Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Effect of Metal Structure on Damping Characteristics of Cymbals
Wataru OgawaTakahisa ShobuMizue KakehiFumiyasu KurataniToshio KoideYoshiyuki MonjuTaiji Mizuta
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2019 Volume 83 Issue 4 Pages 128-135

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Abstract

Cymbals are percussion musical instruments with a simpler structure than other musical instruments. Therefore, their material composition basically decides the sound quality and decay time rather than the skill of the player. In this study, specimens of cymbals to which Titanium, Zirconium and Iron were added were prepared. From the difference of diffraction rings by synchrotron radiation X-rays, the crystal structure of the specimens of cymbals prepared by various manufacturing processes was analyzed in order to investigate the relationship between the crystal structure associated with the material and manufacturing process used and the damping of the sound of cymbals. As a result, it was found that the changes in the crystal structure were due to the manufacturing process used. In addition, it was clarified that the changes affected the damping of the sound of cymbals.

1. 緒言

シンバルは体鳴楽器と呼ばれ,アジアを中心に紀元前3000年以前から作られている1).シンバルの加工工程は,まず円形にカットされた素材に熱間プレスで「ベル」と呼ばれる突起部分を成型し,ヘラで押しながら成形する「ヘラ絞り加工」で全体の形状を整形する.その後,ハンマーで無数に叩いて音を調整するハンマリング加工工程および旋盤加工で厚みを調整する音溝加工を経て出来上がるが,シンバルの基本となる音は形状およびその合金成分で変わる.その主成分はCuとSnで,特にCuに20 mass%Sn以上含まれているものは通称ベルメタルと称され,シンバルの他にもチャーチベルなどの様々な体鳴楽器に使用されており,古くからその組成は変わっていない.その理由は,シンバルを製造するメーカーは組成に関して保守的であり,シンバルの最大手メーカーでは代々受け継がれてきた門外不出の製法であるため,組成を約500年間変えることはなかった.ゆえに組成が音を変化させることに関しては,これまであまり研究されなかった1)

筆者らは国内唯一のシンバルメーカーである(株)小出製作所に対して,シンバル用の素材の開発を10年以上前から実施するとともに,供給を行っている.本研究の目的は,シンバルの音において重要な要素となる音の減衰時間と材料の金属組織の相関を明らかにすることにより,音を制御するための材料設計及び加工工程設計の指針を得ることである.

これまでに,加工工程において素材のSn濃度が上がると加工性が悪くなることを経験的に明らかにしている.一方で,Sn濃度を高くすると音が変化することも経験的に明らかにしていたが,このままでは加工が非常に難しかったことから,21~23 mass%SnとSn濃度を高くしつつZr,TiおよびFeなど第3・第4元素を添加することで加工性を向上させる材料開発を行ってきた.この結果,主添加元素としてTiを添加(Cu-23 mass%Sn-0.3 mass%Ti-0.03 mass%Zr,以後Cu-23Sn-0.3Ti-0.03Zrと記す)することにより音の減衰が遅いシンバル,Zrを添加(Cu-21Sn-0.1Zr-0.03Fe)することにより音の減衰が早いシンバルをそれぞれ製作することに成功した.特に,後者の減衰が早いシンバルは,演奏のピッチが年々速くなっているドラム用としてニーズが高まっている.故に,これら減衰の原因を解明することで,クラシック向けの静かな音やロック向けの明るい音などもっと多様なジャンルのニーズに答えられるシンバルの材料・加工工程設計の指針を得られることが期待される.

2. シンバルの構造および製造工程

Fig. 1にシンバルの基本構造と各部位を示す.シンバルは中央の突起部分をベル,外周をエッジ,およびそれ以外の部分をボウと呼ぶ.シンバルは,「①熱間加工上がり」の薄い円板を,「②熱間プレス加工」でベルを成形し,全体を「③ヘラ絞り加工」して成型される.この時,真ん中の熱間カップ成形部分は焼入れで少しゆがむため,ヘラ絞り加工でゆがみを取っている.その後,音を調整するための調整加工工程に入る.本研究では,素材と音との関係を議論するため,小出製作所において成形加工であるヘラ絞り加工後のシンバルを作製し,ZrやTi等の添加元素がシンバルの金属組織に与える変化を調査した.

Fig. 1

Cross section of a cymbal.

3. 実験方法

3.1 試験片

試験片は,ZrおよびTiの添加効果,特に減衰が早くなる理由を調査するため,Zrを添加していない標準試験片Cu-21Sn-0.03Fe(以下21Fとする)を含め,Cu-21Sn-0.1Zr-0.03Fe(以下21ZFとする)およびCu-23Sn-0.3Ti-0.03%Zr(以下23ZTとする)の3種類の組成のものを準備した.ここでTiを添加した試験片のみSn濃度を23 mass%としているのは,音の減衰の早さを制御するためであるが,23 mass%のSn濃度のブロンズはほとんど伸びず,ヘラ絞り加工で割れてしまうため,加工性を向上させる目的でTiを添加している.Feを添加しているのは硬度を上げるためである.溶解・鋳造法としては,ZrやTiが活性金属であること,およびSnの逆偏析を抑えるため,溶湯を坩堝ごと水で冷却し鋳造する水田式溶製法を用いた2).鋳造したビレットを切断し直径430 mm,厚み1.6 mmまで730℃で熱間圧延により加工したあと,730℃から水焼入れをそれぞれの組成で行った.その後,①熱間圧延上がりの1枚を残し,(株)小出製作所において②熱間カップ成型後,③冷間ヘラ絞り加工の加工を行い,それぞれの加工工程毎に20 mm角の試験片を切り出した.また,ベル部およびボウ部で組織の違いがあるか検討するため,ベル部では中心から60 mm,ボウ部では中心から120 mmの位置でそれぞれ2枚ずつ試験片を切り出した.したがって試験片の枚数は,各素材が21F,21ZFおよび23ZTの3種類で,1種類につきそれぞれ5枚,合計15枚である.Table 1に試験片の種類を示す.また,加工過程③については,音の周波数分析を行うため,もう一枚ずつφ406 mm × 1.3 mmtでBell部の直径が120 mmのシンバルを作製して,音の評価を行った.

Table 1

Types of specimens and collection part (◯ mark).

3.2 音の周波数分析

添加したTiおよびZrがシンバルの音響特性にどのような影響を与えるか調査するため,音の周波数分析を行った.一般的には叩く位置によって励起される振動モードが変わる.そのため,シンバルを外縁から20 mmで叩く力を40Nと一定にした.解析条件としては,周波数の範囲を40 kHz,サンプリング点数を16384点とし,スペクトログラムによる周波数解析を行い評価した.また,どの素材のシンバルに関しても4 kHz近傍の周波数のピークが大きく他の周波数より読み取り易かったため,FFTタイムトレンド解析結果から4 kHz付近のピークをもとに読み取り,ヒルベルト変換を用いて減衰比τを算出した.   

\[\tau = D/(8.68 \times 2 \pi f)\](1)

ここで,8.68はdB値を変換するための定数値,τは減衰比,Dは音の減衰度で1 s当たりの減衰量(dB値)で,1/3オクターブ分析で得られたスペクトルの波形崩落から求めた.また,fはそのスペクトルの周波数である.今回はどの組成のシンバルに関しても時間に比例して減衰しているため,Dは2.5 s後および5 s後の音圧の値がどのくらい小さくなっているかをグラフから読み取り算出した.また,τは減衰比で減衰振動の減衰特性を表す量(%)である.このτの値が小さいほど減衰は遅いこと,すなわち音が長くなることを示している.

3.3 組織観察および硬度測定

試験片を樹脂埋めして研磨した後,硝酸の希釈水を用いてエッチングし,日本電子(株)製の電子線マイクロプローブアナライザー(EPMA JXA-8500F)を用いて相がどのように存在するかを確認するため組織観察を行った.

また,材料評価の一環として,(株)明石製作所製のビッカース硬度計を用いて20Nの力で硬度を測定した.ここで,シンバルの組織は2相であることから,比較のため,単相のα相としてCu-15 mass%Sn,β相としてCu-24 mass%Snの試験片を作製し硬度評価を行った.なお,β相は720℃で5 min熱したのち水焼き入れを行い,組織を凍結させて作製した.

3.4 金属結晶構造解析

3.1で切り出した試験片を用いて,シンバルの組成および加工工程毎で金属の転位密度および結晶構造を解析した.実験は,大型放射光施設SPring-8,BL19B2で実施した.Fig. 23にSPring-8での測定の様子を示す.放射光X線のエネルギーは,Si(311)面から得られる72 keVを使用した.本エネルギーを使用した理由は,シンバルから切り出すため表面がいびつであることから,表面解析よりも,透過で材料内部を含めた平均的な結晶構造の評価が,音の変化との相関を見出せると考えたことによる.BL19B2の大型X線回折計の中央に試験片をセットし,回折計の上部に整備した入射スリットにより0.2 mm × 0.2 mmに成形されたX線を試料に照射した(Fig. 2).試験片からの透過回折X線を,試験片から952.5 mm離れた位置にセットした400 mm × 200 mmのイメージングプレート(以下IP)で3.6 ks露光し,試験片からの回折リングを計測した(Fig. 3).これらの一連のデータの1次元変換にはFit2Dを使用した3)

Fig. 2

Set-up around specimen on X-ray diffractometer.

Fig. 3

Area detector (Image plate) behind specimen.

4. 実験結果

4.1 21F,21ZFおよび23ZTの音の周波数解析結果

Fig. 4に21F,21ZFおよび23ZTのスペクトログラムによる音の周波数解析結果を示す.これは,どの周波数帯域の音成分が響いているのか,残響に影響する周波数成分を調べるために解析した結果で,白から黒に変わると音が無くなることを示している.21Fでは,特に2~6 kHz付近の音が鳴り続く.21ZFでは2 kHzおよび4 kHz付近の音でピークが高くなっているが,4 kHz以上ではピークがほとんどない.一方,23ZTでは全域で鳴っており,他の組成に比べると全体的に音の減衰時間が長い.また,4 kHz,10 kHz付近の音が大きく鳴っている.

Fig. 4

Frequency analysis results by spectrogram of 21F, 21ZF and 23ZT.

次に3種類ともピークが大きくなっている4 kHz付近に着目し,それぞれの減衰比を算出した.その結果をTable 2に示す.減衰比は大きいほど,その周波数の減衰時間が早いことを示している.解析の結果,小さい順で23ZT → 21F → 21ZFとなっており,23ZTと21ZFでは3倍の差がある.23ZTは減衰が長く,21ZFでは減衰が極端に短く,21Fはその中間となった.この結果から,組成の違いがシンバルの音に大きく影響を与えていることがわかる.そこで,シンバルの音の減衰に与える影響を解析するため,組織観察,硬度測定及びX線回折による結晶構造解析を行い評価した.

Table 2

Calculation results of the damping ratios τ of 21F, 21ZF and 23ZT.

4.2 組織観察結果

Fig. 5にCu-Sn合金の2元系状態図を示す4).このシンバルの成分ではα,β相の近くにγ相およびε相が存在することがわかる.また,硬くて脆いδ相も存在する.このδ相があるとそこを起点に簡単に割れが発生してしまうため,シンバルにおいてはヘラ絞り加工ができないことから,720℃の水焼入れによりδ相を高温相であるβ相に相転移させ,組織をβ相に凍結させる必要がある.

Fig. 5

Phase diagram of Cu-Sn alloy4).

Fig. 6に,21F,23ZTの組織観察の結果を示す.2次電子像(以下SEI)で観察すると主にβ相(灰色)とα相(黒)の2相である.α相は初晶としてデンドライト状に晶出するが,ヘラ絞り加工後の組織を見るとα相が30~100 μmの大きさで分散していることがわかる.これはヘラ絞り加工により初晶のデンドライトが崩されて細かくなったと推察される.また,β相を見ると針状組織が見られるが,これはβ相のマルテンサイト相のβ'相である5,6).したがって,Sn濃度が21%だと主にα相,β相およびβ'相の3相ということがわかる.次に23ZTで観察すると,この組織は主にβ相で,α相は見られない.また,21F同様,2次電子像でβ相を見るとマルテンサイト相であるβ'が観察される.このことから,23ZTはβ相およびβ'相の2相で構成されているということがわかる.

Fig. 6

Results of tissue observation of 21F (left) and 23ZT (right) (SEI).

Fig. 7に21ZFの反射電子像(以下COMP)による組織観察を示す.主な組織は21Fと同様,α相,β相およびβ'相の3相から構成されている.21ZFではこの組織に加え,拡大すると白い部分が存在する.これは数μmの大きさのZr炭化物であり,本測定からZr炭化物が分散しているのが観察された(Fig. 8).21Fと21ZFで減衰比が3倍になったのは,このZr炭化物が何らかの影響を与えていると推察される.

Fig. 7

Structure observation of 21ZF(COMP).

Fig. 8

Zr carbide of 21ZF(COMP).

4.3 硬度測定結果

音響と硬度との相関を明らかにするため,硬度測定を行った.Table 3に加工工程ごとに切り出した21F,21ZFおよび23ZTの硬度測定結果を示す.また合わせて測定した単相材の硬度を示す.α相およびβ相の硬度は,それぞれ約110 HV,約310 HVとなり,β相の方が約3倍硬度が高い.

Table 3

Vickers hardness of Bell and Bow in 21F, 21ZF and 23ZT. and α, β phase.

一方,どの素材でもヘラ絞り加工前までは,硬度は変わらない.これは,熱間上がりおよび熱間プレス後は割れる原因となるδ相の析出を抑えるために720~730℃での2次再結晶温度で熱処理を行っており,加工硬化の影響が少ないと推察される.しかし,冷間でのヘラ絞り加工後に関して,21Fおよび23ZTでは大きく変化しないのに対して,21ZFは硬度が高くなっている.

硬度が上がる理由としては,冷間加工によるヘラ絞り加工により析出物周辺の転位密度が上がること,もしくは加工により金属の結晶が変化する加工誘起相転移により硬い組織が析出するためであると推察される.21ZFではZr炭化物が存在するため,その周りの転位密度が上がった,もしくは硬い組織が析出したことが,シンバルの音の減衰に影響を与えていると推察される.

4.4 IPによるX線回折リング測定結果

2次元検出器であるIPを用いて,測定される回折リングから結晶構造を解析した.また,21Fおよび23ZTに関しても21ZFシンバルのような加工誘起相転移と想定される現象が起きているかどうかを比較検証した.Fig. 9に21F,21ZFおよび23ZT素材で作製した熱処理後,ベル部の熱間プレス後,ヘラ絞り加工後における回折リングを示す.いずれも複数の回折リングが得られているが,明瞭な線になっている部分がα相,点線になっているのはβおよびγ相,それに加えてβ'相が得られた.次に加工工程毎に回折リングの変化を解析した結果,21Fでは加工を経ることで回折リングがぼやけ,加えてヘラ絞り加工後はストリーク状の回折が見られる.これは加工により塑性変形されて結晶が細かくなっているためと推察される.また,ストリーク状の回折はβ'およびγ相で見られた.23ZTでは,α相はなく,β'およびγ相であり上記同様にストリーク状の回折が見られた.

Fig. 9

X-ray diffraction patterns of each processing step.

21ZFでは熱間加工上がりの材料に関して21Fと同様の回折リングが得られるが,熱間プレス後でストリークが大きくなり,ヘラ絞り加工後では全体的に回折リングがぼやけ,新しい相の回折リングが確認できる.この新しく析出した相を同定するため,回折リングから得られる1次元変換したX線回折パターンから,相同定を行った.

4.5 一次元化したX線回折パターン解析結果

新しい相が出現した21F,21ZFおよび23ZTで新しい相が析出しているか検証するため,X線回折パターンを一次元化して解析した.Fig. 10Fig. 9を一次元化したX線回折パターンを,Fig. 11にはFig. 10の5.8°から6.8°まで範囲を拡大したX線回折パターンをそれぞれ示す.なお,相同定にはJCPDカードを用いた.21Fおよび23ZTではヘラ絞り加工で回折プロファイ幅の広がりに変がないことから,転位密度の変化もほとんどない.また,新しいピークが出現していないため,相はほとんど変化していないといえる.しかし21ZFでは冷間加工であるヘラ絞り加工を施すことで,6.24°でピークが確認された.Cu-Snの2元系合金は様々な相があり,その中で相同定した結果,新しいピークはε相(2 10 1)面または(0 20 2)面もしくはその両方であると推察できる.そして,このε相はビッカース硬度で377~393 HVと硬いことから7),この相の析出が21ZFの硬度を硬くしたと推察される.また,α相よりβ'相とγ相のピーク強度が小さくなっていることから,加工を加えることでこれらの相がε相に変化したものと考えられる.

Fig. 10

Diffraction pattern of 21F, 21ZF and 23ZT after spinning.

Fig. 11

Diffraction pattern of 21F, 21ZF and 23ZT enlarged from 5.8 to 6.8 degrees.

次に21ZFに関して,どの加工工程でε相が析出したかを調査した.Fig. 12に加工工程ごとの21ZFの回折プロファイルを示す.どの部位においても熱間プレスまではε相は析出していない.しかし,冷間加工であるヘラ絞り加工でε相が析出していることが確認できる(赤線および緑線).ここでヘラ絞り加工後のε相のピークの大きさについて,ベル部とボウ部で比較すると,ベル部ははっきりとピークが見えるのに対して,ボウ部はわずかにピークが見えている程度とベル部よりもピーク強度が弱い.これは析出しているε相の析出した割合がベル部の方が多かったためであり,この差がヘラ絞り加工後のベル部とボウ部の硬度差として現れたと推察される.

Fig. 12

Diffraction pattern for each processing step of 21ZF.

5. 考察

音の減衰比と組織の関係について考察した.今回測定した3つの組成に対して,減衰比は23ZT → 21F → 21ZFの順で大きくなっている.21Fと23ZTを比較すると,21Fの方が減衰比の値が約1.3倍大きい.組織観察およびX線回折ではα相の割合が23ZTに比べて21Fの方が非常に多く,硬度測定からα相とβ相ではα相の方が柔らかいことを明らかにしている.以上の結果から,21Fの減衰比が大きい要因は,ヘラ絞り加工により分散されたα相が振動を吸収することで減衰比が大きくなったと推察される.逆にα相がほとんどない23ZTは減衰比が小さくなっていると考えられる.音の減衰に関しては,単相よりも2つ以上の相が存在し,各相の硬さが異なる場合,柔らかい相が振動を吸収することが報告されている8).そして,これらの2つよりも減衰率が高い21ZFに関してα相の割合が高いことも明らかにしている.以上を踏まえると,Snの割合が21%付近のCu-Sn合金における基本的な減衰比はα相の量に依存し,この量を調整することで音の減衰の制御ができると考えられる.

一方,21ZFは,音の減衰比が21Fと比べて約2倍大きい.回折測定の結果,21ZFでは,前述したα相の量の違いに加えてヘラ絞り加工による加工誘起相転移により21Fおよび23ZTでは析出しなかった硬いε相がZr炭化物の周りに析出した.

この硬い相があると,母相との粒界で摩擦が生じ,その摩擦により,振動エネルギーが熱エネルギーに変換されたため,振動が減衰することが報告されている9).ゆえに,ヘラ絞りにより析出したε相が,シンバルの音の減衰比を最も大きくした要因であると推察される.

6. 結言

本論文では,Ti,ZrおよびFe等を添加したシンバル(Cu21~23 mass%Sn合金)の素材を作成し,シンバルとして加工する工程ごとの組織および硬度の変化と,素材ごとのシンバルの音,特に減衰比に与える影響との関係を調べた.

基本的なシンバルの音の減衰比については,単相の組織よりも2相以上の組織になっているシンバルの方が減衰比が大きい,すなわち減衰時間が早いことを明らかにした.また,Zr炭化物が存在している素材においては,さらに減衰比が大きくなり,その要因は,ヘラ絞り加工を施すことで加工誘起相転移により硬度が高いε相が析出し,母相との粒界で振動エネルギーが熱エネルギーに変換されて振動がさらに減衰するためであると推察された.

これまで経験的に音の制御が行われてきたシンバルであるが,本研究により組織制御と析出物の制御により自在に音を制御できる糸口が見出された.

本研究はSPring-8のビームラインにおける共同利用課題の成果である(課題番号2017B1599).実験に際してご支援頂いた産業利用推進室の佐藤眞直様に感謝の意を表する.本論文を作成するにあたり,JCPDカードをご提供頂いた京都大学の野瀬嘉太郎准教授,ご助言頂いた関西大学の大石敏雄元教授に感謝するともに,心から敬意を表する.なお,本研究は戦略的基盤技術高度化支援事業の助成を受けたものである.

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