Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Pulsed Electric Current Sintering of FeS Powder
Kazuya HorieKohei UetaMakoto Nanko
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2018 Volume 82 Issue 8 Pages 277-280

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抄録

Hot hammer forging is a useful manufacturing process for producing mechanical parts with excellent mechanical properties. One of the problems in this forming process is seizure between die and work-piece. It does not only decrease quality of the products and the productivity but also put a worker in danger. In order to avoid the seizure in forging process, sulfonitriding to die surface has been often applied. The surface treatment provides a nitrided zone with a sulfide layer as a top layer. The nitrided zone has higher hardness of the die while the sulfide layer improves anti-seizure ability and decreases the friction coefficient. The sulfide layer on the die surface is constituted of Iron sulfide (FeS). However, mechanical and physical properties of FeS have not been investigated yet. In the present study, pulsed electric current sintering of FeS powder was studied to fabricate dense sintered bodies of bulk FeS for evaluating physical and mechanical properties. Some mechanical properties such as Vickers hardness and fracture tougŠess of sintered FeS were evaluated in the present report.

1. 緒言

工業分野において,鍛造は様々な形状の金型で被加工材を目的の形状に変形させる加工方法である1,2.この方法によって製造される機械部品は様々な優れた特徴を持ち3 ,各種製品製造に利用される4.熱間ハンマー型鍛造の場合,高温に熱した材料と鍛造金型が強固に固着するという,「焼付き」と呼ばれる問題が発生することがある5,6,7.これは製品品質や生産性を著しく低下させるばかりでなく,生産従事者を危険にさらすこともある.これを防ぐために今までにも潤滑剤など様々な方策がとられており8,9,10,金型材料の表面処理も多く検討されている11.金型材料の表面処理の一つに浸硫窒化処理がある12,13,14,15,16,17,18,19.これは,摩擦係数の低減と耐焼付き性の向上を目的とした硫化物層と,金型の硬さ向上や長寿命化を目的とした窒化層の形成を500°C程度の高温で処理するものである.浸硫窒化処理における耐摩耗性向上のメカニズムには不明な面も多い20.したがって,硫化物層が耐摩耗性などにどのように作用しているかを検討し,明らかにすることはその応用上で非常に重要である.硫化物層は主にFeSからなるため,そのFeSの物性詳細は欠かせない要素となる.しかしながら,そのFeSの物性がほとんど調査されていないどころか,FeSの特性を評価するための緻密なバルク体を得る方法も報告がない.そこで本研究ではFeSのパルス通電焼結(PECS)を試みた.パルス通電焼結は急速加熱が可能な焼結であり,不安定な物質の焼結固化に多くの実績がある21,22

TiやCuの硫化物はPECSによる焼結固化によりS成分の減少が報告されている23,24,25.これらの硫化物同様にFeSにおいても,S成分が減少する可能性がある.本研究では,FeSの緻密化に加えて,その焼結前後でのS成分の変化に着目した.

今回,この焼結時の還元を防ぐために窒化ホウ素(BN)の粉末の中に埋没させて焼結することを試みた.BNはその熱的安定性の高さから,FeSと反応せずに黒鉛型との接触を防止できると期待できる.また,BNは焼結性が低いため,焼結後の試料除去も容易である.

2. 実験方法

Fig. 1 はFeS焼結体の作製方法の模式図である.市販FeS粉末(高純度化学 平均粒径 60 μm 純度99%以上)を乳鉢と,窒素ガス中でのボールミルで粉砕した後,直径φ15 mm,厚さ約 5 mmで圧粉体を仮成形し,それをPECS用炭素型内へ窒化ホウ素粉末(高純度化学 平均粒径 10 μm 純度99%以上)と一緒に埋没させ,PECS装置を用いて焼結した.焼結温度700,800,900°C,昇温速度は到達焼結温度の100°C手前までは100°C/min,50°C手前までは50°C/min,その後は10°C/minで昇温した.焼結圧力 45 MPa,焼結保持時間 15 min,真空度 6 Paで焼結を行った.焼結後のバルク体は耐水ペーパーで#3000までの研摩をケロシンを使用して行った.また,ボールミル後のFeS粉末と焼結後のFeSバルク体をX線回折(XRD)により相同定を行った.併せて,焼結前後でのFeSの化学量論組成の確認を行った.Fig. 2 はその手順の模式図である.FeS粉末の化学量論組成を確認するため,大気中で1000°C,24 hで酸化処理を行った.FeS中のSは酸化によって完全に除去され,タンマン管内にはFe2O3 のみが残るので,その処理前後の質量を測定することにより,FeSの化学量論を計算した.また,焼結体の密度測定にはトルエンを用いたアルキメデス法で測定した.硬さは室温でのビッカース硬さ試験(荷重:49 N,保持時間 10 s)で評価した.破壊靭性値の測定はIndentation Fracture法(IF法)を用いた26.ビッカース硬さ試験や破壊靭性値には比較対象として,実際の熱間鍛造時にワーク材としてよく使用される炭素鋼(S55C),酸化皮膜の主構成となるFeOを準備した.なお,鉄酸化物の作製については既報の通りである27

Fig. 1

Schematic illustration of production flow and sintering condition of sintered FeS using PECS.

Fig. 2

Schematic illustration of confirmation of stoichiometry of FeS.

3. 実験結果

Fig. 3 はボールミル粉砕後(焼結前)のFeS粉末のSEM像とXRDパターン,Fig. 4 に900°C焼結後のFeS焼結体の破面SEM像とXRDパターンを示す.ボールミル後FeS粉末のおおよその粒径は 11 μmであった.また,焼結後は 19 μmであった.焼結前後でFeS以外の不純物相は確認されず,焼結後の酸化や還元は生じていなかった.また900°CでのFeS焼結体は目立った気孔は確認されず,ほぼ緻密化していることがわかった.

Fig. 3

SEM image and XRD pattern of FeS powder after ball milling.

Fig. 4

SEM image and XRD pattern of FeS after sintering.

Fig. 5 にFeS焼結温度とかさ密度の関係を示す.焼結温度の上昇とともにかさ密度も上昇し,900°Cで 4.62 g・cm-3 に達していた.研摩した焼結体は,金属光沢を示していることがわかった.Fig. 6 に900°Cで焼結し,研摩を施した後のFeS焼結体外観写真を示す.

Fig. 5

Relationship between sintering temperature and density of FeS after sintering.

Fig. 6

Bulk FeS sintered at 900°C after polishing.

ボールミル粉砕後のFeS粉末と,焼結後のFeSの化学量論組成を検討した.前出のFig. 2 の方法で行い,ボールミル粉砕後(焼結前)のFeS粉末では,Fe:S=0.89:1となった.同様に焼結後のものでは,Fe:S=0.93:1となり,焼結後にS成分の減少が確認された.

Table 1 はFeS焼結体と関係する材料の室温での機械的諸特性をまとめたものである.FeS焼結体のビッカース硬さはHV190,破壊靱性値KICは 1.1 MPa・m1/2 となった.それぞれの値は,鋼の酸化皮膜の主成分であるFeO27のビッカース硬さHV400,破壊靱性値KIC 1.5 MPa・m1/2 と比較しても低い値を示した.

Table 1

Mechanical properties of sintered FeS and other Fe materials.

4. 考察

本研究ではPECSによるFeS焼結体の緻密体の作製を行った.その結果,900°C,45 MPaでほぼ緻密化できることがわかった.その際に焼結前後でS成分が減少したことを確認した.これはPECSによってFeSのS成分が揮発したものと考えられる.Pearsonによれば28,FeSの密度は,S成分の増加に伴い,減少することが報告されている.したがって本焼結体の理論密度を求めるにはFeS中のS成分を知る必要がある.この化学量論組成のモル比を改め直すとFe:S=48.3:51.7となる.Pearsonの報告をもとに今回のFeS焼結体の理論密度は4.68 g・cm-3となった.この結果からPECSにより900°Cで焼結したFeSは98.7%の相対密度となり,十分に緻密なものを得られることがわかった.ここで,PECS前のFeS粉末の化学量論組成の初期値Fe0.89S(Fe:S=0.89:1)はPECS後にFe0.93S(Fe:S=0.93:1)と変化したが,PECSによるS成分の減少はそれほど大きくないので,S成分の制御をSやFeを加えることによってコントロールすることも可能であると考えられる.

PECSによる焼結において,焼結体の試料中心部と外周部の温度差が発生することが報告されている29,30.今回のFeS焼結体に関しても硬さや粒径の分布を調査をしたが,有意な差は確認できなかった.今回のFeS焼結は,試料中心部と外周部での顕著な温度差が現れる大きさではなかったものと考えられる.

また,FeS焼結体の常温でのビッカース硬さ,破壊靭性値は鍛造時に使用される金型鋼,鍛造材料,熱間鍛造時に鍛造材料を覆う酸化皮膜と比較して低いことがわかる.FeSが金型表面に存在する場合,軟らかいFeSが硬い窒化層を保護して摩耗させずに,金型とワークの材料間の潤滑剤としての役割を果たすものと考えられる.

5. 結論

本研究では鍛造金型の表面処理のひとつである浸硫窒化処理を構成する硫化物層の主たる物質であるFeSをPECSにより緻密なバルク体を作製することに成功し,機械的特性の評価を行った.

ボールミル等で微細化したFeS粉末のPECSにより,温度900°C,圧力45 MPaの焼結条件で緻密な焼結体が得られた.PECSによるFeSの焼結では焼結前後の化学量論組成のS成分がFe0.89SからFe0.93Sへわずかに減少した.FeS焼結体のビッカース硬さ,破壊靭性値は鍛造時に関連する材料のそれよりは低いことがわかった.

謝辞

本研究成果の一部は,総合科学技術・イノベーション会議の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術」(管理法人:NEDO)によって実施されたものである.関係各位に深く感謝申し上げます.

引用文献
 
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