2018 Volume 82 Issue 10 Pages 403-407
We have developed a thermally conductive flexible elastomer as a composite materials with slide-ring (SR) materials and boron nitride (BN) particles surface-modified via plasma in solution. This seems to be a promising materials as a flexible insulator for thermal management. Fourier transform infrared spectrum, Raman spectrum, and X-ray diffraction patterns of BN particles indicate that plasma-surface modification introduces OH functional groups on surface of BN particles. Furthermore, X-ray computed tomography of the composite indicates the plasma-surface modification dramatically improves BN dispersibility in SR.
近年,フレキシブル機器の開発にともない,柔軟性と機能性を両立させた材料が強く求められている.特に,熱伝導性と柔軟性を両立させた材料においては熱層間材料やフレキシブル電気回路用の放熱シートとしての利用が期待されている1,2,3,4,5,6).熱伝導性柔軟材料を実現するために,熱伝導性の無機材料と柔軟かつ高い強度を持つゴム材料を複合させる研究が盛んに行われている.熱伝導性無機材料としては,炭素系材料,酸化アルミニウム(Al2O3),二酸化ケイ素(SiO2),酸化亜鉛(ZnO),窒化ホウ素(BN)等の熱伝導性無機材料が用いられる.高熱伝導率(>1 W/mK)を実現するためには熱伝導性の無機物を数十mass%添加することが一般的に必要であるが6,7),多量の無機材料を添加すると,これらの複合材料は強度の低下等の脆化をおこす6,7).
我々は,高い熱伝導率を有しながら,柔軟かつ高強度を持つゴム複合材料を実現するために,ゴムとして可動架橋点を有する環動高分子(SR)を用いる.さらに水中プラズマプロセスによる無機粒子と環動高分子との界面構造制御を通じ,無機粒子の持つ高熱伝導性と,環動高分子が示すしなやかさ(低ヤング率)とタフネス(高靭性)を兼ね備えた,熱伝導性柔軟材料「タフコンポジット」の創成に着手した.SRとは,可動な架橋点を有するポリマー材料である.Fig. 1(a)にSRの代表例であるポリロタキサン(PR)と,Fig. 1(b)にPRを環状分子同士で架橋した構造の模式図を示す.Fig. 1(b)に示すように,応力印加時に架橋点が移動することにより柔軟性や高靱性などのユニークな機械特性を示す(スライディング効果)8).
Schematic diagram of (a) polyrotaxane (PR) and (b) cross-linked PR.
現在まで,SRとしてポリカプロラクトン修飾PRを,無機材料として水中プラズマ表面改質を行った窒化ホウ素(BN)を用い,プラズマ表面改質BN/SR複合ゴムを作製した.高濃度のBN(~70 mass%(~56 vol%))を含有させても良好な機械的特性を有し,かつFig. 2 に示すように柔軟かつ高熱伝導性を示す新たな領域に至る材料の合成を実現してきた9).しかしながら,水中プラズマを用いることによって特異な性質が発現する要因は未だ明らかになっていない.そこで本研究においては,水中プラズマ表面改質を行ったBN粒子の官能基評価,結晶構造評価,そしてBN/SR複合材料の試料組織解析によるBN分散性評価を通じて,BN粒子の水中プラズマ表面改質がSRとの複合化に与える効果を明らかにすることを目的とした.
Thermal conductivity of plasma-surface-modified BN/SR composite against Young’s modulus plotted on an Ashby plot9).
次の2.1 BN/SR複合材料作製方法および2.2 水中プラズマ表面改質方法は先行報告9)にて詳細を述べているためここでは概要のみ述べる.
2.1 BN/SR複合材料作製方法BN/SR複合材料は,ポリカプロラクトン修飾ポリロタキサン(PCL-g-PR, SH2400P,Advanced Soft Materials)および六方晶構造を有するBN粒子(平均粒径 0.2 μm, Sigma-Aldrich,Ltd.)を用いて作製した.PCL-g-PRは,水酸基化ポリ-ε-カプロラクトン修飾されたα-シクロデキストリンおよびポリエチレングリコール骨格鎖からなるPRである8).このPCL-g-PRと未改質のBN粒子もしくはプラズマ表面改質BNを自転公転ミキサーを用いて混練させて,BN/SR複合材料を作製した.
2.2 水中プラズマ表面改質方法BN粒子の水中プラズマによる表面改質の模式図およびBN分散水溶液中での水中プラズマの写真をFig. 3 に示す.100 mLガラスビーカー内でNaCl(0.1 g/L,250 μS/cm)水溶液 70 mL中でBN粒子 2.0 gをマグネチックスターラーにより攪拌させつつ水中プラズマを発生させ,表面改質を行った.プラズマ表面改質されたBN粒子はメンブレンフィルター(孔径 0.45 μm)により濾別したのち,エタノールで数回洗浄し,オープンにて80°Cで8時間乾燥し,各種評価を行った.また,表面改質処理から24時間以内に複合材料を作製するために使用した.
Schematic diagram of the experimental apparatus for plasma-surface modification of BN and a photograph of plasma in the BN dispersed solution.
BN/SR複合ゴムの機械特性は,一軸引張試験機(Shimazu Inc. EZ-S)を用いて室温で0.03/sの一定の歪速度で測定した.ヤング率および応力-伸張率曲線は長方形の試験片(幅 3 mm,長さ 40 mm)を用いて算出した.引張り試験時の試験機グリップ部での破断を防止するため,ダンベル型試験片(幅 2 mm,長さ 35 mm,JIS K6251-7)を用いて引張強度および破断伸張比を評価した.また,靭性はダンベル型試験片を用いた応力伸張比曲線の面積から算出した.
試料の熱伝導率(k, W m-1 K-1)は,熱拡散率(α, m2s-1),比熱(C, J kg-1 K-1)および密度(d, kg m-3)を用いてk=α C dの関係より算出した.レーザーフラッシュ法(Advance Riko,Inc. TC-7000H)により熱拡散率を測定し,示差走査熱量測定(DSC; Hitachi Inc. DSC7000X)により比熱を測定し,密度はガス比重計(Micromeritics Instrument Corp. AccuPyc II 1340)により測定した.
複合材料中でのBNの分散性を評価するために,micro X-ray computer tomography(X-CT, Bruker Inc. Sky scan)によってBN/SR試料内部透過像を取得した.
プラズマ表面改質BNおよび未改質BNを評価するために,それぞれのBN粒子を赤外吸収スペクトラム(全反射測定FT-IR法,Jasco Inc. FT/IR-6800),ラマン散乱スペクトラム(Jasco Inc. NRS-3100),粉末X線回折法(RIGAKU Co. Ltd., Ultima 5)を用いて評価した.
水中プラズマによって表面改質を行ったBN粒子(プラズマ表面改質BN),未改質BNのFT-IRスペクトラムをFig. 4 に,ラマン散乱スペクトラムをFig. 5 に示す.Fig. 4 より,プラズマ表面改質を行ったBNは未改質のものと比べそれぞれB-OH変角・伸縮振動に帰属される 910, 1047 cm-1付近の吸収10)が強くなっていることが確認できる.また,B-N伸縮振動(面内方向)に帰属される 1346 cm-1のピークがプラズマ改質により 1280 cm-1にシフトしているように見える.しかしながら,Fig. 5 に示すラマン散乱スペクトラムにおいては,1346 cm-1のB-N振動はプラズマ表面改質前後で変化はない.したがって,FT-IRで確認された 1280 cm-1の吸収ピークはB-N振動由来ではないと考える.B-OH変角振動由来のブロードな吸収ピークが 1230, 1280 cm-1付近に現れることが報告されている10,11,12)ことから,これらのB-OH振動が本吸収ピークの由来と考えている.
FT-IR spectra of the plasma-surface modified BN and unmodified BN.
Raman spectra of the plasma-surface modified BN and unmodified BN.
プラズマ表面改質BN,未改質BNのXRD回折パターンをFig. 6 に示す.プラズマ表面改質前後においてほぼ変化はなく六方晶型BNに帰属される回折パターンが確認され,アモルファス化等を示唆する回折パターンは確認されなかった.この結果はプラズマ表面改質前後でラマン散乱スペクトラムの変化がなかったこととも一致する.
XRD patterns of the plasma-surface modified BN and unmodified BN.
以上の結果から,短時間(1 h)の水中プラズマ表面改質によって,結晶性の乱れ等は確認されずにBN表面にOH基が導入されることが示された.水中プラズマから発生するOHラジカルがBN表面に衝突することで,BN表面にOH基が導入されるものと考えている.
Fig. 7 にプラズマ表面改質を行ったBN,未改質BNを 50 mass%含有させたBN/SR複合材料のX-CT断層画像および断層画像から構築した3次元X-CT画像を示す.
X-CT images of the BN/SR composite materials. Cross-sectional images of the 50 mass% (a) unmodified-BN/SR material and (b) plasma-surface-modified BN/SR material. 3D image of the 50 mass% (c) unmodified-BN/SR material (d) plasma-surface-modified BN/SR material. Color bars indicate intensity of X-ray scattering.
未改質BNを用いた複合材料では,密度の不均一性や約 10 μm程度の高密度領域が確認できる.これら密度の不均一性や高密度領域はBN/SR間の相溶性の不良によるSR中でのBNの凝集が原因だと考える.対して,プラズマ表面改質を行ったBNを用いたBN/SR複合材料においては,全体でほぼ均一な密度であった.これは,SR中でX-CTの最小分解能である約 1 μm2以下にプラズマ表面改質BNが良好に分散した結果と考える.プラズマ表面改質によるBNの分散性の劇的な向上の要因として,FT-IR測定によって確認されたBN表面のOH等の官能基によるSRとの相溶性の向上が考えられ得る.この効果は,水中プラズマ表面改質によるカーボンナノチューブ表面へのOH官能基の導入による水中分散性の向上やカーボンナノボールのナイロン中での分散性向上の結果とよく一致する13,14,15).加えて,水中プラズマによるBN粒子表面への電子付与による,粒子間の静電反発もSR中でのBN分散性の向上に寄与している可能性もある.
作製したBN/SR複合材料のヤング率・引張強度・靭性・破断伸び・熱伝導率をTable 1 にまとめる.BN/SR複合材料は従来のシリコンゴムとBNを用いた複合材料と比べ7),BNを 70 mass%まで含有させても強度の低下を起こさないという特異な性質を示した.さらに,水中プラズマ表面改質BNを用いることで未改質BNを用いた場合と比べ強度,靭性,破断伸びが向上した.特に,靭性に関してはプラズマ表面改質により1.8-4.9倍向上するという劇的な向上を確認した.複合材料の強度や靭性は,粒子のポリマー中での分散性やポリマーと粒子間の接着性が良いほど一般的には高くなる.したがって,本プラズマ表面改質によるBNのSR中での分散性の向上や,OH基の導入によるPCL-g-PRとの相溶性の向上が強度や靭性の向上につながったと考えることができる.また,本結果の特筆すべき点として,これらの機械特性の向上がヤング率の変化を伴わなかったという点である.複合材料において粒子の表面改質などにより引張強度や靭性が向上した場合,ヤング率が著しく上昇する(硬くなる)傾向を示す16,17,18,19).本プラズマ表面改質BN,ポリロタキサンを用いたコンポジットにおいては,低ヤング率を保ったまま靭性を向上させることができた.このような特異的な性質を示した要因として,SRが持つ可動架橋点であるシクロデキストリンとBNがOH官能基を介して架橋することにより,応力印加時に架橋点が移動するスライディング効果が現れた結果ではないかと考えている.さらに,70 mass%ではプラズマ表面改質BN/SRが高い熱伝導率を示した.熱伝導はBN内の熱伝導とBN間の熱伝導パスが支配的であるため,ポリマー内でのBN組織の構造が熱伝導率を大きく支配する.70 mass%においては高濃度のプラズマ改質BNがSR中全体に均一に分散することで多数の熱伝導パスが生じ,未改質BNと比べ高い熱伝導率を示したと考える.
Mechanical properties and thermal conductivities of BN/SR materials9).
本研究では,水中プラズマ表面改質BNとSRを用いた複合材料を作製した.その結果,以下のような水中プラズマ表面改質による効果を確認した.
(1) BN表面へのOH基付与ならびにSR中での分散性の向上
(2) ヤング率変化を伴わない強度・靭性・破断伸びの増加
(3) 高BN濃度での熱伝導率の増加
以上の結果から,BNへのプラズマ表面改質によって,BN表面へのOH基導入によるSRとの相溶性向上やBN分散性の向上によって強度・靭性・破断伸び・熱伝導率が向上したと考える.さらに,上記(2)の特異な性質は,BNがOH官能基を介してSRと架橋したことによって発現した可能性が示唆された.本手法は,柔軟・熱伝導性材料のみならず,誘電性無機材料や電気伝導性無機材料を用いた誘電・導電エラストマー材料を作製する手法としても応用が期待できる.
SR/BN内部組織透過像はBruker株式会社にて測定させていただきました.感謝いたします.
本研究はJSPS基盤研究B JP16H04506の助成を受けたものです.