2020 Volume 84 Issue 11 Pages 360-363
Porous aluminum is a porous material with pores inside. Therefore, compared to aluminum alloy, it is superior in light weight, shock absorption, heat insulation, sound absorption, etc., and it can be expected to be applied to industrial parts. Since porous aluminum has different properties depending on the type of base material and porosity, it is possible to fabricate functionally graded porous aluminum by combining porous aluminum with different properties. The purpose of this study is to optimize the fabrication of functionally graded porous aluminum. Optimization criteria include observation of foaming behavior of precursor and temperature – time relationship during foaming process.
ポーラスアルミニウム(Al)は内部に気孔を有する多孔質材料である.そのため,緻密なAlに比べて,軽量性,衝撃吸収性,断熱性,吸音性などに優れていることから,工業製品としての利用が期待されている材料である1,2).また,ポーラスAlは母材の合金種が違えば特性が異なる.1つのポーラスAl中で合金種を変化させることによって,傾斜機能ポーラスAlの作製が可能と考えられる.過去の研究では,高強度AlからなるポーラスAl層と低強度AlからなるポーラスAl層の2層構造ポーラスAlが作製された3,4).この2層構造ポーラスAlに圧縮試験を行うと,強度の低いポーラスAl層から変形が始まり,徐々に高強度ポーラスAl層に変形が遷移していくことが確認された.このように,母材内部で強度を連続的に変化させることで,母材内部の変形挙動を制御できると考えられる.
ポーラスAlの作製方法の1つにプリカーサ法があり,プリカーサの作製法の代表的なものとして粉末冶金法5)がある.この方法は,アルミニウム粉末と発泡剤となる水素化チタン粉末を混合固化し,プリカーサを作製する.このプリカーサを加熱することで水素化チタンから水素ガスが乖離し,アルミニウム中に気孔となってプリカーサが発泡し,ポーラスAlが得られる.しかし,この方法では比較的高価なアルミニウム粉末を用いるので,原材料が高価である.一方,共著者らはこれを解決するために摩擦攪拌接合6,7)により比較的安価なアルミニウム板材を利用したプリカーサの作製法を試みている8).この方法は,まずアルミニウム板材の間に発泡剤である水素化チタン粉末を挟み,その板に対して摩擦攪拌接合を行い,アルミニウム合金と粉末を攪拌しながら接合することによってプリカーサを作製する.摩擦攪拌接合自体は様々な種類のアルミニウム合金へ適用でき,異なるアルミニウム合金同士の接合も可能である6).そのため,異なる種類の合金からなるプリカーサを摩擦攪拌接合することによって(以後,接合プリカーサと呼ぶ),異種合金からなる傾斜機能ポーラスAlの接合プリカーサを作製できる.
過去の研究では,この接合プリカーサの発泡は電気炉内で行っていたため,発泡挙動については不明であった.一方,赤外線ランプやハロゲンランプによる加熱では,プリカーサの発泡挙動を直接観察することができる9,10).著者らの予備実験により,接合プリカーサではプリカーサ全体を均一に発泡ができないことが分かってきた.プリカーサが発泡を始める温度などの諸条件は,合金によって様々である.そのため,接合プリカーサを均一に加熱しても同時に発泡せず,一方の合金部が加熱過多,あるいはもう一方の合金部が加熱不足になってしまい,ポーラスAlの気孔形態に影響を及ぼしてしまう.そのため,接合プリカーサ全体を同時に発泡させることが望まれる.
そこで本研究では,フィジービリティスタディとして,2種類の合金からなる接合プリカーサを光加熱により加熱することによって,同時に発泡させることを検討した.その方法として,発泡の遅い合金部にブラックトナー(ファインケミカルジャパン(株)型番:FC-153)を塗布して温度上昇を早めることを試みた.まず1つ目の実験として,各合金の単一プリカーサを作製し,それらを同時に光加熱した.発泡の遅い合金にブラックトナーを塗布した場合とそうでない場合で合金の温度上昇がどのように変化するか比較を行った.その上で2つ目の実験として,接合プリカーサに対して同様にブラックトナーの塗布の有無が発泡にどのような影響を及ぼすか検討を行った.
本研究では,厚さ3 mmのADC12(Al-Si-Cu系アルミニウム合金)ダイカスト板材(固相線温度515℃,液相線温度580℃11))と,厚さ3 mmのA1050(工業用純アルミニウム)圧延材(固相線温度646℃,液相線温度657℃11))を用いた.発泡剤である水素化チタン(TiH2)と気孔形態安定剤であるアルミナ(Al2O3)それぞれの粉末を混ぜたものを,Fig. 1(a)のように,それぞれ上下2枚の板材に挟んで摩擦攪拌接合により板材中に粉末を混合しながら上下2枚の板材を接合した.この時,各粉末の添加量は攪拌領域質量に対してTiH2を1 mass%,Al2O3を5 mass%とした.ADC12とA1050それぞれ別々に作製した板材の攪拌領域から15 mm × 15 mm × 6 mmに切り出したものを単一プリカーサとした.このプリカーサの下面中心に直径1 mmで深さ3 mmの穴をボール盤で空け,そこに熱電対を差し込んで温度の測定を行った.ADC12とA1050のそれぞれの単一プリカーサを,Fig. 2(a)のように同時にハロゲンランプにより加熱した.プリカーサの発泡は,固相線温度を越えると徐々に始まり,液相線温度を越えると急激になされることがわかっている12).A1050はADC12よりもそれらの温度が高いので,本研究ではA1050にブラックトナーを塗布しない条件Iと,塗布した条件IIについて比較した.

Fabrication procedure of precursor by FSW.

Schematic illustration of foaming of precursors for (a) uniform precursors and (b) welded precursor.
接合プリカーサの作製手順をFig. 1に示す.まず,Fig. 1(a)のように摩擦攪拌接合を施し粉末を混合したそれぞれの板材を,Fig. 1(b)のように攪拌領域同士が突合せできるように端を切断した.次に,Fig. 1(c)のように摩擦攪拌接合を用いた突合せ接合によって,異種合金同士の板材を接合した.このようにして得た板材から,各合金部分が20 mm × 15 mm × 6 mmになるように,Fig. 1(d)のように攪拌領域から40 mm × 15 mm × 6 mmのプリカーサを切り出した.これを,Fig. 1(e)のように接合プリカーサとした.さらに,プリカーサ下面のADC12とA1050のそれぞれの部分の中心に単一プリカーサと同様な穴を空け,熱電対を差し込んで温度を計測した.このプリカーサを,Fig. 2(b)のようにハロゲンランプにより加熱発泡させて2種合金からなるポーラスAlを作製した.2.1節と同様,A1050にブラックトナーを塗布しない条件IIIと,塗布した条件IVについて比較した.
2.3 ハロゲンランプを用いた光加熱本研究で用いるハロゲンランプの波長は1 µmが中心波長で赤外領域90%,可視光10%の波長分布であるものを3本用いた.加熱の際の電力は,1620 W(9 A × 180 V)とした.
Fig. 3(a)-Fig. 3(d)に各条件の発泡前のプリカーサ,Fig. 3(e)-Fig. 3(l)にADC12およびA1050それぞれの液相線温度到達時刻における発泡の様子を示す.また,各条件の加熱時の温度T [℃] − 時間t [s]の関係をFig. 3(m)-Fig. 3(p)に示す.グラフの時刻t = 0 sはADC12またはA1050が100℃に到達した時刻とした.グラフ上の実線および点線の矢印は,それぞれADC12とA1050の液相線温度到達時刻を示している.

Foaming behavior and temperature transition under each condition.
条件Iの発泡挙動から,ADC12が先に発泡し,遅れてA1050が発泡し始めたのがわかる.プリカーサに何もせず作製したまま加熱すると,ADC12が液相線温度に達するころに,A1050は発泡し始めた.A1050にブラックトナーを塗布した条件IIでは,A1050がADC12よりも早く発泡しているのがわかる.温度履歴からも,A1050の方が早く液相線温度に到達しているのがわかる.また,条件IとIIの温度履歴を比較すると,条件IIは条件IよりもA1050の温度勾配が高くなり,発泡に要する時間が短くなった.すなわちブラックトナー塗布の有無によって,吸収する熱量が変わり,発泡に要する時間を変えられることがわかった.
接合プリカーサの条件IIIでは,単一プリカーサの条件Iと同様,液相線温度が低いADC12側から発泡が始まっている.また,条件Iの時よりもADC12が早く発泡している.これは,ADC12が固液共存状態になり温度上昇が止まってもA1050からADC12に接合部を介して熱が伝わったためであると考えられる.次にA1050にブラックトナーを塗布した条件IVでは,A1050とADC12はほぼ同時に液相線温度に達した.条件IIではA1050がADC12よりも先に発泡したのに対して,条件IVではA1050側からADC12側への熱伝導のため,液相線温度の到達時間の差はみられず,両者がほぼ同時に液相線温度に到達した.このことから,ブラックトナーを塗布することによって,ADC12とA1050の発泡のタイミングを近づけられることが分かった.
Fig. 4(a)にADC12とA1050がほぼ同時に発泡した条件IVで作製した2種合金からなるポーラスAlを上から見た外観,およびFig. 4(b)にそのX線CT画像を示す.同時に発泡させることで均一な気孔を有した2種合金からなるポーラスAlが得られることがわかる.

Obtained porous Al (condition IV) of (a) photograph and (b) X-ray CT image.
以上から,プリカーサに与える熱量をそれぞれの合金ごとに変えることで,接合プリカーサ全体を同じタイミングで発泡させられることが示唆された.本研究では,ブラックトナーを使った場合であったが,今後はハロゲンランプの電力量の調整などで,更に細かな制御ができるものと期待される.
ADC12とA1050の単一プリカーサ,およびADC12とA1050の接合プリカーサの光加熱を用いた発泡実験より,得られた結言を以下に示す.
(1) 単一プリカーサの場合,ADC12とA1050を同時に加熱すると,液相線温度の低いADC12の方が早く発泡した.
(2) 単一プリカーサの場合,液相線温度の高いA1050部分にブラックトナーを塗布することで,ADC12よりも早く発泡できた.
(3) A1050にブラックトナーを塗布した接合プリカーサを光加熱すると,ADC12とA1050をほぼ同時に発泡させることが可能である.
本研究の一部は,JST未来社会創造事業JPMJMI19E5の支援を受けたものです.ここに厚く感謝申し上げます.