Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Microstructure Evolution during Isothermal Aging for Wrought Ni-Based Superalloy Udimet 520
Yoshiya YamaguchiMayumi AbeRyotaro TajimaYoshihiro Terada
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2020 Volume 84 Issue 1 Pages 11-18

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Abstract

The evolution of microstructure during the isothermal aging at 1173 K was investigated for the wrought Ni-based superalloy Udimet 520 solution-treated at 1393 K for 4 h followed by various cooling rates. The age-hardening behavior was observed during the isothermal aging for the water-quenched (WQ) and air-cooled (AC) specimens after the solution treatment, while it could not be detected for the furnace-cooled (FC) specimen. No primary γ′ particles were observed in any continuously cooled samples. For the WQ and AC specimens, the size of the secondary γ′ precipitates increased during the isothermal aging along the Ostwald ripening and their morphology evolved from a spherical shape to an intermediate shape between spherical and cuboidal ones. On the contrary, the secondary γ′ particles exhibited an octodendritic shape for the as FC specimen, and the octodendritic character of the secondary γ′ particles was emphasized during the isothermal aging resulting in the splitting of the secondary γ′ particles. It was found that the splitting of γ′ particles occurs during the isothermal aging for the Alloy 80A with a lower volume fraction of γ′ phase around 20%.

1. 緒言

鍛造Ni基超合金は,優れた高温強度を有する高温構造用材料として,航空機用ジェットエンジンおよび火力発電用ガスタービンにおける,ブレード部材およびディスク部材として広く使用に供されている1).近年では,これに加え,環境負荷低減を目的として,先進超々臨界圧火力発電プラントにおけるボイラー管,および,自動車用ターボチャージャーにおけるタービンホイールにも,その用途を拡大している2).鍛造Ni基超合金の優れた高温強度は,γ母相中の固溶強化,および,高温安定な金属間化合物相による析出分散強化,により引き出されるものと一般に考えられている3).ここで,γ′-Ni3(Al,Ti)相は,融点までL12型の規則構造を有する熱力学的に安定な金属間化合物で強度の逆温度依存性を示し4-6),また,合金添加元素の最大固溶量が大きく固溶強化を活用できる7)ことから,鍛造Ni基超合金中における析出分散強化相としての優位性が高い.

γ-γ′二相組織を有する鍛造Ni基超合金における高温強度を向上させるにあたり,γ′相の析出組織を適切に制御することが極めて重要となる.実用の鍛造Ni基超合金部材は,通常,①合金インゴットを高温鍛造により成形した後に,②溶体化熱処理により結晶粒径を調整すると共に結晶粒内をγ単相化し,③その後の連続冷却および時効熱処理によりγ′析出組織を制御する,という3段階のプロセスを経て使用に供される1,3).ここで,ソルバス温度よりも若干低い温度にて溶体化熱処理を施すことにより,γ粒界に一次γ′相粒子が残存し,溶体化熱処理中における結晶粒の過度な粗大化を妨げることが可能となる8).また,溶体化熱処理温後の連続冷却中および時効熱処理中に,γ粒内に粒子径数百ナノメートルの二次γ′相粒子,および,粒子径数十ナノメートルの三次γ′相粒子が析出し,最終的にマルチモーダルなγ′析出組織を得ることが可能となる9).一次,二次および三次γ′相の析出粒子サイズ,析出密度および析出粒子形状などの組織パラメータを定量的に調査し,高温強度と組織パラメータとの相関関係を評価する研究が,これまで活発に行われてきた10,11)

タービンディスクに代表される厚肉部材では,溶体化熱処理後の冷却過程において,部材表面の冷却速度に比べ厚肉内部の冷却速度が小さくなる.このため,部材表面と厚肉内部において,連続冷却後のγ′析出組織,および,時効熱処理中の微細組織変化過程が,異なることが報告されている12-16).近年の火力発電用ガスタービンの大型化に伴い,ブレード部材およびディスク部材の肉厚化が進行している.本研究では,火力発電用ガスタービンにおける代表的なブレード合金であるUdimet 52017,18)(γ′体積率:32%3))に着目し,溶体化熱処理後の冷却速度を,水冷(冷却速度:220 K s−1)から炉冷(0.13 K s−1)まで様々に変えた複数の試料について等温時効熱処理を施し,等温時効熱処理中の微細組織変化を調査する.そして,等温時効熱処理中の微細組織変化過程に及ぼす溶体化熱処理後冷却速度の影響を明らかにする.なお,本研究では,マルチモーダルなγ′組織を可能な限り簡素化して議論を進めるために,溶体化熱処理を意図的にソルバス温度以上にて実施し,一次γ′相粒子が金属組織中に残存しないように溶体化熱処理条件を選定することとする.

2. 実験方法

供試合金は鍛造Ni基超合金Udimet 520であり,その合金組成をTable 1に示す.本合金中には,γ′相の構成元素であるAlおよびTiがそれぞれ2.1 mass%および3.1 mass%添加されている.本合金は,真空誘導溶解(Vacuum Induction Melting: VIM)およびエレクトロンスラグ溶解(Electron Slag Remelting: ESR)の二段溶解を施した後,高速四面鍛造により直径90 mmの円柱状に鍛伸し,そのビレットを受取材とした.受取材から8 × 8 × 8 mm3の立方体状試料を切出し,温度範囲1353-1413 Kにて1.4 × 104 s(4 h)の溶体化熱処理後,水冷(WQ; 220 K s−1),油冷(OQ; 87 K s−1),空冷(AC; 10 K s−1)および炉冷(FC; 0.13 K s−1)にて冷却を行った.これら溶体化熱処理後に連続冷却を施した試料について,温度973-1173 Kにて1.1 × 103-3.6 × 106 s(0.3-1000 h)の時効熱処理を施した.

Table 1

Chemical composition of Udimet 520 used in this study (in mass%).

受取材,溶体化熱処理材および時効熱処理材の立方体状試料をビレット鍛伸方向に対し平行に切断し,埋込後,エメリー紙およびアルミナスリラーによる機械研磨を行った.熱湯浴中に保持したクロム酸飽和リン酸溶液中にて,腐食電流約10 mAにて30 sの電解腐食を施し,電界放出形走査電子顕微鏡(Field-Emission Scanning Electron Microscopy: FE-SEM)による組織観察を行った.なお,FE-SEM観察にあたっては,多結晶組織の中で観察方位が[100]方位に近い結晶粒を選択して観察を行った.

立方体状試料から直径3 mmの円盤状薄膜試料を切出し,機械研磨により薄膜厚さを120 μmとした後,ツインジェット式電解研磨装置を用いて,10 vol%過塩素酸-90 vol%エチルアルコール混合溶液中にて電解研磨を施した.電解研磨条件は,温度243 Kにて電圧を25 Vとしており,この時の研磨電流は約30 mAとなる.電解研磨により孔をあけた薄膜試料について,高分解能電子顕微鏡(High-Resolution Transmission Electron Microscopy: HRTEM)にて微細組織観察を行った.HRTEM観察にあたってはFEI社製の収差補正走査透過型電子顕微鏡Titan3 G2 60-300を用い,加速電圧は300 kVとしている.

硬さ測定にはマイクロビッカース硬度計を用い,測定荷重は9.8 N,荷重保持時間は10 sとしている.各試料について7点の測定を行い,最大値と最小値を除いた5点の平均値から硬さを求めた.本研究ではいずれの試料においても,結晶粒内に圧痕を落とすように留意している.

3. 実験結果および考察

3.1 受取材ビレットの微細組織

Udimet 520受取材ビレットのFE-SEM組織をFig. 1に示す.鍛造Ni基超合金の場合,溶体化熱処理温度にて溶解せずに残存したγ′相を一次γ′相,溶体化熱処理温度からの冷却中の高温度域にて析出するγ′相を二次γ′相,および,冷却中の低温度域にて析出する極めて微細なγ′相を三次γ′相と称する3,9)Fig. 1中の結晶粒界において粒子径約500 nmの塊状の一次γ′相が認められる.これに対し,結晶粒内では,粒子径約150 nmの微細な二次γ′相が高密度に析出していることが見て取れる.なお,母相γ相の結晶粒は等軸的であり,その結晶粒径はビレット全体において約140 μmとなっている.

Fig. 1

FE-SEM image of the as-received billet of Udimet 520.

受入材に対し温度1353-1413 Kにて4 hの溶体化熱処理を施した時の,母相γ相の結晶粒径と溶体化熱処理温度との関係をFig. 2に示す.溶体化熱処理温度が1373 K以下において,母相γ相の結晶粒径は約140 μmにて一定となる.これに対し,1373 Kを超えると結晶粒径は温度の増加に伴い単調に増加し,1413 Kにおいて280 μmとなる.Udimet 520において,1373 K以下の温度領域では,結晶粒界上に存在する一次γ′相によるピン留めにより結晶粒の粗大化が抑制されるのに対し,1373 Kを超える温度領域においては,一次γ′相粒子が溶解しγ結晶粒の粗大化が容易に生じるものと推察される.以上の結果から,一次γ′相粒子を完全に溶解しγ単相組織を得ることを目的として,本研究では1393 K/4 hにて溶体化熱処理を行うこととする.

Fig. 2

Plots of grain diameter vs. temperature for Udimet 520 solution-treated for 4 h.

3.2 時効硬化挙動

Udimet 520の時効硬化挙動を明らかにするために,溶体化熱処理材および時効熱処理材について硬さ測定を行った.1393 K/4 hの溶体化熱処理を施し,その後4つの異なる冷却速度にて冷却した試料について,1173 Kにて最長1000 hの時効熱処理を施した.得られた時効硬化曲線をFig. 3に示す.溶体化熱処理後WQにより冷却した試料では,冷却後の硬さはHv 222となる.時効時間が0.3 h以下の短時間において硬さが急激に増加し,時効時間1 hにおいてHv 358の最大値を示す.その後,時効時間の増加に伴い硬さは単調に減少し,最も長時間の1000 hにおいて硬さはHv 319となる.

Fig. 3

Plots of Vickers hardness vs. aging time at 1173 K for Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h followed by WQ, OQ, AC and FC.

OQ材およびAC材と,溶体化熱処理後の冷却速度が遅くなるに伴い,冷却後の硬さは単調に増加し,溶体化熱処理後ACにより冷却した試料では,冷却後の硬さはHv 327とWQの場合に比べ硬さは105も高くなる.これは,溶体化熱処理後の冷却速度が遅くなると,冷却中に結晶粒内に二次γ′相粒子が析出するためと考えられる.AC材において,時効に伴い硬さは緩やかに増加し,時効時間3 hにおいてHv 357の最大値を示す.その後,WQ材の場合と同様に,時効時間の増加に伴い硬さは単調に減少し,時効時間1000 hにおいて硬さはHv 305となる.

溶体化熱処理後FCにより冷却した試料では,冷却後の硬さはHv 325となる.この値は,ACにより冷却した試料の値に非常に近い.ところが,FC材では,時効時間の増加に伴い硬さは減少し,時効時間が0.3-30 hの時間域において硬さが約Hv 300にて停滞する.その後,100 hにおいて硬さは増加し,300 h以上の長時間において,FC材の硬さはWQ材およびAC材の値に極めて近くなる.

3.3 等温時効熱処理中の微細組織変化

前節における硬さ結果から,Udimet 520を溶体化熱処理した後に,水冷(WQ)および空冷(AC)を施した試料では,その後の時効熱処理中に時効硬化挙動を示すのに対し,炉冷(FC)した試料では時効硬化挙動を示さないことが明らかとなった.本節では,時効硬化挙動を示すWQ材,および,時効硬化挙動を示さないFC材について,時効熱処理中の微細組織変化を明らかにする.

3.3.1 WQ材

時効硬化曲線において,硬さの増加は析出の開始に対応することが一般に知られている3).溶体化熱処理後WQにより冷却した試料では,1173 Kにおける時効熱処理において0.3 h以下の短時間にて硬さが急激に増加する(Fig. 3).WQ材の時効初期における微細組織変化を明確化するために,WQ材の亜時効条件である973 K/1 h時効材におけるHRTEM像を,制限視野回折図形(Selected Area Diffraction Pattern: SADP)とあわせてFig. 4(a)に示す.なお,電子線の入射方向は母相γ相に対してB = [001]としており,主な回折斑点に指数を付記している.本時効熱処理材では,黄色い矢印にて示すように,母相γ相中に2原子ごとに格子点が暗色となる領域が認められる.SADP中には赤い矢印にて示すように,規則構造に由来する超格子回折スポットが認められることから,試料中にγ′相が析出しているものと判断される.

Fig. 4

HRTEM image of Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h/WQ followed by the aging treatment at 973 K/1 h, taken with B = [001] (a). IFFT image of (a) is shown in (b).

画像を観察し易くするために,Fig. 4(a)を高速フーリエ変換(Fast-Fourier Transformation: FFT)することにより得られるFFT像において,母相γ相の周期構造に由来する高強度点以外をマスキングし,これを逆変換した.得られた逆フーリエ変換(Inverse Fast-Fourier Transformation: IFFT)像をFig. 4(b)に示す.母相γ相中に,2原子ごとに格子点が暗色となる領域がより明確に認められるようになる(黄色い矢印).これに加え,白い矢印にて示すように,2原子ごとに格子点が暗色となる特徴が明確ではない粒子も見られるようになる.この結果から,本合金におけるγ′相の析出初期においては,L12構造における規則度の高いγ′析出粒子と規則度の低いγ′析出粒子が混在するものと考えられる.また,Fig. 4(b)から,γ′相粒子は直径約3 nmの球状で母相γ相に対して整合に析出しており,γ′相の粒子間距離は約2 nmと見積もられる.

WQ材を,過時効条件である1173 K/10-1000 hの時効熱処理を施した時のFE-SEM組織をFig. 5に示す.過時効段階初期である10 h時効材(Fig. 5(a))において,サイズが約100 nmの二次γ′相粒子が結晶粒内に均一に析出するモノモーダルな組織となる.また,二次γ′相粒子の析出密度は,2.4 × 1013 m−2と測定された.これに対し,過時効段階後期の1000 h時効材(Fig. 5(b))では,二次γ′相粒子のサイズは約400 nmにまで増加し,析出密度は1.8 × 1012 m−2にまで著しく低下し,複数の二次γ′相粒子が1つの方向に配列する特徴が認められるようになる.なお,二次γ′相粒子の形状は,1173 K/10 h時効材において球状であるのに対し,時効時間の増加に伴い「球状と立方体状の中間的形状」に移り変わることが見て取れる.

Fig. 5

FE-SEM images of Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h/WQ followed by the aging treatment at 1173 K/10 h (a) and 1000 h (b).

時効硬化挙動を示すWQ材およびAC材の過時効条件である1173 K/3-1000 hにおける二次γ′相粒子の平均サイズ,d,を,時効時間,t,に対して整理したグラフをFig. 6に示す.なお,「球状と立方体状の中間的形状」を有する二次γ′相粒子のサイズを定量化するにあたって,同一面積となる円の直径をdとして用いている.WQ材において,過時効段階初期である3 h時効材における二次γ′相粒子の平均サイズは69 nmである.時効時間の増加に伴い二次γ′相粒子の平均サイズは単調に増加し,最も長時間の1000 hでは427 nmにまで達する.

Fig. 6

Plots of diameter of secondary γ′ precipitates vs. aging time at 1173 K for Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h followed by WQ and AC.

過時効段階全域において,二次γ′相粒子の平均サイズは時効時間に対し,傾き0.33の直線にて整理される.この値は,オストワルド成長19,20)により粗大化が進行する時の値に等しい21-23).AC材における二次γ′相粒子サイズは,同一時効時間について比較するとWQ材に比べわずかに小さいものの,過時効段階における直線の傾きは,WQ材の場合と同様に0.33となる.以上の組織観察結果から,時効硬化挙動を示すWQ材およびAC材では,時効初期において球状の二次γ′相の析出が生じ,過時効段階において,二次γ′相粒子は球状から「球状と立方体状の中間的形状」に遷移しながらオストワルド成長により粗大化することが明らかとなった.

3.3.2 FC材

溶体化熱処理後FCにより冷却した試料では,1173 Kにおける時効熱処理において時効時間の増加に伴い硬さは減少し,WQ材およびAC材と異なり時効硬化挙動を示さない.FCの冷却まま材におけるFE-SEM組織をFig. 7に示す.一辺が約200 nmのオクトデンドライト状24-26)の二次γ′相粒子が結晶粒内全面に析出している.また,二次γ′相粒子の間に約10 nmの微細な三次γ′相粒子が高密度に析出していることが認められる.

Fig. 7

FE-SEM image of Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h followed by FC.

1173 K/1-1000 h時効材におけるFE-SEM組織をFig. 8に示す.硬さが約Hv 300にまで低下する1173 K/1 h時効材(Fig. 8(a))では,二次γ′相粒子は約400 nmにまでサイズを増してオクトデンドライト形状を維持する(緑色の矢印)と共に,一部の二次γ′相粒子において側面から内部に向かって深い切込みが入り(赤い矢印),1つの粗大な二次γ′相粒子が複数の粒子にスプリッティング27,28)する(黄色い矢印).なお,スプリッティングした二次γ′相粒子は「球状と立方体状の中間的形状」を呈する.また,FCまま材において認められた微細な三次γ′相粒子はほとんど観察されなくなる.

Fig. 8

FE-SEM images of Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h/FC followed by the aging treatment at 1173 K/1 h (a), 10 h (b), 100 h (c) and 1000 h (d).

時効時間が10 hにまで増加すると(Fig. 8(b)),スプリッティングした二次γ′相粒子は「球状と立方体状の中間的形状」を維持したまま,粒子径が約400 nmにまで増加する.時効時間が100 hにおいて(Fig. 8(c)),二次γ′相粒子の形状は,オクトデンドライト状に移り変わり(緑色の矢印),深い切込みが入る(赤い矢印)と共に,二次γ′相粒子は再びスプリッティングする(黄色い矢印).最も長時間の1000 h時効材(Fig. 8(d))では,10 h時効材(Fig. 8(b))と同様に,粒子径約400 nmの二次γ′相粒子が「球状と立方体状の中間的形状」を呈して均一に分布している.以上のように,FC材の時効熱処理中では,二次γ′相粒子サイズの単調な増加は見られず,①オクトデンドライト形状を呈する二次γ′相粒子が,「球状と立方体状の中間的形状」を呈する粒子にスプリッティングすること,および,②中間的形状を呈する二次γ′相粒子が粗大化し,オクトデンドライト形状に移り変わること,という2種類の形状変化が交互に生じることが明らかとなった.

FCまま材,および,FC後1173 K時効熱処理材における二次γ′相の粒子形状を,時効時間に対して定量的に評価する.球状,立方体状に加えオクトデンドライト状を含む多様なγ′相粒子形状を定量的に評価するにあたり,MacSleyneらは絶対モーメント不変量$\omega_1$および$\omega_2$値を用いた数学的手法が有効であることを示し29),鍛造Ni基超合金においてその解析手法の有用性が示されている13,14,30).FC後,1173 K/100 hの時効熱処理を施した試料における$(\omega_1,\omega_2)$プロットの結果を,一例としてFig. 9に示す.ここで,横軸の$\omega_1$値は真円形状の場合に最大値4πを示し,粒子のアスペクト比の増加に伴い単調に減少する.また,$\omega_1$値は粒子形状が真円から正方形さらにオクトデンドライト形状に移り変わることによっても減少する.これに対し,縦軸の$\omega_2$値は粒子の形状が真円状の場合に最大値16π2を示し,正方形およびオクトデンドライト形状と移り変わるに伴い単調に減少し,アスペクト比には依存しない.$(\omega_1,\omega_2)$値は(4π, 16π2)を最大値とし,Fig. 9中において影をつけた領域内をとることができる.

Fig. 9

Geometrical locations in the 2-D moment invariant plane $(\omega_1,\omega_2)$. In the $(\omega_1,\omega_2)$ plane, all 2-D shapes must fall inside the gray region. The rightmost parabola indicates the high symmetry shapes. The open circles indicate the ω1-ω2 plots of secondary γ′ precipitates observed in Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h/FC followed by the aging treatment at 1173 K/100 h, in which the number of data is 206. The open square means the median of all the ω1-ω2 data, where ω1 = 11.2 and ω2 = 134.2.

1173 K/100 h時効材にて得られた二次γ′相粒子の$(\omega_1,\omega_2)$プロットの数は206個であり,これらをFig. 9中に白丸にて示す.なお,1つのプロットは1つの二次γ′相粒子に対応している.本時効材にて得られる$(\omega_1,\omega_2)$プロットは,$\omega_1$および$\omega_2$値ともに定義域内の高数値側に位置する.すなわち,$\omega_1$値は10.5から定義域上限である4π(~12.5)までの範囲に,また,$\omega_2$値は120から定義域上限の16π2(~157.9)までの範囲に,プロットは高い密度で集中し,プロットの大半は定義域右端の放物線近傍に位置している.観察されるすべての二次γ′相粒子の形状を代表する$(\omega_1,\omega_2)$値を特定するために,206個のプロットが最も集中して存在する位置として中央値を求め,その値をFig. 9中に白四角にて示す.得られた中央値は$(\omega_1,\omega_2)=(11.2,134.2)$となる.

FCまま材,および,FC後1173 K時効熱処理材における二次γ′相粒子形状の中央値を,$(\omega_1,\omega_2)$図中に総括したグラフをFig. 10に示す.なお,Fig. 10は,$(\omega_1,\omega_2)$プロットにおける定義域の高数値側の領域を拡大して示している.FCまま材において,中央値は$(\omega_1,\omega_2)=(11.3,142.6)$となる(プロットA).時効時間3 h以下の短時間時効熱処理材におけるプロット(B,C,D)は,プロットAの近傍に位置するのに対し,10 h時効材(E)において中央値は$(\omega_1,\omega_2)=(12.1,153.8)$と,A-Dのプロットに対して$(\omega_1,\omega_2)$の定義域の右端を右上方向に大幅に移動する.時効時間が30 h (F)および100 h (G)とさらに増加すると,プロットは左下方向に大幅に移動しA-Dの近傍に戻る.そして,長時間である300 h (H)および1000 h (I)時効材では,プロットは再び右上方向に大幅に移動する.以上の組織解析結果から,時効硬化挙動を示さないFC材では,冷却時においてオクトデンドライト形状の二次γ′相粒子が結晶粒内全面に析出し,時効熱処理中に新たな析出は生じず,二次γ′相粒子は,アスペクト比の小さい状態を維持したまま,オクトデンドライト形状,および,「球状と立方体状の中間的形状」,という2種類の形状を往復することが明らかとなった.

Fig. 10

Plots of the median of ω1-ω2 data for Udimet 520 solution-treated at 1393 K/4 h/FC followed by the aging treatment at 1173 K. The plot A is the median for the as-cooled specimen, and the plots B (0.3 h), C (1 h), D (3 h), E (10 h), F (30 h), G (100 h), H (300 h) and I (1000 h) are the data for the specimens aged at 1173 K.

3.4 等温時効熱処理中における二次γ′相粒子の形状変化

Udimet 520を1393 K/4 hにて溶体化熱処理後,WQおよびFCにて連続冷却した試料を,1173 Kにて等温時効熱処理した時の,二次γ′相粒子の形状変化を模式的に示した図をFig. 11に示す.Udimet 520において,溶体化熱処理後の冷却速度がWQ-ACと比較的速い場合,連続冷却中または時効熱処理初期において球状の二次γ′相粒子が析出し,過時効段階において,二次γ′相粒子は球状から「球状と立方体状の中間的形状」に移り変わりながらオストワルド成長により粗大化する(Fig. 11中(i)).これに対し,冷却速度が最も遅いFC材では,冷却まま材において二次γ′相粒子はオクトデンドライト形状を呈し(ii),その後の時効熱処理中において二次γ′相粒子における切込みが深くなり(iii),ついにはスプリッティングするに至る(iv).ここで,スプリッティングした後のγ′相粒子は「球状と立方体状の中間的形状」を呈し,その後の時効熱処理に伴い形状を保ったままサイズを増す(v).FC材では,時効熱処理中に,(ii)-(v)に示す粗大化およびスプリッティングのサイクルを繰り返す.

Fig. 11

Schematic illustration showing the γ′ morphology during the aging treatment for Udimet 520. (i) is the morphology evolution for the WQ specimen, while (ii)-(v) denote that for the FC specimen.

Ni基超合金におけるγ′相粒子のスプリッティング現象27,28)は,溶体化熱処理後の連続冷却中(鍛造合金Nimonic 11531),鋳造合金IN738LC32))および等温時効熱処理中(粉末冶金合金RR100033))において生じることが,これまでに報告されている.Nimonic 115,IN738LCおよびRR1000におけるγ′相体積率は,それぞれ60%,50%および46%と大きい3)のに対し,本研究では,γ′相体積率が32%であるUdimet 520においてスプリッティング現象が確認された.γ′相体積率をさらに低めた鍛造Ni基超合金においても,スプリッティング現象が生じるか否かを検証するために,γ′相体積率が20%であるAlloy 80A3)(Ni-19.2Cr-1.4Al-2.2Ti,mass%)について溶体化熱処理後に連続冷却を行い,その後の等温時効熱処理中における微細組織変化を調査した.

Alloy 80Aを1423 K/1 hにて溶体化熱処理を施した後に,冷却速度0.013 K s−1にて連続冷却した時の,冷却まま材におけるFE-SEM組織をFig. 12(a)に示す.なお,冷却速度0.013 K s−1は,FCの冷却速度0.13 K s−1に比べ十分の一の極めて遅い冷却速度である.冷却まま材における二次γ′相粒子のサイズは約200 nmであり,γ′相粒子の一部はオクトデンドライト状の形状を呈している(緑色の矢印).なお,微細な三次γ′相粒子は観察されない.冷却まま材に対して1173 K/0.3 hの時効熱処理を施した試料(Fig. 12(b))では,二次γ′相粒子サイズは約300 nmにまで増加してオクトデンドライト形状を維持する(緑色の矢印)と共に,一部の二次γ′相粒子において側面から内部に向かって深い切込みが入る(赤い矢印).さらに,1173 K/1 h時効熱処理材(Fig. 12(c))では,1つの粗大な二次γ′相粒子が複数の小さい立方体状の粒子にスプリッティングし(黄色い矢印),個々のγ′相粒子サイズは約150 nmと,冷却まま材に比べ小さくなる.以上の結果から,スプリッティングは,γ′相体積率が高い鍛造Ni基超合金に特有の現象ではなく,γ′相体積率が20%と低い鍛造Ni基超合金においても生じ得ることが明らかとなった.

Fig. 12

FE-SEM images of Alloy 80A solution-treated at 1423 K/1 h/SC (slow cooling; 0.013 K s−1) (a) followed by the aging treatment at 1173 K/0.3 h (b) and 1 h (c).

γ′相体積率が32%であるUdimet 520,および,20%であるAlloy 80Aのいずれの合金においても,溶体化熱処理後に極めて遅い冷却速度にて連続冷却を施すことにより,オクトデンドライト状の形状を有するγ′相が得られる.この場合,その後の等温時効熱処理中に,γ′相粒子のスプリッティングが生じることが明らかとなった.これに対し,溶体化熱処理後の冷却速度が比較的速く,連続冷却後にオクトデンドライト形状のγ′相が得られない場合では,その後の等温時効熱処理中にスプリッティングは生じず,γ′相はオストワルド成長により粗大化する.鍛造Ni基超合金において,溶体化熱処理後にオクトデンドライト形状を有するγ′相を得るための臨界の冷却速度について,γ′相体積率およびγ-γ′格子ミスフィットの観点から系統的に調査することは今後の課題であるといえる.

4. 結言

本研究では,溶体化熱処理後に様々な速度で連続冷却を施した鍛造Ni基超合金Udimet 520について,その後の等温時効熱処理中における時効硬化挙動および微細組織変化を調査し,以下の結果を得た.

(1) Udimet 520の結晶粒径は,1373 K以上の温度領域において,溶体化熱処理温度の増加に伴い単調に増加する.これは,結晶粒界上に析出している一次γ′相粒子が,1373 Kにて溶解することを示唆している.

(2) 溶体化熱処理後,水冷および空冷を施した試料では,その後の等温時効熱処理中に時効硬化挙動を示すのに対し,炉冷した試料では等温時効初期から硬さは減少し時効硬化挙動を示さない.

(3) 時効硬化挙動を示す溶体化熱処理後水冷材では,等温時効熱処理初期において球状の二次γ′相が析出し,過時効段階において,二次γ′相粒子は球状から「球状と立方体状の中間的形状」に移り変りながらオストワルド成長により粗大化する.

(4) 時効硬化挙動を示さない溶体化熱処理後炉冷材では,冷却時においてオクトデンドライト形状の二次γ′相粒子が結晶粒内全面に析出し,さらに,二次γ′相粒子の間に微細な三次γ′相粒子が高密度に析出する.等温時効熱処理中において,オクトデンドライト形状を呈する二次γ′相粒子における切込みが深くなり,二次γ′相粒子は最終的にスプリッティングするに至る.スプリッティングした後の二次γ′相粒子は「球状と立方体状の中間的形状」を呈し,時効熱処理に伴い形状を維持した状態で粗大化する.なお,三次γ′相粒子は,等温時効熱処理初期において母相中に溶解する.

(5) γ′相粒子のスプリッティング現象は,溶体化熱処理後,極めて遅い速度にて連続冷却し,その後,等温時効熱処理を施すことにより,γ′相体積率が20%であるAlloy 80Aにおいても生じることが明らかとなった.

本研究にて使用した合金試料Alloy 80Aは大同特殊鋼株式会社より提供を受けており,ここに厚く御礼申し上げます.本研究の遂行にあたり,電子顕微鏡観察にて御協力下さいました東京工業大学尾中晋教授に感謝の意を表します.本研究の一部は北海道大学において文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業を通じた技術的支援を受けて実施されました.北海道大学大久保賢二氏および大多亮氏に対し感謝の意を表します.

文献
 
© 2020 The Japan Institute of Metals and Materials
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