Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Structure and Magnetic Properties of Co-Ni Spinel Ferrite Particles Synthesized via Co-Precipitation and Hydrothermal Treatment at Different Temperatures
Mikio KishimotoHawa LatiffEiji KitaHideto Yanagihara
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2019 Volume 83 Issue 6 Pages 207-211

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Abstract

Co-Ni spinel ferrite particles were synthesized via chemical co-precipitation and subsequently performed hydrothermal treatment at different temperatures. Fine particles of size with a few nanometers and spherical or cubic particles of size approximately 30 nm, which are responsible for magnetic properties, were obtained. The crystallite size obtained using the Scherrer equation was 24-27 nm and showed no dependency on the hydrothermal treatment temperature unlike the apparent particle size observed using transmission electron microscopy. The coercive force showed a remarkable increase with the decrease in the hydrothermal treatment temperature from 141 kA/m at 240℃ to 400 kA/m at 100-120℃, in contrast to the decrease in magnetization from 60.0 Am2/kg at 240℃ to 37.2 Am2/kg at 100℃. The specific composition of the Co-Ni spinel ferrite particles is expected to affect the high coercive force and the remarkable dependency of the coercive force on the hydrothermal treatment temperature.

 

Mater. Trans. 60(2019) 485-489に掲載

1. はじめに

スピネル型の酸化鉄磁性粒子は磁石や磁気記録媒体,磁性流体,医療用途など幅広い分野で使用されており,その磁気特性は詳細に調べられている.このスピネル型酸化鉄磁性粒子の磁気特性において,磁気異方性や保磁力,飽和磁化は粒子サイズや粒子形状,結晶構造,組成などの影響を強く受ける.スピネル型酸化鉄磁性粒子の中でも,コバルトフェライト(CoFe2O4)粒子は大きな保磁力を有し,かつ飽和磁化も比較的大きいため実用的価値が高く,これまでに化学的あるいは物理的手法を使った各種の合成法が開発されており1-5),保磁力が5 kOe(398 kA/m)を超える粒子が報告されている6-11).Coを含む各種のスピネル型酸化鉄磁性粒子の中で,Co-Niスピネルフェライト粒子はNi添加により通常保磁力は低下するが,飽和磁化を増加させることを主な目的として検討されてきた12,13).一方,アニーリング処理を行わずに化学的手法でのみ合成した(CoO)0.5(NiO)0.5・1.125(Fe2O3)の組成を有するCo-Niスピネルフェライト粒子において,6.37 kOe(507 kA/m)の極めて高い保磁力が得られたことが報告されている14).さらに杉本らはCo-Niスピネルフェライト粒子で,453.7 kA/mの保磁力と約43 Am2/kgの飽和磁化が得られたことを報告している15)

本研究は高保磁力のCo-Niフェライト粒子を得ることを目的としており,本粒子の永久磁石材料への応用を視野に入れて,特に,高い保磁力が発現するメカニズムを解明することを目的としている.本研究では,良く知られた共沈法で作製したスピネルフェライト微粒子16,17)に,さらに水熱処理を加えてCo-Niスピネルフェライト粒子を合成した.

著者らは以前最終工程において塩酸中でエッチング処理したCo-Niスピネルフェライト粒子において,最大値で519 kA/mの保磁力と60.4 Am2/kgの飽和磁化が得られたことを報告した18).この研究において,共沈後の粒子は超常磁性的な挙動を示し,水熱処理とさらにエッチング処理を行った粒子は完全な逆スピネル構造を有することをメスバウアー解析により明らかにした.さらにエッチング処理により粒子内に導入された欠陥が高い保磁力の原因の一つになっている可能性があることも報告した.

本研究では,エッチング処理を行うことなく,共沈後100℃から240℃の広い温度範囲で水熱処理を行うことにより合成したCo-Niスピネルフェライト粒子について,その構造と磁気特性を調べた.その結果,結晶子サイズはほとんど同じであるにも関わらず,飽和磁化に比べて保磁力は顕著な水熱処理温度依存性を示すことが分かった.保磁力が顕著な水熱処理温度依存性を示す要因について,粒子形状,結晶子サイズ,結晶構造に着目して検討した結果について報告する.

2. 実験方法

Co-Niスピネルフェライト粒子は以下の方法で作製した.Fe3+と(Co2+ + Ni2+)の比がモル比で2.5:1になるように,0.02 molの塩化第二鉄(FeCl3),0.005 molの塩化コバルト(CoCl2)および0.003 molの塩化ニッケル(NiCl2)を20 mlの純水に溶解した.このFe3+とCo2+,Ni2+イオンを含む水溶液を,200 mlの純水に0.228 molの水酸化ナトリウム(NaOH)を溶解したアルカリ水溶液に加え,20℃で攪拌しながら共沈物を作製した.次にこの共沈物を含む懸濁液をオートクレーブを使って100℃~240℃の温度範囲で2 h加熱して水熱処理を行い,Co-Niスピネルフェライト粒子に結晶成長させた.水熱処理後,pHが中性になるまで純水で洗浄した.

得られたCo-Niスピネルフェライト粒子の形状は透過型電子顕微鏡(TEM:H-9000,(株)日立ハイテクノロジーズ)を使って観察した.粒子サイズ分布は,TEM写真上で約200個の粒子のサイズを測定して求めた.粒子の結晶構造は,X線回折(XRD:Miniflex600,(株)リガク)によりCuKα線を使って調べた.結晶子サイズは,スピネル構造の最強回折ピークである(311)ピークの半値幅からシェラーの式を使って求めた.磁気測定は,最大印可磁界1353 kA/m(17 kOe)で振動試料型磁力計(TM-VSM2106-HGC,(株)玉川製作所)を用いて行った.

3. 実験結果および考察

3.1 形状観察

Fig. 1に,100℃~240℃の温度範囲で2 h水熱処理することにより得られた粒子のTEM写真を示す.数nmサイズの微細な粒子と,サイズが30 nm程度で球状ないしは立方状の形状をした粒子が混在していることが分かる.この微細な粒子は,水熱処理による結晶成長に寄与しなかった磁化を有さない未反応物残留物と考えられる.保磁力や飽和磁化などの磁気特性は,主として30 nmサイズの粒子に依るものと考えられる.数nmサイズの微細な粒子に対する30 nmサイズの粒子の存在割合は,水熱処理温度が高くなるほど増加する傾向を示した.これは水熱処理温度が高くなるほど結晶成長が促進されるためと考えられる.

Fig. 1

TEM images of particles hydrothermally treated over the temperature range 100 to 240℃ for 2 h.

3.2 粒子サイズ分布

未反応残留物と考えられる数nmサイズの微細粒子以外の粒子について,TEM写真上で約200個の粒子のサイズを測定して分布を調べた.粒子サイズとしては,粒子の長辺と短辺の長さを求め,その平均値を求めた.Fig. 2に,異なる温度で水熱処理して得られた各種の粒子のサイズ分布を示す.粒子サイズは,10-70 nm程度の範囲に分布していることが分かる.平均粒子サイズは,100℃および120℃で水熱処理したものが約20-30 nm((a)および(b)),140℃および160℃で水熱処理したものが約30 nm((c)および(d))で,180℃から240℃の範囲で水熱処理したものが30-40 nmであった.平均粒子サイズは,水熱処理温度が高くなるほど大きくなる傾向を示した.

Fig. 2

Size distributions of particles hydrothermally treated at different temperatures except the fine particles of size a few nanometers: (a) 100℃, (b) 120℃, (c) 140℃, (d) 160℃, (e) 180℃, (f) 200℃, (g) 220℃, (h) 240℃. The distributions were obtained for approximately 200 particles using the TEM photographs given in Fig. 1.

3.3 構造解析

X線回折において,100℃~240℃の温度範囲で水熱処理して得られたすべての粒子がスピネル構造に基づく典型的な回折ピークを示した.これらの回折ピークは,球状ないしは立方状の形状を有する約30 nmサイズの粒子に因るものと考えられる.Fig. 3に,100℃~240℃で水熱処理した粒子に対して,スピネル構造の最強回折ピークである(311)面からのピークのみを纏めて示す.

Fig. 3

Diffraction peaks from the (311) plane of spinel structure measured using XRD for particles hydrothermally treated over the temperature range 100 to 240℃.

結晶子サイズは,Fig. 3に示す(311)面からの回折ピークの半値幅からシェラーの式を使って求めた.Fig. 4に結晶子サイズと水熱処理温度の関係を示す.なおこの結晶子サイズは装置による補正は行っておらず,(311)面から直接求めた値を示す.シェラーの式から求めた結晶子サイズは,水熱処理温度に依存せず24-27 nmとなった.TEM写真から求めた粒子サイズは,水熱処理温度が高くなるほど大きくなる傾向を示したが,結晶子サイズは水熱処理温度に依存せずほぼ一定の値を示した.

Fig. 4

Relationship between the crystallite sizes obtained using the Scherrer equation from the half-width of (311) peaks shown in Fig. 3 and the hydrothermal treatment temperature. In the calculation, the direct value of half-width in Fig. 3 was adopted, and the compensation attributed to apparatus was not considered.

3.4 磁気特性

Fig. 5に,100℃~240℃で水熱処理した粒子に対して,最大印可磁界1353 kA/mで測定したヒステリシス曲線を示す.100℃から180℃の温度範囲で水熱処理した粒子のヒステリシス曲線は,印可磁界強度不足のためマイナーループを示す.200℃から240℃の温度範囲で水熱処理した粒子に対しては,印可磁界1353 kA/mでほぼ飽和している.水熱処理温度が低くなるほど飽和磁化されにくくなる傾向を示す.本論文においては,磁気特性は1353 kA/mの磁界強度で測定したときの値を示す.

Fig. 5

Hysteresis curve measured under the maximum magnetic field of 1353 kA/m for the particles hydrothermally treated over the temperature range 100 to 240℃.

Fig. 6に,印可磁界1353 kA/mで測定した保磁力,磁化と水熱処理温度の関係を示す.保磁力は,水熱処理温度が240℃で141 kA/m(1780 Oe)であるのに対して,120℃では405 kA/m(5090 Oe)となり水熱処理温度の低下に伴い著しく増加した.このように保磁力は水熱処理温度に対して顕著な依存性を示すが,水熱処理温度が100℃と120℃では保磁力に差異は認められなかった.一方磁化は,水熱処理温度が240℃で60.0 Am2/kg(60.0 emu/g)で,100℃では37.2 Am2/kg(37.2 emu/g)となり,水熱処理温度が低下すると単調に減少した.このように磁化に比べて保磁力は,水熱処理温度に対して著しく大きな影響を受ける.

Fig. 6

Relationship of the coercive force (a) and the magnetization under the magnetic field of 1353 kA/m (b) with the hydrothermal treatment temperature.

水熱処理温度の低下に伴う磁化の減少は,常磁性的な挙動を示す磁化に寄与しない微細な未反応物の増加に因るものと考えられる18).一方保磁力は,サイズが30 nm程度の粒子に基づいていると考えられる.TEMで観察した見掛けの粒子サイズは水熱処理温度の低下に伴い僅かに減少するが,Fig. 4に示すように結晶子サイズは水熱処理温度に関係なくほぼ一定である.

XRD解析で得られた結晶子サイズは約25 nmで,TEM観察で得られた粒子サイズは約30 nmである.仕込み組成から,得られたCo-Niスピネルフェライト粒子は,Fe3+1.0(Co2+0.526Ni2+0.316Fe3+1.1050.053)O4で示される組成を有すると考えられる18).ここで□は空孔を示す.この組成は結晶内に空孔が存在する可能性があることを示している.XRD解析で求めた結晶子サイズが水熱処理温度依存性をほとんど示さないにも関わらず,保磁力は顕著な依存性を示す.通常保磁力は粒子形状や粒子内欠陥など様々な因子の影響を受けるため,低い温度での水熱処理した粒子内には欠陥が存在する可能性を示唆している.現状,空孔も欠陥もその存在は証明されていないが,本研究の特異な組成のCo-Niスピネルフェライト粒子内に存在する空孔や欠陥が,保磁力が顕著な水熱処理温度依存性を示す原因と考えている.

4. まとめ

共沈後100℃から240℃の温度範囲で水熱処理することにより,Co-Niスピネルフェライト粒子を合成した.得られた粒子は,粒成長に使われなかったサイズが数nmの微細な未反応粒子と,サイズが約30 nmの球状ないしは立方状の粒子から構成されていた.粒子サイズはほぼ10-70 nmの範囲に分布しており,見掛けの粒子サイズは水熱処理温度が高くなると若干大きくなる傾向を示した.一方シェラーの式から求めた結晶子サイズは,TEM観察で得られた見掛けの粒子サイズとは異なり,水熱処理温度に関係なく24-27 nmとほぼ一定であった.保磁力は水熱処理温度が低くなると著しく増大し,240℃で141 kA/mであったものが,120℃では405 kA/mとなった.一方磁化は,240℃で60 Am2/kg,100℃で37.2 Am2/kgとなり,保磁力ほど顕著な水熱処理温度依存性を示さなかった.本研究のCo-Niスピネルフェライト粒子の特異な組成が,大きな保磁力とさらに水熱処理温度に対して保磁力が顕著な依存性を示す原因と考えられた.

本研究は,JST研究成果展開事業(産学共創基礎基盤研究プログラム)の援助を受けて行われたものである.

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