Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Thermal Diffusivity Distribution Measurements of a High-Thermal-Conductive Heat Dissipating Sheet
Takeru HayashiTsuyoshi NishiHiromichi OhtaKimihito HatoriHidenori Noguchi
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2018 Volume 82 Issue 10 Pages 396-399

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抄録

High-thermal-conductive heat dissipating sheet is an important material for promoting heat release. In this study, the correlation between the distribution of local thermal diffusivity and volume fraction was discussed. The local thermal diffusivity of the high-thermal-conductive heat dissipating sheet was measured using the laser flash method and the spot periodic heating and infrared radiation thermometer method. The volume fraction of the high-thermal-conductive heat dissipating sheet was evaluated through microscopic observation. It was observed that the local thermal diffusivity of the approximately 0.5 mm-thick high-thermal-conductive heat dissipating sheet measured using the spot periodic heating and infrared radiation thermometer method was close to that measured using the laser flash method. The correlation between the distribution of the local thermal diffusivity and volume fraction was evident.

1. 緒言

スマートフォンに代表される情報ネットワーク機器の普及に伴い,高性能化および小型化のニーズが高まるにつれデスクトップPCのCPUなどデバイスからの発熱量増大が大きな課題となっている.CPUから発生した熱はヒートスプレッダおよびヒートシンクといった放熱機構を介して大気中に拡散される.効率的な熱伝導の実現には部材同士を密接に接触させる必要があるが,部材表面に存在する微細な凹凸により発熱部と放熱機構の界面には微細な空気層が形成され,放熱における熱抵抗となってしまう.これを除去するため,一般的なデバイス内では放熱用グリースやグラファイトシートなどの熱伝導材料(Thermal Interface Material,以下TIM)を部材間に挟み込み使用している.

TIMの一種である高熱伝導放熱シートは,Fig. 1 に示すように母材となるエポキシ樹脂中にフィラーとして高熱伝導性を有する炭素繊維を厚さ方向に配向させた構造をもち,特に高温発熱部の熱対策に用いられる.しかし,フィラーである炭素繊維が伝熱経路となるため,その分布の偏りが放熱性能すなわち熱拡散率に影響を及ぼす可能性がある.そこで,本研究ではレーザフラッシュ(以下LF)法およびスポット周期加熱放射測温法を用いた厚さ方向の熱拡散率測定および顕微鏡観察による体積分率の算出を行い,局所的な熱拡散率とフィラーの体積分率間に相関が存在するか検証を行った.

Fig. 1

Schematic diagram of the structure of the high thermal conductive heat dissipating sheet.

2. 実験方法

2.1 測定試料

試料として積水Polymatech社製の高熱伝導放熱シート(PT-V)を用いた.試料厚さによる測定値への影響を考慮し,0.492 mmと 1.051 mmの2種類の厚さの試料を用意した.Fig. 2 に示すように約 50 mm四方の試料中心 20 mm四方の領域を均等に16分割し,1~16の番号を割り振りそれぞれの位置で測定を行うこととした.スポット周期加熱放射測温法による測定を行った後,1~16の測定位置ごとに 5 mm四方に切断し,LF法による測定を行った.本実験で用いた測定装置は表面加熱裏面測温方式であるため,レーザの吸収率向上および透過防止のためカーボンスプレーを用いて試料表面と裏面の両方に黒化処理を行った.

Fig. 2

Schematic diagram of marking of the sample surface. (To identify the orientation, it was marked in the upper left and lower right corner of the sample surface.)

2.2 レーザフラッシュ法

レーザフラッシュ法1は,バルク固体材料の標準的な熱拡散率測定法として普及している.断熱真空条件下に置かれた試料表面にルビーレーザを均一にパルス照射し,赤外検出器にて試料裏面温度の時間変化を検出することでEq. (1)で表される温度応答曲線Tt)を得る.   

T( t ) =ΔT[ 1+2 n=1 ( -1 ) n exp( - ( nπ ) 2 t τ 0 ) ] (1)
ここで,∆TQ/cρdであり,Qは加熱レーザのエネルギー密度,cは試料の比熱容量,ρは試料の密度,lは試料厚さ,tは経過時間である.τ0は熱拡散の特性時間であり,Eq. (2)で表される.特性時間τ0の値は数値計算ソフトMathematica(ver11.1)を用いて実測された温度応答曲線と理論曲線とのフィッティングを行い導出した.試料裏面温度が特性時間τ0の0.1388倍経過時に最高温度上昇値の1/2に達することを利用したハーフタイム法2により,Eq. (2)から試料厚さ方向の熱拡散率αを算出した.   
α= l 2 τ 0 (2)

2.3 スポット周期加熱放射測温法

実験装置として,Thermowave Analizer(以下TA)を用いた.TAは試料表面の微小領域をレーザで周期的に加熱するスポット周期加熱放射測温法3,4,5,6,7,8を用いた熱物性測定装置である.レーザの直径は 200 μmであり,試料裏面での温度変化が周期加熱位相に対する放射温度計の出力信号の位相差として計測される.微小サイズの試料であっても測定が可能なため,最小でも 3 mm角の試料が必要なLF法と比較して測定できる試料の幅が広いことが特徴である.また数百μmの空間分解能を持つため,熱的に不均質な試料の測定が可能である.

スポット周期加熱放射測温法による熱拡散率測定の基本原理は,周期加熱源P0eiωtが熱拡散率αの等方的な無限連続媒体中で引き起こす温度波の伝播式Eq. (3)による.   

T ac = P 0 4παrc e -kr+i( ωt-kr ) (3)
ここで,rは点熱源からの距離,ωは角周波数,tは時間,cは体積あたりの比熱容量を示す.kは温度周期の波数でありEq. (4)で表される.   
k= ω 2α = πf α = 1 μ    (4)
fは加熱レーザの周波数,μは熱拡散長である.点熱源から距離rだけ離れた位置におけるTacの加熱源に対する位相差θEq. (5)で表される.   
θ=- πf α r (5)

測定箇所は各測定位置の中心部分とし,Eq. (5)をもとにTAを用いて試料厚さ方向と面内方向の熱拡散率を測定した.試料厚さ方向の熱拡散率測定には,位相差θの周波数f依存性を利用する周波数変化法を用いた.周波数変化法は,加熱レーザと放射測温位置を同軸に固定し加熱周波数を任意の幅で変化させながら測定を行う手法である.試料面内方向の熱拡散率測定には,位相差θの距離r依存性を利用する距離変化法を用いた.距離変化法は,加熱周波数を任意の値で固定し放射測温位置を移動させながら測定を行う手法である.

本実験で用いたシートは厚さ方向に熱を伝えるものであるため厚さ方向の値が重要であるが,測定データについての考察を行うため,面内方向の測定も実施した.

2.4 試料観察

TAで測定した熱拡散率と対応させた体積分率を得るため,各測定位置の中心部 200 μm径の範囲内の試料観察を行った.

まず,デジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製,VHX-1000)を用いてフィラー本数計測に用いる試料表面の観察画像を取得した.Fig. 3 に試料表面中央部の観察画像の一例を示す.デジタルマイクロスコープは光学顕微鏡の一種であり,フォーカスを徐々にずらしながら複数枚の写真を撮影しそれらを合成する深度合成機能を有する.この機能を用いることで,本実験で用いたような透明な母材と不透明なフィラーの複合材料であっても試料全体にピントが合った高画質な観察画像が取得可能である.上記の深度合成機能を用いて取得した試料観察画像から,各測定位置でのフィラー本数ann=1~16)を計測した.

Fig. 3

Observation image of the sample surface. (Sample thickness: 0.492mm,Measurement position: 12).

次に,倒立型金属顕微鏡(WRAYMER社製,BMJ-3400TL)を用いてフィラー直径の観察を行った.この顕微鏡も光学顕微鏡の一種であり,一般的に金属や半導体など厚みのある不透明な試料の観察に用いられる.フィラーの向きを面内方向に揃え径の観察をしやすくするため,試料を2枚のスライドガラスで挟み込み均等に圧力をかけて圧延を施した.この状態で 0.492 mmと 1.051 mmそれぞれの試料厚さごとにフィラー100本の直径を計測し,それぞれの厚さでフィラー半径の平均値kを算出した.

上記2種類の顕微鏡観察結果より得られたankの値および試料厚さdと観察領域の半径lの値をEq. (6)に代入し,各測定位置および試料厚さごとにフィラーの体積分率Vを算出した.   

V= a n k 2 πd l 2 πd 100 (6)

3. 実験結果および考察

試料厚さ 0.492 mmの試料の測定結果をFig. 4 に示す.横軸はFig. 2 で示した1~16の測定位置,左縦軸はLF法とTAを用いたスポット周期加熱放射測温法で測定した試料厚さ方向の熱拡散率,右縦軸は顕微鏡観察から算出したフィラーの体積分率を表している.熱拡散率の値はLF法とスポット周期加熱放射測温法でほぼ一致した.一方,Fig. 5 に示した試料厚さ 1.051 mmの測定結果を見ると,スポット周期加熱放射測温法の測定値がLF法の測定値と比べて大きく低下している.この測定値の低下は,試料厚さ 1.051 mmの試料の測定時に面内方向への熱損失が生じていることが原因と考えられる.

Fig. 4

The results of the thermal diffusivity and the volume fraction of TIM sheet(Sample thickness: 0.492 mm)at the measurement positions(1~16).

Fig. 5

The results of the thermal diffusivity and the volume fraction of TIM sheet(Sample thickness: 1.051 mm)at the measurement positions(1~16).

LF法では試料表面全面に均一にレーザが照射されるが,TAでは試料表面中心部 200 μmの微小領域にのみレーザが照射される.このため,TAにおいて試料面内方向に熱が一部逃げてしまい熱損失が生じてしまう.熱損失の影響の検証のためTAを用いた距離変化法により試料面内方向の熱拡散率を測定したところ,試料厚さ 0.492 mmで 0.996 m2s-1,試料厚さ 1.051 mmで 0.710 m2s-1と,厚さ方向と比較して30%程度の小さい値であった.距離変化法により求めた面内方向の熱拡散率が小さいことから,試料厚さ 0.492 mmの場合は面内方向への伝熱による熱損失の影響が現れる前に測定が完了したが,試料厚さ 1.051 mmの場合は試料厚さが厚いため,面内方向への伝熱による熱損失の影響が表れたことが測定値の低下をもたらしたと推測される.

フィラーの体積分率と熱拡散率の相関を検証するため,Fig. 4Fig. 5 の測定値を,横軸を熱拡散率,縦軸をフィラーの体積分率として装置ごとにプロットしたグラフをFig. 6Fig. 7 に示す.なお,試料厚さが後述の相関性に与える影響はほとんど見られなかったため,試料厚さによる区別はしていない.Fig. 6 より,LFで測定した熱拡散率とフィラーの体積分率間には相関性が見られなかった.この両者の間に相関性が見られなかったことは,LFの熱拡散率測定領域と顕微鏡観察の測定領域が合致していないことが原因であると考えられる.一方,Fig. 7 より,TAで測定した熱拡散率とフィラーの体積分率間には多少のばらつきはあるものの明確な相関性が見られ,局所的な熱拡散率はフィラーの分布に対応することが確認された.この両者の間に相関性が見られたことは,TAの熱拡散率測定領域と顕微鏡観察の測定領域が合致していることが理由であると考えられる.なお,熱損失がTA-体積分率の相関に与える影響についても懸念されるが,Fig.4より,試料厚さ 1.051 mmの場合は熱損失の影響で熱拡散率の値が全体的に小さくなる傾向が見られることから,熱損失がTA-体積分率の相関に与える影響はほとんどないといえる.

Fig. 6

The relationship of the thermal diffusivity of TIM sheet measured by LF and the volume fraction of filler.

Fig. 7

The relationship of the thermal diffusivity of TIM sheet measured by TA and the volume fraction of filler.

4. 結言

放熱対策に用いられる高熱伝導法熱シートのフィラーの体積分率と熱拡散率の相関について検証するため,LF法とスポット周期加熱放射測温法を用いた厚さ方向の熱拡散率測定および顕微鏡観察を用いた体積分率の算出を行った.スポット周期加熱放射測温法において,試料厚さが 1.051 mmの場合には面内方向への熱損失の影響で熱拡散率が低く測定されたが,試料厚さが 0.492 mmの場合にはLF法の測定値とほぼ一致した.また,LFで測定した熱拡散率と体積分率間には相関性が見られなかったが,スポット周期加熱放射測温法で測定した熱拡散率と体積分率間には多少のばらつきはあるものの相関性が確認された.

謝辞

本研究の遂行において,測定試料および測定データをご提供くださいました(株)ベテル ハドソン研究所 長嶺 瞳様,また,先行研究をもとに様々なご助言を賜りました(株)ホンダテクノフォート 笹川 大揮様に深く感謝の意を表します.

引用文献
  • 1)   W. J.  Parker,  R. J.  Jenkins,  C. P.  Butler and  G. L.  Abbott: J. Appl. Phys. 32(1961) 1679-1684.
  • 2)  The Japan Society of Mechanical Engineers: Progress in Heat Transfer, New Series, Vol. 3, (Yokendo, Tokyo, 2000) pp. 165-167.
  • 3)   I.  Hatta: Netsu Bussei, 15, 21st Jpn. Symp. Thermophys. Prop.(2001) 92-94.
  • 4)   H.  Kato: Netsu Bussei, 15, 21st Jpn. Symp. Thermophys. Prop. (2001) 95-103.
  • 5)   F.  Takahashi: Netsu Bussei, 15, 21st Jpn. Symp. Thermophys. Prop. (2001) 104-107.
  • 6)   T.  Yamane: Netsu Bussei, 15, 21st Jpn. Symp. Thermophys. Prop. (2001) 108-112.
  • 7)   T.  Hashimoto and  J.  Morikawa: Netsu Bussei, 15, 21st Jpn. Symp. Thermophys. Prop. (2001) 113-117.
  • 8)   Y.  Nagasaka: Netsu Bussei, 15, 21st Jpn. Symp. Thermophys. Prop. (2001) 118-123.
 
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