2018 Volume 82 Issue 12 Pages 467-475
We have developed a novel process for recycling gold (Au) from secondary sources: the leaching of gold using Organic Aqua Regius, e.g. dimethyl sulfoxide (DMSO) or propylene carbonate (PC) solutions containing copper bromide (CuBr2) and potassium bromide (KBr), which could offer a number of advantages, including eco-friendliness and ease of operation. In this study, we applied PC solution to recover Au from Waste Electric and Electronic Equipment (WEEE). First, the WEEE samples (memory card, mobile phone board and small appliances) were coarsely grinded and finely grinded. Then, thermal activation of semiconductors (TASC) technology using TiO2 was applied to decompose the polymers and oxidize base metals containing in WEEEs. Next, the leaching of Au from the oxidized samples were conducted in a PC solution with 0.2 M of CuBr2 and 0.2 M of KBr, at 353-373 K, followed by biphasic separation with sulfuric acid. The dissolved Au in the PC phase was recovered by reduction of ascorbic acid. The recovery ratio of Au was 56.0%, 67.2% and 65.7% from memory card, mobile phone board and small appliances, respectively.
貴金属やレアメタルは様々な工業製品に利用されており,その市場価値は高い.これらの金属は資源として希少であり,鉱石からの製錬時の環境負荷が大きいことなどから,使用済み電気・電子機器等の二次資源から金(Au)などの貴金属の回収強化が重要視されている1,2).Auをはじめとした貴金属のリサイクル手法については様々な技術が開発されてきた.これらの技術は,大きく分けて乾式法と湿式法があり,前者は大規模設備を利用した操業となるため低コストであるが,立地に制約がある.後者は,小規模で操業が可能であるが,王水やシアン化合物溶液等の溶媒を使用するため,安全面や排水処理における環境負荷が大きい3,4).
二次資源からの効率的な貴金属リサイクルのためには,発生源である人口密集地帯(オンサイト)での処理が望ましく,小規模での操業が可能な湿式法を用いた安全かつ環境調和型のリサイクル手法が望まれている.
著者らは,臭化銅(CuBr2)および臭化カリウム(KBr)を含有する有機溶媒系(有機王水)を用いAuを溶解・析出させる手法を開発してきた5,6).使用する有機溶媒は大きく分けてジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide, DMSO)と炭酸プロピレン(Propylene carbonate, PC)の2種であり,溶媒により特徴は異なるが,2種の溶媒ともCu+が溶媒和して安定に存在することが知られている7,8).そのため,CuBr2を溶解させたDMSOおよびPC中では,次式に示す反応が進行する.
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有機王水はAu以外の金属も溶解するため,他の金属と共存した系内ではAuの溶出が阻害される5).それゆえ,WEEEからのAu回収においては,含有される他金属がAuの溶解・析出の大きな課題となる.例として携帯電話基板中には,銅(Cu)をはじめとしてアルミニウム(Al),ニッケル(Ni),錫(Sn)など20種類以上の金属が含有されている10,11).また,基板中に含まれるAuの濃度はCuなどの他金属と比べて非常に希薄であり11),効率的なAuの回収には試料中のAu濃度を濃縮する必要がある.
そこで,本研究では有機王水によるAu溶解のための前処理として,半導体の熱活性TASC(Thermal Activation of Semi–Conductors)を利用する高温酸化チタン触媒酸化処理を導入する.室温では不活性な半導体を350-500°Cに加熱することで,熱励起により価電子帯に正孔が生じる.生成した正孔は,ポリマーから電子を引き抜き,ポリマー内をフリーラジカルが伝播することで高分子を水と炭酸ガスに分解する12).半導体の熱活性による酸化作用を用いることで,WEEE中の基板樹脂を分解し,試料中のAuの濃縮が期待される.一方,CuBr2およびKBr含有PCにタンタル,チタン,タングステンなどの酸化皮膜を形成する金属が溶出しないことが報告されている6).よって,高温酸化チタン触媒酸化処理により,ポリマーの分解と同時にAu以外の金属の表面を酸化することでPCへの他金属の溶出を抑制することが期待できる.
以上のことから,本研究ではWEEEからの有機王水(CuBr2およびKBr含有PC)を用いたAu回収プロセスの構築を目的とし,前処理として粉砕処理と高温酸化チタン触媒酸化処理を行い,前処理の性能を分析・検討するとともに,有機王水を用いたAu回収実験を行い各種条件による抽出率の検討を行った.また,将来的に必要になるパイロット規模の実験および経済性評価のために,Auの回収量についての検討も行った.
CuBr2(97.0%),KBr(99.0%),硫酸(95.0%),L(+)-アスコルビン酸(99.6%)は富士フイルム和光純薬株式会社から購入したものを使用した.PC(>98.0%)は東京化成工業株式化会社から,商業利用も可能な蒸留水は大和薬品株式会社からそれぞれ購入した.
また,実験サンプルの廃電子機器としてメモリカード,携帯電話基板および小型家電(ゲーム機基板,デジタルカメラ基板)を対象とした.基板サンプルに含まれる主な金属の濃度をTable 1 に示す.

The main contained metals in the samples (WEEE).
本研究のAu回収プロセス全体のフローをFig. 1 に示す.有機王水を用いた湿式精錬の前処理として,各種基板サンプルの粉砕と造粒を行った.

Process flow diagram of recovering gold.
粉砕処理は,粗破砕と微粉砕に分けて行い,粗破砕では回転速度 1000 rpmにて粉砕を行った.粗破砕後のサンプルを微粉砕機にて回転速度 1500 rpmで 90 secの間粉砕し,710 μmのふるいにかけ,粒径<710 μmの粉体を得た.粗破砕には,カッティングミル(Verder Scientific Co. Ltd., SM300),微粉砕には,振動ディスクミル(Verder Scientific Co. Ltd., RS200)を用いた.得られた粉末サンプル中に含まれるAu濃度をICP-OES(Thermo Fisher Scientific K.K., iCAP 6300 DUO)によって分析した(Table 1).
粒径<710 μmとなった各種基板サンプルに重量比で水10%とバインダー(澱粉)3%を混合し,造粒機を用いて粒径 3 mm程度の粒状になるよう,成型した.
2.2.2 高温酸化チタン触媒酸化処理530°Cに加熱した酸化チタン触媒層(1300 g)に造粒した基板サンプルを 8 g/2 minの速度で合計 500 g投入した.反応器内には 80 L/minで空気を流入させ,攪拌速度 60 rpmで処理し,試料を全量投入後,1.0-5.0 h反応機を稼動させた.触媒層内の基板サンプルは,710 μmのふるいを用いて,酸化チタン触媒と分離した.そして,高温酸化チタン触媒酸化処理後のサンプル中に含まれるAu濃度をICP-OESにより測定した.
さらに,得られたサンプルの粒子表面を電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer, EPMA, JEOL Ltd., JXA-8100)を用いて分析した.Table 1 より,電子基板中に多分に含まれるAu以外の金属元素であるCuおよびSnを特定し,その表面状態を酸化処理前後で比較した.また,酸化の有無は酸素(O)元素を検出することで判断した.
2.3 Au回収実験PC: 100 mLにCuBr2とKBrをそれぞれ 0.2 Mになるよう溶解させ,そこに高温酸化チタン触媒酸化処理(以下,酸化処理とする.)を行った基板サンプル(30 g)を投入し,ロータリーエバポレータにて加熱・攪拌しながら浸出処理を行った.浸出処理後の溶液から溶解残渣を減圧濾過によって取り除き,得られた溶液に 0.1 Mに調製した硫酸水溶液 100 mLを添加した.硫酸水溶液を加えた溶液を攪拌機(東京理化器械株式会社,MMV-1000W)を用いて,140 rpmで 10 minの間攪拌し,静置してPC層と硫酸水溶液層に分離させた.分離後,PC層のみを抽出し,還元剤としてアスコルビン酸 1 gを加え,353 Kで 1.0 hの間よく振盪した.振盪後,常温で 72 h静置し,溶液内の析出物を減圧濾過によって回収後,383 Kにて 24 h乾燥させた.最終的に得られた回収物を王水に全溶解し,ICP-OESにてAu元素を分析した.ICP-OESの分析結果は,濃度から重量換算したものを使用した.
有機王水を用いた精錬時におけるAu抽出率の向上を目的として,メモリカードおよび携帯電話基板の2種のサンプルを用いて,酸化処理時間および浸出処理時の溶解温度,溶解時間という3つのパラメータをそれぞれ変化させ,実験条件の検討を行った.さらに,複数の廃電子機器を含むサンプルからのAu回収の検証として,小型家電(ゲーム機基板,デジタルカメラ基板)サンプルを用いた実験を行った.また,精錬時におけるAu抽出率は式(4),プロセス全体でのAu回収率を式(5)で定義した.
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| (5) |
各種基板サンプルを粗破砕・微粉砕し,ふるい分けを行った結果をTable 2 に示す.前処理全体の歩留りは,メモリカードと携帯電話基板の両サンプルで99%を超える結果となった.

Yields of pulverized samples.
Table 3 にメモリカードを,Table 4 に携帯電話基板を,酸化処理を行った場合の重量基準の回収率を示す.基板サンプルの分離には 710 μmのふるいを用い,有機王水による湿式精錬にはふるい下サンプルを使用した.また,表中のExhaust particlesとは反応器の排気部に堆積した粉体の事を指し,Contaminationとは反応器内および触媒層中で回収された固着物を指す.Table 3 の結果から,各酸化処理時間におけるふるい下の収率に大きな差異は見られず,概ね50%程度と,一定の割合でふるい下を回収することができた.また,全体の収率は酸化処理によって基板中の樹脂が分解され,60-70%程度となった.Table 4 より,携帯電話基板の結果もメモリカードと同様に,50%程度の収率でふるい下を回収でき,樹脂が分解されたことで全体の収率は概ね70%となった.

Yields of memory card in the TASC process.

Yields of mobile phone board in the TASC process.
次に,酸化処理前の粉砕後のサンプル中に含まれるAu濃度と酸化処理後のふるい下中に含まれるAu濃度をICP-OESにて分析した結果をTable 5 に示す.Table 5 の結果から,メモリカードは酸化処理前のAu濃度が 840 ppmであったのに対し,酸化処理後では 1500-1700 ppmまで濃縮された.携帯電話基板のAu濃度もメモリカードと同様に,酸化処理前の 540 ppmから 1200-1300 ppmまで濃縮された.いずれの基板サンプルにおいても基板中の樹脂が分解されAu濃度が濃縮されたまた,基板サンプル中のAu成分の偏在性を考慮すると,酸化処理時間によるAu濃度の差異はほぼないと考えられる.

Concentration of Au in oxidized sample.
Fig. 2 にメモリカードのCu元素に関するEPMAによる表面観察結果を示し,Fig. 3 にはSn元素に関する観察結果を示す.EPMAによる元素マッピングでは,元素の検出強度が高いほど暖色に色分けされ,強度が低いほど寒色に色分けされる.また,EPMAは試料のサイズや試料表面の凹凸のような深さ方向にばらつきの大きい試料に対して,分析精度が落ちるという性質がある13).Cu粒子について,酸化処理前後のO元素の分析結果を比較すると,酸化処理後のCu粒子表面には処理前に比べ,高いポテンシャルでO元素が検出された.また,O元素のマッピング範囲は酸化処理後の粒子表面上のCu元素のマッピング範囲とおおよそ一致した.Sn元素についても,Cu元素と同様に酸化処理後の粒子表面に処理前に比べて高いポテンシャルでO元素が検出され,Sn元素のマッピング範囲とおおよそ一致するという結果が得られた.

Image of EPMA; Sample=Memory card, Elements=Cu, O.

Image of EPMA; Sample=Memory card, Elements=Sn, O.
以上の結果から,酸化処理を行ったことで,高分子成分の分解と同時に粒子表面も酸化されたことが示唆された.また,既報6)より,Snを溶解させた炭酸プロピレン系に希硫酸を添加し二層に分離させると硫酸層の底にSnO2として沈殿が生じることが報告されており,有機王水中へのSnの溶出はAu析出の阻害要因となる.よって,基板中の高分子成分の分解と金属表面に酸化皮膜を形成できる高温酸化チタン触媒酸化処理は,有機王水中へのSnの溶出を抑制できると考えられる.
3.3 Au回収実験酸化処理時間および浸出処理時の溶解温度,溶解時間という3つのパラメータをそれぞれ変化させ,実験を行った.実際に回収したAuをFig. 4 に示す.

Image of recovered gold; Samples=Memory card.
酸化処理時間を 1.0, 2.5, 5.0 hとした基板サンプルからのAu回収実験を行い,結果を比較した.固定条件として,溶解温度 363 K,溶解時間 2.0 hを設定した.各酸化処理時間の基板サンプルからのAu回収量および抽出率をTable 6 に示す.Au抽出率は,式(4)を用いて算出し,以降の表中においても同様とする.メモリカードのAu抽出率は,酸化処理時間 1.0 h: 61%,2.5 h: 64%,5.0 h: 56%となり,酸化処理時間 2.5 hの条件が最も抽出率が高い結果になった.しかし,回収されたAuの重量の最大値は酸化処理時間 1.0 h: 31 mgの場合であり,抽出率の高かった酸化処理時間 2.5 hの回収量は 29 mgと抽出率を比較した結果と異なる.これは,元々のサンプルに含まれるAuの重量が異なっていることに起因している.ただし,式(4)の分母に当たる基板サンプル中のAu含有量は,Table 5 の分析結果を用いているため3.1で述べたように誤差が含まれる.よって,メモリカードの場合,各条件による抽出率に大きな差異はなく,有機王水を用いた湿式精錬に対するサンプルの酸化処理時間の寄与度は小さいと考えられる.

Au recovery rate of hydrometallurgy; Dissolution temp. =363 K, Dissolution time=2.0 h.
一方,携帯電話基板のAu抽出率に関しては,酸化処理時間 5.0 hの条件のときが最大で,精錬段階で64%のAuを回収することに成功した.メモリカードの場合と同様に,抽出率が近い値をとる酸化処理時間 2.5 hと 5.0 hの条件では大きな差異はないと考えられる.一方で,酸化処理時間 1.0 hのAu抽出率は他の条件を大きく下回った.また,Auの回収量に着目すると,酸化処理時間 1.0 hと最も回収量の多い酸化処理時間 2.5 hの差は 9 mgであった.精錬前の各サンプル中のAu含有量を比較すると,その差は±3 mgであることから,酸化処理時間 1.0 hと 2.5 hのAu回収量の差 9 mgは大きい値であると判断できる.Table 1 に示した基板サンプル中に含まれる金属元素より,メモリカードに比べて携帯電話基板に含まれるAu以外の他金属元素の割合が高く,比較的含有率の高いCuやSnなどが有機王水に溶出し,Auの溶解が阻害されていることが考えられる.よって,携帯電話基板の場合,酸化処理時間 1.0 hでは酸化処理が不十分であることが示唆された.
溶解温度を 353, 363, 373 Kとし,酸化処理時間を 2.5 h,溶解時間を 2.0 hとして実験を行った場合の結果をTable 7 に示す.メモリカード,携帯電話基板ともに溶解温度によってAu抽出率は大きく変化することなく,メモリカードは363 K: 64%,携帯電話基板は 363 K: 59%の場合に最もAuを回収することができた.一方で,溶解時間を 1.0, 2.0, 4.0 hとし,酸化処理時間を 2.5 h,溶解温度を 373 Kとして実験を行った結果をTable 8 に示す.Au抽出率は溶解時間 2.0 h: 62%,4.0 h: 60%であり,ともに近い値を示しているのに対し,溶解時間 1.0 hの条件では大きく下回る36%という結果となった.また,Au回収量について溶解時間 1.0 h: 16 mgと 2.0 h: 28 mgを比較すると 12 mgの差があり,含有されるAuの重量は等しいことから溶解時間 1.0 hのAu回収量は他の条件に比べて低い値であると判断できる.Table 6 の場合と異なり,酸化処理時間は 2.5 hと十分な処理時間を設定しており,溶解時間のパラメータのみを変化させていることから,溶解時間 1.0 hではAuの溶出が不十分であったことが示唆された.また,携帯電話基板の実験結果は,溶解時間 1.0 h: 38%,2.0 h: 51%,4.0 h: 61%となり,メモリカードと同様に溶解時間 1.0 hの条件ではAuの溶解が不十分であったことが示唆された.以上の結果から,溶解温度条件は有機王水を用いた湿式精錬に大きく寄与することはなく,溶解時間を 1.0 hにまで短くしてしまうと溶液中にAuが十分に溶出せず,抽出率や回収量が著しく低下することが示唆された.

Au recovery rate of hydrometallurgy; Oxidation time=2.5 h, Dissolution time=2.0 h.

Au recovery rate of hydrometallurgy; Oxidation time=2.5 h, Dissolution temp. =373 K.
3.1節および3.3節の結果を用いて,各基板サンプル 1 kgを本研究のAu回収プロセスを用いて処理した場合のAuの回収量および回収率を算出した.算出に用いた条件および,算出結果をTable 9 に示し,メモリカードについてのフローをFig. 5 に,携帯電話基板についてのフローをFig. 6 に示す.プロセス全体でのAu回収率は式(5)により算出しているため,図中に示すAu回収率は粉砕後の試料(<710 μm)基準の値となっている.Table 9 およびFig. 5 の結果から,本プロセスに 1 kgのメモリカードを投入すると,含有されているAuの56.0%にあたる 409 mgを回収することが可能であることが分かった.プロセス全体におけるAu回収率は,湿式精錬時のAu回収量に大きく依存しており,精錬時のAu抽出率の向上が今後の大きな課題となる.一方,Table 9 およびFig. 6 の結果から 1 kgの携帯電話基板の場合では,含有されているAuの67.2%にあたる 291 mgを回収することが可能であることが分かった.Fig. 6 中では,酸化処理後のAuの含有量が酸化処理前を上回っている.サンプル中のAu濃度は,ICP-OESによって分析していることから,分析時の誤差が重なり,酸化処理前後でAu含有量が逆転したと考えられる.

Process flow diagram of recovering gold from memory card; Oxidation time=2.5 h, Dissolution temp. =363 K, Dissolution time=2.0 h.

Process flow diagram of recovering gold from mobile phone board; Oxidation time=2.5 h, Dissolution temp. =363 K, Dissolution time=2.0 h.
以上のメモリカードおよび携帯電話基板からのAu回収プロセスを用いて,メモリカードや携帯電話基板のように分別した廃電子基板でなく,複数の電子機器が混合された小型家電(ゲーム機基板,デジタルカメラ基板)からのAu回収実験を行った.メモリカードおよび携帯電話基板と同様に小型家電 1.0 kgにおけるプロセス全体でのAu回収量・回収率を算出し,Au回収フローをFig. 7 に示す.Fig. 7 より,有機王水を用いた本プロセスにおいて,複数の電子機器が混合する小型家電からもAuを回収でき,メモリカードや携帯電話基板と比べて同等のAu回収率を発揮する結果となった.

Process flow diagram of recovering gold from small appliances; Oxidation time=5.0 h, Dissolution temp. =373 K, Dissolution time=2.0 h.
有機王水(CuBr2およびKBr含有炭酸プロピレン)を抽出溶媒とした湿式精錬により,廃基板サンプルからのAu回収が可能であることが実証された.
湿式精錬の前処理として,粉砕した基板サンプルに対して酸化処理を施し,基板中の樹脂を分解した.樹脂成分が分解されたことで基板サンプル中のAu濃度が濃縮された.さらに,酸化処理後のサンプルに対しEPMAを用いた表面分析を行い,基板に含まれるCuやSnなどの金属表面が酸化されたことを示す結果を得た.また,有機王水による精錬工程では,基板サンプルの酸化処理時間,溶解温度,溶解時間という3つの条件を操作することで,精錬工程におけるAu抽出率が向上した.その際,酸化処理時間および溶解時間はAu回収量に大きく寄与しており,特に溶解時間が 1.0 hと短い場合では,Auの溶解が不足していたことが示唆された.本研究では,いずれのサンプルにおいても工程全体を通したAu回収率はおおよそ60%前後であり,回収率の向上には有機王水での精錬過程での抽出率向上が今後の課題となる.
有機王水による廃基板サンプルからのAu回収に成功したことから,本プロセスを用いることで多種金属を含有する廃電子機器中からAuのみを選択的に回収できることが示唆された.
本研究を遂行するに当たり,環境省の環境研究総合研究費(3K162008)の助成を受けた.謝意を表する.