2020 Volume 84 Issue 10 Pages 318-325
Segregation behavior at grain boundary of Mg-Zn(Al)-Ca(Sr) alloys was calculated by using the grain boundary phase model based on the Hillert's parallel tangential construction to Gibbs energy. The correlations between the calculated segregations and literature values of their maximum texture intensity and Erichsen value were investigated. The Zn addition in Mg-Ca alloys kept a certain Ca concentration in hcp phase regardless of Ca2Mg6Zn3 precipitation. The addition of Al and Zn in Mg-Ca alloys promoted the Ca segregation. However, the Al addition in Mg-Ca alloys significantly decreased Ca concentration in hcp phase due to precipitation of Al(Mg)-Ca compound phases. According to the comparison between the calculated segregation (Ca and Sr) and literature values of maximum texture intensity, the Ca and Sr segregation in grain boundary promoted a decrease of texture intensity of the alloys. The decrease of the texture intensity of Mg-Al-Ca and Mg-Zn-Sr alloys were relatively small because of the precipitates formation. The negative correlation coefficient of −0.85 was obtained between the calculated grain boundary segregation of Ca at the rolling temperature and the literature values of maximum texture intensity. It was estimated that the large amount of Ca segregation at grain boundary region in Mg-Zn-Ca alloys is obtained by rolling at just below the melting point of Ca2Mg6Zn3 phase in the three-phase region (hcp, C14 and Ca2Mg6Zn3) on the phase diagram.
マグネシウム(Mg)合金は低密度で優れた比強度,比剛性を有するため,軽量構造材料としての活用が期待されているが,アルミニウム(Al)合金などの実用軽金属材料と比較して室温成形性が低いことが課題となっている1).マグネシウム合金の低加工性は結晶構造(六方最密構造(hcp))を反映した変形異方性に由来するものである.特に圧延材では六方晶のc軸が板厚(ND)方向に配向した底面集合組織が形成するため,変形異方性が顕著であり室温成形性が低いことが知られている.近年,底面集合組織を弱化させることによってMg圧延板材の室温成形性を改善する試みがなされている.Mg圧延板材の集合組織制御には,板材の作製プロセスの最適化と微量元素の添加の2種類のアプローチがある.
前者に関しては,AZ31合金に対して高温(500℃以上)で圧延を行うと,最終焼鈍過程で粒界よりランダムな配向を呈する再結晶粒が生成し,底面集合組織強度が汎用合金(集合組織強度10以上)と比較して飛躍的に弱まり(集合組織強度3.5以下),優れた室温張出し成形性(エリクセン値:8.0 mm以上)が発現することが報告されている2-4).また,AZ31合金への繰り返し曲げ加工の有効性や5,6),AM30合金への温間圧延の有効性が報告されている7).
後者に関しては,希土類元素(RE)およびカルシウム(Ca)などのアルカリ土類元素を微量添加する手法が注目されている8-10).特に,Mg-Zn系合金に上記元素を微量添加すると,底面集合組織の強度が弱まるとともに,集合組織の極が板幅(TD)方向に分離したTD-split textureが形成され,高い室温エリクセン値(8 mm以上)が発現する9,11,12).希土類元素は地殻中の存在率が低く,特定地域に偏在するため,汎用元素により構成されるMg-Zn-Ca系合金に注目が集まりつつある13,14).
近年,Mg-Zn-Ca系合金の集合組織形成メカニズムを調査する研究が数多く行われている.そこでは,双晶形成を起源とする報告15,16),粒界へのCaやZnの共偏析が再結晶挙動を抑制することを起源とする報告がある17,18).後者では添加元素の粒界偏析が,特定方位を向いた粒の優先成長を抑制することによって,集合組織が弱化すると考えられている.粒界偏析と集合組織の変化に関しては,Mg-Y合金19)やMg-Gd合金20,21)などの希土類元素添加型合金においても報告があり,底面集合組織の形成が抑制される有力なメカニズムとして注目されつつある.
本研究では,底面集合組織の形成が弱化するメカニズムとして,特定元素の粒界偏析に注目する.合金中における添加元素の偏析を記述する計算モデルとしては,LM(Langmuir and McLean)方程式22)やHillertの平行接線則23)が知られている.RobsonらはLM方程式に基づき2元系Mg合金の粒界偏析挙動を計算し,希土類元素は原子半径の差に由来した強い粒界偏析傾向を有していることを報告している24).また,梅林らはMg-Y-Zn合金中の積層欠陥における偏析にHillertの平行接線則を適用し,積層欠陥での偏析が長周期積層型規則構造の形成に関与していることを指摘している25).一方,上記モデルを用いてMg-Zn-Ca系合金の粒界偏析挙動を検討した事例はないのが現状である.そこで,本研究では粒界相モデル26)とHillertの平行接線則を用いて各種Mg合金の粒界偏析挙動を予測することを試みた.具体的には,Mg-Ca合金,Mg-Zn-Ca(Sr)合金,Mg-Al-Ca合金の粒界偏析量を算出し,圧延温度や最終焼鈍温度での粒界偏析量と上記合金の各種特性(集合組織,室温エリクセン値など)の相関関係を調査したので報告する.
粒界偏析量の計算には粒界相モデルとHillertの平行接線則を用いた.Mg-X1-X2-・・・-Xnのn + 1元系合金を考え,合金組成と相Aの組成をそれぞれ
\[{\bf c}^0 = \left( c_{{\rm X}_1}^0,c_{{\rm X}_2}^0,c_{{\rm X}_3}^0, \cdots ,c_{{\rm X}_n}^0 \right),\] | (1) |
\[{\bf c}^{\rm A} = \left( c_{{\rm X}_1}^{\rm A}, c_{{\rm X}_2}^{\rm A}, c_{{\rm X}_3}^{\rm A}, \cdots , c_{{\rm X}_n}^{\rm A} \right),\] | (2) |
\[G_{\rm sys} = N \left( \phi_{\rm gb}G_{\rm gb} \left( {\bf c}^{\rm gb} \right) + \sum \limits_{\rm A} {\phi_{\rm A}}{G_{\rm A}} \left( {\bf c}^{\rm A} \right) \right),\] | (3) |
\[\phi_{\rm gb} + \sum \limits_{\rm A} \phi_{\rm A} = 1,\] | (4) |
\[{\bf c}^0 = \phi_{\rm gb}{\bf c}^{\rm gb} + \sum \limits_{\rm A} \phi_{\rm A}{\bf c}^{\rm A} ,\] | (5) |
\[{\left. {\frac{\partial G_{\rm gb}\left( {\bf c} \right)}{\partial {c_{{\rm X}_i}}}} \right|_{{\bf c} = {\bf c}^{\rm gb}}} = {\left. {\frac{\partial {G_{\rm A}}\left( {\bf c} \right)}{\partial {c_{{\rm X}_i}}}} \right|_{{\bf c} = {\bf c}^{\rm A}}},\] | (6) |
\[J\left( {{\bf{c}^{\rm gb}},{{\bf c}^{\rm hcp}}} \right) = {\left( {{{\left. {\frac{{\partial {G_{\rm gb}}\left( {\bf c} \right)}}{{\partial {c_{{\rm X}_i}}}}} \right|}_{{\bf c} = {{\bf c}^{\rm gb}}}} - {{\left. {\frac{{\partial {G_{\rm hcp}}\left( {\bf c} \right)}}{{\partial {c_{{\rm X}_i}}}}} \right|}_{{\bf c} = {{\bf c}^{\rm hcp}}}}} \right)^2}.\] | (7) |
本研究で取り扱う組成域,温度域では,主たる構成相であるhcp相(母相)以外に数種類の金属間化合物相が形成する場合がある.そこで,本計算では,化合物相が形成せず添加元素が全てhcp相に固溶する場合と,化合物相の生成に伴い母相の組成が変化する場合のそれぞれを計算し,粒界への溶質偏析量と化合物の生成の関係も考察することとした.
はじめに,2元系合金を対象として粒界偏析量を計算した結果として,Mg-xCa(x = 0.01,0.02,0.05,0.1,0.3)(mass%)合金の粒界偏析量と温度の関係を計算した結果をFig. 1に示す.Fig. 1(a),Fig. 1(b)はそれぞれ化合物の形成を考慮しない場合と化合物の形成を考慮した場合の計算結果である.hcp相単相を仮定した場合は,温度の低下に伴いCa偏析量が単調に増加した.また,合金への添加Ca量が増加するとCa偏析量が増加する傾向にあった.しかし,偏析Ca量は添加Ca量と比例関係にはなく,添加量の増加に伴い,偏析量の増加率は小さくなる傾向が確認された.
Variations in calculated grain boundary segregation of Ca in Mg-xCa(mass%) alloys (x = 0.01, 0.02, 0.05, 0.1 and 0.3) as a function of temperature, on the assumptions that (a) all solute elements are dissolved in hcp phase, and (b) phase equilibrium is reached.
化合物の形成を考慮した場合は,低温側では合金組成に依存せず,温度にほぼ比例して偏析量が増加する傾向が確認され,偏析量の増加率は組成によらず,同じ値を示した.そして,ある温度を境界として,偏析量は温度にほぼ比例して減少する傾向を示した.ある温度を境界として偏析量の増加率が符号反転する現象は,母相側の平衡相が切り替わる温度に対応しており,高温側ではhcp相単相,低温側ではhcp相とC14化合物相(Mg2Ca)28)の2相共存領域となる状態に対応する.Fig. 1(b)において低温側で全ての合金が同じ偏析量を示したのは,2元系合金ではギブスの相律により2相共存領域の各相の組成は合金組成によらず温度によってのみ決まるためである.また,hcp相とC14相の2相共存領域において温度の増加に伴い偏析量が増加したのは,温度上昇に伴いC14相の体積分率が減少し,hcp相中の固溶Ca量が増加したためと考えることができる.
ここで,先行研究10,17)で底面集合組織の形成が抑制されることが報告されているMg-Ca合金について,各合金の圧延温度でのCa偏析量を計算し,Ca偏析量(計算値)とエリクセン値,最大集合組織強度(文献値)の関係としてまとめた結果をFig. 2に示す.(Fig. 2にはMg-Ca合金の結果(黒点)に加え,他の合金の結果(赤点・青点・緑点)も含まれている.他の合金については3.2節および3.4節で説明する.)粒界偏析量の計算にあたっては化合物の形成を考慮した.Ca偏析量が4 at%(6.4 mass%)以下の領域では,最大集合組織強度がCa偏析量の増加に伴い直線的に減少しており,4 at%以上の領域では5前後の値に収束した.Zengら18)はMg-Zn-Ca合金の粒界偏析挙動を高解像度TEMにより調査し,固溶元素(ZnおよびCa)の粒界偏析が特定の方位を有した粒の優先成長を抑制し,それが圧延集合組織の形成を抑制することを指摘している.Fig. 2の結果は,Mg-Ca 2元系合金においても,Caの粒界偏析が特定の方位を有する結晶粒の成長を抑制することに寄与していることを示唆していると言える.成形性に関しては,集合組織,結晶粒径,化合物形成など,様々な組織因子が影響するため,Ca偏析量との対応は明瞭ではないものの,Ca偏析量の増加に伴いエリクセン値が増加する傾向が見受けられた.
Relationships between calculated grain boundary segregation of Ca and (a) Erichsen value and (b) max intensity of (0002) plane pole figures in Mg-Ca system. The data of Mg-Ca alloys, Mg-3Al-0.1Ca, Mg-3Zn-0.1Ca, Mg-1.37Zn-0.17Sr(mass%) alloys are plotted by black, red, blue and green, respectively.
次に,Mg-Ca合金にZnを添加した際の粒界偏析挙動を計算により評価した.また,Alを添加した際の挙動も比較として評価した.具体的には,Mg-0.1 mass%Ca(Mg-0.06 at%Ca)合金に加えて,Mg-3 mass%Zn-0.1 mass%Ca(Mg-1.1 at%Zn-0.06 at%Ca)合金,およびMg-3 mass%Al-0.1 mass%Ca(Mg-2.7 at%Al-0.06 at%Ca)合金を対象としてCa粒界偏析量を計算した.その結果をFig. 3(a),Fig. 3(b)に示す.Fig. 3(a),Fig. 3(b)はそれぞれ化合物の形成を考慮しない場合ならびに化合物の形成を考慮した場合の計算結果であり,Fig. 3(b)には各温度でのhcp相のCa固溶量を点線で示した.
Variations in calculated grain boundary segregation of Ca in Mg-0.1Ca, Mg-3Al-0.1Ca and Mg-3Zn-0.1Ca(mass%) alloys as a function of temperature, on the assumptions that (a) all solute elements are dissolved in hcp phase, and (b) phase equilibrium is reached. The Ca concentration in hcp phase are inserted in (b) as broken lines.
hcp相単相を仮定した場合に注目すると,Mg-Al-Ca,Mg-Zn-Ca合金ともにMg-Ca合金と比較してCa偏析量は増加した.Mg-Al-Ca合金とMg-Zn-Ca合金を比較すると,Mg-3Al-0.1Ca(mass%)合金の方がCa偏析量が多く,同重量であればZnよりもAlの添加がCa偏析量の増加への寄与が大きい結果となった.
一方,化合物の形成を考慮した場合に注目すると,Mg-3Al-0.1Ca(mass%)合金のCa偏析量は著しく低減し,他の合金よりも著しく低いCa偏析量を示した.前述のとおり,Mg-0.1Ca(mass%)合金では昇温に伴い平衡相はhcp相とC14(Mg2Ca)相の2相共存からhcp相単相へと変化する.一方で,Mg-3Al-0.1Ca(mass%)合金は,hcp相とMg17Al12相とC15(Al2Ca)相の3相共存から,hcp相とC36((Al,Mg)2Ca)相の2相共存に変化する29).Mg-3Zn-0.1Ca(mass%)合金に関しては,hcp相とCa2Mg6Zn3相の2相共存からhcp相とCa2Mg6Zn3相とMg12Zn13相の3相共存に変化する30,31).なお,Mg-Al-Ca合金中に形成されるC15相およびC36相には多くのCaが分配されるため,hcp相中に残存するCa量は少なくなる.これが,化合物の形成を考慮した場合,Mg-Al-Ca合金中のCa偏析量が著しく減少する理由である.
Mg-Zn-Ca合金に関してもCa2Mg6Zn3の形成によってhcp相中のCa組成が低減するが,その減少量はMg-Al-Ca合金と比較して小さい.Fig. 3(b)の破線に注目すると,一般的なMg合金の熱処理温度である623 K前後のMg-Zn-Ca合金のhcp相中のCa固溶量は,Mg-Ca合金のそれとほぼ同じ値を取ることが確認できる.一方,Mg-Al-Ca合金のhcp相中のCa固溶量はその7%(700 K)に過ぎない.著者ら9)は先行研究において,Mg-Zn-Ca合金において形成されるTD-Split textureがMg-Al-Ca合金では形成されず,さらに,相対的に高い底面集合組織強度を示すことを報告している.今回の計算結果は,Mg-Al-Ca合金においてhcp相中のCa固溶量ならびにCa粒界偏析量がMg-Zn-Ca合金と比較して著しく低いことが,Mg-Al-Ca合金において底面集合組織の形成が相対的に抑制されない理由の1つであることを示唆していると言える.
ここでFig. 2に掲載したMg-3Zn-0.1Ca,Mg-3Al-0.1Ca(mass%)合金12,17)の結果に注目すると,Mg-Zn-Ca合金およびMg-Al-Ca合金についても,Ca偏析量と最大集合組織強度はMg-Ca合金と同様の傾向を示した.この結果は,Mg-Zn-Ca系合金に加えて,Mg-Al-Ca系合金に関しても,Ca添加に伴う粒界へのCa偏析が集合組織の弱化に有意義であることを示唆している.なお,先行研究において32),Mg-Al系合金へのCa添加が底面集合組織の形成を抑制するための圧延条件を緩和するとの報告もなされている.詳細はさらなる調査が必要であるが,本件に関してもCaの粒界偏析が集合組織形成に影響を及ぼしているものと推測される.
3.3 Mg-Zn-Ca合金の添加元素濃度が粒界偏析に及ぼす影響これまでの計算結果より,粒界偏析量が他の合金系と比較して大きかったMg-Zn-Ca合金を対象としてZnおよびCaの偏析量に及ぼす合金組成依存性をさらに詳しく調査した.その結果をFig. 4に示す.Fig. 4は化合物の形成を考慮した場合のZnおよびCaの偏析量に及ぼす合金組成依存性を計算した結果である.Fig. 4中の破線は相境界を表している(623 Kにおける計算結果).
Profiles of calculated grain boundary segregation of (a) Zn and (b) Ca in Mg-Zn-Ca alloys with various Ca and Zn concentrations at 623 K, on the assumption that phase equilibrium is reached.
HCP単相領域では,Zn偏析量はZn添加量の増加に伴い単調に増加し,Ca偏析量も添加Ca濃度の増加に伴い増加した.ZnおよびCaの偏析量が互いの添加濃度に影響を受けない場合,縦軸もしくは横軸に対して平行なカラーグラデーションが形成されることになるが,その傾向は添加濃度が低い領域においては確認できない.この結果は,ZnおよびCaの添加元素濃度が低い領域においては,一方の元素の粒界偏析に他方の元素が影響を及ぼすことを示唆している.ここで,Mg-0.1Ca,Mg-1.5Zn,Mg-1.5Zn-0.1Ca(mass%)合金の623 Kでの粒界偏析量をTable 1に示す.上記の合金はhcp相単相領域に属している.Table 1によると,Mg-1.5Zn合金に0.1 mass%のCaを添加することによりZnの偏析量が約1.3倍に,また,Mg-0.1Ca合金に1.5 mass%のZnを添加することによりCaの偏析量が約1.5倍になった.この様に,CaならびにZnの添加が他方の元素の粒界偏析量を大きく増加させる,いわゆる共偏析が生じていることがわかる.
Calculated amount of Zn and Ca segregation in grain boundary of Mg-1.5Zn, Mg-0.1Ca and Mg-1.5Zn-0.1Ca(mass%) alloys.
次に,添加Zn濃度および添加Ca濃度が比較的多く化合物相が形成する領域に注目すると,以下の2つの傾向が現れた.
(1) C14相とhcp相の2相共存領域ではZnとCaの偏析量はともに添加Zn濃度の増加に伴い増加するが,添加Ca濃度はZnとCa偏析量に殆ど影響を及ぼさない.
(2) Ca2Mg6Zn3化合物相とhcp相の2相共存領域では,Zn偏析量は添加Zn濃度の増加に伴い増加し,添加Ca濃度の増加に伴い減少する.一方で,Ca偏析量はZn偏析量とは逆の傾向を示す(添加Ca濃度の増加に伴い増加し,添加Zn濃度の増加に伴い減少する).
上記(1)の傾向は,前述のMg-Ca 2元系合金においてC14相とhcp相の2相共存領域でCa偏析量がCa組成によらずに決まることに対応している.一方で,上記(2)の傾向は,hcp相単相領域とは逆の傾向(ZnおよびCaの添加が他方の偏析を抑制する傾向)である.また,Ca2Mg6Zn3相とhcp相の2相領域では,広範な組成域において添加Ca濃度が偏析Zn量に影響を与える.なお,hcp相とCa2Mg6Zn3相とC14相の3相共存領域では,各相の組成は合金組成によらずに決定するため,3相共存領域全体でZn・Ca偏析量は一定となる.本計算結果と文献値の比較については,さらに3.5節で議論を行う.
3.4 Mg-Zn合金へのアルカリ土類元素の添加が粒界偏析に及ぼす影響Caと同じくアルカリ土類金属に属するSrならびにBaを添加したMg-Zn合金においても,Caの添加に匹敵する効果は認められないものの,底面集合組織強度の弱化が報告されている14).そこで,Mg-Zn-Ca合金とMg-Zn-Sr合金の差異について調査するために,Mg-Zn-Sr合金のZn,Srの粒界偏析量を623 Kで計算し,Fig. 5に示した(図の見方はFig. 4の場合と同じである).
Profiles of calculated grain boundary segregation of (a) Zn and (b) Sr in Mg-Zn-Sr alloys with various Sr and Zn concentrations at 623 K, on the assumption that phase equilibrium is reached.
Mg-Zn-Ca合金ではhcp単相領域ならびにhcp相とC14相,Ca2Mg6Zn3相,液相による2相共存,3相共存領域によって構成されている.一方,Mg-Zn-Sr合金では3元化合物は存在せず,hcp相とMg17Sr2化合物相の2相共存領域が広範な組成で広がっている.また,Mg-Zn-Sr合金のhcp単相領域は非常に狭く,hcp相にSrが殆ど固溶しないため,Srの粒界偏析量はCaの偏析量に比べて小さくなった.この様に,前述のMg-Al-Ca合金と同様に,金属間化合物の形成により,hcp相中の固溶Sr量と粒界Sr偏析量が小さくなることが,底面集合組織強度がCaの場合に比較して相対的に弱化しない理由の1つであると考えられる.
Yuasaら14)は第一原理計算を用いて,Mg-Zn-X合金(X = Ca,Sr,Ba)の成形性を底面すべりと柱面すべりに関する積層欠陥エネルギーの観点から説明している.ここで,Yuasaら14)が作製したMg-1.4Zn-0.2Sr(mass%)合金について,圧延温度でのSr偏析量を計算し,Fig. 2にエリクセン値,最大集合組織強度との関係を緑点で示した.Sr偏析量と最大集合組織強度の対応はCa偏析量と最大集合組織強度の関係によく一致している.このことは,Caの偏析と同程度に,Srの粒界偏析はMg合金の底面集合組織を弱化する効果があることを示唆していると言える.
3.5 Mg-Zn-Ca合金の粒界偏析量と成形性,集合組織強度の関係評価3.2節から3.4節の計算結果よりMg-Zn-Ca合金において最も高いCa偏析量およびZn偏析量が確認された.そこで,先行研究9,12,14,17,33-35)にて作製されたMg-Zn-Ca合金を対象として,Ca偏析量およびZn偏析量が底面集合組織強度や室温エリクセン値などの材料特性との相関関係をさらに評価することにした.
Fig. 6(a),Fig. 6(b)は,先行研究にて作製されたMg-Zn-Ca合金の圧延温度における粒界Ca偏析量を計算し,文献値(エリクセン値ならびに最大集合組織強度)との比較を行った結果である.Fig. 6(a),Fig. 6(b)によると,エリクセン値に関しては明瞭な相関は確認できないが,最大集合組織強度については明確な負の相関が確認された.Fig. 6(c)は最終焼鈍温度におけるCa偏析量を計算した結果と文献値(最大集合組織強度)を比較した結果であり,Fig. 6(d)は圧延温度におけるZn偏析量を計算した結果と文献値(最大集合組織強度)を比較した結果である.Fig. 6(c),Fig. 6(d)によると,設定温度を圧延温度にした時には明確に確認されたCa偏析量と最大集合組織強度の負の相関は,設定温度を焼鈍温度にすると確認できなくなった.また,設定温度を圧延温度に設定しても,偏析元素をZnとすると負の相関が確認できなくなった.以上の結果は,圧延時の試料加熱がCaの粒界偏析を促進し,それがMg-Zn-Ca合金の底面集合組織のランダム化に寄与していることを示唆していると言うことができる.
(a) Relationships between calculated grain boundary segregation of Ca at rolling temperature and Erichsen value for Mg-Zn-Ca alloy sheets. (b) Relationships between calculated grain boundary segregation of Ca at rolling temperature and max intensity of (0002) plane pole figures for Mg-Zn-Ca alloy sheets. (c) Relationships between calculated grain boundary segregation of Ca at annealing temperature and max intensity of (0002) plane pole figures for Mg-Zn-Ca alloy sheets. (d) Relationships between calculated grain boundary segregation of Zn at rolling temperature and max intensity of (0002) plane pole figures for Mg-Zn-Ca alloy sheets. The grain boundary segregations of Ca and Zn are calculated on the assumption that phase equilibrium is reached.
次に,Mg-Zn-Ca合金のエリクセン値と最大集合組織強度に影響を及ぼす支配因子を明確にすることを目的として,各種因子との相関係数を計算し,ヒートマップとしてまとめた結果をFig. 7に示す.Fig. 7中の,cX0はCa(X = Ca)ならびにZn(X = Zn)の合金組成を示し,$c_{\rm X}^{{\rm gb},\ {\rm R},\ {\rm hcp}}$,$c_{\rm X}^{{\rm gb},\ {\rm A},\ {\rm hcp}}$は化合物の形成を考慮しないときの各種圧延温度・最終焼鈍温度における偏析量を示し,$c_{\rm X}^{{\rm gb},\ {\rm R},\ {\rm eq}}$,$c_{\rm X}^{{\rm gb},\ {\rm A},\ {\rm eq}}$は化合物の形成を考慮したときの各種圧延温度・最終焼鈍温度における偏析量を示す.
Correlation coefficients about max intensity of (0002) plane pole figure and Erichsen value. cXgb, R, hcp and cXgb, R, eq denote the grain boundary segregation of solute element X at rolling temperature, on the assumption that all solute elements are dissolved in hcp phase or phase equilibrium is reached, respectively. cXgb, A, hcp and cXgb, A, eq denote the grain boundary segregation of solute element X at final annealing temperature, on the assumption that all solute elements are dissolved in hcp phase or phase equilibrium is reached, respectively.
Fig. 7の最大集合組織強度の結果に注目すると,$c_{\rm Ca}^{{\rm gb},\ {\rm R},\ {\rm eq}}$との間の相関係数−0.85が最も絶対値が大きく,圧延温度におけるCa偏析量と明瞭な負の相関があることが確認できる.$c_{\rm Zn}^{{\rm gb},\ {\rm R},\ {\rm eq}}$については集合組織強度との相関係数の絶対値が0.5を下回っており,Zn偏析量は集合組織強度と殆ど相関がないとみなすことができる.なお,$c_{\rm Ca}^{{\rm gb},\ {\rm R},\ {\rm eq}}$に匹敵する高い相関係数を有する因子は他に確認できない.Fig. 7の結果は圧延加工時のCa偏析量が,Mg-Zn-Ca合金をはじめとして,Mg-Ca系合金の集合組織強度を記述するための新しいパラメータになり得ることを示している.
次に,Fig. 7のエリクセン値の結果に注目すると,最大集合組織強度とは高い相関を示した$c_{\rm Ca}^{{\rm gb},\ {\rm R},\ {\rm eq}}$の値は−0.012であり,明確な相関は確認できなかった.他の因子に関しても,エリクセン値とは高い相関を見出すことはできない.一般に,エリクセン値と底面集合組織強度には負の相関があることが指摘されているが3),Ca偏析量とは明確な相関は確認できない.この理由としては,結晶粒径の大小36)や,非底面すべり系の活動の活発化37)など,今回,検討に入れていない組織因子がエリクセン値の決定に影響を及ぼしていたことを挙げることができる.
最後に,Mg-(0-4 at%)Zn-(0-0.7 at%)Caの組成範囲で,Ca偏析量の温度依存性を調査した.Fig. 8は,各温度(各圧延温度)におけるCa偏析量の最大値と,その際の平衡相をまとめたものである.653 K以下の温度域ではhcp相,Ca2Mg6Zn3相,C14相の3相共存領域においてCa偏析量が最大となり,Ca偏析量は温度の増加に伴い増加した.なお,653 Kでのhcp相のZnならびにCaの固溶量は約0.6 at%Zn,0.16 at%Ca(1.5 mass%Zn,0.3 mass%Ca)であり,この組成と定比性化合物であるCa2Mg6Zn3相とC14相で形成される3相三角形内でCa偏析量が最大値を取る.Fig. 8の結果は,上記の組成範囲において653 Kで圧延加工を行うと,高いCa粒界偏析が得られることを示唆している.なお,著者ら33)が報告しているMg-3Zn-0.4Ca(mass%)合金(圧延温度653 K)は上記の条件に近く低い最大集合組織強度(2.5)と8.8 mmのエリクセン値が確認されている.
Variation of maximum value of calculated grain boundary segregation of Ca in Mg-Zn-Ca alloys as a function of temperature.
本研究では粒界相モデルならびにHillertの平行接線則を用いて,Mg-Ca,Mg-Al-Ca,Mg-Zn-Ca(Sr)合金の粒界偏析挙動を解析するとともに,Mg-Ca系合金の集合組織形成,室温成形性と粒界偏析の関係を調査した.得られた結果を以下に示す.
(1) Mg-Ca合金における,hcp相へのAl,Znの添加はCaの偏析量を増加させる傾向があった.しかし,Alの添加はAl(Mg)-Ca化合物の形成を誘起しhcp相中のCa濃度を著しく低減するため,化合物相の形成を考慮するとCa偏析量を低減する働きを示した.Znの添加もCa2Mg6Zn3の形成によってhcp相中のCa濃度を低減するが減少量が少ないため,特定の温度域では偏析量を増加する寄与を示した.
(2) 計算されたCa偏析量と文献値(集合組織強度)を比較した結果,圧延温度におけるCa粒界偏析量が増加するとMg-Ca合金,Mg-Al(Zn)-Ca合金,Mg-Zn-Sr合金のいずれも,集合組織強度が減少する傾向が確認された.ただし,Mg-Al-Ca合金ならびにMg-Zn-Sr合金では,金属間化合物の形成によりCaならびにSrの偏析量が相対的に小さくなり,集合組織強度の低下量が小さくなった.
(3) Mg-Zn-Ca合金の粒界偏析量(計算値)と最大集合組織強度(文献値)の関係を解析したところ,圧延温度におけるCa偏析量と最大集合組織強度の間に,他のパラメータと比較して,著しく高い負の相関が存在した.
(4) Mg-Zn-Ca合金のCa偏析量を計算した結果,hcp相とC14相,Ca2Mg6Zn3相の3相共存領域で最も高い値が得られた.Ca偏析量は温度の上昇に伴い増加するため,3相共存領域付近の組成の合金を,Ca2Mg6Zn3相の融点より低い653 Kにおいて圧延することで高いCa偏析量が得られることが示唆された.