Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Thermodynamic Analysis of the Al-Mg-Zn Ternary System
Naohiro HayashiKazuki NakashimaMasanori EnokiHiroshi Ohtani
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2020 Volume 84 Issue 5 Pages 141-150

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Abstract

In the present study, the Al-Mg-Zn ternary system, which is essential as the basic system of 7000 Al-based alloys and Mg-based casting alloys, was analyzed thermodynamically using the first-principles method and the CALPHAD approach. The (Al,Zn)17Mg21-type sublattice model was applied to the ternary compound ɸ phase based on the most recent experimental results. Furthermore, the Gibbs free energy for Al17Mg21 and Zn17Mg21 which are end members of the structures, the terminal compounds Al2Mg and Zn2Mg of Laves_C14 phase, as well as Mg2Zn11 phase were evaluated by first-principles calculations considering lattice vibration and volume expansion. These results were analyzed by the CALPHAD method together with experimental values on phase boundaries and thermodynamic properties, and the phase equilibrium of all compositional regions of this alloy system was clarified by calculations. The temperature change of the precipitation phase based on the analysis was found that the AlMg-γ phase mainly formed at the high temperature in the commercial AZ alloys. On the other hand, when the ratio of Zn:Al was changed, the precipitated phase altered to the τ phase or the ɸ phase, and therefore, it can be inferred that the mechanical properties in this alloy system may be expected to be improved by the structure change due to the composition change.

1. 緒言

Al-Mg-Zn 3元系は高い強度を持つ7000系Al合金の基本系であり,この状態図が示す相平衡の情報はその組織制御においてきわめて重要な役割を果たす.一方,この合金系は鋳造用Mg基合金として,軽量自動車用部材への応用に期待を集めている.例えばMg-9 mass%Al-1 mass%Zn合金では,温度による固溶度の変化を利用して時効による高い析出硬化が見込まれるが,実際には粗大な析出物の生成に阻害されて,期待される特性が得られていない1).そこで析出相を合金組成の調整によって,微細に析出する相に変化させる試みが行われている.このように,Al-Mg-Zn 3元系状態図は,Al基およびMg基の軽量金属材料の材料設計において不可欠の情報源である.

Al-Mg-Zn 3元系についてはLiangら2)によって解析がすでに行われているが,3元化合物であるɸ相の熱力学モデルについて,3.4節で述べるような最新の実験結果との乖離がある.そこで本研究ではAl-Mg-Zn 3元系について,このような新しい実験事実を考慮しながら,第一原理的手法とCALPHAD法を用いて熱力学的に解析した.具体的には,ɸ相の熱力学モデルを(Al,Zn)17Mg21に変更し,Pbcm構造に基づいて生成自由エネルギーを計算した.また,Laves_C14相とMg2Zn11相についても,同様の手法によってその生成自由エネルギーを評価した.これらの第一原理計算による結果を実験データと共にCALPHAD法に導入し,Al-Mg-Zn 3元系状態図の熱力学的解析を行った.

2. 解析方法

Al-Mg-Zn 3元系を構成する相について,本研究で用いた相名,化学量論組成,空間群,熱力学モデルをTable 1にまとめた.本章では,はじめに生成自由エネルギーの計算手法を述べ,次に熱力学的解析に必要な各相の自由エネルギーモデルについて説明する.ここで生成自由エネルギーは各温度において安定である純物質の自由エネルギーを基準として,相の生成に伴う自由エネルギー変化として定義した.

Table 1

List of phases observed in the Al-Mg-Zn ternary system. Crystal structures and thermodynamic models applied in the present study were summarized.

2.1 第一原理計算による自由エネルギーの計算

本研究では,Mg2Zn11相,ɸ相の終端化合物であるAl17Mg21およびMg21Zn17,Laves_C14相の終端化合物であるAl2Mg,MgZn2について,第一原理計算を用いた自由エネルギーの評価を行って熱力学解析に導入した.一方,Mg12Zn13のように結晶構造が同定されていない相に関しては第一原理計算からの熱力学量の評価は行えないため,第一原理計算が可能な相の自由エネルギーと相境界の実験データをCALPHAD法に導入することで,その熱力学パラメータを決定した.

本研究では,格子振動のエントロピーを考慮して生成自由エネルギーを計算した.格子振動の計算に際しては準調和近似法を適用した.この手法では,スーパーセルを用いて,局所原子位置の微小変位に対する力を計算し,これに調和振動子近似を適応することでフォノンの振動数の波数依存性を求める.得られたフォノンの状態密度から,有限温度における振動のエントロピーを含む自由エネルギーへの格子振動の寄与を計算する.さらに体積を変えた複数の格子モデルにおいて,調和振動子近似によるフォノン計算を行い,有限温度において最小となる自由エネルギーの体積(平衡体積)を求めることで,熱膨張の効果を取り入れたギブス自由エネルギーを計算する.

具体的には,温度Tにおけるヘルムホルツ自由エネルギーへのフォノンからの寄与$F_{ph}(T)$は,以下の式で記述される.   

\[F_{ph}(T)=\frac{1}{2}\sum\limits_{\mathbf{q}j} \hbar \omega _{\mathbf{q}j} +k_{B}T \sum\limits_{\mathbf{q}j}\ln \left[1-\exp(-\hbar \omega_{\mathbf{q}j}/k_{B}T) \right]\](1)
ここで$\omega_{\mathbf{q}j}$は波数ベクトルq, j番目のフォノンの振動数であり,$\hbar$は換算プランク定数,kBはボルツマン定数である.温度T,圧力Pにおけるギブス自由エネルギー$G(P,T)$は,体積Vにおけるヘルムホルツ自由エネルギーへの格子振動の寄与$F_{ph}(T;V)$を用いて以下のように表される.   
\[G(P,T)=\mathop{\min}\limits_V \left[U(V)+F_{ph}(T;V+PV)\right]\](2)
ここでU(V)は体積Vにおける格子振動の寄与を除いた絶対零度の内部エネルギーであり,鉤括弧内の値が最小となるVが平衡体積である.なお,内部エネルギーへの格子振動の寄与は$F_{ph}(T;V)$に含まれているので,内部エネルギーへの温度の効果は式(2)の計算過程で考慮されることになる.式(2)において,常圧(P = 105 Pa)におけるPV項は,全体の自由エネルギーに比べて無視できる程度に十分に小さいことから,本研究においてはPV項からの寄与を0として,$G(P,T)$が最小値となる体積Vを求めることで自由エネルギーを計算した.本研究では,0-1000 Kまでの自由エネルギーの温度依存性を計算し,その傾向を先行研究の熱力学解析結果と比較した.なお,融点より高温度域においては格子振動の非調和性が現れるため,その寄与が大きい場合はこの効果も考慮する必要がある.しかし,非調和性を考慮した計算では準調和振動近似に比べて膨大な計算が必要となるため,本研究では格子振動の計算においては準調和近似を適用し,自由エネルギーを評価した.これらの一連の計算はPhonopyコード3)を用いて生成自由エネルギーを計算し熱力学解析に用いた.第一原理計算においては,Mg2Zn11相には312原子,ɸ相の終端化合物であるAl17Mg21およびMg21Zn17には152原子,Laves_C14相の終端化合物であるAl2Mg,MgZn2については96原子の構造モデルを使用した.また全ての合金モデルに共通してK点サンプリングを2 × 2 × 2,平面波のカットオフエネルギーを400 eVとした.各構造モデルにおいてセルの形状,体積を含む全ての原子配置を一旦緩和させた後,等方的に体積を変えたセルを作成することで準調和近似計算を行った.

2.2 各相のギブス自由エネルギーの記述

本節では,解析に適用した熱力学モデルの詳細をまとめる.

2.2.1 液相,1次固溶体の自由エネルギー

液相と1次固溶体であるfcc相((Al)),hcp_A3相((Mg))およびhcp_Zn相((Zn))の自由エネルギーについて,本研究では正則溶体モデルによって記述した.この記述による3元系χ相(χ = L,fcc,hcp_A3,hcp_Zn)の1 molあたりのギブス自由エネルギーは式(3)のように表すことができる.   

\[\begin{split}G^\chi={}& x_{\rm Al}{}^\circ G_{\rm Al}^\chi + x_{\rm Mg}{}^\circ G_{\rm Mg}^\chi + x_{\rm Zn}{}^\circ G_{\rm Zn}^\chi \\[-1.0mm]&{} + RT(x_{\rm Al}\ln x_{\rm Al} + x_{\rm Mg}\ln x_{\rm Mg} + x_{\rm Zn}\ln x_{\rm Zn}) \\[-1.0mm]&{} + x_{\rm Al}x_{\rm Mg}L_{\rm Al,Mg}^\chi+x_{\rm Al}x_{\rm Zn}L_{\rm Al,Zn}^\chi+x_{\rm Mg}x_{\rm Zn}L_{\rm Mg,Zn}^\chi \\[-1.0mm]&{} + x_{\rm Al}x_{\rm Mg}x_{\rm Zn}L_{\rm Al,Mg,Zn}^\chi \end{split}\](3)
ここでxiは元素iのモル分率,Rは気体定数,Tは絶対温度である.${}^\circ G_i^\chi $χ相における元素iの自由エネルギーで,絶対温度Tの関数として式(4)のように与えられる.   
\[\begin{split}{}^\circ G_i^\chi - {}^\circ H_i^{\rm ref}={}& A+BT+CT \ln T+DT^2 \\[-1.5mm]&{}+ET^3+FT^7+IT^{-1}+JT^{-9}\end{split}\](4)
ここで各係数A, Bなどは定数で,${}^\circ H_i^{\rm ref}$T = 298 Kにおける基準状態での元素iの1 molあたりのエンタルピーである.また,式(3)中の$L_{i,j}^\chi$χ相における元素ijの間の相互作用パラメータであり,Redlich-Kister4)の多項式にしたがって,式(5)に示した組成依存性を与えた.   
\[L_{i,j}^\chi={}^0L_{i,j}^\chi+{}^1L_{i,j}^\chi(x_i-x_j)+{}^2L_{i,j}^\chi{(x_i-x_j)^2}+{}^3L_{i,j}^\chi{(x_i-x_j)^3}\](5)
さらに${}^nL_{i,j}^\chi$には定数$a'$, $b'$および$c'$を用いて式(6)に示す温度依存性を与えた.   
\[{}^nL_{i,j}^\chi=a'+b'T+c'T\ln T\](6)
また式(3)中の$L_{\rm Al,Mg,Zn}^\chi$はAl,Mg,Zn原子間の3元系相互作用パラメータであり,Hillert5)が提唱した式(7)を適用した.   
\[L_{\rm Al,Mg,Zn}^\chi=x_{\rm Al}{}^0L_{\rm Al,Mg,Zn}^\chi+x_{\rm Mg}{}^1L_{\rm Al,Mg,Zn}^\chi+x_{\rm Zn}{}^2L_{\rm Al,Mg,Zn}^\chi\](7)
${}^nL_{\rm Al,Mg,Zn}^\chi$に対しては式(6)で示した2元系相互作用パラメータと同様の温度依存性を与えた.

2.2.2 非化学量論化合物相

Mg51Zn20,Mg12Zn13,Mg2Zn3,Mg2Zn11,Laves_C14,τ相およびɸ相では,副格子上で異種原子が置換固溶する副格子モデルを用いた.例えばLaves_C14相((Al,Mg,Zn)2(Al,Mg,Zn)1)ではギブス自由エネルギーは式(8)で記述される.   

\[\begin{split}{}&G^{\rm Laves\_C14}=\sum \limits_{i={\rm Al,Mg,Zn}}{\sum \limits_{j={\rm Al,Mg,Zn}}{ y_i^{(1)} y_j^{(2)} G_{i:j}^{\rm Laves\_C14}}}\\&{} +2RT \sum \limits_{i={\rm Al,Mg,Zn}}{ y_i^{(1)} \ln y_i^{(1)}} +RT \sum \limits_{i={\rm Al,Mg,Zn}}{ y_i^{(2)} \ln y_i^{(2)}}\\&{}+ \sum \limits_{i={\rm Al,Mg,Zn}}\sum \limits_{j={\rm Al,Mg,Zn}}\sum \limits_{k>j}{\left({y_i^{(1)}y_j^{(2)}y_k^{(2)}L_{i:j,k}^{\rm Laves\_C14} + y_j^{(1)}y_k^{(1)}y_i^{(2)}L_{j,k:i}^{\rm Laves\_C14}}\right)}\\&{}+\sum \limits_{i={\rm Al,Mg,Zn}}{\left({y_i^{(1)}y_{\rm Al}^{(2)}y_{\rm Mg}^{(2)}y_{\rm Zn}^{(2)}L_{i:{\rm Al,Mg,Zn}}^{\rm Laves\_C14}+y_{\rm Al}^{(1)}y_{\rm Mg}^{(1)}y_{\rm Zn}^{(1)}y_i^{(2)}L_{{\rm Al,Mg,Zn}:i}^{\rm Laves\_C14}} \right)} \end{split}\](8)
ここで$y_i^{(n)}$は第n副格子におけるi原子の格子占有率であり,Lは各副格子中での異種原子間の相互作用パラメータである.またL中の添字“:”は副格子の区切りを,“,”は同じ副格子中での元素の区切りを表している.

3. 計算結果

本章では,はじめにAl-Mg-Zn 3元系を構成する各2元系と3元系の実験情報を整理し,熱力学的解析の結果について説明する.

3.1 Al-Mg 2元系

Murray6)が行なった文献集録によれば,Al-Mg 2元系は液相(L),(Al)と(Mg)の各1次固溶体,AlMg-β相(Al3Mg2),AlMg-ε相(Al30Mg23),AlMg-γ相(Al12Mg17)の化合物により構成されている.この2元系については本研究グループで熱力学的解析7)を行っており,その結果を採用した.またこれらに加えて,この2元系の安定相ではないが,ɸ相の終端化合物であるAl17Mg21についても格子振動を考慮した生成自由エネルギーの結果から熱力学パラメータを評価した.

3.2 Mg-Zn 2元系

Mg-Zn 2元系についてはOkamoto8)によって文献集録が行われており,液相(L),(Mg),(Zn)の各1次固溶体,Mg51Zn20,Mg12Zn13,Mg2Zn3,Mg2Zn11,Laves_C14相(MgZn2)の化合物により構成されることが明らかにされている.

この2元系については,Grubeら9),Bruniら10),Bruniら11),Chadwick12)およびHume-Rotheryら13)によって相境界の実験値が報告されている.一方,熱力学的性質については,Moser14)がEMF法を用いて680 Kと880 KにおけるMgの液相の活量を測定している.またLiangら2),Wasiur-Rahmanら15),Ghoshら16),Yuanら17)によって熱力学的解析が行われている.

本研究では,基本的にはLiangら2)のパラメータを採用したが,この2元系を構成する化合物のうち構造が判明しているMg2Zn11相およびLaves_C14相については格子振動を考慮してその生成自由エネルギーを評価し,次のような再検討を行った.まずMg2Zn11相では,Liangら2)はこの相の熱力学モデルとして(Al,Zn)11(Mg)2を用いたが,本研究ではAl-Cu-Mg-Zn 4元系におけるAl-Cu-Mg 3元系のV相(Al5Cu6Mg2)との整合性を確保するために(Al,Zn)5(Al,Zn)6(Mg)2として再解析した.またLaves_C14相は3元系で安定に出現することから,3元化合物としての熱力学的安定性を再評価した.Fig. 1にMg2Zn11相とLaves_C14相の準調和近似によるギブス生成自由エネルギーの計算結果を示した.Fig. 1中の実線と点線は熱力学的解析の結果を表している.また,この2元系における安定相ではないが,ɸ相の終端化合物であるMg21Zn17についても同様に,格子振動を考慮して生成自由エネルギーを計算した.いずれの相においても,自由エネルギーは振動のエントロピーの寄与により1-2 kJ/mol程度変化する.解析ではこれらの計算値の他に,液相の活量Moser14)およびGrubeら9),Bruniら10),Bruniら11),Chadwick12),Hume-Rotheryら13)の相境界の測定値も考慮した.Fig. 2に液相の活量の解析結果と測定値の比較を示し,Mg-Zn 2元系の熱力学パラメータをTable 2にまとめた.またFig. 3において,計算状態図と相境界の実験値の比較を行った.

Fig. 1

Calculated free energy curves for Mg2Zn11 and Laves_C14 in the temperature range of 300 K and 1000 K by means of the quasi-harmonic approximation and the thermodynamic analysis.

Fig. 2

Calculated activities of Mg and Zn in Mg-Zn liquid compared with the experimental data14).

Table 2

Optimized thermodynamic parameters for the Al-Mg-Zn system.

Fig. 3

Calculated Mg-Zn binary phase diagram compared with the experimental data9-13).

3.3 Al-Zn 2元系

Al-Zn 2元系には液相(L),(Al)と(Zn)の各1次固溶体が生成する.この2元系に関する熱力学的解析はMey18)により行われており,本研究ではこの解析結果を採用した.

3.4 Al-Mg-Zn 3元系

Raghavan19)によれば,この3元系における3元化合物としてτ相(Mg32(Al,Zn)49)とɸ相が出現する.Raghavan19)ɸ相を斜方晶系でAl2Mg5Zn2の組成をもつ化学量論化合物としているが,この化合物に対して,より新しい実験的知見として,Bourgeoisら20)は電子線回折の結果からɸ相の組成が(Al,Zn)17Mg21,構造がPbcmであることを報告している.この3元系については,Liangら2)による熱力学的解析が行われているが,ɸ相についてPbc21あるいはPbcmの空間群に基づく(Al,Zn)5Mg6の非化学量論化合物として扱っており,Bourgeoisらによる実験結果と一致しない.

この3元系の相境界についての実験的情報として,不変系反応21-23),10-90 mass%Zn24),5-60 mass%Zn25),5-95 mass%26)における縦断面状態図が報告されている.また,Liangら2)は573 K,608 K,673 Kでの相領域と608 Kでの等温断面状態図および36 mol%Mg,20 mol%Al,20 mol%Znのおける縦断面状態図を,Renら27)は593 Kでの相領域の実験結果と等温断面状態図を報告している.一方,熱力学データとして,液相中のZnの蒸気圧28,29),液相中のMgの活量30),液相の混合エンタルピー31)が報告されている.

本研究では,Liangら2)とRenら27)による等温断面での相領域,Eger24)とHamasumi26)による縦断面の相境界,Kimら31)による液相の混合エンタルピーの実測値,液相中のZnの蒸気圧から求めた活量28,29)に基づいて熱力学的解析を行った.またɸ相の熱力学モデルがBourgeoisら20)の測定値に一致するように(Al,Zn)17Mg21に変更して計算した生成自由エネルギーも解析に取り入れた.得られたAl-Mg-Zn 3元系の熱力学パラメータをTable 2に示した.Fig. 4はこれらの熱力学パラメータを用いて計算した608 Kにおける等温断面状態図を実測値2)と比較したものである.また,20 mol%Zn,20 mass%Zn,50 mass%Znおよび90 mass%Znにおける3元系縦断面状態図をそれぞれFig. 5(a),Fig. 5(b),Fig. 5(c),Fig. 5(d)に実測値2,24,26)とともに示した.Fig. 6にはAl-Mg-Zn 3元系における液相面投影図を示した.本研究で計算された不変系反応の種類はTable 3にまとめた.Fig. 6より,この3元系では(Al),(Mg),Laves_C14,Mg2Zn3τ相の初晶面が主な液相面の構成相となっている.さらにFig. 5(b)やFig. 5(c)の液相線の形状から予想されるように,Mg2Zn3ɸ相,τ相の一変系反応線は臨界点を示す.それらをFig. 6中に白丸によって示した.

Fig. 4

Calculated isothermal section of the Al-Mg-Zn ternary phase diagram at T = 608 K compared with the experimental data2).

Fig. 5

Calculated isopleth section at (a) 20 mol%Zn, (b) 20 mass%Zn, (c) 50 mass%Zn and (d) 90 mass%Zn of the Al-Mg-Zn ternary phase diagram compared with the experimental data2,24,26).

Fig. 6

Calculated liquidus projection of the Al-Mg-Zn ternary system.

Table 3

Invariant reaction temperatures and compositions on the liquidus projection of the Al-Mg-Zn ternary system.

4. 考察

4.1 準安定構造の熱力学量の計算について

Fig. 7に10 mass%Znにおける縦断面の相境界について,本研究による計算結果とLiangらの解析結果を比較した.点線で示した先行研究による相境界は,液相を中心とした高温での平衡については比較的実験結果とよく一致しているが,低温の固相に関わる平衡では大きな乖離が見られる.このような傾向はFig. 5に示したいずれの断面においても観察された.この領域での平衡に関与する化合物は主としてɸτ,AlMg-γなどであるため,先行研究ではこれらのエネルギーの評価に問題がある可能性がある.そこでこれらの相の熱力学パラメータについて考察した.

Fig. 7

Comparison of the calculated isopleth section at 10 mass%Zn with that based on Liang et al.2) The solid lines denote the present work, and the dotted lines show the Liang's work. Experimental phase boundary data24,26) are also given.

Fig. 8ɸ相の終端化合物であるAl17Mg21とMg21Zn17の生成自由エネルギーを,Liangら2)による解析結果と比較したものである.Fig. 8中の実線と破線は本研究による解析結果,一点鎖線と二点鎖線がLiangらによる解析結果であり,シンボルが格子振動を考慮した第一原理計算による計算値である.本研究の解析結果は,格子振動を考慮した計算結果に1 kJ/mol以内の精度で一致している.これに対して,Liangらによる解析結果はAl17Mg21でおよそ2 kJ/mol,Mg21Zn17でもおよそ1 kJ/molの不一致があり,温度依存性も第一原理計算の結果とは異なっている.

Fig. 8

Calculated free energy curves for ɸ phase in the temperature range of 300 K and 1000 K by means of the quasi-harmonic approximation and the thermodynamic analysis compared with the experimental data2).

これらの熱力学量は,対象となる構造が準安定であるため,実験値だけを用いて熱力学パラメータを決定する従来のCALPHAD法では正確な評価が困難であり,第一原理計算による支援が必要となる.同様のことは,AlMg-γについても当てはまる.Fig. 9はAlMg-γ相の生成自由エネルギーの温度変化を示したもので,実線の本研究結果はLiangらによる解析結果に比べて2 kJ/molほど安定である.本研究で評価したAlMg-γ相のパラメータは2.1節で述べた方法で直接計算したものではないが,Al-Cu-Mg 3元系の熱力学的解析7)において,第一原理計算を用いて評価したLaves相の生成自由エネルギーに対する相対的安定性を考慮して評価したものであり,これらの相の生成自由エネルギーの差が大きな影響を持つと考えられる.このような準安定構造の自由エネルギーの評価における問題点を考慮すると,第一原理計算という任意性をできるだけ排除した手法を援用して評価された本研究結果は,先行研究に比べて,より精度の高い解析になっていると考えられる.

Fig. 9

Comparison of the free energy of formation of AlMg-γ phase between the present work and Liang's assessment2).

4.2 Mg系鋳造合金における化合物の析出挙動

Mgに対するAlの固溶度は,温度による変化が大きいために顕著な析出硬化が期待できるが,粗大なAlMg-γの析出物が373-573 Kで生成する32-35).この相の析出形態には,時効初期にセル状で高角度粒界に不連続的に析出するものと,母相の残りの部分に板状で連続的に析出するものの2種類があるとされる35).この相が生成した場合は,373-473 Kの間で過度のクリープ変形を起こすことが知られているが1,36),その主な原因は粒界に不連続析出した粗大なAlMg-γ相であると考えられている.すなわち,AlMg-γ相の融点が733 Kと低いために,粒界中に存在するこの相が高温下で顕著に軟化し,粒界滑りが生じ易くなることでクリープ抵抗が低下するのである35).このクリープ特性の低下を防ぐ対策として,添加元素によって平衡相をAlMg-γ相からɸ相へ置き換える方法が考えられる20,37,38).そこで本研究結果にしたがって,合金組成の変化に伴う析出相の温度変化を計算した.

Fig. 10はZn:Alの比率を2:1にしたMg-4 mass%Al-8 mass%Znにおける析出相の分率を温度に対して計算したものである.AZ系のMg-9 mass%Al-1 mass%Zn合金では(Mg)母相に析出するのはAlMg-γ相だけであるが,Mg-4 mass%Al-8 mass%Znでは550 K前後の高温においてτ相,600 K前後の領域ではɸ相が生成することがわかる.このような傾向は実験結果37)とよく対応している.ただし,現実の析出過程においては,本研究では考慮していない構造のひずみや拡散などの影響があることに留意する必要がある.

Fig. 10

Calculated phase fractions in Mg matrix phase in Mg-4 mass%Al-8 mass%Zn alloys.

5. 結言

本研究では7000系Al合金や鋳造用Mg合金の基本系として重要なAl-Mg-Zn 3元系を,第一原理的手法とCALPHAD法を用いて熱力学的に解析した.本研究で得られた知見は次のようにまとめられる.

(1) この3元系に生成する3元化合物ɸ相について,最新の実験結果に基づいた(Al,Zn)17Mg21型の副格子モデルを適用した.さらにこの構造の終端化合物であるAl17Mg21およびZn17Mg21の生成ギブス自由エネルギー,Laves_C14相の終端化合物Al2MgおよびZn2Mg,さらにMg2Zn11相の生成ギブス自由エネルギーを,格子振動と体積膨張を考慮した第一原理計算によって評価した.このような手法によって,従来の熱力学的解析では不明瞭であった相平衡や熱力学物性値の実験結果を高い精度で再現することが可能になった.

(2) 解析結果を用いて計算した析出相の温度変化について,商用のAZ合金では主としてAlMg-γ相が生成するが,Zn:Alの比率を変化させることで,τ相やɸ相が形成されることから,この合金系では組成の変化による組織変化によって機械的特性の改善が見込めることが明らかになった.

この成果の一部はJSPS科研費16H02378と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の先端的低炭素化技術開発事業(ALCA)の助成を受けて遂行されたものです.ここに謝意を表します.

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