Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Effect of Additives on Electrodeposition of Zn−Zr Oxide Composite from Dispersed Particles-Free Solution
Yosuke Hara Daiki UedaSatoshi OueHiroaki Nakano
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2018 Volume 82 Issue 9 Pages 366-374

Details
抄録

Electrodeposition of Zn-Zr oxide composite was performed from an unagitated sulfate solution containing Zn2+, Zr ions and additives such as NO3- ions and polyethylene glycol (PEG) at pH 2 and 313 K under galvanostatic conditions, and the effect of additives on the codeposition of Zr oxide and polarization property and micro structure of deposits was investigated. Zr content in deposits obtained at all the current densities increased significantly with addition of 2.0 g・dm-3 of NaNO3. Zn-Zr oxide deposited from the solution containing NaNO3 showed massive structure composed of fine crystals without Zn platelets crystals, and a lot of large cracks occurred between the massive crystals. EDX analysis revealed that Zr codeposited on the massive crystals as fine concavo-convex oxide. The corrosion current density of Zn-Zr oxide deposited from the solution containing NaNO3 was almost same as that of pure Zn deposits, showing no improvement of corrosion resistance with codeposition of Zr oxide. On the other hand, Zr content in deposits obtained from the solution containing PEG increased significantly with increasing current density above 1000 A・m-2. With addition of 1000 mg・dm-3 of PEG, the Zn platelets crystals disappeared, and the deposits were composed of fine mesh-like crystals with preferred orientation {1010}Zn plane, resulting in smooth surface. The cathodic current density for the reduction of dissolved oxygen on the Zn-Zr oxide deposited from the solution containing PEG was smaller than that of pure Zn deposits, as a result, the corrosion current density of Zn-Zr oxide deposits was smaller than that of pure Zn deposits. The increase in Zr content in deposits with NO3- ions and PEG is attributed to acceleration of hydrolysis reaction of Zr ions.

1. 緒言

複合電析では,通常,難溶性の固形微粒子を電解液に懸濁させ,電析の際にその微粒子をマトリックス金属と共析させる.微粒子を共析させた電析膜は,素材に耐摩耗性1,2,3,4,潤滑性5,6,7,8,9,10,耐食性11,12,13,14,15などの機能を付与することができる.しかし,従来の複合電析プロセスでは,微粒子が電解液中に放置されている際および電析時の陰極界面で凝集しやすいため,電析膜に微細な状態では共析しがたい.また,電解液中で凝集した微粒子は,電解装置内で沈降するため製造上の問題点も多い16

一方,酸化還元電位が低いZnなどの卑な金属は,水溶液からの電析において,副反応である水素イオンの還元反応が生じるため,陰極界面のpHが上昇する.そこで,低pHで加水分解する金属イオンが共存すれば,その金属イオンが加水分解反応により水酸化物あるいは酸化物となりその場で電析膜中に共析する可能性がある17,18.この加水分解反応を利用した電析は,電解液に固形粒子を添加することなく金属イオンの状態からスタートできるため,粒子が超微細な状態で共析する可能性があり,また電解液が懸濁していないため微粒子の沈降が無く,従来の複合電析の製造上の問題点も解決できる.そこで,Znより低いpHで加水分解するAl3+, Zr4+, VO2+を電解液中に添加して,その金属イオンの酸化物をZn電析膜に共析させる研究が行われている17,18,19,20,21,22,23.しかし,Al3+, Zr4+は,水酸化物あるいは酸化物として,ほとんどZnと共析しないことが報告されている19,22,23.そこで,本研究では,Zr4+を電解液に添加し,その加水分解反応を促進させるため,Zn電析時の陰極界面のpHを上昇させる添加剤の影響について調査した.添加剤としては,NO3-とポリエチレングリコール(PEG)を選定した.NO3-は,NO3-+3H+2e-→HNO2+H2Oの還元反応により,またPEGはZn電析の分極効果によるH還元増加により,いずれもZn電析時の陰極界面のpHを上昇させることが予想される.そこで,Zn-Zr酸化物複合電析におけるZr酸化物の共析量,電析膜の分極特性,微細構造に及ぼすNO3-とPEG添加の影響について調べた.

2. 実験方法

電解液組成および電解条件をTable 1 に示す.電解液は市販の特級試薬を用い,ZnSO4・7H2O 0.52 mol・dm-3,Zr(SO42・4H2O 0.1 mol・dm-3を純水に溶解させて作製した.添加剤としてNaNO3 0.4~2.0 g・dm-3(0.0047~0.0235 mol・dm-3),PEG(分子量6000)1~1000 mg・dm-3を添加した.pHは硫酸により2に調整した.電析は,定電流電解法により電流密度 10~5000 A・m-2,通電量105 C・m-2,浴温 313 Kにおいて無攪拌で行った.陰極にはCu板(2 cm×1 cm),陽極にはPt板(2 cm×1 cm) を用いた.得られた電析膜は硝酸で溶解し,ICP発光分光分析法によりZn, Zrを定量し,電析膜組成,Zn電析の電流効率およびZn析出の部分電流密度を求めた.分極曲線を測定する際は定電流で電解を行い,通電量が105 C・m-2になった時の電位を測定した.電位測定の際,参照電極としてAg/AgCl電極(0.199 V vs. NHE, 298 K)を使用したが,電位は標準水素電極基準に換算して表示した.

Table 1

Electrolysis conditions.

電析膜の表面および断面を低加速電圧SEMの二次電子像および反射電子像により解析した.反射電子像は,EsB(Energy Selective Backscatter Electron Detector)の検出器を用いて得た.また電析膜表面,断面の元素分布をEPMA,EDXにより調べた.電析膜のZnの結晶配向性はX線回折装置(Cu-Kα,管電圧 40 kV,管電流 20 mA)により測定した.Znの結晶配向性は0002から1122反射のX線回折強度を測定した後,WillsonとRogersの方法24,25で求めた配向指数により表示した.電析膜の耐食性を評価するための分極曲線は,酸素を飽和させた 313 K,3 mass% NaCl水溶液中において,電位掃引法により 1.0 mV・s-1の速度で卑な電位から貴な電位に移行させ測定した.

3. 結果および考察

3.1 硝酸イオンを添加した溶液からの複合電析

3.1.1 複合電析挙動に及ぼす硝酸イオン添加の影響

Fig. 1 にNaNO3濃度を変化させたZn-Zr溶液から 500 A・m-2の電流密度で得られた電析膜のZr含有率を示す.なお,本論文における電析膜のZr含有率(mass%)は,電析膜のZr, Zn濃度より[Zr/(Zn+Zr)]×100により算出したものである.電析膜のZr含有率は,NaNO3濃度が 0.8 g・dm-3以下ではほぼゼロであったが,NaNO3濃度が 1.2 g・dm-3以上になると徐々に増加し,NaNO3濃度 2.0 g・dm-3で急増した.

Fig. 1

Zr content in deposits obtained at 500 A・m-2 in Zn-Zr solution containing various amounts of NaNO3.

溶液中のZr濃度が 0.1 mol・dm-3の場合,Zrイオンの活量係数を1と仮定すると,Zr-H2O系の電位-pH図26より,pH 1.74以下の電解液ではZrはZrO2+またはZr4+として存在するが,pHが1.74より高くなると,Zrイオンは加水分解反応を起こしZrO2が安定となることが分かる.ただし,本研究ではpH 2 の電解液においても沈殿物は認められなかった.その要因としては,電解液の電解質濃度が高いためZrイオンの活量係数が1より小さくなり,Zrイオンが加水分解反応を起こす臨界pHが2より高くなっていることが考えられる.本研究の水溶液からのZn電析では,陰極においてHがH2に還元されるため,陰極界面のpHが上昇する.このpHがZrイオンが加水分解反応を起こす臨界値を越えると陰極界面ではZrイオンは加水分解反応によりZrO2として安定に存在することが予想される.溶液に添加したNO3-の還元反応の標準電極電位E0は 0.934 Vであり,Zn電析の際,下記式(1)により還元されると予想され,陰極界面のpHはより上昇しやすい.   

N O 3 - +3 H + +2 e - HN O 2 + H 2 O (1)
このため,NaNO3濃度が高くなると,電析膜のZr含有率が高くなった(Fig. 1)と考えられる.

Fig. 2 にNaNO3濃度を変化させたZn-Zr溶液から 500 A・m-2で電析させた際のZnの電流効率を示す.Zn電析の電流効率は,NaNO3を添加していない溶液においてはほぼ100%であったが,NaNO3濃度の増加に伴い,直線的に低下し,NaNO3濃度 2.0 g・dm-3では,約80%となった.NaNO3濃度が高くなると前記式(1)に示すNO3-の還元反応が増加するため,Znの電流効率は低下したと考えられる.以上述べたように電析膜のZr含有率は,NaNO3濃度が高くなるほど増加したので,以下の実験では,NaNO3濃度を 2.0 g・dm-3と固定して行った.

Fig. 2

Current efficiency for Zn deposition at 500 A・m-2 in Zn-Zr solution containing various amounts of NaNO3.

Fig. 3 に電流密度を変化させて得られた電析膜のZr含有率に及ぼすNaNO3添加の影響を示す.NaNO3を含まない溶液から得られた電析膜のZr含有率は電流密度にかかわらずほぼゼロであったが,NaNO3を 2.0 g・dm-3 添加すると,いずれの電流密度においても電析膜のZr含有率は大きく増加した.NaNO3を添加した場合のZr含有率の電流密度依存性に着目すると,Zr含有率は,100~1000 A・m-2 の低電流密度の領域では,電流密度の増加に伴い大きく低下し,1000 A・m-2 以上の領域では,電流密度の増加に伴い増大した.

Fig. 3

Zr content in deposits obtained at various current densities in Zn-Zr solutions with and without NaNO3. [◯Without NaNO3, ●With 2.0 g・dm-3 NaNO3].

Fig. 4 にZn-Zr酸化物複合電析におけるZnの電流効率に及ぼす電流密度とNaNO3 添加の影響を示す.NaNO3を含まないZn-Zr溶液からのZnの電流効率は,500 A・m-2以下の低電流密度域では,95%前後の高い値となったが,1000 A・m-2以上になると急激に低下した.NaNO3を含まないZn-Zr溶液からのZnの電流効率は,純亜鉛のものとほぼ同一であった.それに対して,NaNO3を添加した溶液からのZnの電流効率は,無添加の場合に比べて,全電流密度域において低下した.NaNO3の添加による電流効率の低下は,NO3-の還元反応(1)に起因するものと考えられる.また,1000 A・m-2以上の高電流密度域で,NaNO3の添加の有無にかかわらず電流密度が高くなるほどZnの電流効率が低下したのはZn2+イオンの拡散限界に到達したためと考えられる.

Fig. 4

Current efficiency for Zn deposition at various current densities in Zn and Zn-Zr solutions with and without NaNO3. [●Zn without NaNO3, ▲Zn-Zr without NaNO3, ■Zn-Zr with 2.0 g・dm-3 NaNO3].

Fig. 5 にZn2+,Zrイオンを含む電解液からの全分極曲線に及ぼすNaNO3添加の影響を示す.全分極曲線は,NaNO3添加の有無にかかわらず,Zrイオンが存在すると,高電流密度域で大きく分極した.NaNO3を添加すると,より低い電流密度から分極が大きくなった.全分極曲線の電流密度は,Zn析出と水素発生の総量であるため,次に,Zn析出の部分分極曲線に及ぼすNaNO3添加の影響について調査した.

Fig. 5

Total polarization curve in Zn and Zn-Zr solutions with and without NaNO3. [●Zn without NaNO3, ▲Zn-Zr without NaNO3, ■Zn-Zr with 2.0 g・dm-3 NaNO3].

Fig. 6 にZn2+,Zrイオンを含む電解液からのZn析出の部分分極曲線に及ぼすNaNO3添加の影響を示す.Zrイオンの影響を明らかにするためZn2+のみを含む電解液における部分分極曲線も併せて示す.Zn析出の部分分極曲線は,NaNO3添加の有無にかかわらず,Zrイオンが存在すると,200 A・m-2以上の電流密度域において大きく分極することが分かった.この 200 A・m-2以上での分極は,陰極表面においてZrイオンの加水分解により形成されるZr酸化物の皮膜抵抗に起因するものと考えられる.電解液にNaNO3を添加した場合と添加しない場合を比較すると,添加した方が,分極の程度がやや大きくなった.この結果より,NO3-が陰極表面においてZr酸化物の形成を促進していることが予想される.なお,Zn-Zr溶液では,Zn電析はその部分電流密度が 1000 A・m-2付近で,Zn2+イオンの拡散限界に到達していることが分かる.このため,1000 A・m-2以上の高電流密度域で,電流密度が高くなるほどZnの電流効率が低下した(Fig. 4)と考えられる.

Fig. 6

Partial polarization curve for Zn deposition in Zn and Zn-Zr solutions with and without NaNO3. [●Zn without NaNO3, ▲Zn-Zr without NaNO3, ■Zn-Zr with 2.0 g・dm-3 NaNO3].

3.1.2 複合電析膜の構造,分極特性に及ぼす硝酸イオン添加の影響

Fig. 7 に 1000 A・m-2で電析させた純ZnおよびZn-Zr酸化物表面のSEM観察像を示す.純Znの電析膜(a)では六方稠密晶であるZnの板状結晶が積層しており,その板状結晶のエッジ部は明瞭であった.また,平滑な板面上には,多数のステップが認められた.NaNO3を添加していないZn-Zr溶液から得られた電析膜(b)でも,純Znの電析膜と同様にZnの板状結晶が積層しており,平滑な板面上には,多数のステップが見られた.このようにNaNO3を添加していないZn-Zr溶液から得られた電析膜(b)の形態は純Znの電析膜(a)の形態とほぼ同一であった.それに対して,NaNO3を添加した溶液から得られたZn-2.5 mass% Zr酸化物(c)では,Znの板状結晶が消失し,電析膜は微細な結晶から成る塊状となり,塊と塊の間に多数の大きなクラックが生じた.次に,Zrの共析箇所を明らかにするため,塊状部とクラック部(Fig. 7(c)の矢印の箇所)をSEM,EDXにて解析した.その結果をFig. 8 に示す.塊状部の表面(Fig. 7(a)の①)に微細な凹凸が存在することが分る.その箇所でZn, Zr, Oのピークが検出されており[Fig. 8(c)],ZrはZn塊状結晶部の表面に微細な凹凸状の酸化物として共析することが分かった.Zn塊状結晶部間のクラック部(Fig. 8(a)の②)においてもZn以外にZr, Oのピークが僅かに検出されており[Fig. 8(d)],クラックの底部にもZr酸化物が若干存在していると考えられる.

Fig. 7

SEM images of surface of deposits obtained at 1000 A・m-2 in Zn and Zn-Zr solutions with and without NaNO3. [(a) Zn without NaNO3, (b) Zn-Zr without NaNO3, (c) Zn-Zr with 2.0 g・dm-3 NaNO3].

Fig. 8

SEM images and EDX spectra of deposits obtained at 1000 A·m-2 from Zn-Zr solution containing 2.0 g・dm-3 of NaNO3. [(a) Secondary electron image, (b) Backscattered electron image (EsB), (c) EDX of ①, (d) EDX of ② ]

NaNO3を添加したZn-Zr溶液から 1000 A・m-2で電析させたZn-2.5 mass% Zr酸化物断面の元素分布をEPMAにて解析した.電析膜中のZn, Zr, Oのそれぞれを赤,緑,青に色付けして表示した結果をFig. 9 に示す.Znは,ほぼ単独で厚さ方向に均一に存在しており,Znの濃度が低い箇所にZr, Oが検出されており,Zr酸化物として存在していると考えられる.Zr, Oも電析膜の厚さ方向においてほぼ均一に存在しているが,表層でその濃度が高くなっており,表面にZr酸化物が濃化していると考えられる.

Fig. 9

EPMA images of the surface of deposits obtained at 1000 A·m-2 from Zn-Zr solution containing 2.0 g・dm-3 of NaNO3. [(a) SE image, (b) Elemental mapping of (a)].

Fig. 10 に 3 mass% NaCl水溶液中におけるZn-Zr酸化物および純Zn電析膜の分極曲線を示す.NaNO3を添加していないZn-Zr溶液から得られた電析膜と純Zn電析膜の分極曲線では,アノード電流密度はほぼ同一であったが,カソード電流密度はZn-Zr溶液から得られた電析膜の方が若干大きくなった.一方,NaNO3を添加した溶液から得られたZn-2.5 mass% Zr酸化物では,腐食電位が大きく卑側に移行した.そのZn-2.5 mass% Zr酸化物のアノード電流密度は,腐食電位から -0.84 V付近まではほぼ一定であり, -0.84 Vより貴な電位になると急激に増加した.Zn-2.5 mass% Zr酸化物の腐食電流密度は,純Zn電析膜とほぼ同レベルであり,Zr酸化物の共析による耐食性の改善は特に見られなかった.これは,電析膜にクラックが生じているためと考えられる.

Fig. 10

Polarization curves in 3 mass% NaCl solution for deposits obtained at 1000 A・m-2 in Zn and Zn-Zr solutions with and without NaNO3. [(a) Zn without NaNO3, (b) Zn-Zr without NaNO3, (c) Zn-Zr with 2.0 g・dm-3 NaNO3]

3.2 PEGを添加した溶液からの複合電析

3.2.1 複合電析挙動に及ぼすPEG添加の影響

Fig. 11 にPEG濃度を変化させたZn-Zr溶液から 1000 A・m-2の電流密度で得られた電析膜のZr含有率を示す.電析膜のZr含有率は,PEG濃度 100 mg・dm-3までは 0.1 mass%前後でほぼ一定であったが,100 mg・dm-3を超えると急激に増加し,1000 mg・dm-3で 0.9 mass%程度となった.

Fig. 11

Zr content in deposits obtained at 1000 A・m-2 in Zn-Zr solution containing various amounts of PEG.

Fig. 12 に電流密度を変化させて得られた電析膜のZr含有率に及ぼすPEG添加の影響を示す.電析膜のZr含有率は,PEGを添加すると,電流密度が 1000 A・m-2以上において急激に増加し,電流密度が高くなるほど増大した.電析膜のZr含有率増加に対するPEG添加の効果は,電流密度 1000 A・m-2以上において顕著となった.

Fig. 12

Zr content in deposits obtained at various current densities in Zn-Zr solutions with and without PEG. [◯Without PEG, ●With 1000 mg・dm-3 PEG].

Fig. 13 にZn-Zr酸化物複合電析におけるZnの電流効率に及ぼすPEG添加の影響を示す.PEGを添加したZn-Zr溶液からのZnの電流効率は,最初,電流密度の増加とともに増大し,500 A・m-2前後で最大となり,その後は電流密度の増加に伴い低下した.Znの電流効率は,全電流密度の領域において,PEGを添加すると低くなった.特に低電流密度の領域において,低下の程度が大きかった.

Fig. 13

Current efficiency for Zn deposition at various current densities in Zn and Zn-Zr solutions with and without PEG. [●Zn without PEG, ▲Zn-Zr without PEG, ■Zn-Zr with 1000 mg・dm-3 PEG].

Fig. 14 にZn2+,Zrイオンを含む電解液からの全分極曲線に及ぼすPEG添加の影響を示す.Zn単独液およびZn-Zr溶液からの全分極曲線は,ともにPEGを添加すると大きく分極した.次に,Zn析出の部分分極曲線に及ぼすPEG添加の影響について調査した.

Fig. 14

Total polarization curve in Zn and Zn-Zr solutions with and without PEG. [●Zn without PEG, ▲Zn-Zr without PEG, ■ Zn-Zr with 1000 mg・dm-3 PEG,◆Zn with 1000 mg・dm-3 PEG].

Fig. 15 にZn2+,Zrイオンを含む電解液からのZn析出の部分分極曲線に及ぼすPEG添加の影響を示す.Zrイオンの影響を明らかにするためZn2+のみを含む電解液からの部分分極曲線も併せて示す.Zn-Zr溶液からのZn析出の部分分極曲線は,PEGを添加すると大きく分極した.Zn単独液からのZn析出の部分分極曲線もPEG添加によりほぼ同程度,分極しており,Zrイオンの有無にかかわらず,PEG添加によりZnの析出が大きく抑制されることが分った.PEGを添加した溶液では,Zn析出の部分電流密度が 1000 A・m-2近傍になる時,陰極電位は -1.2 Vより卑な電位域まで大きく分極していた.pH2の水溶液からの水素発生反応は,陰極電位が -1.2 Vより卑になると,下記式(2)より式(3)の反応が主になることが報告されている27.溶液中のH2Oの濃度はHの濃度に比べると遥かに高いため,式(3)の反応が主になると陰極界面のpH   

2 H + +2 e - H 2 (2)
  
2 H 2 O+2 e - H 2 +2O H - (3)
は,上昇しやすいと考えられる.このため,PEGを添加すると,Zrイオンの加水分解反応が起こりやすくなり,電析膜のZr含有率が増加したと考えられる.電析膜のZr含有率の増加に対するPEG添加の効果は,電流密度 1000 A・m-2以上において顕著となっており(Fig. 11),これは,1000 A・m-2以上において式(3)による水素の発生速度が増加,すなわち,OH-の生成速度が増加したためと考えられる.
Fig. 15

Partial polarization curve for Zn deposition in Zn and Zn-Zr solutions with and without PEG. [●Zn without PEG, ▲Zn-Zr without PEG, ■Zn-Zr with 1000 mg・dm-3 PEG, ◆Zn with 1000 mg・dm-3 PEG].

3.2.2 複合電析膜の構造,分極特性に及ぼすPEG添加の影響

Fig. 16 にPEG濃度を変化させた溶液から 1000 A・m-2で電析させたZn-Zr酸化物表面のSEM観察像を示す.PEG濃度 1 mg・dm-3の溶液から得られた電析膜(a)は,Zn板状結晶の基底面が基板に対してほぼ平行に積層しており,純Znの電析膜[Fig. 7(a)]と同一の形態となった.PEG濃度が 10 mg・dm-3になると(b),Zn板状結晶のサイズが小さくなり,基板に対してやや傾斜して積層した.PEG濃度を 100 mg・dm-3に増加させると(c),薄いZn板状結晶が原板に対して,ランダムに直立した.PEG濃度を 1000 mg・dm-3とさらに増加させると(d),Znの板状結晶が消失し,微細な網目状結晶から構成され,表面は平滑となった.

Fig. 16

SEM images of surface of deposits obtained at 1000 A・m-2 in Zn-Zr solutions containing various amounts of PEG. [PEG concentration, (a) 1 mg・dm-3, (b) 10, (c) 100, (d) 1000].

Fig. 17 にPEG濃度 1000 mg・dm-3の溶液から 1000 A・m-2で電析させたZn-Zr酸化物表面の二次電子像,反射電子像およびEDXスペクトルを示す.反射電子像(SEM-EsB像)では,軽い方の元素が黒く検出される.反射電子像(b)には,部分的に黒い箇所(図中①の箇所)が見られ,この箇所をEDXにて解析したところ(c),Zn, Zr, Oが検出され,Zr酸化物が存在していると考えられる.

Fig. 17

SEM images and EDX spectrum of surface of deposits obtained at 1000 A・m-2 in Zn-Zr solutions containing 1000 mg・dm-3 of PEG. [(a) Secondary electron image, (b) Backscattered electron image (EsB), (c) EDX of ①].

Fig. 18 にPEG濃度を変化させた溶液から 1000 A・m-2で電析させたZn-Zr酸化物のZnの結晶配向性を示す.純Znの電析膜は,{0001},{1013}面に優先配向している.電析Znが{0001}面に優先配向するということは,Zn板状結晶の基底面が基板に対して平行に近い状態になっていることを表している.Zn-Zr溶液からの電析においても,PEGの濃度が 0, 1 mg・dm-3の場合は,{0001}Zn面への配向が強くなった.この結果は,Fig. 16(a)に示す表面SEM像の結果と一致している.PEGの濃度が 10 mg・dm-3以上になると,{0001}Zn面への配向が急激に低下し,{1010}面への配向が増加した.{1010}面への優先配向は,Zn板状結晶の基底面が基板に対して直立することを意味しており,Fig. 16(c)に示す表面SEM像の結果と対応している.電析Znの結晶配向性は,電析過電圧に依存することが報告されている28,29,30.Pangarovは,いろいろな金属についてその2次元核形成仕事の相対値の計算を行い,設定された過電圧では,核形成仕事の最も小さい2次元核が形成されるとして,優先配向の過電圧依存性を求めている31,32.それによれば,Zn六方稠密晶の優先方位は,過電圧の増加に伴い,{0001}→{1011}→{1120}→{1010}面へと変化する.本研究のZn-Zr酸化物複合電析において,PEG添加により{0001}面への配向が減少し,{1010}面への配向が増加したのはPEG添加によりZnの電析過電圧が増加した(Fig. 13)ためと考えられる.

Fig. 18

Crystal orientation of Zn deposited at 1000 A・m-2 in Zn-Zr solutions containing various amounts of PEG. [Orientation of Zn, ●{0002}, ▲{1013} , ■{1011} ,◆{1010}].

Fig. 19 に 3 mass% NaCl水溶液中におけるZn-Zr酸化物および純Zn電析膜の分極曲線を示す.PEGを添加していないZn-Zr溶液から得られた電析膜と純Zn電析膜の分極曲線はほぼ同一であったが,PEGを添加した溶液から得られたZn-0.9 mass% Zr酸化物の腐食電位は大きく卑側に移行した.Zn-0.9 mass% Zr酸化物では,溶存酸素が還元するカソード反応の電流密度が純Zn電析膜のそれに比べて小さくなっており,その結果,腐食電流密度は純Zn電析膜の場合より小さくなった.Zrイオンを含まない溶液にPEGを添加した場合も,溶存酸素が還元するカソード反応の電流密度が若干減少した.Zn-0.9 mass% Zr酸化物のカソード反応の電流密度が純Zn電析膜のそれに比べて小さくなる要因としては,電析膜にZr酸化物が含有されること,および電析膜の表面粗度が変化していることが考えられるが,詳細は不明であり,今後更なる検討が必要である.

Fig. 19

Polarization curves in 3 mass% NaCl solution for deposits obtained at 1000 A・m-2 in Zn and Zn-Zr solutions with and without PEG. [(a) Zn without PEG, (b) Zn-Zr without PEG, (c) Zn-Zr with 1000 mg・dm-3 PEG, (d) Zn with 1000 mg・dm-3 PEG].

4. 結言

分散粒子を含まない非懸濁硫酸塩水溶液においてZn-Zr酸化物複合電析を行い,Zr酸化物の共析量,電析膜の分極特性,微細構造に及ぼすNO3-とPEG添加の影響を調べた結果,以下のことが明らかになった.電析膜のZr含有率は,NaNO3を 2.0 g・dm-3添加するといずれの電流密度においても大きく増加した.NaNO3を添加して得られたZn-Zr酸化物では,Znの板状結晶が消失し,電析膜は微細な結晶から成る塊状となり,塊と塊の間に多数の大きなクラックが生じた.EDXにより,ZrはZn塊状結晶部の表面に微細な凹凸状の酸化物として共析することが分かった.NaNO3を添加して得られたZn-Zr酸化物の 3 mass% NaCl水溶液中における腐食電流密度は,純Zn電析膜とほぼ同レベルであり,Zr酸化物の共析による耐食性の改善は特に見られなかった.一方,PEGを添加すると,電析膜のZr含有率は,電流密度が 1000 A・m-2以上において急激に増加し,電流密度が高くなるほど増大した.PEGを 1000 mg・dm-3添加すると,電析膜は,Znの板状結晶が消失し,{1010}Zn面に優先配向した微細な網目状結晶から構成され,表面は平滑となった.PEGを添加して得られたZn-Zr酸化物は,溶存酸素が還元するカソード反応の電流密度が純Zn電析膜のそれに比べ小さくなっており,その結果,腐食電流密度は純Zn電析膜の場合より小さくなった.NO3-,PEG添加による電析膜のZr含有率の増加は,いずれもZrイオンの加水分解反応を促進させるためと考えられる.

謝辞

本研究は,JSPS科研費JP18H01753および(財)JFE21世紀財団技術研究助成(2017年度)により行なわれました.ここに謝意を表します.

引用文献
 
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