Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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On Sn Whisker Suppressing Mechanism by Heat Treatment to the Double Layrer Plating System(Sn/Cu)
Yoshinori SakamotoWataru YamazakiMasaomi ShimuraSotomi Ishihara
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2018 Volume 82 Issue 5 Pages 153-161

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抄録

Many studies have been done so far about the occurrence of whiskers in Sn-plating. However, very few study has been conducted on the suppression method of whiskers, how to prevent occurrence of whiskers. It is empirically known that whiskers are suppressed by heat treatment. However, its suppression mechanism is still unknown.

In the present study, we investigated that how the amount and form of the intermetallic compounds, generated by heat treatment, change with an elapsed time. Then, effect of the amount and form of the intermetallic compounds on the occurrence of Sn whiskers was studied in detail. As a result, it was clarified that, in order to suppress the whiskers, the amount of the intermetallic compounds should be above 15%. The parameter, named as contour-length ratio, was introduced for expressing the uniformity of occurrence of the intermetallic compounds. This value should be above 1.2 to suppress the whiskers.

1. 緒言

電子機器のコネクタ部のピンなどには,耐食性,耐久性,表面の適度な硬さ,並びに優れたはんだ付け性などが求められている.これらの諸条件を満たすピンとして,現在Cu合金線材にSnめっきをほどこしたピンが使用されている.しかし,Cu合金にSnめっきを採用すると,針状のSn単結晶(ウィスカ)が発生する.このウィスカが発生すると,電気回路がウィスカにより短絡し絶縁不良が生じるなど,問題となっており1改善策が求められている.これまで,SnにPbを添加することにより,ウィスカの発生を抑制する方法が採用されてきた2.しかし,近年,Pbは特定有害物質として使用が制限されている.また,電子デバイスのダウンサイジングによりピンのピッチ間隔が小さくなり,短いウィスカの発生でも電気回路の短絡の原因となりやすく,現在,Snめっきのウィスカ発生が再び問題視されるようになった3,4.Cu合金にSnめっきをほどこしためっき材に発生するウィスカに関して,これまでに多くの研究報告1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11がなされている.

著者らは,既報5において,7-3黄銅基板にSn/Cuの2層めっきをほどこした試料では,時間の経過に伴ってSnめっき中にCuが拡散すること,そして,めっき膜中にCu6Sn5金属間化合物が生成されることによってSnウィスカが発生することを明らかにした.また,Snウィスカの生成挙動を詳細に調査し,ウィスカの生成機構を明らかにした.

Snウィスカの抑制方法として種々の方法が検討されているが6,その中にリフローと呼ばれる熱処理を用いる方法がある.熱処理を用いたウィスカの抑制機構に関して,生成するCu3Sn金属間化合物が,CuのSnへの拡散を抑制するという報告8,9,10,11はあるものの詳細な研究は少ない.

本研究では,7-3黄銅基板にSn/Cuの2層めっきを行い,その後めっき試料に種々熱処理をほどこした.熱処理条件によって,生成する金属間化合物の量と形状がどのように変化するかを詳細に調査した.そして,これらの金属間化合物の量や形状が,Snウィスカ発生におよぼす影響について検討した.

2. 試験片および実験方法

2.1 めっき方法

試料の模式図をFig. 1(a)に,めっき部断面の模式図をFig. 1(b)に示す.めっき基板として,幅 20 mm,厚さ 1 mm,長さ 40 mmの市販の7-3黄銅(C2680R-H)を用いた.めっき処理は,Fig. 1(a)に示す箇所に,Cuめっき,Snめっきの順に処理を行った.作製条件をTable 1 に示す.まず,Fig. 1(a)の試料表面,10×10 mm2の範囲を除いて,他の箇所をマスキングしめっきを行った.下地Cuめっきにはシアン化銅浴を使用し,Snめっきにはメタンスルホン酸スズ浴を用いた.めっきは片面のみとし,めっき時に流す電流量の調整によって,めっき厚さを調整した.本研究では,Cuめっき厚さが 1 μm,Snめっき厚さが 2 μmの試料を用いて実験を行った.各試料はそれぞれ2枚以上作製し実験に用いた.Sn結晶粒径の測定は,FIBによる試料表面の観察を行い,線分法にて測定した.

Fig. 1

Schematic illustrations of the specimen with Sn/Cu double layers plating.

Table 1

Bath composition and plating conditions.

FIBの観察ビームからめっき表面を保護するために,めっき処理後,もしくは熱処理後にFig. 1(a)に示す,3 mm×3 mmの箇所に油性塗料を用いて保護膜を形成した.

2.2 熱処理方法

熱処理はめっき直後に行った.Fig. 2 に熱処理に用いた電気炉の模式図を,Table 2 に熱処理条件を示す.熱処理には均熱帯の長さが 90 mmの管状電気炉を用い,均熱帯の温度を 333~573 Kに設定した.試料をおもりをつけたワイヤーに固定し,電気炉下に設置した.モータ制御により,18 mm/sの一定速度で試料を炉内の均熱帯に送り,所定時間保持した後,電気炉下へ排出した.このときの保持時間を熱処理時間とした.熱処理条件として,333 Kから 573 Kまで6種類の熱処理温度を用い実験を行った.また,熱処理時間は,473~573 Kの高温熱処理では 15~300 s,333~393 Kの低温熱処理では 600~14400 sの範囲で変化させた.

Fig. 2

Electric furnace system used for heat treatment to the plating system.

Table 2

Heat treatment conditions.

2.3 試料保管

めっき処理または熱処理後の試料をエアコン設置の室温環境において保管し経時変化を観察した.保管環境の室温は 295±3 K,湿度50±20%であった.

2.4 Snめっき膜断面の金属間化合物の生成挙動とSnめっき表面のウィスカ観察

金属間化合物の生成とウィスカの発生挙動を観察するために,集束イオンビーム加工観察装置(FIB:日本電子製JIB-4000)を用いて,集束イオンビーム(Focused Ion Beam(FIB))加工と,Scanning Ion Microscope(SIM)像の観察を行った.FIBの観察ビームからめっき表面を保護するために,油性塗料を用いて,Fig. 1(a)に示す,3 mm×3 mmの箇所に保護膜を形成した.

2.4.1 金属間化合物の生成挙動

Snめっき膜断面における金属間化合物の生成挙動を以下の手順で観察した.まず,測定時間ごとに上記の保護膜範囲内の横 65 μm,縦 20 μmの箇所を,深さ 10 μmまでミリング加工した.その後,試験片を 60°傾けて,現われたSnめっき断面の金属間化合物の生成挙動をSIMにより調査した.

2.4.2 ウィスカの発生数,長さの経時変化

次に,Snめっき表面のウィスカの発生数の経時変化を調べるために,Fig. 1(a)の保護膜の無い部分に,450 μm×1200 μmの範囲を設定し,SIM像に観察した.ウィスカ密度には多少の粗密があるため,その影響を受けないように十分に広い範囲を観察範囲と設定し,この範囲に含まれるウィスカ数からウィスカ密度を算出した.この際,観察場所にFIBで目印を付け,同一箇所の変化を連続的に観察した.観察日数は200日までとした.

2.5 金属間化合物の組成分析

走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope(SEM):日本電子製,JSM-6301)と,付属のエネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Spectrometer(EDS))を用いて,Snめっき膜断面において生成した金属間化合物の組成を分析した.まず,Snめっき断面より,幅 60 μm,深さ 10 μm,厚さ 3 μmの分析用の試験片を,FIBを用いて作製した.これをピックアップし,SEM/EDSを用いて,Snめっき断面の金属間化合物の点分析を行うことにより,金属間化合物を同定した.

3. 実験結果

3.1 Snめっき膜断面の金属間化合物の生成挙動

3.1.1 未熱処理材

未熱処理試料を室温で保管した場合の,金属間化合物の生成挙動については前報5にて報告した.Fig. 3 にめっき処理後9日目のめっき断面のSIM像を示す.Cu下地めっきとSnめっきの界面のSnめっき側に,灰色のCu6Sn5が多数形成されている.このCu6Sn5の領域は時間の経過に伴ってSn結晶粒界に沿ってくさび状に成長していることを確認した.Fig. 4 は未熱処理試料のめっき直後から200日経過までのめっき断面のSIM像の経時変化を示す.Fig. 4(a)のめっき作製直後の断面を見ると,基材,Cu下地めっき,Snめっきが明確に分かれていることがわかる.しかし時間経過とともに,例えば,Fig. 4(c)並びにFig. 4(d)中の矢印が示すように,Cu下地めっきとSnめっきの界面のSnめっき側に,灰色のCu6Sn5が多数形成されている.このCu6Sn5の領域は時間の経過に伴って増加していることを確認した.

Fig. 3

SIM image of the cross section of the plating system. Elapsed time is 9 days after the plating processing.

Fig. 4

SIM images of the cross sections of the plating system. Elapsed times are (a) immediately, (b) 3 days, (c) 50 days and (d) 200 days after the plating processing.

3.1.2 熱処理材

Fig. 5 は熱処理を行った試料表面のSIM像を示したものである.(a)は未熱処理の試料表面,(b)並びに(c)は 393 Kでそれぞれ 1800 s,3600 s間低温熱処理を行った試料,(d)~(f)は 473~573 Kで 25 s間高温熱処理を行った試料である.(a)の未処理試料では柱状に成長したSnめっきの結晶粒を観察することができる.この試料に低温熱処理をほどこした試料(b)並びに(c)では,処理時間を長くしても結晶粒そのものには変化が見られない.一方,高温熱処理試料をほどこした(d)~(f)では,柱状の凹凸が一部消失している.高温により結晶粗大化,Sn結晶粒界が消失し,結晶粒界が曖昧になっていることがわかる.

Fig. 5

SIM images of the plating surfaces. (a)Sample with no heat treatment. (b)~(f): Heat treated samples. Heat-treatment temperatures and times are as follows: (b) 393 K, 1800 s, (c) 393 K, 3600 s, (d) 473 K, 25 s, (e) 523 K, 25 s, (f) 573 K, 25 s.

Fig. 6 は試料断面のSIM像を示したものである.(a)並びに(b)は 393 Kにおいて熱処理した試料を,(c)並びに(d)は,523 Kにおいて熱処理した試料の断面観察結果を示したものである.図中の矢印で示すように,熱処理後の試料で生成する金属間化合物は熱処理温度の影響を受け,形態が異なることがわかる.

Fig. 6

SIM images of cross sections of the plated samples. Heat-treatment temperatures and times are as follows: (a) 273 K, 600 s, (b) 273 K, 3600 s, (c)523 K, 25 s, (d) 523 K, 60 s.

Fig. 6(a)並びに(b)の 393 Kの低温で熱処理を行った場合,Sn結晶粒界が写真では明確に表れていないが,Fig. 3 に示す未熱処理材と同様に,金属間化合物は結晶粒界に沿ってくさび状に生成していることを写真撮影時に確認した.熱処理時間が長くなると,(b)の(1)に示すように,結晶粒界以外の部分にも金属間化合物が膜状に生成していることが確認できる.一方,523 Kの高温で熱処理を行った場合,Fig. 6(c)並びに(d)に示すように,金属間化合物は膜状に生成し,その断面形状はドーム状を呈し,厚みを増していることがわかる.またSnめっきの断面観察では結晶粒界が曖昧になっているのが観察できた.

熱処理によって生じた金属間化合物を詳細に検討するため,試料をFIB加工し,幅 60 μm,深さ 10 μm,厚さ 3 μmの試料片を取り出した.この試料片を,SEMを用いてEDS分析を行った.Fig. 7 に 393 Kで 3600 s間熱処理を行った試料片の反射電子像を示す.反射電子像ではSIM像と組成コントラストが逆になるが,図に矢印で示すように,反射電子像においてもSnめっき内に灰色の相が多数観察される.このような結果はSIM像の観察結果と共通している.Cu-Sn系状態図より 700 K以下における安定相としてはCu6Sn5とCu3Snが存在するため,EDSを用いて,これらの灰色の相の点分析を行った.同相の元素の平均組成はCuが 69.30 mol%,Snが 25.70 mol%であり,CuとSnの比率が約3:1であった.以上より,灰色の相はCu3Sn金属間化合物であると考えられる.いずれの熱処理温度においても同様の結果であった.熱処理によって生じた金属間化合物に関する研究において,本研究と同様に熱処理によってCu3Sn金属間化合物が生成されることが報告されている9

Fig. 7

Back scattered electron image of the cross section of the plating. Heat treatment conditions: 393 K, 3600 s.

3.2 ウィスカ発生の経時変化

Fig. 8 は,未熱処理材(a)と熱処理温度 393 Kの各処理時間の試料(b)~(d)の200日保管後の試料表面の観察結果を示したものである.これらの図中の矢印はウィスカ長さが 10 μm以上の主要なウィスカを示している.

Fig. 8

SIM images of the plating surfaces. For observation, elapsed times were set at constant, 200 days after heat treatment processing. Heat treatment temperature was constant at 393 K, and elapsed times were : (a) 0 s, (b) 600 s ,(c) 1200 s, (d) 3600 s.

Fig. 8(a)の未熱処理材では,図中に矢印で示すように,試料表面に長短の大量のウィスカが発生している.一方,(b)の 393 K,600 sの熱処理材では,ウィスカの発生数において,未熱処理材とほとんど違いが見られないが,(c)の 1200 sの熱処理試料では,未熱処理材と比較し,ウィスカの発生が少なくなっている.さらに熱処理時間が長い(d)の 3600 sでは,ウィスカの発生が見られない.従って,熱処理温度が低温の 393 Kでは,熱処理時間が 3600 sより長くなるとウィスカは発生しない.

Fig. 9 は,未熱処理試料と熱処理試料を対象に,ウィスカ密度の経時変化を両対数グラフ上に示したものである.図より,未熱処理試料ではウィスカは時間初期において急増し,時間の経過に伴って増加速度が低下する.一方,熱処理温度 393 Kの低温熱処理試料では,熱処理時間 600 sの短時間熱処理試料では,未処理試料と同様にウィスカは時間初期において急増している.しかし,熱処理温度 393 K,1200 sの長時間熱処理試料では,ウィスカ密度は減少している.さらに,熱処理時間を 3600 sとより長時間にした試料では,ウィスカが発生しなかった.

Fig. 9

Variations of the number of whiskers per unit area with an elapsed time after the heat treatment.

熱処理温度を 473 K,523 Kとより高温にすると,上記のSnウィスカの発生は認められず,顕著なウィスカ発生抑制効果が認められた.高温熱処理では,ウィスカ発生密度が0であった.Fig. 9 の縦軸が対数である関係から,ウィスカ発生密度0を,便宜上発生密度を1として示した.

前報5において,未熱処理材の金属間化合物の生成挙動とウィスカ発生の経時変化について調査し,未熱処理材では,試料作製直後の金属間化合物の増加によりウィスカが発生することを明らかにした.本報の熱処理材についても,金属間化合物の生成について注目し,ウィスカ発生との関係について検討した.実験結果を次節以降で報告する.

3.3 金属間化合物量と熱処理の関係

金属間化合物生成量に及ぼす熱処理温度,熱処理時間,熱処理後の経過時間の影響を定量的に検討するために,熱処理後の試料断面をSIM観察した.得られたSIM写真より,灰色の金属間化合物部,並びにSnめっき部のピクセル数をカウントし,これらを式(1)に代入することで,Snめっき膜中の金属間化合物の面積比を算出した.   

金属間化合物面積比 = 金属間化合物ピクセル数 Snめっきピクセル数 + 金属間化合物ピクセル数 (1)

Fig. 10 は,試料作製後の試料の熱処理時間の対数と生成した金属間化合物面積比の関係を示したものである.図中○で囲まれた試料は,試料作製後50日までにウィスカの発生が観察された試料であり,また,○のない実験データは,試料作製後200日まで,ウィスカ発生が観察されなかった.

Fig. 10

Relationship between the heat treatment time and the surface area ratio of intermetallic compound (IMC).

図よりわかるように,熱処理温度が 473~573 Kの高温熱処理では,金属間化合物の面積比(生成量)は処理時間の対数に対してほぼ直線的に増加する.この傾向は処理温度に依らず共通している.

一方,熱処理温度が 333~393 Kの低温熱処理では,金属間化合物の面積比(生成量)は処理時間とともに幾分増加する傾向が認められるが,高温熱処理温度,473~573 Kと比較し,その増加度合いは低い.

3.4 金属間化合物面積比(生成量)の経時変化

めっき試料を室温で保管した場合,金属間化合物面積比(生成量)がどのように変化するか,その経時変化を調査した.

Fig. 11 は,試料作製後室温で保管した場合,金属間化合物の面積比と保持時間の関係を両対数グラフ上に示したものである.図中には既報5の未熱処理試料に関する結果も未熱処理試料として併せて示されている.

Fig. 11

Variation of the surface area ratio of IMC with an elapsed time after the plating processing.

図よりわかるように,未熱処理試料では,めっき作製後最初の7日間前後で,金属間化合物の面積比は0%から10%程度まで急激に増加し,その後200日経過まで,面積比が約20%程度まで徐々に増加する.

一方,熱処理試料では,熱処理によって金属間化合物が面積比で10~20%まで生成している.また,未熱処理材と比較して,明らかに金属間化合物の生成量は多いことがわかる.しかし,試料を室温保管した場合,熱処理材では,金属間化合物面積率の経時変化は,未熱処理材のそれと比較し少ない.多量の金属間化合物が生成する高温熱処理試料では,ウィスカ発生が認められない.一方,低温熱処理や高温短時間熱処理試料では,未熱処理試料と同様にウィスカが発生した.例えば,393 K,処理時間の短い 600 s(□)や 1200 s(△)の試料,あるいは熱処理温度がやや高い 473 K,処理時間が短い 25 s(◆)の試料では,保存10日目までにわずかに金属間化合物が増加している.これらの試料で増加した金属化合物について,未熱処理材同様にCu6Sn5であると考えられるが,本実験においては金属化合物の生成量が少なく同定できなかった.

4. 熱処理より生成する金属間化合物とウィスカ発生に関する考察

4.1 金属間化合物の生成形態に及ぼす熱処理の影響

Fig. 10 の熱処理後の金属間化合物の面積比とウィスカ発生の関係が示すように,低温熱処理と高温熱処理試料では,金属間化合物の生成量が10~20%と同程度であっても,前者では,熱処理後50日までにウィスカが発生するが,後者ではウィスカが発生しないという差異が生じた.従って,ウィスカが発生するか否かは,単に金属間化合物の生成量のみによって決まるわけではないことがわかる.

低温熱処理で,熱処理時間が短い試料では,Fig. 6(a)に示すように,金属間化合物がSnめっきの結晶粒界にくさび状に,生成場所が不均一に成長している.一方,低温熱処理でも処理時間が長い(b)では,金属間化合物の生成はSnめっきの結晶粒界に限定されず,全面に薄く均一に生成している.一方(c)並びに(d)に示す高温熱処理試料では,金属間化合物はSn結晶粒界に限定されず,Sn/Cu界面全面に均一に成長している.

そこで金属間化合物の生成が,Sn結晶粒界に限定されず均一に生成するのか,あるいはSn結晶粒界に不均一に生成するのか,その形態について注目した.

金属間化合物の生成状態をFig. 12 の模式図に示す.この模式図を参照し,式(2)で示される金属間化合物輪郭長さ比(以下輪郭長さ比)を定義した.これを,金属間化合物の均一,不均一の度合いを表す尺度とした.輪郭長さ比の値が1をとることは,生成する金属間化合物が全面を被うように均一に生成していることになる.輪郭長さ比が1より大きくなると,生成する金属間化合物が局所的に成長し,凸凹した不均一な形状をしていることを示す.   

金属間化合物輪郭長さ比 = 金属間化合物 - Snめっき界面長さ Cuめっき - 金属間化合物界面長さ (2)
Fig. 12

Schematic illustration of the IMC/Sn interface and the Cu/IMC interface.

Fig. 13 は,輪郭長さ比を縦軸に横軸に熱処理時間の対数をとり,両者の関係を整理したものである.図からわかるように,金属間化合物の形状は,熱処理温度が 333~393 Kの低温熱処理のグループと,473~573 Kの高温熱処理の2つのグループに分けることができる.低温熱処理では,金属間化合物の輪郭長さ比は1.2以上と比較的大きい.一方,473~573 Kの高温熱処理では,金属間化合物の輪郭長さ比は1.3以下となる.

Fig. 13

Relationship between the heat treatment time and the ratio of IMC interface length.

以上の実験結果が示すように,低温熱処理では,金属間化合物は,Sn-Cu界面の中でSn粒界を優先経路として発生した.そのため,凹凸が多い不均一な生成形態を示す.一方,高温熱処理では,拡散現象の活性化により金属間化合物は多く生じる.そのため,金属間化合物はSn-Cu界面全体を均一に被うように生成する.

Fig. 14 は,本研究で観察された金属間化合物の成長モデルを,低温・高温熱処理,並びに熱処理時間の関係について,模式的に示したものである.

Fig. 14

Schematic illustrations of the growth of intermetallic compounds.

低温熱処理では,Sn粒界はCuの拡散速度が速いので,粒界にくさび状の金属間化合物が選択的に生成する.一方,Sn粒界以外の場所では粒内への拡散となるが,この経路は,粒界拡散に比べ拡散速度が遅いため金属間化合物の生成が遅くなる.従って低温熱処理では,金属間化合物は不均一な生成形態を示す.

高温熱処理では,熱付与によって結晶粒内拡散の速度が向上すること,また,熱処理温度がSnの融点 504.9 K近く,もしくは超えており,Fig. 5 に示すように再結晶もしくは部分的な融解による結晶粒界の消滅がおこっていると考えられる.そのため,高温熱処理では,結晶粒界での金属間化合物の優先的な成長の割合が低下し,金属間化合物は空間全体を均一に被うように生成する.

4.2 ウィスカ発生に及ぼす熱処理の影響

金属間化合物の生成面積比,輪郭長さ比がウィスカの発生にどのような影響を及ぼすかについて検討する.Fig. 10 の金属間化合物の面積比と熱処理時間の関係,並びにFig. 13 の輪郭長さ比と熱処理時間の関係を用いて,熱処理時間を媒介変数として金属間化合物の面積比と金属間化合物の輪郭長さ比の関係を検討した.結果をFig. 15 に示す.

Fig. 15

Map showing the whisker generation region.

図中の点線はウィスカの発生領域と発生しない領域の境界を示したものである.点線より左上の領域では,熱処理後50日までにウィスカが発生している.この領域は,金属間化合物の生成量が10%以下と少ないか,15~20%と多い場合でも輪郭長さ比が1.2以上の金属間化合物が不均一に生成する領域である.金属間化合物が15~20%と多く生成する領域では,金属間化合物が一部のSn結晶粒界に多く生成し,ほとんど,または,わずかしか生成しないSn結晶粒界が存在することを示している.一方,点線の右下のウィスカが発生しない領域は,金属間化合物の生成量が10%以上と多く,かつ,輪郭長さ比が1.2以下の金属間化合物が均一に生成する領域である.

以上,まとめると,金属間化合物が均一に多く生成する領域,すなわち高温熱処理かつ長時間熱処理ではウィスカの発生が抑制される.

前報5の未熱処理材では,CuのSn粒界への優先的な拡散によりSn結晶粒界近傍に金属間化合物が生成し圧縮残留応力が発生する.この残留応力を解消するために,Sn結晶粒界直上のSnがウィスカとしてSn面上に発生することを報告した.

本報の,低温熱処理,短時間熱処理試料におけるSnウィスカ生成機構は,既報の未熱処理材におけるものと同一であると推察される.

一方,高温熱処理,長時間熱処理ではSnウィスカ生成は認められなかった.これは,金属間化合物がSn粒界近傍だけではなく,Sn-Cu界面全体を均一に被うように生成することに関係すると考えられる.金属間化合物の生成によりSnめっき膜に生じる圧縮残留応力は,CuとSnの界面全体に生じ,特定の箇所に大きな圧縮残留応力が生じない.従って,未熱処理材におけるような,Sn粒界近傍限定型のウィスカが生成しない.

高温熱処理,長時間熱処理において,Snウィスカ生成が生じにくいもう一つの理由は,高温による結晶粗大化,結晶粒界の消滅によるSn結晶粒界数の減少によって,Sn粒界近傍限定型のウィスカが生じにくくなることが考えられる.

Fig. 16 は未熱処理材,高温熱処理材(573 K)の保護膜が無い部分の,めっき表面とめっき断面の同じ場所を撮影したものである.上段と下段の図は,それぞれめっき表面,めっき断面にコントラストを調整し,撮影した写真を示している.図中の矢印は同一場所を示している.未熱処理材に対する,図(a)と(a’)から,(1)Sn結晶粒界に沿って,金属間化合物がくさび状に生成していること,(2)Sn結晶粒がめっき表面の盛り上がった一つ一つの柱状の山に対応していること,(3)谷部がSnの結晶粒界に対応していることがわかる.一方,573 Kの高温熱処理を行った図(b)と(b’)においては,Snめっき表面は熱処理により一部が溶融し平滑になっている.また,めっき断面には,未熱処理材と異なり,粒界が認められず,金属間化合物はCuとSnの界面全体に生じている.以上のFig. 16 の観察結果は,前述の推論と対応している.

Fig. 16

SIM images of surface and cross sections of the samples. Elapsed times are 285 days. (a) Sample with no heat treatment. (b) 573 K 25 s. (a’) and (b’) are high contrast images of the same place.

以上より,高温で,かつ長時間熱処理を施すことによって,均一な膜厚で多量の金属間化合物を生成させることで,くさび状の金属間化合物の発生を抑制し,ウィスカ発生を抑制することができる.既報の未熱処理材の結果と比較しても,熱処理による有効性が確認できた.

5. 結言

Sn/Cu 2層めっき界面に熱処理により生じる金属間化合物の形態とウィスカ抑制の関係について,Snめっき断面の金属間化合物の生成量,形態とウィスカの発生の関係を調査し,以下の結論を得た.

(1) 熱処理により生成する金属間化合物はCu3Snである.熱処理温度,並びに熱処理時間の増加に伴って生成する金属間化合物の量は増加する.また,低温熱処理では,金属間化合物は結晶粒界にくさび状に不均一に成長した.一方,高温熱処理では,金属間化合物は膜状に生成し,その断面形状はドーム状を呈している.

(2) 熱処理によりウィスカの発生を抑制できた.ただし,金属間化合物の生成量の少ない低温熱処理や短時間の熱処理では十分にウィスカ発生を抑制できなかった.

(3) 高温熱処理,長時間熱処理ではSnウィスカ生成は認められなかった.金属間化合物は,Sn粒界近傍ではなく,生成場所全体を均一に被うように生成した.金属間化合物の生成により生じる圧縮残留応力は,CuとSn結晶膜の界面全体に生じる.そのため,非熱処理材におけるような,Sn粒界近傍限定型のウィスカが生成しない.

(4) 低温,短時間熱処理では,CuはSn結晶粒界に優先的に拡散しCu3Sn金属間化合物を形成する.しかし金属間化合物はSn粒界に優先的に成長するため,Sn結晶粒界近傍に圧縮残留応力が生成する.この残留応力を解消するために,Sn結晶粒界直上のSnがウィスカとしてSn面上に発生した.

(5) ウィスカの生成をなくすためには,金属間化合物量とその形状が重要である.本実験におけるめっき条件Cu 1 μm,Sn 2 μmのめっきでは,金属間化合物の量として面積比が15%程度以上,生成形態として輪郭長さ比を1.3以下にすることでウィスカの発生を抑制できる.

引用文献
 
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