Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Fabrication of Aluminum Foam by Casting Precursor Method
Ryosuke SuzukiTakuma Nishimoto Yoshihiko HangaiIkuo ShojiMasaaki Matsubara
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2018 Volume 82 Issue 9 Pages 349-357

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抄録

This study proposes a casting precursor method for low-cost manufacture of large aluminum foams with complex shapes. We experimentally investigated whether a precursor with low porosity can be used to fabricate an aluminum foam with high porosity. Pure aluminum powder and alumina powder as a thickening agent were added to a molten ADC12 aluminum alloy, and the melt was mixed. Then, titanium hydride powder as a foaming agent was added to the melt, and it was mixed again. The melt was poured into a copper mold and a columnar foamable precursor was obtained. An aluminum foam with maximum porosity of 80% was obtained by heating the precursor (1 mass% pure aluminum powder, 1 mass% alumina powder, 1.5 mass% titanium hydride powder and 96.5 mass% ADC12 aluminum alloy) at 948 K for 7 min. The compressive behavior of the produced aluminum foam was close to that of an ADC12 aluminum foam made in previous research, indicating that the new approach has promise. However, the precursor had about 40% porosity because the titanium hydride decomposed during casting. Thus, we attempted to prevent decomposition of the foaming agent during the casting process. The porosity was increased by increasing the amount of pure aluminum powder added. In contrast, increasing the amount of alumina powder added had almost no effect on porosity because the alumina particles did not disperse fully in the melt due to their low wettability with alumina. The titanium hydride powder was heat treated to prevent its decomposition during the casting process. The heat-treated powder decreased the porosity of the precursor, but the porosity of the aluminum foam also decreased. A low-cost foaming agent with a decomposition temperature higher than that of titanium hydride is needed for low-cost manufacture of aluminum foam by the casting precursor method.

1. 緒言

環境負荷低減や燃費向上の観点から輸送機器の軽量化が重要となっており,軽量構造材料としてアルミニウム合金が広く用いられている.特に,鉄道,船舶,航空機および宇宙機といった大型輸送機に関しては,アルミニウムハニカムコアサンドイッチ(Aluminum Honeycomb Core Sandwich, AHCS)材料1が広く利用されている.コア材となるアルミニウムハニカムが薄肉構造体であり,コア材とスキン材の接合部の有効接合面積が小さくなるため,コアとスキン材の接合が難しい.アルミニウムハニカムコアと板材を所定の形状に成形してから接合させる必要があるので,複雑形状のAHCSを作製することは特に難しい.

作製の難しいAHCSの代替材料となる軽量材料として,ポーラスアルミニウムをコア材料としたポーラスアルミニウムコアサンドイッチ(Aluminum Foam Core Sandwich, AFCS)材料2,3,4,5の利用が提案されている.ポーラスアルミニウムは多数の気孔を内包したアルミニウム基複合材料である.高気孔率のポーラスアルミニウムは密度が 0.2 g/cm3以下にもなる超軽量材料である.ポーラスアルミニウムの作製方法の一つにプリカーサ法がある.プリカーサ法では高温でガスを放出する発泡剤粒子と発泡過程で気孔を安定化させる増粘剤粒子を均一に分散させた前駆体であるプリカーサを作製し,そのプリカーサを高温に加熱して金属相の軟化・溶融および発泡剤の分解に伴うガス放出を利用してポーラスアルミニウムを得る2,6.ポーラスアルミニウム作製過程において,緻密なプリカーサを得ることができるため,プリカーサにスキン材を接合圧延などにより接合した後に加熱・発泡させることができるので,AHCSよりも簡単にAFCSを作製することが可能である.

一般的なプリカーサ法である粉末法ではアルミニウム合金粉末を素材として用いるため,素材コストが高価である.安価な板材を素材として用いるプリカーサ法として圧延接合(Accumulate Roll Bonding, ARB)法7,8や摩擦攪拌(Friction Stir Processing, FSP)法9,10が提案されている.これらの方法では複数枚の板材の間に発泡剤粉末および増粘剤粉末を挟んで圧延接合または摩擦攪拌を繰り返し施すことで,発泡剤粒子および増粘剤粒子が均一に分散したプリカーサを得る.しかしながら,ARB法では板材の接合界面に粉末を添加しての接合が困難であり,FSP法ではツールサイズが小さいため1パスでの接合範囲が狭く数パスの摩擦攪拌を要するため生産性に劣る.切削屑のような廃材を素材として圧縮ねじり11,12のような強ひずみ加工を利用してプリカーサを作製する方法も提案されているが,得られるプリカーサのサイズや生産性に問題がある.

大型のポーラスアルミニウムを比較的安価に作製することが可能な方法として鋳造を利用する方法がある6,13,14.鋳造を利用する方法にはアルミニウム溶湯に発泡剤粉末を投入して直接発泡させ,凝固することによってポーラスアルミニウムを得る溶湯発泡法6,14や,溶湯内に注入管を介してガスを吹き込み,気孔を導入した後,凝固させてポーラスアルミニウムを製造する直接ガス吹込法6,13がある.しかしながら,鋳造を利用する方法では複雑形状のポーラスアルミニウムを作製することが困難である.

AFCSを広い工業分野で利用するためには,複雑形状かつ大型のポーラスアルミニウムを安価に作製する方法が必要である.しかしながら,プリカーサ法は複雑形状部材の作製は容易であるが素材が高価で生産性も低い,鋳造を利用する方法では比較的安価にポーラスアルミニウムを得られるが複雑形状部材の作製が困難である.

そこで,プリカーサ法と鋳造を利用する方法の利点を併せ持つ鋳造プリカーサ法を提案する.鋳造プリカーサ法では,アルミニウム溶湯に増粘剤および発泡剤を添加後攪拌して冷却することで緻密なプリカーサを作製する.鋳造プリカーサ法は,ポーラスアルミニウムの作製過程において緻密なプリカーサを得ることができるため複雑形状部材の作製が容易であり,プリカーサの作製に鋳造を用いるので素材は安価なアルミニウム合金のバルク材料を用いることが可能であり生産性もよい.本研究では,鋳造プリカーサ法を用いて緻密なプリカーサおよび高気孔率ポーラスアルミニウムを作製できるか実験的に調べる.鋳造によるプリカーサ作製過程において発泡剤が分解しにくい低融点Al-Siアルミニウム合金(ADC12)をマトリックスのモデル材料として,一般的に用いられている発泡剤である水素化チタン(TiH2)粉末を利用した.高気孔率ポーラスアルミニウムを得るためにはマトリックスの粘度が重要となるので,鋳造プリカーサ法により作製されるポーラスアルミニウムの気孔率におよぼす増粘剤添加の影響についても調べた.プリカーサ作製過程におけるTiH2の分解を抑制するための方法として,TiH2に熱処理を行う方法15,16,17がある.本研究では,TiH2の熱処理が鋳造プリカーサ法により作製されるポーラスアルミニウムの気孔率におよぼす影響についても調べた.

2. 実験方法

本研究ではプリカーサ作製中に発泡剤が分解しにくい低融点のADC12アルミニウム合金をポーラスアルミニウムのマトリックスとして選択した.実験装置の模式図をFig. 1 に示す.加熱には自作の坩堝炉を用いた.ADC12アルミニウム合金を溶解する坩堝として,日本ルツボ株式会社製2号の黒鉛坩堝(口径φ 85 mm,底径φ 60 mmおよび高さ 106 mm)を用いた.ADC12アルミニウム合金溶湯に増粘剤および発泡剤を分散させるため,攪拌装置として東京理化器械株式会社製攪拌機MAZELA ZZ-2121を用いた.攪拌にはスリーワンモータ社製汎用攪拌翼φ 38 mmファンを先端に,φ 50 mmボス付きプロペラRを先端から 20 mmの位置に取り付けたφ 8 mm長さ 500 mmのステンレス攪拌軸を用い攪拌した.攪拌前に攪拌軸および攪拌翼にはBNスプレーを塗布した.

Fig. 1

Experimental setup.

プリカーサ作製方法をFig. 2 に示す.ADC12アルミニウム合金約 80 gを坩堝に入れ,坩堝ごと坩堝炉に挿入し溶湯温度が 873 Kになるまで大気雰囲気で加熱し,ADC12アルミニウム合金を溶融した.ADC12アルミニウム合金溶湯に増粘剤として,作製されるプリカーサの質量に対して純アルミニウム粉末(粒子径dAl≈3 μm)1.0 mass%およびAl2O3粉末(粒子径dAl2O3≦1 μm)1.0 mass%を添加して 500 rpmで 20 min攪拌した.溶融したマトリックス中に微細な粒子があると溶融マトリックスの粘度が高くなり,気孔が安定することが知られている18,19,20,21.純アルミニウム粉末は粉体表面に存在する酸化物の破壊と分散により溶湯の粘性を増加させる目的で鋳造法によるポーラスアルミニウム作製において増粘剤として利用されており22,23,24,Al2O3粉末は鋳造法のみではなくプリカーサ法に関するポーラスアルミニウムの研究においてもよく増粘剤として利用されている11,20,25

Fig. 2

Manufacturing process of the foamable precursor.

増粘した溶湯に発泡剤としてTiH2粉末(粒子径 45 μm以下)を 1.5 mass%添加し 1200 rpmで 1 min攪拌した.増粘剤および発泡剤の粒子を分散させた溶湯を内径φ 15 mm高さ 200 mmの銅製金型に注湯した.これを空冷したのち,金型より取り出すことでプリカーサを得た.このプリカーサに関する試験片を以後Normalと呼ぶこととする.走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてNormalプリカーサの断面の反射電子像(BEI)を観察した.

発泡体の気孔率におよぼす増粘効果の影響を調べるため,Al2O3粉末 0 mass% TiH2粉末 1.5 mass%および純アルミニウム粉末添加量がnAl=0,1,1.5,2および 3 mass%と異なるプリカーサを作製した.このプリカーサに関する試験片を以後PAlCと呼ぶこととする.同様に純アルミニウム粉末 1 mass% TiH2粉末 1.5 mass%およびAl2O3粉末添加量がnAl2O3=0,1,2および 4 mass%と異なるプリカーサを作製した.このプリカーサに関する試験片を以後Al2O3Cと呼ぶこととする.

プリカーサ作製過程におけるTiH2の分解を抑制するためにTiH2粉末を熱処理温度T=773 K15または 823 K15で 2 hの間,大気雰囲気中で保持する熱処理を行った.気孔率におよぼすTiH2粉末への熱処理の影響を検討するために,純アルミニウム粉末 1 mass%,Al2O3粉末 1 mass%および熱処理したTiH2粉末 1.5 mass%を溶湯に添加したプリカーサを作製した.このプリカーサに関する試験片を以後TiH2Cと呼ぶこととする.PAlC,Al2O3CおよびTiH2Cプリカーサの作製にはNormalプリカーサを作製したものと同じ実験装置を用い,作製時の炉温,雰囲気および攪拌時間もNormalプリカーサ作製時と同様とした.Normal,PAlC,Al2O3CおよびTiH2Cプリカーサの作製条件についてTable 1 にまとめる.TiH2の熱処理をしなかった試験片に関しては,TiH2の熱処理温度Tの欄には 300 K(室温)と表記する.

Table 1

Kinds of the specimens fabricated in the study.

Normal,PAlC,Al2O3CおよびTiH2Cプリカーサをφ 15 mm×10 mmの円柱状の試験片に切り出した.金型の底部からプリカーサの中心位置までの距離をxとして定義した(Fig. 3).切り出した試験片の密度ρfをアルキメデス法で測定し次式を用いて気孔率p(%)を算出した.   

p=( 1- ρ f ρ i ) ×100 (1)
ここで,ρiは試験片の理論密度である.試験片をセラミックスセッターの上に載せて 948 Kに加熱した電気炉内に挿入し,大気雰囲気で 7 min保持したのち,取り出して空冷する発泡試験を行った.その後,アルキメデス法で密度測定を行い,式(1)を用いて試験片の気孔率を求めた.試験片を半分に切断しセル形態を観察した.試験片の断面を写真撮影し画像解析ソフトimage J(ver. 1.45l)を用いて気孔の面積を求め,最大気孔径dmaxおよび平均気孔径dmを相当円直径として算出した.   
d max = 4 A max π (2)
  
d m = 1 n i=1 n 4 A i π (3)
ここで,Amaxは気孔面積の最大値,Aiは気孔一つの面積およびnは気孔の総数である.気孔径のばらつきを確認するために標準偏差σpも求めた.
Fig. 3

Coordinate of the precursor.

鋳造プリカーサ法で作製されるポーラスアルミニウムの機械的特性を調べるため,Normalプリカーサを内径φ 16 mmのステンレス製薄肉円管に挿入し,948 Kに加熱した電気炉内で 7 min発泡させ,φ 15 mm×15 mmの試験片に切り出した.油圧万能試験機を用いてクロスヘッド速度 1 mm/minでNormalポーラスアルミニウムの圧縮試験を行った.比較のために神鋼鋼線工業製のポーラスアルミニウムALPORAS14から一辺 17 mmの立方体試験片を切り出して同様の圧縮試験を行った.

3. 実験結果および考察

3.1 プリカーサ

Normalプリカーサの気孔率を試験片位置の関数としてFig. 4 に示す.底部から 20 mmまでの気孔率は10%未満であった.一方,20 mm以降は気孔率が約40%と比較的高くなった.PAlC,Al2O3CおよびTiH2Cプリカーサの気孔率もNormalプリカーサの気孔率と同様に底部近傍で低く,それ以外で高くなった.

Fig. 4

Porosity plotted as a function of position.

x=5 mmおよびx=55 mmのNormalプリカーサの断面のSEM観察結果をFig. 5 に示す.反射電子像は原子番号が大きいほど白く見える.濃い灰色の領域はADC12アルミニウム合金,黒い円形の領域は気孔および気孔の縁に白く見える粒子が発泡剤粒子である.x=5 mmのNormalプリカーサはx=55 mmのNormalプリカーサと比較して気孔が少なかったx=5 mmおよびx=55 mmのNormalプリカーサのどちらも,発泡剤粒子は気泡の内壁に存在しており,セル壁内部にはほとんど存在しなかった.

Fig. 5

SEM (BEI) micrographs of the cross section area of the Normal foams. (a) corresponds to x=5 mm and (b) corresponds to x=55 mm.

PALC試験片に関しては,nAl≧1.5 mass%では粘性が高すぎて金型に注湯することができず,本研究の実験条件においてはプリカーサを作製できなかった.

3.2 発泡体

Normal発泡体の気孔率をFig. 4 に示す.底部から 20 mmまでの気孔率は10%未満と低いが,20 mm以降はおおむね60%以上の気孔率となった.Normal試験片の気孔率が低い領域と高い領域は発泡試験前後で一致した.

アルミニウム溶湯中のTiH2の熱分解に関しては,Yangら26により熱分解反応速度式を用いた解析が行われており,温度が高いほど早く分解することが報告されている.Yangらの解析によれば 933 Kのアルミニウム溶湯中であっても,60 s保持して分解するTiH2は約55%である.本研究におけるプリカーサ作製過程の溶湯温度は 873 Kであり,Yangらにより解析された溶湯温度と比較してさらに低く,TiH2が添加量の55%を超えて分解したとは考えにくい.55%のTiH2が分解済みであったとしても,単純計算で 0.68 mass%の未分解TiH2がプリカーサ内部に残留していることになる.プリカーサはTiH2が 0.6 mass%含有していれば十分に発泡することが知られている27,28.また,Saitoら29は,本研究の溶湯温度より高い 908 Kに加熱した固液共存状態のA2024アルミニウム合金に,TiH2粉末を 1 mass%添加して 100 s攪拌後冷却することで作製したプリカーサを 943 Kに加熱することで,投影面積で3倍に膨張することを報告している.金型底部から 20 mmまでの試験片が発泡しなかった原因がTiH2の消耗とは考えにくい.

液相線温度に近い 873 Kの溶湯を室温の銅製金型に注湯しているので,溶湯は注湯後すぐに凝固すると考えられる.注湯後にTiH2が上部に移動することは困難である.また,Normal,PAlC,Al2O3CおよびTiH2Cプリカーサを作製過程において,溶湯を坩堝から金型に注湯する際,流動性の高い溶湯が金型に流れ込んだ後,遅れて流動性の低い溶湯が金型に流れ込む様子が観察されている.

したがって,金型底部から 20 mmまでの試験片がほとんど発泡しなかった原因は,発泡剤添加後の溶湯の攪拌が不十分であり,TiH2粒子が金型底部近傍のプリカーサにほとんど含まれていなかったためと考えられる.

ADC12のようにTiH2の分解温度に対して液相線温度が低い合金であれば,933 K以下の温度の液相または固液共存状態で,TiH2粉末を添加して 60 s程度の短い時間の攪拌を行うことで,鋳造プリカーサ法により気孔率60%以上の発泡体を得ることは可能である.純アルミニウムに近い化学組成を有する液相線温度が高い合金の場合には,プリカーサ作製過程におけるTiH2粉末の消耗が大になるので,高気孔率発泡体を作製するためには分解温度の高い発泡剤の利用を検討する必要がある.

Normal発泡体のセル形態観察結果をFig. 6 に示す.Fig. 6 に対応するNormal発泡体の平均気孔径,最大気孔径および気孔径の標準偏差をTable 2 にまとめる.低気孔率であったx=5 mmのNormal発泡体では,小さな気孔がわずかに上部だけに存在しており,x=25 mm,65 mmおよび 95 mmのNormal発泡体では,気孔は比較的均一に分布していた.xの増加に伴い気孔率は増加したが平均気孔径はほとんど変わらなかった.x=65 mmおよび 95 mmのNormal発泡体に関しては最大気孔径が平均気孔径の5.4倍および3.7倍であり,一部の気孔が粗大化していた.気孔径の標準偏差σpxの増加に伴い単調増加しており,気孔率の高いNormal発泡体では気孔径のばらつきが大きかった.高気孔率かつ気孔径の均一な気孔が一様に分布する発泡体を得るためには,増粘剤の増加や変更または半凝固状態30の利用などにより発泡過程のマトリックスの粘度を増加させる必要がある.

Fig. 6

Cross section area of the Normal foams with different positions.

Table 2

Mean pore diameter, maximum pore diameter and a standard deviation of the Normal foams in Fig. 6.

PAlC発泡体の最大気孔率および平均気孔率を純アルミニウム添加量nAlに対してFig. 7 に示す.nAl=1.0 mass%の平均気孔率および最大気孔率はそれぞれ61%および78%であった.

Fig. 7

Porosity plotted as a function of additive amount of Al powder.

楊ら22,23は平均粒子径dAl=60 μmの純アルミニウム粉末 5 mass%を 903 KでAC4C合金溶湯に添加して,大気中で 600 rpmで 20 min攪拌することで,純アルミニウム粉末表面の酸化物の破壊と分散および溶湯の酸化により溶湯の増粘を行い,攪拌トルクが同攪拌条件の純アルミニウム粉末無添加の溶湯の約1.2倍,攪拌前の約1.7倍になることを確認している.粒子が分散した溶湯をニュートン流体と仮定した場合,見かけの粘度η′と攪拌トルクNには次式の関係があることが実験的に知られており31,攪拌トルクの増加は見かけ粘度の増加に対応している.   

η = αN( 1- β 2 ) 4π r 2 LΩ (4)
ここで,αは補正係数,βは坩堝径と攪拌プロペラ径の比,rは攪拌プロペラの半径およびLは攪拌プロペラの浸漬深さである.本研究では攪拌トルクを計測していないため,純アルミニウム粉末添加による溶湯粘度の上昇を定量的に議論することはできないが,純アルミニウム粉末添加による気孔率の増加および純アルミニウム粉末を 1.5 mass%以上添加すると溶湯の粘性が高すぎて溶湯を金型に注湯することができなかったことから,本研究でも純アルミニウム粉末の添加により溶湯の粘度は上昇したと考えられる.

本研究で用いた純アルミニウム粉末の粒子径は約 3 μmであり,楊らの用いた平均粒子径 60 μmの粉末と比べて約20分の1である.実際には,粉末粒子表面の酸化物厚さは粉末製造方法や前処理などにより異なるが,両粉末を粒子表面が厚さ 100 Å32の酸化物(Al2O3)に覆われた球状粒子と仮定し,粒子表面の酸化物が全て溶湯に分散したと考えた場合の酸化物体積率の増加を計算した結果を純アルミニウム粉末の添加量の関数としてFig. 8 に示す.3 μmの純アルミニウム粉末を 1 mass%添加した場合の酸化物の増加は,60 μmの純アルミニウム粉末を 5 mass%添加した場合と比べ約3.4倍である.楊ら22の研究では純アルミニウム粉末をAC4C溶湯に添加してから 20 min大気中で攪拌することで,溶湯中の酸化物の量が 4.6 vol.%になることが確認されている.純アルミニウム表面の酸化物量と攪拌後の酸化物量が比例するのであれば,式(6)に示すElinstein22の式より,本研究の溶湯粘度は,純アルミニウム粉末添加および攪拌前の1.4倍程度増加したことになる.   

η = η 0  ( 1+2.5 V c ) (5)
Fig. 8

Increase of oxide volume fraction by pure Al powder addition.

しかしながら,1 mass%純アルミニウム粉末を添加した場合に粒子表面の酸化物の破壊・分散による溶湯内部の酸化物の増加は約 2.0 vol. ppmと小さく,粒子表面の酸化物の破壊・分散のみによる増粘効果は大きくないと考えられる.

楊ら22は,溶湯の見かけ密度の増加は溶湯中の酸化物粒子の体積増加だけでは説明できず,ZettlemoyerとLowerが提案した次式のように粒子表面積を考慮すべきとしている.   

η = η 0  [ K 1 +( 1+ K 2 A ) V c   ] (6)
ここで,η0は元の粘度,Vcは粒子体積率,Aは粒子の表面積,K1およびK2は物質定数である.溶湯の粘性におよぼす酸化物粒子の表面積の影響や攪拌による溶湯の酸化の影響についても今後実験的に検討する必要がある.

ADC12アルミニウムに含有されるSiを 10.8 mass%と考えれば,純アルミニウム粉末を 3 mass%添加しても液相線温度は 868 Kであり,攪拌温度 873 Kおよび発泡温度 948 Kでは液相状態のため半凝固による粘度上昇は生じない.また,純アルミニウム粉末を 3 mass%添加しても,液相線温度の上昇は約 3 Kであり,液相線温度上昇による粘度の上昇もほとんど生じないと考えられる.

PAlC発泡体のセル形態観察結果をFig. 9 に示す.Fig. 9 に対応するPAlC発泡体の平均気孔径,最大気孔径および気孔径の標準偏差をTable 3 にまとめる.純アルミニウム粉末を一番多く添加したnAl=1 mass%のPAlC発泡体は,dmax=11 mmとPAlC発泡体の中で最大気孔径が最も大きく,平均気孔径もnAl=0.5 mass%のPAlC発泡体より大きかった.気孔径の標準偏差に関して,nAl=0.5 mass%のPAlC発泡体はnAl=0 mass%および 1 mass%のPAlC発泡体と比較して小さいが,nAl=0 mass%と 1 mass%のPAlC発泡体の気孔径の標準偏差は同じであった.純アルミニウムを増粘剤として添加することにより最大気孔率は増加したが,気孔は一部が粗大化し,気孔径のばらつきも小さくならなかった.画像解析で検出されたnAl=0.5 mass%および 1 mass%のPAlC発泡体の気孔の数はnAl=0 mass%のPAlC発泡体の2倍以上であった.純アルミニウムの添加によりマトリックス粘度が上昇し,発泡過程において溶融したマトリックスが水素ガスを保持することが可能になり,マトリックス外部への水素ガス流出が抑制されたためと考えられる.

Fig. 9

Cross section area of the PAlC foams with different pure Al powder amount.

Table 3

Mean pore diameter, maximum pore diameter and a standard deviation of the PAlC foams in Fig. 9.

Al2O3C発泡体の最大気孔率および平均気孔率をAl2O3粉末添加量nAl2O3に対してFig. 10 に示す.Al2O3粉末を添加しても平均気孔率および最大気孔率はほとんど変化しなかった.

Fig. 10

Porosity plotted as a function of additive amount of Al2O3 powder.

粉末法に関しては 0.2~0.8 mass%のAl2O3粉末の添加で,プリカーサが最も膨張するという報告がある33.一方で,半谷ら34はFSP法を用いて作製した試験片に関して,Al2O3粉末を 10 mass%添加することで最大気孔率を得たと報告している.粉末法の場合,素材粉末表面の酸化被膜が多くプリカーサ内部に取り込まれ増粘剤として作用するが,板材を素材として用いるFSP法ではプリカーサに取り込まれる素材表面の酸化被膜が少ないので,気孔安定化のためにAl2O3粉末をより多く必要としたと考えられる.ポーラスアルミニウム作製に鋳造を用いる場合,粒子径約 1 μmのAl2O3粉末を用いて増粘効果を得ようとするのであれば,5~10 vol.%程度35溶湯に添加する必要がある.本研究では,Al2O3粉末添加量が少なかったことがAl2O3粉末添加による気孔率増加がほとんど見られなかった原因の一つと考えられる.

Al2O3C発泡体のセル形態観察結果をFig. 11 に示す.Fig. 11 に対応するAl2O3C発泡体の平均気孔径,最大気孔径および気孔径の標準偏差をTable 4 にまとめる.nAl2O3=1 mass%のAl2O3発泡体を除き,平均気孔径および最大気孔径は気孔率に対応しており,気孔径の標準偏差はAl2O3粒子を添加した方が小さくなる傾向があった.Al2O3粒子は発泡過程において気孔の合体成長を抑制し,気孔の安定化に寄与したと考えられる.Al2O3粉末を添加した発泡体のセル壁の一部に凝集したAl2O3粒子とみられる白い領域が観察された.特にnAl2O3=4 mass%のAl2O3C発泡体ではこの白い領域が多く観察された.Al2O3粒子が均一に分散しなかったことも,Al2O3粉末添加による気孔率増加がみられなかった一因と考えられる.微細セラミックス粒子をアルミニウム溶湯に十分に攪拌することは難しいので17,20,微細セラミックス粒子を増粘剤として利用する場合は攪拌方法について検討を要する.

Fig. 11

Cross section area of the Al2O3C foams with different Al2O3 powder amount. Fig. 6 (c) is reprinted as Fig. 11 (b).

Table 4

Mean pore diameter, maximum pore diameter and a standard deviation of the Al2O3C foams in Fig. 11.

TiH2C発泡体の平均気孔率をTiH2粉末の熱処理温度に対してFig. 12 に示す.熱処理なしの発泡体についても熱処理温度 300 Kにプロットした.熱処理温度の上昇に伴い発泡前気孔率は低下したが,発泡後気孔率も低下した.発泡後試験片の断面写真をFig. 13 に示す.Fig. 13 に対応するTiH2C発泡体の平均気孔径,最大気孔径および気孔径の標準偏差をTable 5 にまとめる.熱処理なしおよび 773 Kで熱処理を施したTiH2粉末を用いて得られたTiH2C発泡体の最大気孔径はどちらも 12 mmであり一部の気孔が粗大化していた.823 Kで熱処理したTiH2粉末を用いて得られたTiH2C発泡体においては,最大気孔率が平均気孔率の2.2倍程度であり,気孔径の標準偏差も1.3とTiH2C発泡体中最小となっており,微細な気孔が一様に分布していた.これは,TiH2が熱処理中に分解しており,発泡過程で気孔が十分に膨張するには,水素ガス圧が不足していたためである.適切な熱処理を施したTiH2粉末を用いると熱処理を施してないTiH2粉末を用いるより気孔率が増加することが知られている15.本研究で用いた試験条件は熱処理時間が長すぎた可能性がある.TiH2粉末に適切な熱処理を施せば,発泡前気孔率を低下させ,発泡後気孔率を増加させることができると考えられる.しかしながら,熱処理を施したTiH2粉末を発泡剤として利用するとポーラスアルミニウム作製コストが増加する.鋳造プリカーサ法は安価にポーラスアルミニウムを作製することをコンセプトとしている.本研究では一般的に用いられている発泡剤であるTiH2粉末を発泡剤として用いたが,鋳造プリカーサ法に用いる発泡剤としては熱処理を施したTiH2粉末より,分解温度が高く安価なCaCO3粉末などの利用を検討すべきである36,37

Fig. 12

Average porosity plotted as a function of heat treatment temperature of TiH2.

Fig. 13

Cross section area of the foam with different heat treatment temperature of TiH2. Fig. 6 (c) is reprinted as Fig. 13 (a).

Table 5

Mean pore diameter, maximum pore diameter and a standard deviation of the TiH2C foams in Fig. 13.

本研究において,ADC12アルミニウム合金に 1 mass%の純アルミニウム粉末,1 mass%のAl2O3粉末および 1.5 mass%のTiH2粉末を添加することにより,鋳造プリカーサ法を用いて製作したプリカーサを発泡させることにより,最大気孔率約80%の発泡体を得ることができた.しかしながら,プリカーサ作製過程で発泡剤が分解するためプリカーサの気孔率が高いので,プリカーサ作製過程における発泡剤の分解を抑制する必要がある.

3.3 力学的特性の評価

Normal発泡体より切り出した圧縮試験片の断面観察写真をFig. 14 に示す.Fig. 14 に対応する圧縮試験片の平均気孔径,最大気孔径および気孔径の標準偏差をTable 6 にまとめる.本研究で作製したNormal発泡体の平均気孔径および標準偏差はALPORASとほとんど変わらなかった.最大気孔径はNormal発泡体の方が 2.3 mm大きかった.発泡過程におけるマトリックスの粘性が低かったため,本研究で作製した圧縮試験片も一部の気孔が粗大化していた.圧縮試験に用いたALPORASおよびNormal発泡体の気孔率はそれぞれ約80%および55%である.これらのポーラスアルミニウムの圧縮応力-ひずみ線図をFig. 15 に示す.Normal発泡体には明確な初期最大圧縮応力6が存在し,初期最大圧縮応力は約 30 MPaであった.Normal発泡体のプラトー応力6は約 20 MPaであり,プラトー領域において荷重の上下を繰り返す挙動が確認された.一方,ALPORASには明確な初期圧縮応力は確認できない.ALPORASのプラトー応力は約 2 MPaであり,プラトー領域において荷重の上下を繰り返す挙動は確認できなかった.Normal発泡体の初期最大圧縮応力およびプラトー応力はALPORASと比較して大きかった.これは,圧縮試験に用いたNormal発泡体の気孔率がALPORASに比較して低いことおよび,ALPORASのマトリックスが純アルミニウムなのに対し,Normal発泡体のマトリックスがADC12アルミニウム合金であったためである.Normal発泡体の圧縮挙動は延性的なALPORASの挙動ではなく,半谷ら38によるADC12ポーラスアルミニウムおよびALCAN製ポーラスアルミニウム(ALCAN)39の脆性的な挙動とおおむね一致している.半谷ら38,40が作製したp=40%および70.8%のADC12ポーラスアルミニウムの初期圧縮応力はそれぞれ約 45 MPaおよび 26 MPaであった.Normal発泡体の気孔率および初期圧縮応力はどちらも半谷らのADC12ポーラスアルミニウムの中間程度であり,鋳造プリカーサ法を用いて既存の研究と遜色ない強度を有するポーラスアルミニウムを作製できた.

Fig. 14

Specimens of the compressive test.

Table 6

Mean pore diameter, maximum pore diameter and a standard deviation of the TC foams in Fig. 14.

Fig. 15

Compressive stress strain curve.

鋳造プリカーサ法を用いて市販品と同程度の気孔率を有するポーラスアルミニウムを作製することができ,既存の研究と同様な圧縮挙動を示した.セル形態制御に課題は残るものの,鋳造プリカーサ法を用いてポーラスアルミニウムをより安価に作製できる可能性が示唆された.

4. 結論

本研究では複雑形状の大型アルミニウムを比較的安価に作製する方法として,プリカーサ作製に鋳造を利用した鋳造プリカーサ法を提案し,その有効性について検討を行った.その結果,次の結論が得られた.

(1) 鋳造プリカーサ法を用いて本研究で作製したADC12アルミニウム合金に 1 mass%の純アルミニウム粉末,1 mass%のAl2O3粉末および 1.5 mass%のTiH2粉末を添加したポーラスアルミニウムの最大気孔率は80%であった.鋳造プリカーサ法を用いて市販のポーラスアルミニウムと同等の気孔率を有するポーラスアルミニウムを作製することは可能である.

(2) 鋳造プリカーサ法を用いて作製したADC12アルミニウム合金に 1 mass%の純アルミニウム粉末,1 mass%のAl2O3粉末および 1.5 mass%のTiH2粉末を添加したプリカーサは約40%の気孔率を有していた.TiH2粉末の熱処理による分解温度の上昇はプリカーサ気孔率の低下には有効ではなかった.発泡過程で大きく膨張させるために低気孔率プリカーサを得るためには,TiH2粉末より高温で分解する発泡剤の利用について検討する必要がある.

(3) 鋳造プリカーサ法により得られたプリカーサの発泡過程における気孔安定化の方法として,プリカーサ製作過程においてADC12アルミニウム合金溶湯に純アルミニウム粉末を添加することにより,プリカーサマトリックスの粘度上昇を試みた.純アルミニウム粉末添加量 1 mass%まで添加量増加に伴い,得られるポーラスアルミニウムの気孔率は80%まで増加した.純アルミニウム粉末を添加することで水素ガスを溶湯中に多く保持することが可能である.しかしながら,純アルミニウム粉末を 1 mass%添加しても一部の気孔は粗大化し,気孔径のばらつきも純アルミニウム粉末を添加していない発泡体と変わらなかった.

(4) 本研究において,Al2O3粉末の添加により気孔径のばらつきが小さくなる傾向を示したが気孔径および気孔率はほとんど増加しなかった.微細セラミックス粒子添加によるプリカーサマトリックスの増粘は,発泡過程の気孔安定化のために,一般的なプリカーサ法で用いられており気孔率の増加と気孔径の減少に寄与することが知られている.しかしながら,鋳造プリカーサ法においては,添加量が少なくまた作製過程で均一に攪拌することができなかったため,発泡過程における気孔安定化における寄与は限定的であった.鋳造プリカーサ法において,増粘剤として微細セラミックス粒子を用いる場合,攪拌方法の検討が必要である.

プリカーサマトリックスの増粘方法の確立およびプリカーサの気孔率を抑えるといった技術的な課題は残るものの,鋳造プリカーサ法を用いて高気孔率のポーラスアルミニウムを作製可能であることが明らかとなった.

謝辞

本研究はJSPS科研費JP17K14819の助成を受けたものです.

引用文献
 
© 2018 The Japan Institute of Metals and Materials
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