Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Mechanical Characterization of IF Steel/Polyethylene/IF Steel Laminates
Tomoaki Hoshino Hirofumi Inoue
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2018 Volume 82 Issue 4 Pages 85-88

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抄録

In order to reduce the weight of metal materials with low cost, composites of metal and plastic were fabricated. IF steel with good formability was used for the metal. Polyethylene (PE) which has high strength and can be deformed later by thermoplasticity was used for the plastic. PE is a crystalline plastic and is well known to have a strong uniaxial orientation. Texture of such crystalline materials affects the mechanical properties. In this study, to clarify the relation between mechanical properties and texture in such composites, IF steel/polyethylene/IF steel laminates were fabricated by warm-rolling at two rolling reductions of 40% and 50%, and strength of the laminates and textures of the constituent layers were investigated in detail. From pole figure measurements, when the rolling reduction is high, PE was oriented not only to the [001]//RD but also to the [100]//ND, resulting in biaxial orientation. Tensile strength of the IF steel layer was about 9 times higher than that of the PE layer, and that of the laminate was almost consistent with the calculated value by the rule of mixture. The IF steel layer with much higher strength showed isotropic tensile strength related to the γ-fiber texture of <111>//ND, although the PE layer showed remarkable in-plane anisotropy resulting from the strong texture. As a result, tensile strength of the laminates was isotropic for both rolling reductions.

1. 緒言

近年,地球温暖化や大気汚染などの環境問題を抑制するために輸送機器の燃費向上が求められている.航空機の機体には超ジュラルミン,超々ジュラルミンに代わって炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の使用が増加しており,自動車産業においても一部のスポーツカーや高級車においてCFRPが使用され始めている.CFRPの密度は1.6程度であり,輸送機器の大幅な軽量化による燃費の向上が期待される.しかしながら,製造コスト1やリサイクル2,材料の信頼性3等の解決されるべき問題点も多い.一方,金属材料の信頼性は高く,プラスチックに比べて均一で安定した強度を有する.金属板とプラスチック板の積層化により,比強度を保持したまま制振性や断熱性などの機能性を付加することができる.所定の強度を有する金属/プラスチック積層板は外板の軽量化が求められている自動車に利用できる可能性がある.特にルーフへの使用により,雨音の軽減,結露の防止効果が期待できる.しかしながら,金属板とプラスチック板の積層化の研究は比較的に少ない4,5,6.ポリエチレン(PE)は安価で高強度であるが無極性高分子であるため,金属との接合が難しく,金属との積層化によりどのような力学特性を示すか明らかではない.

本研究では,構成物質の候補として金属に安価で成形性の良いIF鋼,プラスチックに安価で高強度であるPEを使用した.また,PEは熱可塑性なので後の加工が可能であり,成形・材料の分離を容易にする.プラスチックの多くは非晶質であるが,PEのような結晶性プラスチックでは,一般的に結晶化度が高くなると強度が増加する7.また,結晶化領域は塑性加工により配向性をもつことが多く8,このような結晶性材料は集合組織の発達が材料の力学特性に影響する.このため,複合材料を構成する物質の集合組織は複合材料の力学特性と密接な関係があると考えられる.著者の一人は温間圧延接合技術を用いて,チタンクラッドマグネシウム合金板の作製に成功している9.PEが圧延温度において融点を超え流動状態になることで積層板の作製が可能と考え,温間圧延接合によりIF鋼/ポリエチレン/IF鋼積層板を作製し,強度と集合組織の関係を調査した.

2. 実験方法

本研究では深絞り性に優れているIF鋼と熱可塑性樹脂のポリエチレン(PE)を積層板作製の素材とした.供試材のIF鋼は圧下率80%で冷間圧延した後に塩浴中 1103~1113 Kで 130~140 s焼鈍した厚さ 0.25 mmの冷間焼鈍板である.これは,深絞り性に好都合な{111}面が圧延面に平行な集合組織{111}<uvw>方位(γ-fiber)を発達させるための圧延・焼鈍条件である.PEは厚さ 1.00 mmの市販の板材である.IF鋼板についてはPE板との接合面を圧延方向に金属ブラシで研磨した.各試料ともに表面をエタノールで洗浄した.

IF鋼/ポリエチレン/IF鋼積層板の作製は温間圧延により行った.2枚のIF鋼板の間にPE板を挟んで重ねた試料を 473 Kに温めた炉にいれ10分間加熱した.その後,炉から取り出し,素早く圧延機に通して無潤滑で圧延を行った.このときの圧延速度は 5 m/minであり,1パスで圧下率は40%と50%の2つの条件で2種類の試料を作製した.引張試験・X線回折の試料作製にはIF鋼板(80 mm×50 mm)とPE板(80 mm×50 mm)を用い,剥離試験にはIF鋼板(240 mm×50 mm)とPE板(160 mm×50 mm)を用いた.

これらの各試料に対して,引張試験,180˚剥離試験による力学特性評価,光学顕微鏡観察による組織観察,X線回折による集合組織測定を行った.また,PEの結晶化度を求めるために嵩密度測定を行った.引張試験,180˚剥離試験は卓上形精密万能試験機(島津製作所製 AGS-10kNX STD)を用いて行った.引張試験はひずみ速度1×10-3 s-1で行った.圧下率40%と50%の積層板(80 mm×50 mm)それぞれから,長手方向が圧延方向(RD)に対して0˚,45˚,90˚方向の3方向になるように 40 mm×15 mmの試験片を各3本切り出した.標点間距離を 30 mmとして,引張試験を行った.また,圧下率40%と50%の積層板(80 mm×50 mm)をそれぞれ剥離させて,IF鋼とPEの単体も同様に引張試験を行った.180˚剥離試験はJIS K6854-2を参考に剥離方向をRD,クロスヘッドスピード 0.833 mm/s,試料幅 20 mm,剥離長さ 125 mmで行った.積層板のIF鋼層を1枚剥がし,試料の端部でPE層を剥離させ,そこを起点としてPE層を必要分剥離させた.得られた曲線は平滑化を行い,測定開始部付近と終了部付近を除く8点以上のランダムな点を採取し,最大値,最小値,平均値を求めた.こうして得られた値を試料幅で除することによって規格化した.圧下率40%と50%それぞれ3本の試料を測定し,それぞれの最大値,最小値,平均値の平均を算出した.積層板断面を耐水エメリー紙で研磨し,光学顕微鏡観察を行った.集合組織測定には圧延前のPE板と圧下率40%,50%で作製した積層板から取り出した2種類のPE層を用いた.線源にはCuKα線(NiのKβフィルター使用)を使用した.PEが斜方晶(a=0.741 nm, b=0.494 nm, c=0.255 nm)である10ので,(110)および(200)について管電圧 40 kV,管電流 40 mAでSchulzの反射法11α=30˚~90˚)と透過法12α=0˚~30˚)で完全極点図を測定した.それぞれ回折ピークの理論値は2θ=21.6˚,2θ=24.1˚である.反射法と透過法の接続はα=30˚で行った.反射法用ランダム試料にはやすりでPEの板材を削り作製した粉末を用いた.嵩密度はマイクロメーターと電子天秤を用いて求めた.IF鋼の測定にはMoKα線(ZrのKβフィルター使用)を使用し,板厚中心部のRD–TD断面で行った.IF鋼は体心立方格子(bcc)であるので,(110),(200),(211),(310)について管電圧 40 kV,管電流 40 mAでSchulzの反射法(α=15˚~90˚)で不完全極点図を測定した.それぞれ回折ピークの理論値は2θ=20.1˚,2θ=28.7˚,2θ=35.4˚,2θ=46.2˚である.ランダム試料は粉末α-Feを用いた.その後,得られたデータに対して,反復級数展開法によるODF解析プログラム13(Standard ODF)を用いて方位分布関数を計算した.

3. 結果と考察

3.1 光学顕微鏡観察と密度

Fig. 1 に圧下率40%と50%の積層板の断面写真を示す.IF鋼層とPE層が平行で接合界面に剥離がなく,圧延によりPEのみ厚さが変化していることがわかった.これはPEの融点が 393~413 Kなのに対して加熱温度が 473 Kであったことにより,圧延接合時に非晶質の流動状態であったためである.Table 1 に各試料の嵩密度を示す.100%結晶のPEの密度を 1.00 g/cm3,100%非結晶のPEの密度を 0.85 g/cm3としてTable 1 のPEの嵩密度からPEの結晶度を求める14と76%であった.また,圧延前後でPEの嵩密度が変化していないことからPEの結晶度が圧延前後で変化していないことがわかる.

Fig. 1

Optical microstructures of laminates.

Table 1

Density of various materials.

3.2 力学特性評価

Fig. 2 は圧下率40%と50%で作製したそれぞれの積層板のPE層単体における引張強さを示す.どちらの圧下率でも0˚方向の引張強さがほかの2方向に比べて高くなっていることがわかる.これはPEの高分子鎖が並んでいる方向がc軸であり15,積層板作製時の温間圧延でPEの高分子鎖がRD配向になるためであると考えられる.圧下率が高いPE層の方が0˚方向の引張強さが高く,90˚方向の引張強さが低いことより,圧下率が高いほどPEの高分子鎖がRDに配向し,RD以外の方向の高分子鎖の割合が減少するためであると考えられる.また,Table 1 に示すように接合時の圧延前後でPEの嵩密度に変化がないことからPE全体の結晶度は変化せずに結晶配向が変化していると考えられる.

Fig. 2

Tensile strength in 0˚, 45˚, 90˚ directions and their average of polyethylene layers in 40% and 50% rolled laminates, respectively.

Fig. 3 は圧下率40%,Fig. 4 は圧下率50%の積層板の実測の引張強さと複合則によって算出した引張強さを示す.横軸の“average”は3つの角度の平均値を表わす.複合則の計算にはIF鋼層,PE層それぞれ単体で引張試験した値を用いた.IF鋼単体の引張強さはどの方向も 280 MPa程度であった.しかし,PE単体の引張強さはFig. 2 より,異方性が認められるものの 30 MPa程度であり,IF鋼と比較してはるかに小さかった.積層板作製においてIF鋼板の厚さは変化しなかったため,積層板におけるIF鋼とPEの体積分率を圧下率50%で2:1,圧下率40%で5:4とした.Fig. 3 より,PEの体積分率が高い圧下率40%の積層板では0˚方向の実測の引張強さが他の2方向に比べて高くなっていることがわかった.これは,上述のPE層における引張強さの面内異方性によるものである.Fig. 4 より,PEの体積分率が低い圧下率50%の積層板では方向による引張強さの違いはみられなかった.圧下率が高くなったことによりPE層の引張強さにおける面内異方性は大きくなっているにもかかわらず,圧下率50%の積層板の引張強さが等方的であるのはPEの体積分率が低くなることによりIF鋼の引張強さの影響が大きくなったためである.圧下率40%,50%どちらの積層板でも実測の引張強さが複合則で計算した引張強さとほぼ等しいことから,積層板の引張強さは複合則によって予測可能であると言える.

Fig. 3

Measured and calculated tensile strengths of 40% rolled laminates. The calculation was made by the rule of mixture.

Fig. 4

Measured and calculated tensile strengths of 50% rolled laminates. The calculation was made by the rule of mixture.

Table 2 に180˚剥離試験によって得られた各圧下率の平均・最大・最小剥離強度を示す.平均・最大・最小剥離強度はどれも圧下率40%の方が高い値であった.圧下率40%の積層板のPE層は圧下率50%の積層板のPE層の約1.6倍の厚さがある.プラスチックを剥離層とする180˚剥離試験において剥離層の曲げ変形の影響が剥離強度に加わる16.曲げ応力は材料の厚さに依存するので,PE層の厚さの違いが剥離強度に影響を与えたと考えられる.どちらの圧下率でも剥離強度が低いことから接合性を向上させる研究が必要である.

Table 2

Results of peeling tests.

3.3 IF鋼とPEの集合組織変化

圧下率40%積層板のIF鋼層のODFをFig. 5 に示す.IF鋼のODFをみると,深絞り性の良好な{111}<uvw>方位(γ-fiber)17が強く表れていることがわかる.すなわち,IF鋼の集合組織は圧延前後でほとんど変化せずにγ-fiberを有することから,圧延後も良好な深絞り性を保持することが推察される.

Fig. 5

Orientation distribution function of IF steel layer in 40% rolled laminate.

圧延前のPE板と圧下率40%,50%積層板のPE層の集合組織変化をFig. 6 に示す.圧下率40%積層板中のPE層と圧延前のPE板の(200)極点図を比較すると,圧下率40%積層板中のPE層ではc軸がRDと平行な結晶が多くなっていることがわかる.また,圧下率50%積層板中のPE層の(200)極点図では,圧下率40%でTDの方に広がっていたa軸の分布が極点図の中心により集積していることがわかる.これは圧下率40%ではc軸がRDに配向し,RDまわりにPEの結晶が回転した状態で存在するが,圧下率50%ではc軸のRD配向だけでなく,a軸が圧延面法線方向(ND)に配向しつつあることを示している.PEのc軸配向は引張強さを高める18と考えられるが,積層板ではPEの強度がかなり低いために引張強さはIF鋼の集合組織の影響により等方的である.

Fig. 6

(110) and (200) pole figures of (a) as-received polyethylene and polyethylene layers in (b) 40% rolled and (c) 50% rolled laminates.

4. 結言

(1) 積層板の引張強さは複合則による計算値とほぼ一致した.

(2) 圧延によりPEの結晶部分が配向し,PEの引張強さに面内異方性が生じる.

(3) 圧下率が高くなると,PEはc軸がRDに配向するだけでなく,a軸がNDに配向し,二軸配向となる.

(4) 接合時の圧延によりPEの引張強さに面内異方性が生じるが,面内異方性の小さいγ-fiberを持つIF鋼の引張強さがPEよりもはるかに高いために積層板の引張強さはほぼ等方的である.

引用文献
 
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