
*:  Considering the material flows for copper and copper alloys separately.

†:  Focused on China, Korea and Taiwan.

銅の採掘・製錬から製品への加工,使用済み製品からのリサイクルのフローをFig. 1 に示す.先述の通り,銅は単体で利用される他,様々な合金の原料となり,製品メーカーで各製品へと加工される.製品の加工時には新くずと呼ばれる加工スクラップが,使用済み製品からは古くずと呼ばれる老廃スクラップがそれぞれ発生する3.加工スクラップは組成が明らかなため,製品原料として積極的にリサイクルされている.老廃スクラップでも廃電線など純度が高いものは電線メーカーに戻されるなど,有効に利用されている.一方,老廃スクラップの内,銅の含有量が低く製品メーカーで利用できないスクラップについては,自溶炉で処理され粗銅原料とされる3など,スクラップの性質,品位によって利用法に差がある.そのため,将来のスクラップの有効活用には,銅と銅合金を区別したストック量,銅排出量の推計が必要となる.既存研究では,Daigoら4,Kapurら11の研究を除いて,銅と銅合金の区別をつけたダイナミックMFAは行われておらず,世界全体でのリサイクルポテンシャルの正確な推計は行われていない.

Fig. 1

Flows and recovering availability of copper and copper alloy sorted by scrap source.

また,資源の持続性を評価する場合,経済的な成長などを考慮した需要やスクラップ排出量,ストック量の将来的な推計も重要となる.鋼材については,Hatayamaら18が各国の一人当たりのGDPと人口の将来予測を用いる手法で2050年までの予測を行っている.銅については,Zhangら19が中国について2080年までの,Gerstら20が世界全体で2100年までの将来予測を行っているが,いずれの研究でも銅と銅合金の区別は行われておらず,リサイクルポテンシャルについて評価していない.

そこで本研究では,半製品,および最終製品に使用される銅と銅合金を区別して,電気銅の生産から製品の使用,廃棄までのフローを評価する動的MFAを世界全体で行うことにより,社会への銅および銅合金の投入量,ストック量,および排出量を将来に渡って推計し,銅および銅合金のリサイクルポテンシャルの推計を行う.1950年から2015年までは,用途別投入量からストック量および排出量を推計した.2016年から2050年まではHatayamaら18の手法を元に,各国の人口および1人あたりのGDPに基づくストック量の推計から,社会への投入量および排出量を推計した.さらに,スクラップのリサイクル率について検討を行うことで,鉱石より製錬される新地金の必要量の削減の可能性について検討した.

2. 手法

2.1 マテリアルフロー分析

2.1.1 分析対象

本論文では,Fig. 2 に示すシステム境界を設定し,精錬で生産される電気銅を出発点とする点線で示した領域内のフローについて推計した.図中の黒矢印は銅および銅合金の消費からスクラップ排出までのフローを,白矢印は半製品,最終製品の輸出入を示す.

Fig. 2

System boundary and flows of copper and copper alloy in this work.

起点である電気銅の消費量については,国ごとの統計を文献21,22から得た.本研究では消費量が大きく,また長期間の統計データが取られている19ヶ国を対象とした.本研究で対象とした国をTable 2 に示す.これらの19ヶ国で,2015年の電気銅消費量全体の85.5%をカバーしている.消費された電気銅は,一旦全量が半製品へと加工されてから最終用途へ投入されるとし,後述する間接輸出入量を考慮して各国,地域での半製品の消費量を推計した.

Table 2 Countries and regions investigated in this work.
RegionCountryAvailability of data about the input of refined copper
Japan1950-198421, 1985-201522
China1979-198421, 1985-201522
Korea1962-198421, 1985-201522
India1950-198421, 1985-201522
ASEANIndonesia1985-201522
Malaysia1985-201522
Thailand1985-201522
North AmericaUSA1950-198421, 1985-201522
Canada1950-198421, 1985-201522
EuropeBelgium1950-198421, 1985-201522
England1950-198421, 1985-201522
Finland1950-198421, 1985-201522
France1950-198421, 1985-201522
Germany1950-198421, 1985-201522
Italy1950-198421, 1985-201522
Poland1950-198421, 1985-201522
Spain1950-198421, 1985-201522
Sweden1950-198421, 1985-201522
AfricaEgypt1961-198421, 1985-201522
South Africa1950-198421, 1985-201522

最終用途については,通信/電力用ケーブル,土木,建築,電気機器,産業機器,自動車,その他の7分類とし,半製品の消費量に最終用途別の使用割合,および歩留まりを乗じることで,各最終用途への投入量を推計した.この使用割合は,日本23,24,25,26,中国27,28,その他の地域29について,それぞれ文献より把握した.使用した文献によりデータを得られなかった期間があった(日本: 1984年以前,中国: 1994年以前,および2011年以降,その他の地域: 2005年以前,および2011年以降).そのため,データを得られた最初の年,および最後の年のデータを前後に延長し,推計を行った.なお,伸銅協会より提供された資料29では,日本,中国,韓国,インドを除いて地域別での統計であることから,上記以外の国についてはTable 2 に示すASEAN,北米,ヨーロッパ,アフリカという地域単位に統合の上,推計した.

加工時の歩留まりについては,銅と銅合金の間に大きな差があることが文献27において言及されている.そこで本研究では,資料29を元に用途ごと,地域ごとの歩留まりを推計した後,文献27に示されている銅と銅合金の歩留まりを参考に,Table 3 に示すように銅と銅合金の歩留まりをそれぞれ設定し,加工時に発生するスクラップ(加工スクラップ)の発生量を推計した.半製品である電線と伸銅品の内,電線についてはいずれの用途でも歩留まりを100%としている.土木,建築については,他の用途に比べて電線が占める割合が大きいことから,歩留まりが高くなる.

Table 3 Yield ratio of copper and copper alloy in each end-use.
Country, regionCopper
Cable/WireCivil engineeringBuildingElectrical AppliancesMachineryVehicleOthers
Japan1.001.000.990.770.710.860.61
China1.001.000.980.830.710.850.61
Korea1.001.000.940.760.720.760.61
India1.001.000.990.880.740.910.61
ASEAN1.001.001.000.850.770.920.61
North America1.001.000.960.850.710.890.61
Europe1.001.000.920.850.690.890.61
Africa1.001.001.000.910.780.910.61
Country, regionCopper alloy
Cable/WireCivil engineeringBuildingElectrical AppliancesMachineryVehicleOthers
Japan-1.000.770.600.550.660.47
China-1.000.760.640.550.650.47
Korea-1.000.730.590.550.590.47
India-1.000.770.680.570.700.47
ASEAN-1.000.790.650.600.710.47
North America-1.000.740.650.550.680.47
Europe-1.000.710.650.530.680.47
Africa-1.000.790.700.600.700.47

間接輸出入量に伴うフローに関しては,以下のように推計した.まず,半製品については,Table 4 に示すものについてUN comtrade30の分類および輸出入量から推計を行った.これらの半製品の内,棒や線材など一部については,1988年以降,銅と銅合金に分類された統計が取られている.よって,1987年までは全ての半製品について銅の含有率を100%とし,1988年以降の銅合金製の半製品については,銅の含有率27を乗じて間接輸出入量を推計した.最終製品については,Table 4 に示す電気製品および自動車について,半製品と同様UN comtrade30の輸出入台数データを利用して推計した.電気製品については,文献27に示されている各製品の生産数,および各製品への銅および銅合金の投入量を元に1台あたりの含有量原単位を求め,輸出入台数に乗じて間接輸出入量を推計した.自動車については,各国の生産数31および伸銅協会より提供された最終用途ごとの投入量29を元に原単位を求め,輸出入台数を乗じて間接輸出入量を推計した.なお,提供データの期間が2005-2010年であったことから,2004年以前は2005年の,2011年以降は2010年の割合を援用した.

Table 4 Semi finished goods and end-use products investigated in this work.
Code*Semi finished goodsCode*Semi finished goodsCopper content,(%)
68221Bars, rods,
angles, shapes,
wire of copper
68231Bars, rods and profiles, of refined copper100
68232Bars, rods and profiles, of copper alloys6227
68241Wire, of refined copper100
68242Wire, of copper alloys6727
68222Plates, sheets and strip of copper68251Plates, sheets and strip, of a thickness exceeding 0.15 mm, of refined copper100
68252Plates, sheets and strip, of a thickness exceeding 0.15 mm, of copper alloy6727
68223Copper foil100
68224Copper powders and flakes100
68225Tubes, pipes and blanks, hollow bars of copper100
68226Tube and pipe fittings of copper100
69312Wire, cables, ropes etc. not insulated of copper100
7231Insulated wire and cable5027
Code*End-use products
7415Air conditioner-
7611§TV-
77521§Refrigerator-
7810§Vehicle-
*:  code in UN comtrade30

†:  1963-1987

‡:  1988-2015

§:  1976-2015

2.1.2 使用中製品によるストックおよび使用済み製品からの排出量推計

社会に投入された各最終製品については,投入から一定期間が経過した後,廃棄され,残存している製品が銅ストックとして社会中に蓄積するとし,銅および銅合金のダイナミックMFAを行った.推計に必要な各用途の平均寿命は,各文献12,18,29,32を参考に,伸銅品や電線の平均寿命を利用して設定した.この内,建築については北米などで実態よりも長く設定されていたことから,既存研究12,29を元に再設定している.本研究で用いた平均寿命をTable 5 に示す.

Table 5 Average lifetimes of each end-use.
Country, regionLifetime of products, T(year)
Cable/WireCivil engineeringBuildingElectrical AppliancesMachineryVehicleOthers
Japan203234.5182612,2912.11812.118131812.118
China203232.5183012,2910.01215.018171815.018
Korea203233.5182812,2916.81814.818151811.118
India203233.5182612,2916.81814.818151811.118
ASEAN203233.5182612,2916.81814.818151811.118
North America203275.0182812,2910.01220.01210 1215.018
Europe203260.0182912,2916.01815.018131825.018
Africa203233.5182612,2916.01815.018131825.018

2.2 2050年までの銅および銅合金のストック量,排出量および投入量の推計

将来の銅および銅合金の需要,またその需要に対するスクラップのリサイクルポテンシャルを推計するためには,ストック量,社会への排出量,およびこれらから推計される投入量に関する将来予測が必要となる.本研究では,自動車向けの投入量についてはDargeyら33によるゴンペルツ曲線を利用した手法を,その他の用途についてはHatayamaらによる推計手法18を用い,2050年までの銅および銅合金のストック量,排出量,投入量を推計した.Dargeyらの手法で必要になる人口密度34,35,都市化度35,およびHatayamaらの手法で必要となる各国の人口34,GDP36,37は,それぞれ文献より得た.

なお,自動車用途の飽和値はDargeyら33の手法により一意に定められるが,それ以外の5用途については独自に設定が必要となる.そこで,2.1.2により得られた各地域のストック推計結果から,飽和傾向が見られた地域については2015年の飽和値を,その他の地域では飽和値に達した地域の数値を参考とし,以下のシナリオを設定して推計した.

2.3 スクラップのリサイクル率変化によるリサイクルポテンシャル推計

銅は鉱石の採掘,製錬から製品の使用の各段階においてエネルギーが消費され環境負荷発生すると考えられるが,スクラップのリサイクルにより製錬など一部の工程を回避でき,環境負荷を軽減できる.本研究では,2.2において推計された銅および銅合金の排出量を基に回収率の設定によるリサイクルポテンシャルの変化,および鉱石より製錬される新地金の消費量をどれだけ削減できるかの推計を行った.

製錬工程に投入するスクラップ量については,2.2で得られた2050年までの銅および銅合金の排出量の推計結果を元に,全世界で同じリサイクル率である低回収率の場合38と,地域によってリサイクル率に差がある高回収率の場合を仮定して推計した.高回収率の場合では,人件費などが低い発展途上国において回収率を高く設定した.Table 6 に設定した回収率を示す.ここに示したリサイクル率を,シナリオI-IIIに適用することで2050年までのスクラップ回収量を推計した.

Table 6 Recovering rates of copper and copper alloys sorted by the end-use and regions, used for the forecast in this work.
Recovering rates of scrapsCountry, regionRecovering rates of scraps(%)
Cable/WireCivil engineeringBuildingElectrical AppliancesMachineryVehicle
LowAll1003890387038423883385038
HighJapan, Korea, North America, Europe1003890387038423883385038
China, India, ASEAN, Africa1009090909090

3. 結果および考察

3.1 世界における銅および銅合金のダイナミックマテリアルフロー分析

3.1.1 投入量,ストック量および銅排出量

1950年から2015年までの銅,銅合金のそれぞれについて,投入量を地域別,用途別に分類して推計した結果をFig. 3 に示す.なお本稿中では,銅合金の推計値は含有される銅の重量を示す.地域別に見た場合,1980年代初頭までは北米とヨーロッパが大きな割合を占めているが,その後,中国の投入量が増大し,2015年では銅の総投入量 12,600 kt中 7,190 kt,銅合金の総投入量 2,680 kt中 1,550 ktと,ともに世界全体の60%程度を占めるようになった.これは中国の経済成長やインフラの整備に起因するものと考えられる.用途別に見た場合,銅,銅合金ともに建築向けの投入量が大きい.

Fig. 3

Annual input of copper, 1950-2015: (a) by region and (b) by end-use, and copper alloy, 1950-2015: (c) by region and (d) by end-use.

1950年から2015年までの銅,銅合金のそれぞれについて,排出量を地域別,用途別に分類して推計した.この推計結果をFig. 4 に示す.比較的早い段階から投入量が多く,また現在まで一定量の投入が続いている日本,北米,ヨーロッパの3地域については,銅および銅合金のいずれも2000年頃から排出量の増加割合が穏やかになっており,飽和傾向が見られた.一方,中国の排出量が世界全体に占める割合は投入量の場合と比べ小さくなった.これは中国における投入量が近年になって急増しており,投入された製品が一定時間社会中に滞留することに起因する.ただし,世界全体での排出量の増大に中国が占める割合は近年極めて大きい.例えば,2014年から2015年にかけての世界全体の銅排出量を見ると,銅で 168 ktの増加,銅合金で 26.2 ktの増加と推計されたのに対し,中国1国でのそれぞれの増大量は 133 kt,24.4 ktと推計され,銅で79.5%,銅合金では93.3%となった.中国における銅および銅合金の投入量増大が著しいことから,今後も排出量全体に占める中国の割合は増大を続けると予想される.

Fig. 4

Discard of copper, 1950-2015: (a) by region and (b) by end-use, and copper alloy, 1950-2015: (c) by region and (d) by end-use.

用途別に見た場合,投入量において大きな割合を占めた建築用途,および安定した投入が続いている電線が占める割合が大きくなった.なお,投入量では建築用途が電線用途を上回っているが,電線用途の寿命が20年32なのに対し,建築用途では26年から30年と長い12,29ため,排出量中に占める割合は小さい.同様に,寿命が32.5年から75年18と極めて長い土木用途についても,排出量に占める割合は小さくなった.

1950年から2015年までの銅および銅合金のそれぞれについて,ストック量を地域別,用途別に分類して推計した結果をFig. 5 に示す.投入量と同様,中国が世界全体に占める割合が近年大きくなっている.一方,日本や韓国,北米,ヨーロッパでは微減傾向にあり,これらの地域では銅,銅合金が社会中に飽和していると考えられる.用途別に見た場合,先述の寿命の長さ,および投入量の多さから,土木用途,建築用途が占める割合が大きいことが示された.

Fig. 5

In-use stock of copper, 1950-2015: (a) by region and (b) by end-use, and copper alloy, 1950-2015: (c) by region and (d) by end-use.

このストック量を,Glöserらの既存研究17と比較した.当該研究では,2010年における世界全体での総ストック量を 350,000 kt程度と推計している.一方,本研究ではこれを大幅に下回る 191,000 ktと推計された.この差に関して,以下のように考察した.Glöserらの研究では,世界全体での採掘や製錬,製品製造への投入量に関する統計データを元に推計を行っているが,本研究では,2.1.1に示した19ヶ国を対象としている.この19ヶ国の電気銅消費量は,2015年では全体の85.5%をカバーしているが,1950年から1990年代にかけては特にヨーロッパでのカバー率が40-50%程度と低い.前述の考察の通り,総ストック量におけるヨーロッパの割合が大きいことから,本研究ではストック量が過小評価されたと考えられる.また,銅は建築や土木など寿命の長い製品への投入量が大きいことから,累積期間による影響が大きい.Glöserらの研究ではMFAの開始時期が1910年と早く,1960年の時点で既に 70,000 kt程度のストックが発生している.一方,本研究では 26,000 kt程度となっている.以上の理由から,Glöserらの既存研究に比べて過小評価となったと考えられる.歩留まりについては,Glöserらの研究では銅,銅合金の区別をせず,最終用途への歩留まりを75-95%と設定しているが,本研究は銅で61-100%,銅合金で47-100%と設定している.歩留まりが高い場合,投入量から推計される製品中の含有量,およびストック量が過大に評価される.そのため,Glöserらの既存研究は本研究に対して過大な評価となったと考えられる.以上の要因から,本研究の推計結果はGlöserらの研究に比べ小さくなったと考えられる.

またGraedelらの研究16では,1994年におけるストックへの流入量を 7,800 ktと推計している.本研究では,1994年のストックへの流入量は 3,160 ktと推計された.Graedelらの研究では,56ヶ国を対象としていることから本研究よりもカバー率が高いことに起因すると考えられる.

ヨーロッパに限定した場合,Ciacciらの研究15では,2014年における総ストック量が 91,000±11,000 ktと推計されている一方,本研究では 55,500 ktと推計された.Ciacciらは1960年を起点とした推計を行っており,推計期間の差による影響は小さいが,既存研究ではEUに加盟している28ヶ国を対象として推計し,本研究では8ヶ国のみを対象としているため,ストック量の推計値が小さくなったと考えられる.また,先に述べた通り本研究では,ヨーロッパの電気銅の消費量について,1950年代から1990年代にかけてカバー率が低いことも影響している.

中国に限定したZhangらによる単年度の研究9では,2010年におけるストックへの流入量を 6,010 ktと推計しており,1949年から2012年までのダイナミックMFA19では2012年における総ストック量を 68,000 kt19と推計している.一方,本研究では,2010年における流入量が 4,730 kt,2012年における総ストック量が 54,900 ktと推計された.ヨーロッパや世界全体での結果と比べ近い結果となった.ただし,本研究では電気銅の消費に関するデータが得られたのは1979年からであり,1949年を起点として推計を行っている既存研究に比べストックへの流入量や総ストック量を過小に評価する結果となっている.

3.1.2 1人あたりの銅ストック量の推計結果

上記推計を基に,銅,銅合金に関して人口1人あたりのストックを推計した.2015年における世界全体での1人あたりストック量は,銅で 43.6 kg,銅合金中の銅で 10.8 kgとなった.

今回の研究で分析対象とした国,地域の内,飽和傾向の見られた日本,韓国,北米,ヨーロッパについて,1人あたりストック量の推移をFig. 6 に示す.これらの国,地域はいわゆる先進国に該当し,銅のストック量は地域を問わず 100-120 kg程度,銅合金中の銅分は 20-40 kg程度に収束する結果となり,他の地域を大きく上回った.

Fig. 6

The change of per capita stock by 2015: (a) copper and (b) copper alloy.

上記以外の地域である中国,ASEAN,インド,アフリカでは飽和傾向が確認されなかった.そこでこれらの地域の将来推計には他国,他地域の飽和値を利用することとし,2.2に記した3つのシナリオに基づいて2050年までのストック推計,および排出量の推計を行った.Table 7 に,各シナリオで用いた1人あたりストック量の飽和値を示す.

Table 7 In-use stock per capita of copper and copper alloy in 2015 used for the forecast in scenario I - III.
ScenarioIn-use stock per capita of copper or copper alloy, wCu/kg・capita-1
Cable/WireCivil engineeringBuildingElectrical AppliancesMachinery
CopperI16.26.034.08.62.3
II25.98.752.511.34.2
III35.511.470.914.05.1
Copper alloyI-2.16.61.12.6
II-8.510.01.73.6
III-14.813.32.24.5

以上の設定に基づき予測された1人あたりストック量を,既存研究と比較した.世界全体での推計では,Glöserら17が2010年で1人あたり 50 kgと推計している.一方,本研究では2010年時点で 48.5 kgと推計され,1人当たりのストック量に関しては,同等の結果が出ている.ヨーロッパの結果で比較しても,Ciacciらの研究15では2014年における1人あたりのストック量を 180±20 kgと推計しており,本研究では 145 kgという比較的近い推計結果が得られた.3.1.1で述べた通り,世界全体,およびヨーロッパを対象とした既存研究のいずれと比較した場合でも,本研究で研究対象とした国のカバー率は低いため,総ストック量は既存研究に比べて過小な推計となった.一方,人口のカバー率も同様に低くなることから,1人あたりストック量の推計ではそれぞれの影響が相殺されることになり,近い結果が得られたと考えられる.

中国に限定した場合,Zhangらの既存研究19からは,2012年における1人あたりストック量が 50 kg程度となる.一方,本研究では 40.5 kgという結果が得られた.中国1国のみを対象とした場合,地域のカバー率は大きく変わらないことから,人口のカバー率も大きく変わらない.3.1.1で述べた通り,推計期間の差に起因して本研究では総ストック量の推計値が過小となったことから,1人あたりストック量も若干小さく推計した結果となっていることに留意する必要がある.以上の3.1の結果と既存研究結果をまとめたものをTable 8 に示す.

Table 8 Comparison of results of in-use stock of copper in this work and previous works.
Country,
region
YearIn-use stock of copper,
wCu/kt
In-use stock per capita of
copper, wCu/kg ・ capita-1
This work *Previous workThis work *Previous work
Global2010191,000350,0001748.55017
Global19943,1607,80016--
Europe201455,50091,000±11,00015145180 ± 2015
China201254,90068,0001940.55019
China20104,7306,0109--
*:  Total copper content in copper and copper alloy.

†:  Annual input for in-use stock.

‡:  Calculated as(total in-use stock/population).

3.2 2050年までのストック量,投入量および排出量の推計

シナリオごとの銅および銅合金の総ストック量の推計結果をFig. 7 に,シナリオIIに基づいて行った地域別および用途別の推計結果をFig. 8 にそれぞれ示す.2050年の総ストック量は,最小となるシナリオIでは銅が 381,000 kt,銅合金が 77,500 ktとなったのに対し,最大となるシナリオIIIではそれぞれ 588,000 kt,134,000 kt,中間値であるシナリオIIではそれぞれ 488,000 kt,107,000 ktと推計された.シナリオごとの差は,上記シナリオにおいて飽和値が不確定な中国,インド,ASEANに起因する.これらの国・地域はともに人口が極めて多く,また経済成長率も高いため,飽和値の感度が非常に大きいことが分かる.いずれのシナリオでも2030年付近で中国の総ストック量が飽和し,以降はインドとASEAN,特にインドの総ストック量増加による影響が大きいという推計結果となった.これは,中国の人口が2028年を境に減少に転じているのに対し,インドとASEANでは本推計の最終年である2050年まで人口が増加し続けることに起因する34

Fig. 7

Forecast of in-use stock of copper and copper alloy by 2050 in scenario I – III: (a) copper and (b) copper alloy.

Fig. 8

Forecast of in-use stock of copper in scenario II by 2050: (a) by region and (b) by end-use, and copper alloy: (c) by region and (d) by end-use.

用途別に見た場合,2015年までと同様,銅では建築用途,銅合金では土木用途と建築用途が多くを占める結果となった.

シナリオごとの銅および銅合金の総排出量の推計結果をFig. 9 に,またシナリオIIにおける地域別,および用途別の推計結果をFig. 10 にそれぞれ示す.ストック量と同様,シナリオによって銅排出量に大きな差が出る結果となった.地域別に見た場合,2045年から2050年にかけて,中国からの排出量に飽和傾向が見られた.一方,インドとASEANからの排出量は増加を続け,他の地域は初期の段階からほとんど変化がない結果となった.

Fig. 9

Forecast of discard of copper and copper alloy by 2050 in scenario I – III: (a) copper and (b) copper alloy.

Fig. 10

Forecast of discard of copper in scenario II by 2050: (a) by region and (b) by end-use, and copper alloy: (c) by region and (d) by end-use.

2050年までの銅および銅合金の投入量について,シナリオごとの総投入量の推計結果をFig. 11 に,またシナリオIIに基づいて行った地域別,および用途別の推計結果をFig. 12 にそれぞれ示す.地域別に見た場合,中国は銅,銅合金のいずれも2020年頃から投入量が減少傾向に転じると予測された.一方,代わってインドが主な消費国になり,2050年まで消費量が増大し続けると予測された.また,ASEANも増加を続けるが,こちらは2030年頃をピークに投入量は減少すると予想された.

Fig. 11

Forecast of annual input of copper and copper alloy by 2050 in scenario I – III: (a) copper and (b) copper alloy.

Fig. 12

Forecast of annual input of copper in scenario II by 2050: (a) by region and (b) by end-use, and copper alloy: (c) by region and (d) by end-use.

2050年におけるストック量を既存研究と比較すると,Gerstらの研究20では総ストック量で 950,000-1,350,000 kt程度という推計結果が示され,1人あたりのストック量で 90-147 kg程度と求められる.一方,本研究ではそれぞれ 460,000-720,000 kt程度,100-155 kg程度と推計された.また,Zhangらの中国に関する既存研究19では,2050年頃をピークに総ストック量が 163,000-171,000 kt程度に達すると推計しており,人口予測から1人あたりストック量は 120-126 kg程度になると求められる.本研究では,125,000-251,000 ktと推計され,1人あたりストック量は 92.8-186 kgと推計された.世界全体,中国における分析のいずれも,既存研究と比較すると総ストック量は相対的に小さな結果となり,1人あたりストック量は比較的近い結果が得られるという傾向が示された.3.1.2と同様の理由に起因すると考えられる.以上をまとめたものをTable 9 に示す.

Table 9 Comparison of forecast results of in-use stock of copper in this work and previous works.
Country, regionYearIn-use stock of copper, wCu/ktIn-use stock per capita of copper, wCu/kg ・ capita-1
This work *Previous workThis work *Previous work
Global2050460,000–720,000950,000–1,350,00020100 - 15590 - 147 20
China2050125,000–251,000163,000–171,0001992.8 - 186120 - 126 19
*:  Total copper content in copper and copper alloy.

†:  Calculated as(total in-use stock/population).

なお,3.1.2で述べた通り,中国,ASEAN,インド,アフリカのストック量は2015年では飽和値に達していないため,他地域のストック量の最大値,最小値,その平均値を援用する3つのシナリオを設定した.上記の飽和値に達していない地域は近年急激に経済発展が進んでおり,2050年の1人あたりGDPは2015年に対していずれも4倍程度と,先進国の2倍程度に比べて大きい34,36,37.本研究ではこの1人あたりGDPを用いて将来予測を行ったこと,また飽和値にある程度の幅があることから,将来予測の幅も大きくなったと考えられる.

3.3 スクラップのリサイクル率変化による銅リサイクルポテンシャル評価・推計

3.2で求めた銅排出量と2.3の設定に基づいて得られたリサイクルポテンシャル予測量,および銅,銅合金中に含有される銅の投入量推移について,シナリオごとの比較をFig. 13 に示す.

Fig. 13

Forecast of input and recovered amount of copper by 2050 in scenario I – III: (a) scenario I, (b) scenario II and (c) scenario III.

2050年の各シナリオにおける投入量は,シナリオI,II,IIIでそれぞれ 22,700 kt,31,700 kt,40,200 ktとなった.これに対してスクラップ由来の二次地金が占める割合は,シナリオIで66.4-79.0%,シナリオIIで59.8-72.8%,シナリオIIIで55.1-68.0%と推計され,いずれのシナリオでも,鉱石由来の新地金の必要量を 4,700-18,100 kt程度に削減できると推計された.緒言で述べた通り,銅は資源的に豊富とは言えず,また今後,発展途上国の経済発展に伴い消費量の増大が予想されるため,より積極的なリサイクルの推進が必要となる.

なお,Zhangらの既存研究19では,2050年における中国国内の銅の投入量,および排出量が推計されていることから,本研究で得られた結果と比較した.本研究における2050年における中国での推計値は,銅の投入量が 5,160-9,260 kt,排出量が 5,510-10,000 kt,銅合金の投入量が 940-2,000 kt,排出量が 1,010-2,180 ktとなり,合計で投入量が 6,100-11,300 kt,排出量が 6,510-12,200 ktとなった.一方,Zhangらの既存研究では,銅と銅合金の区別をせず,合計の投入量を7,600-8,200 kt,排出量を 7,500-8,100 ktと推計している.いずれの推計でも,2050年には投入量と排出量がほぼ同量になるという推計結果となった.

Zhangらの既存研究では,銅と銅合金を区別せず,また将来的な銅のリサイクル率を100%と仮定し,排出量を単純にリサイクルポテンシャルとして,社会への投入量と比較し,2060年頃には輸出も含めた総需要の80%程度を老廃スクラップで補えると結論づけている.しかし,1.で述べた通り3,リサイクルにはスクラップの品位に起因する利用法の差があり,また,リサイクル率が100%に達するとは考えづらい.そのため,排出量をそのままリサイクル可能量とする既存研究では,リサイクルポテンシャルを過大に推計していると考えられる.一方,本研究では,銅と銅合金を区別して排出量を推計した上で,用途も含めたリサイクル率を考慮していることから,より実態に即した形で将来予測を行ったと言える.

4. 結言

本研究では,消費量が多く,かつ可採年数が短いとされる銅について,銅単体,および銅合金を区別しての社会への投入量,社会からの銅排出量,および社会中におけるストック量を推計した.さらに,人口1人あたりのGDPなどを利用して将来推計を行い,2050年までについても同様の推計を行い,リサイクル率の変動による新地金の削減効果を推計した.その結果から,以下の結論が導かれた.

(1) 社会への投入量について,近年中国が急激に増大しているという推計結果が得られた.銅排出量,ストック量については,投入量の増加が近年始まったために中国の占める割合は相対的に低かったものの,増加分の大半は中国に起因するものであった.そのため,こちらも将来的に中国が大半を占めると予想された.用途別で見た場合,銅では寿命が長く投入量の大きい建築用途が全体の40%程度を占めると推計された.銅合金では,同様の理由から土木,建築用途がそれぞれ30%程度を占めると推計された.

世界全体での総ストック量に関する本研究の推計結果は,既存研究と比較すると過小となる傾向が見られた一方,1人あたりストック量には大きな差が見られなかった.また,地域別や国別の推計結果については,世界全体での結果に比べ差が小さくなった.本研究の推計結果が小さくなった要因としては,カバー率,推計の開始時期の差,製品製造時の歩留まり設定などが考えられる.

(2) 2050年までの推計では,飽和値の設定により差は出たものの,2030年頃までは中国が,それ以降はインドの伸びが世界全体のストック量に大きな影響を与える他,ASEANの伸びも寄与するという推計結果が得られた.将来推計の結果を既存研究と比較すると,世界全体,中国1国を対象とした場合のいずれも,総ストック量は過小な評価となり,1人あたりストック量は比較的近い値が得られた.(1)と同様の要因に起因すると考えられる.

(3) 将来の銅排出量と銅需要量予測,およびスクラップのリサイクル率を利用して新地金の削減効果を推計したところ,2050年における銅,および銅合金に含有される銅分の年間投入量 22,700-40,200 ktに対し,リサイクル可能なスクラップ中の銅分は 15,100-27,300 ktと推計された.シナリオや回収率にもよるが,新地金の必要量は 4,700-18,100 kt程度となり,55-79%の削減効果が期待できると推計された.

謝辞

本研究を遂行するに際し,一般社団法人日本伸銅協会よりデータの提供を受けた.また,分析,推計手法などで栗本尚侑氏(東京大学大学院在籍時)より大きな支援を受けた.

引用文献
 
© 2018 The Japan Institute of Metals and Materials
feedback
Top