Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
Online ISSN : 1880-6880
Print ISSN : 0021-4876
ISSN-L : 0021-4876
Regular Article
Orientation Dependence on Fatigue Fracture Behavior in Uniaxial Fatigue Tests of Pure Mg Single Crystals
Yuta KidoAkinobu NakamuraSeiya TsunodaMasayuki TsushidaHiromoto Kitahara Shinji Ando
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 82 Issue 9 Pages 358-365

Details
抄録

Three Mg single crystalline round-bar specimens with different crystal orientations were subjected to uniaxial tension-compression fatigue tests, and the crystal orientation dependence on fatigue fracture behavior was investigated. The loading direction of AD, BC and EF specimens was [1120], [1100] and [0001] respectively. At stress amplitude(σa) over 60 MPa, fatigue life of BC specimen was longest and fatigue life of EF specimen was shortest. When the stress amplitude was 20 MPa, fatigue lives of all specimens were almost the same. Our study suggested that fatigue life in Mg single crystals show high dependence of crystal orientation and stress.

1. 緒言

自動車や航空機等の輸送機器や構造物の重大な事故の原因に疲労破壊が挙げられる.疲労破壊は,き裂の発生・伝播・最終破壊の3つの段階に分けられる.このような疲労過程を理解することは,金属材料の破壊防止や疲労寿命の予測につながり,ひいては耐疲労特性の優れた材料の設計指針になり得る.一方,持続可能な社会を実現する観点から,輸送機器の省エネルギー化が要求されている.マグネシウムは,実用金属中,最も軽量かつ高比強度であることから,近年航空機をはじめとした輸送機器の次世代構造材料としての応用が期待されている.そのため,マグネシウムの疲労特性に関する研究が行われている.

Yangら1は,AZ31の押出材において,疲労き裂が双晶帯に沿うことを報告している.Koikeら2は,AZ31の圧延材において,{1011}-{1012}二重双晶による凹凸の形成が疲労き裂の発生に寄与することを報告している.またKingら3は,Mg-Zn-Zr-Nd-Gd合金の鋳造材において,疲労き裂は底面上を進展しやすい傾向があることを報告している.このように,マグネシウムの疲労破壊の原因について種々の報告があるが,統一的な見解は得られていない.これはマグネシウムがhcp構造を持つため,結晶方位により異なる変形機構が活動するためと考えられる.しかし,マグネシウムの疲労特性に対する結晶方位の影響は十分に分かっていない.疲労特性の結晶方位依存性を明らかにするために,単結晶を用いた研究が行われてきている.

Andoら4やTsushidaら5は,純マグネシウム単結晶を用いたCT(compact tension)試験片を用いたき裂伝播試験や円孔を有する薄片を用いた薄片曲げ疲労試験を行っている.その結果,マグネシウムの疲労寿命は結晶方位に依存することが明らかとなっている.しかし,これらの試験方法では試験片に予め切欠きや円孔を導入するため,切欠き部および円孔周辺部に応力集中が生じてしまう.また,薄片曲げ疲労試験では,試験片表面に,曲げによる高い応力が分布するため,疲労破壊機構を考える際には応力集中や応力分布を考えなければならない.そこで今回,応力分布が一様となる純マグネシウム丸棒単結晶試験片の作製を試みた.本研究では,結晶方位の異なる3種類の丸棒単結晶試験片を用いて一軸引張圧縮疲労試験を行い,純マグネシウムの疲労破壊機構の結晶方位依存性を調査することを目的とした.

2. 実験方法

マグネシウム単結晶は,純度99.9%の純マグネシウムインゴットから改良型ブリッジマン炉を用いて板状に作製した.作製した単結晶は,X線背面反射ラウエ法により方位解析を行い,角度誤差が 1°以内になるように,無歪切断機および無歪研磨盤で 40×6×6 mmの角柱状に加工した.研磨には,硝酸:過酸化水素水:エタノール=5:7:20の化学研磨液を使用した.その後,単結晶の中央部に硝酸を浸漬させた布を当て,単結晶を回転させることで直径 3 mmの円筒状に加工した.丸棒試験片の寸法と結晶方位をFig. 1 に示す.荷重軸が[1120],[1100]および[0001]に平行である試験片をそれぞれAD試験片,BC試験片およびEF試験片とした.疲労試験は,電気油圧サーボ式疲労試験機(島津サーボパルサーEHF-EVII5-10L)を用いた.試験条件は室温で応力比R=-1(Rσa min/σa max),繰り返し周波数 10 Hzとした.試験後は,光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子 JSM5600)により破面観察を行い,破面の角度はデジタルマイクロスコープ(ハイロックス KH-8700)の3D観察によって測定した.

Fig. 1

Dimensions and crystal orientations of Mg single crystalline specimens used in this study.

3. 結果および考察

3.1 S-Nプロット

Fig. 2 に,応力振幅σaと破壊寿命Nfの関係(S-Nプロット)を示す.σa=60 MPa以上の高応力域において,疲労寿命はEF試験片が最も短く,AD,BCの順で長くなり,EF試験片とBC試験片の差は10倍程度であることがわかる.一方,σa=20 MPaにおいては3種類の試験片の疲労寿命にばらつきがあるが,荷重軸方位による差は明確ではなかった.

Fig. 2

S-N plots of three Mg single crystal types.

3.2 双晶の観察

本研究で用いた3種類の試験片は,荷重軸が底面に平行あるいは垂直であるため,底面すべりは活動しない.ここで,仮に角度誤差 1°程度であれば,底面すべりの活動は可能である.しかしながら,本研究の母相において底面すべりによるすべり線は観察されなかったことから,本研究で用いた試験片の角度誤差はほとんどないと考えられる.非底面すべりにおいては,これまで純マグネシウム単結晶の引張において,Asadaら6は120°C以上で柱面すべりなどの非底面すべりが起こるが,室温では活動しないと報告している.またAndoら7は 77 K~293 Kの範囲で純マグネシウム単結晶の[1120]方向の引張試験を行い,室温においておよそ 90 MPaで二次錐面すべりが活動したと報告している.本研究の疲労試験のσaは 80 MPa以内であり,疲労き裂付近等の応力集中部を除いて2次錐面すべりは活動しないと考えられる.これに対し,マグネシウムで容易に活動する{1012}双晶は,ADおよびBC試験片では圧縮応力で,EF試験片では引張応力で活動できる.そのため本研究の試験片は全体的に双晶の活動が支配的だと考えられる.

Fig. 3 に,σa=20 MPaにおけるBC試験片の光学顕微鏡写真を示す.Fig. 3(a)は疲労試験前であり,試験開始からN=1.0×104cycleまでに,Fig. 3(b)に示すように,2つのバリアントの{1012}双晶が多数発生した.その後,N=1.0×105cycle(Fig. 3(c))までサイクル数を増加しても,双晶の量はほとんど変化しなかった.Fig. 4 に,σa=60 MPaにおける各試験片表面の観察結果を示す.σa=20 MPaの場合と比較すると,双晶の量が多いことが分かる.また,観察される双晶のバリアント数は,破線で示すようにAD試験片では4,BC試験片では2,EF試験片では6であった.これは,最大のせん断力が働く双晶面の数が,EFでは6,ADでは4,BCでは2であるためと考えられる.

Fig. 3

Optical micrographs of BC specimen when the stress amplitude was 20 MPa. Twins are clearly observed after 1.0×104 cycles, but the area fraction does not change even after 1.0×105 cycles.

Fig. 4

Digital microscope images of (a) AD, (b) BC and (c) EF specimens when the stress amplitude was 60 MPa. Dashed lines indicate traces of observed twin variants.

3.3 高応力域における疲労破壊機構

Fig. 2 に示したS-Nプロットより,疲労寿命の結晶方位依存性は,σaにより異なることがわかった.そこでまず,σa=60 MPaの高応力域における疲労破壊挙動を調査した.

Fig. 5 に,σa=60 MPaで観察された各試験片のき裂のSEM像を示す.AD試験片では,5.9×103cyclesにおいて破断後の破面近傍で観察されたき裂を示す.また,BC試験片では4.1×103cycles,EF試験片では5.0×102cyclesで観察されたき裂を示している.き裂はADおよびBC試験片では<0001>,EF試験片では[1100]から発生していた.いずれの試験片においても,き裂近傍にすべり線が観察された.これらのすべり線は,双晶内の底面と平行であることから,双晶内で発生した底面すべりによるものと考えられる.また,すべり線は,き裂の両端ではなく,片端のみで観察された.いずれの試験片においても母相は,底面すべりが活動しない方位であることから,すべり線が観察されない領域は母相だと考えられる.したがって,き裂の発生は,双晶界面で生じると考えられる.

Fig. 5

SEM images of cracks and slip lines in (a) AD, (b) BC and (c) EF specimens when the stress amplitude was 60 MPa.

Fig. 6 に,各試験片の破面のSEM像を示す.いずれの試験片においても,一方向のすじ模様が観察され,破面形態に大きな違いはなかった.き裂発生部付近では比較的,平坦な破面であった.Fig. 7 に,各試験片の破面を側面から観察した結果を示す.AD試験片では,き裂発生部から試験片の1/3程度までの破面が(1120)から約51°傾斜していた.そのため,傾斜した破面は{1012}双晶面にほぼ平行であることがわかった.また,残りの破面は巨視的に(1120)に平行である.BC試験片およびEF試験片の破面の傾きは,45~47°であり,これは[0001]に対する{1012}双晶面の角度(46.8°)と一致する.このことから,BC試験片およびEF試験片の破面は全体的に{1012}双晶面と平行になることがわかった.

Fig. 6

Fracture surfaces of (a) AD, (b) BC and (c) EF specimens when the stress amplitude was 60 MPa.

Fig. 7

Side view of fracture surfaces in (a) AD, (b) BC and (c) EF specimens when the stress amplitude was 60 MPa.

Fig. 8 に,観察結果から考察した応力振幅が 60 MPa以上におけるEF試験片およびAD試験片の疲労破壊機構の模式図を示す.ここでは荷重軸が[0001]であるEF試験片の疲労寿命が,ADおよびBC試験片よりも短い理由について考える.疲労試験中には,EF試験片では引張荷重,ADおよびEF試験片では圧縮荷重で{1012}双晶が発生する.発生した双晶の結晶方位は母相と異なるため,その内部で底面すべりが容易に活動する.その結果,底面転位が双晶界面に堆積し,応力集中が生じることで,き裂が発生したと考えられる.き裂は,引張荷重時に発生するが,Fig. 8(a)で示すように,EF試験片の荷重軸は[0001]方向であるため,引張荷重で発生した双晶は,引張荷重時には成長する.一方,荷重軸が[1120]であるAD試験片および[1100]であるBC試験片では,Fig. 8(b)のAD試験片の例で示すように,圧縮荷重で発生した双晶は,引張荷重時には収縮する.したがって引張荷重時に,EF試験片の双晶領域はより広くなり,底面転位は多く堆積しやすい.そのため,EF試験片はき裂発生が容易であると考えられる.また,き裂発生後もEF試験片のき裂には,底面転位がより堆積しやすいため,き裂の進展も容易であると考えられる.したがって,EF試験片の疲労寿命はADおよびBC試験片より短くなったと考えられる.

Fig. 8

Schematic illustrations of crack initiation mechanisms in (a) EF and (b) AD specimens at high stress amplitudes greater than or equal to 60 MPa.

3.4 低応力域における疲労破壊機構

Fig. 9 に,BCおよびEF試験片におけるσa=20 MPaで観察されたき裂のデジタルマイクロスコープ像およびSEM像を示す.き裂はBC試験片では[0001],EF試験片では[1100]から発生していた.高応力域の場合とは異なり,いずれの試験片でも,き裂は母相もしくは双晶領域内で発生していた.また,き裂近傍にすべり線は観察されなかった.

Fig. 9

Digital microscope and SEM images of twins and cracks in (a) BC and (b) EF specimens when the stress amplitude was 20 MPa.

Fig. 10(a)-(c)に各試験片の疲労破面の観察結果を示す.いずれの試験片においても,高応力域とは異なる破面が観察され,その領域を破線で囲んでいる.それらの代表的な部分を拡大してFig. 10(d)-(f)に示す.いずれの試験片においても,白く見える稜と,その間の規則的なすじ模様の領域が観察された.本研究では,この破面をRidge and stripe(RS)patternと呼ぶ.稜の幅は約 2 μmであり,すじ模様の領域の幅は約 5 μmであった.RS patternの稜の間のすじ模様が[1120]方向を横切る数は5つ程度であった.Fig. 11(a)に,EF試験片の破面のSEM像を示す.また,き裂発生部付近のRS patternを解析するために,デジタルマイクロスコープによって求めた図中の線分ABとCDにおける破面プロファイルをFig. 11(b)(c)に示す.Fig. 11(a)に示す線分ABにおいては,[1120]に対する破面の角度θyは0°,線分CDにおいては[1100]に対する破面の角度θxは46.8°であった.したがって,RS patternが観察された領域は(1102)双晶面に平行であることがわかった.これはADおよびBC試験片のRS patternにおいても同様であった.次にRS patternのすじ模様の方位解析を行った.Fig. 12(a)に,破面に対して垂直方向から観察したBC試験片のRS patternのSEM像を示す.稜は[1101]に平行であり,それに対するすじ模様の角度は23°であった.Fig. 12(b)に示すように,破面である(1012)と(1122)2次錐面の交線の角度が[1101]に対して23°であることから,すじ模様は2次錐面すべりによって形成されたと考えられる.

Fig. 10

Fracture surfaces of AD ((a) and (d)), BC ((b) and (e)) and EF ((c) and (f)) specimens when the stress amplitude was 20 MPa.

Fig. 11

SEM image (a) and fracture profiles ((b) and (c)) of EF specimen after fatigue testing of 5.0×105 cycles with a stress amplitude of 20 MPa.

Fig. 12

(a) SEM image of RS pattern in BC specimen after fatigue testing of 1.2×105 cycles with a stress amplitude of 20 MPa and (b) schematic illustration of the orientation relationship between the fracture surface and secondary pyramidal plane.

RS patternの形成機構を明らかにするために,破面に対して垂直に研磨を行い,BC試験片の破面直下の観察を行った.その観察結果をFig. 13 に示す.Fig. 13(b)-(c)は異なる場所のボイドを観察した結果を示している.Fig. 13(b)に示すように,内部の双晶界面にボイド列が形成されていることがわかった.またFig. 13(c)に示すように,Fig. 13(b)で観察されたボイドより開口し,双晶界面から離れた位置にあるボイド列も観察された.Fig. 13(d)に示すように,ボイドの間隔は約 2 μm,ボイドの幅は約 5 μmであり,それぞれFig. 10 のRS patternの稜の幅およびすじ模様の領域の幅と一致する.さらにボイド内には小さな突起が5つ程度観察され,この突起の数は,RS patternの稜の間のすじ模様が[1120]方向を横切る数と一致する.また,ADおよびEF試験片においても同様の観察を行い,同様の結果が得られた.

Fig. 13

SEM images of voids formed under the fracture surface in BC specimen when the stress amplitude was 20 MPa.

以上の観察から,RS patternは内部のボイド列によって形成されたと考え,これを基にした疲労破壊機構をFig. 14 にBC試験片を例に示す.まずFig. 14(a)に示すように,双晶界面に2次錐面すべりによる転位の堆積が生じ,応力集中が生じた結果,ボイドが形成される.その後,Fig. 14(b)に示すようにサイクル数の増加につれて,ボイドが成長するとともに,双晶界面が移動する.その結果,ボイドの位置は母相または双晶内となる.ボイドがある程度まで成長すると,Fig. 14(c)に示すようにボイドが連結して内部き裂となる.この内部き裂が成長し,破壊に至った結果,RS patternが形成されたと考えられる.Fig. 9 に示すようなき裂は,この内部き裂が表面に現れた結果であると考えられる.いずれの試験片においてもRS patternおよび試験片内部のボイドが観察されたことから,低応力域においては,いずれの試験片において同じ疲労破壊機構が働いたため,疲労寿命に差が現れなかったと考えられる.このようにマグネシウム単結晶では,応力振幅により疲労破壊機構が異なったが,その理由については今後検討する予定である.

Fig. 14

Schematic illustrations of crack initiation mechanism at a stress amplitude of 20 MPa; (a) void generated at interfaces between matrix and twins; (b) detwinning and growth of voids; (c) void connections (internal cracks) ; and (d) formation of RS patterns after fatigue fracture.

4. 結言

純マグネシウム単結晶を用いて,荷重軸が[1120],[1100]および[0001]にそれぞれ平行なAD,BCおよびEF試験片を作製し,室温大気中で,R=-1の一軸引張圧縮疲労試験を行った結果,以下のことが明らかとなった.

(1) σa=60-80 MPaでの高応力域においては,引張時に双晶が発生する方位であるEF試験片の疲労寿命が最も短く,圧縮時に双晶が発生するAD,BC試験片の順で長くなっており,疲労寿命に方位依存性があることがわかった.双晶内で活動した底面転位が双晶界面に堆積することで,応力集中が生じ,疲労き裂が発生および進展する疲労破壊機構を提案した.

(2) σa=20 MPaの低応力域では,3種類の試験片の疲労寿命に差がなく,明確な方位依存性は示さなかった.全ての試験片の破面において,稜と規則的なすじ模様で構成される特徴的な破面が観察され,本研究ではRidge and stripe(RS)patternと呼称した.破面直下を詳細に観察した結果,試験片内部の双晶界面にボイドが発生していたことがわかった.このことから,ボイド連結に起因した内部き裂の発生によりRS patternを形成する機構を提案した.

謝辞

本研究は公益財団法人軽金属奨学会の補助金により実施したものである.ここに深く感謝の意を表する.

引用文献
 
© 2018 The Japan Institute of Metals and Materials
feedback
Top