Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
Online ISSN : 1880-6880
Print ISSN : 0021-4876
ISSN-L : 0021-4876
Regular Article
Representation of Nye’s Lattice Curvature Tensor by Log Angles
Ryosuke Matsutani Susumu Onaka
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 82 Issue 11 Pages 415-418

Details
抄録

The log angles of a rotation matrix are three independent elements of the logarithm of the rotation matrix. Nye’s lattice curvature tensor κij is discussed by using the log angles. For the change in a crystal orientation ΔR with the change in a position Δxi, it is shown that the elements of κij are written as κijωixj using the log angles Δωi of ΔR. The log angles for the crystal rotation given by the axis/angle pair are also discussed.

1. 緒論

材料の強度に関する本質的な理解を得るためには,結晶内での塑性変形の進展や不均一性,つまり転位の運動や分布を調べることが必要である.結晶中に転位組織が形成されるとその状態に応じて方位が場所により変化するため,方位の場所による変化から塑性変形後の転位組織の状態を明らかにする試みが行われてきている.このような試みの出発点の一つはNyeの理論的な研究1であり,結晶中での方位の場所による変化を格子湾曲テンソル(Lattice Curvature Tensor)κとして評価すれば,結晶中の転位密度を定量的に議論できることが記されている.この格子湾曲テンソルκとは,x1x2x3 直交座標を使って,結晶内での位置の変化δxjにともなうxi軸周りの方位変化の角度δφiκijδφi/δxjとまとめたものである.

上記のように,結晶粒内での方位変化から転位組織を議論するための理論的な枠組みは半世紀以上も前に提示されているが,方位変化を広い領域について高い精度で短時間に測定することができるようになったのは,比較的近年のSEM/EBSD法の急速な進展の後である.しかし,過去の研究には,SEM/EBSD法で得られるデータからκijδφi/δxjを求める方法は必ずしも明確には記されていない.Pantleon2やHeら3は,結晶方位変化が単位ベクトルni周りの回転角ΔΦで示される場合,niとΔΦの積ΔΦniもベクトルであり,その成分ΔΦniが回転角のxi軸周りの成分であるとしている.しかし,Euler角のような異なる軸周りの連続回転では,回転の順番が異なると,それぞれの軸周りの回転角が同じ値でも連続回転の結果は一般に異なってくる4.これにより,ΔΦniを成分分解可能なベクトルとみなすことは自明ではないものの,Pantleon2やHeら3の論文にはΔΦniを回転角の成分とできる理由は書かれていない.よって,ΔΦnixi軸周りの回転成分とみなすことができるならば,その理由を明確にすることには意味がある.

結晶の方位はある基準座標に対しての回転行列Rで記述することができる.Rは行列式の値が1である三次直交行列であるが,Rの対数ln Rもまた三次行列,特に三つの独立な実数成分を持つ歪対称行列(Skew symmetric matrix)になる4,5,6,7.これまでにRの対数ln Rは過去のいくつかの研究で議論されている4,6,7,8,9,10.林ら4とOnakaとHayashi9,10は,ln Rの三つの実数成分が回転Rの特性角度とみなせるとして,それらを対数角ωiと呼んだ.そして,対数角ωiの幾何学的な意味と結晶方位解析への応用について考察している4,9,10

本研究では,結晶内での位置の変化Δxiにともなう方位回転ΔRの対数角をΔωiとすれば,変化Δωixjκij=Δωixjとなることを示す.本研究の目的は,SEM/EBSD法で得られるような結晶粒内での方位変化の測定結果から格子湾曲テンソルκを求めるための操作について,その方法と意味を明確にすることである.塑性変形を加えた金属材料を観察対象にしての格子湾曲テンソルκの値の具体的な評価,そしてその結果を用いての転位密度や転位組織の変化について考察は,本研究の結果を用いて別途に行う.

2. 対数角

2.1 対数関数について

対数角の概要を記すに先立ち,対数の意味についてまとめる.よく知られているように,実数xについて,xとその指数関数exp xのあいだの関係は   

expx=1+ x 2 2! + x 3 3! + x 4 4! +...= lim p ( 1+ x p ) p (1)
と書かれる11.この関係は,y=exp xy>0)とすると対数関数を使って,   
y= lim p ( 1+ lny p ) p (2)
となるが,Nを十分大きな正の整数とすれば,この式より   
y ( 1+ lny N ) N (3)
を得る.この式(3)を使うと,変形を記述するための種々の変数についてより良い理解を得ることができる.

Fig. 1 は,棒状物体の長手方向に沿った変形を考えるための模式図であり,変形前の初期長さがL0の状態が上に,均一な変形によってL0LL0+ΔLへと変化した後の状態が下に示されている.この状況について,公称ひずみeの定義はe=ΔL/L0である.また,変形前後での物体の長さの比に注目するストレッチλの定義は   

λ=L/ L 0 =( L 0 +ΔL)/ L 0 (4)
であるので,λ > 0なるλは公称ひずみeλ=1+eなる関係を持つ.
Fig. 1

Schematic illustration showing one-dimensional deformation of a bar. The lengths L0 and LL0+ΔL are those before and after the deformation.

式(3)より   

λ ( 1+ lnλ N ) N (5a)
を得て,この式は式(4)より,   
L L 0 ( 1+ lnλ N ) N (5b)
と書ける.対数ひずみεの定義は   
ε=ln( 1+e ) =lnλ (6)
であるので,L0Lそしてεのあいだの関係は,この式と(5b)より,十分大きな正の整数Nを使って,   
L L 0 ( 1+ ε N ) N (7)
と書くことができる.

式(7)は,大きな変形の場合に合理的なひずみである対数ひずみの意味をよく示している.つまり,|ε|<<1とは限らない大きな変形の場合にも,その変形をN回の変形に分け,そのそれぞれにε/Nなる微小ひずみを加えたと考えれば,変形に伴い物体の長さが徐々に変化することも考慮して,変形全体のひずみをε=(ε/N)×Nとして考慮できる.これが,式(7)で与えられる対数ひずみεについての解釈である.式(5a)についても,λが変形をそのまま記述する値であることに対して,その対数ln λはその変形の程度を示す特性値と解釈することができる.

2.2 対数角の概要

三次直交行列であるRとその対数ln Rのあいだの関係は,Eを三次単位行列として,式(2)を数から行列に拡張した   

R= lim p ( E+ lnR p ) p (8)
で表現できる12.ln Rは実数を要素とする三次の歪対称行列になり5,6,7,12,対数角ωiはその要素として以下の様に定義されている4,9,10.   
lnR=( 0 - ω 3 ω 2 ω 3 0 - ω 1 - ω 2 ω 1 0 ) (9)
Rからln Rを計算する具体的な方法については本論文でも後に記す.

2.1のときと同じく,Nを十分大きな正の整数とすれば,式(8)より   

R ( E+ lnR N ) N (10)
を得るが,式(10)を使ってこの関係を   
R ( δR ) N , (11a)
  
δR=E+( lnR N ) =( 1 -( ω 3 /N) ( ω 2 /N) ( ω 3 /N) 1 -( ω 1 /N) -( ω 2 /N) ( ω 1 /N) 1 ) , (11b)
と書き直す.すると,対数ひずみεのときと同じように,対数角ωiの意味がわかりやすくなる.

先ず,十分大きなNに対して|ωi/N|<<1となるため,式(11b)の第三辺はδRが微小角度の回転であることを意味する4.このδRは,x1 軸周りに角度ω1/Nx2 軸周りに角度ω2/N,そしてx3 軸周りに角度ω3/Nという三つの連続回転と解釈でき,どの軸周りの回転角度も微小であるため,どのような順番での連続回転であっても,それらの回転行列の積は要素の二次以上の項を無視することで式(11b)の第三辺になる4.また,式(11a)は,δRN乗,すなわちδRN回連続する変換がRによる変換と同じになることを意味している4.よって,対数ln Rの要素である対数角ωiは,各軸周りの回転角度を微小量に分割して交互に回転を繰り返すという意味において,Rxi軸周りの回転角度であり,Rの特性角度とみなせる4

3. 結晶内での位置の変化にともなう方位の変化

Fig. 2 に示すように,位置のxiからxi+Δxiへの変化に伴い,結晶の方位がΔRだけ変化したとする.そして,この変化ΔRを,ΔR≈(δR)NδRなる微小回転がN回連続したものとみなす.これは,xixi+Δxiのあいだでの方位変化ΔRを均一とみなした結果であるので,この考え方のもと,N分割された位置の変化分δxi=Δxi/Nに対する方位変化がδRとなる.

Fig. 2

The change in a crystal orientation as much as ΔR with the change in a position from (x1, x2, x3) to (x1+Δx1, x2+Δx2, x3+Δx3). δR is a small-angle rotation which satisfies ΔR≈(δRN where N is a sufficiently large positive integer. The relationship ΔR≈(δRN means that the N times continuous rotations of δR with an interval of δx=(Δx1/N, Δx2/N, Δx3/N) is equivalent to ΔR. The angles δϕi are the small rotation angles of δR around the xi axis.

Fig. 2 に示されているように,微小な角度の回転δRにおけるxi軸周りの回転角度をδϕiとし,ΔRの対数角をΔωiとすれば,式(9)(11b)からわかるように,   

δ ϕ i =Δ ω i /N (12)
となる.よって,位置の変化分δxiと方位の変化分δϕiのあいだの関係は   
δ ϕ i /δ x j =Δ ω i /Δ x j (13)
と書ける.つまり,xiからxi+Δxiへの位置の変化にともなう方位変化ΔRの対数角をΔωiを求めれば,これらの結果からそこでの平均的な格子湾曲テンソルκ1は   
κ i j =Δ ω i /Δ x j , (14a)
つまり,   
κ=( Δ ω 1 /Δ x 1 Δ ω 1 /Δ x 2 Δ ω 1 /Δ x 3 Δ ω 2 /Δ x 1 Δ ω 2 /Δ x 2 Δ ω 2 /Δ x 3 Δ ω 3 /Δ x 1 Δ ω 3 /Δ x 2 Δ ω 3 /Δ x 3 ) (14b)
と求めることができる.

4. Axis/angleペアーで示される方位回転の対数角

単位ベクトルni周りの角度Φ(0≤Φ≤π)の回転に対応する回転行列Rは   

R=( (1- n 1 2 )cosΦ+ n 1 2 n 1 n 2 (1-cosΦ)- n 3 sinΦ n 3 n 1 (1-cosΦ)+ n 2 sinΦ n 1 n 2 (1-cosΦ)+ n 3 sinΦ(1- n 2 2 )cosΦ+ n 2 2 n 2 n 3 (1-cosΦ)- n 1 sinΦ n 3 n 1 (1-cosΦ)- n 2 sinΦ n 2 n 3 (1-cosΦ)+ n 1 sinΦ(1- n 3 2 )cosΦ+ n 3 2 ) (15)
となる9,13.この式より,Φが微小回転δΦ<<1の場合の回転行列δRは,   
sinδΦδΦ, cosδΦ1
と近似して,   
δR( 1 -δΦ n 3 δΦ n 2 δΦ n 3 1 -δΦ n 1 -δΦ n 2 δΦ n 1 1 ) (16)
となることがわかる.このとき,もとの回転軸,単位ベクトルni周りのもとで,   
δΦ=Φ/N (17)
なる微小回転をN回繰り返したと考えれば,式(11a)と同じく,RδRのあいだの関係はR≈(δRNとなるので,式(9)(11b)そして(16)から,式(15)Rの対数ln Rは   
lnR=( 0 -Φ  n 3 Φ  n 2 Φ  n 3 0 -Φ  n 1 -Φ  n 2 Φ  n 1 0 ) (18)
であり5,6Rの対数角ωiは   
ω i =Φ  n i (19)
であることがわかる.誤解のないように付け加えれば,式(15)で示されるRの回転角Φが微小な値でなくとも,その対数ln R式(18)で与えられる.

以上より,単位ベクトルniとその軸周りの回転角Φというaxis/angleペアーで表現される回転行列の対数角ωiは,それらの積Φniに等しいことがわかる.よって,Pantleon2やHeら3が記しているように,結晶方位変化の回転角がΔΦの場合,niとΔΦの積ΔΦniは,対数角ωiと同じように,細かく分割した角度の総和という意味で,各軸周りの回転の成分とみなせ,これを使って格子湾曲テンソルκを評価することができる.

回転行列Rのその対数ln Rのあいだの関係は,式(15)(18)からわかるように,Rの転置行列をtRとして,   

lnR= Φ 2sinΦ ( R- R t ) (20)
と書けることがわかる.この式が成立する証明は文献13)にも記されている.また,TrRRの固有和として,Φは   
cosΦ=(TrR-1)/2 (21)
より求めることができる14.一般に,行列の対数は対角化に始まる手続きで決定され,Mathematica等の最近の数式処理ソフトウェアには行列の対数を求めるためのコマンドが実装されている.しかし,回転行列Rの対数ln Rについては,式(20)(21)がその値を計算するために有用になる.

5. 結論

回転行列Rの対数ln Rの要素である対数角ωiを使って,結晶粒内での方位変化の測定結果から格子湾曲テンソルκを求めるための操作を考察した.Δxiだけの位置の変化にともなう方位の変化がΔRである場合,ΔRの対数角Δωiを使って,そこでの平均的な格子湾曲テンソルはκij=Δωixjとなる.結晶回転が単位ベクトルni周りの回転角ΔΦで示される場合,この回転の対数角はΔωi=ΔΦniとなるため,Δωiと同じくΔΦniもこの回転のxi軸周りの成分とみなせる.

謝辞

本研究はJSPS科研費JP16K06703の助成を受けて実施したことを記し,謝意を表します.

引用文献
 
© 2018 The Japan Institute of Metals and Materials
feedback
Top