2020 Volume 84 Issue 6 Pages 200-207
Titanium alloys have been used not only in air frames for commercial aircrafts, but also in its jet engine components such as fans and compressor disks, which have a function at relatively low temperatures up to 673 K. Near β-type Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Cr-4Mo (Ti-17) exhibits greater strength, crack propagation resistance, and creep resistance at intermediate temperatures compared with those of α+β-type Ti-6Al-4V. In particular, it is important to estimate the fatigue life of engine components made of Ti-17. To solve this problem, the quantitative relationship between fatigue properties and microstructural factors of Ti-17, therefore, in this study, the fatigue properties including tensile properties and microstructures of Ti-17 samples fabricated by hot-forging hot-forged at various temperatures followed by high and low temperature solution treatment (ST) and same aging treatment were investigated to define the quantitative relationship between the fatigue properties and the microstructural factors.
The microstructures of all forged Ti-17 samples exhibit elongated prior β grains composed of two different microstructural feature regions: mainly acicular α and fine equiaxed α phase regions. The volume fraction of acicular α regions decreases with in the increasing ST temperature. The Vickers hardness, 0.2% proof stress and tensile strength increases with increasing ST temperature. On the other hand, the elongation and reduction of area exhibit a reverse trend to that of Vickers hardness, 0.2% proof stress and tensile strength. The Ti-17 samples forged at 1173 K followed by solution treatment at 1073 K and aging treatment exhibits the highest fatigue limit of 975 MPa. The fatigue strength of the forged Ti-17 samples is considered to be strongly related with the microstructural factor such as the volume fraction of the equiaxed α phase region, which is one of crack initiation sites in the forged Ti-17 samples subjected to ST at low temperature and aging, and the difference in strength between the acicular α phase and the fine α+β phase region, which leads to the crack initiation in the forged Ti-17 sample subjected to ST at high temperature and aging.
近年,航空機産業では,機体の軽量化およびエンジンの熱効率向上が課題となっている.20世紀後半までは,航空機機体等には,鉄鋼およびアルミニウム合金等の構造用金属材料が多く使用されていたが,両材料は比強度が低いため,最近では航空機機体およびエンジン用部材において比強度が高いチタン合金の使用割合が増加している.また,上記したように最近では,航空機機体のCERP使用量が増加しており,熱膨張率の相性が良いという点でもチタン合金の使用量が増加している1).
現在の航空機産業におけるチタン合金は,構造用材料として幅広く応用されつつあり,航空機エンジンならびに航空機機体材料として需要分野を確立している.現在においても,航空機エンジンでは高効率化および高出力化,機体用素材では軽量化および低コスト化が重要な課題となっている.そのため,上記材料には軽量,高強度,耐熱性および高力学特性が強く求められている.航空機エンジンの構造として,エンジン入口側からファン,コンプレッサ,燃焼器およびタービンの各部位に分けることができる.燃焼器に近いファンやコンプレッサ付近でガス温度は最大で775 K,さらに燃焼器後方のタービン入口付近では最大で1875 Kとなる2).そのため,航空機エンジンの高温環境部では,耐熱性および耐クリープ特性を有するNi系超合金が主素材として使用されているが,その高比重が懸念されている.また,ファンならびにコンプレッサのブレード部には優れた疲労特性,クリープ特性および耐衝撃性を有していることに加え,耐食性および靭性も求められる.したがって,ファンやコンプレッサ部品に使用するチタン合金には,比較的高温環境にて高力学的特性を有するチタン合金の研究開発が積極的に進められている2).
機体構造材部品に用いられる一般的なチタン合金として,Ti-6Al-4V合金(略称Ti-64)が挙げられる.Ti-64は最も汎用的なα+β型チタン合金であり,各特性のバランスが良く,これまでの豊富なデータや使用実績がある.しかし,使用温度の上限が約773 Kであるため,エンジン周辺ではその応用が制限され,主にファン部に多用されている.そのため,Ti-64の欠点である低耐熱性を改善し,エンジン周辺等の高温部でのさらなる応用を目的としたニアβ型チタン合金であるTi-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr合金(Ti-17)が研究開発された3-5).Ti-17は,Ti-64よりも耐熱性,引張強さ,破壊靭性およびクリープ性に優れており,エンジン周辺のファンやシャフト等の部品に使用されることが期待されている.しかし,Ti-17のミクロ組織と力学的特性の関係についての研究報告は少なく,その関係について十分に把握されていないのが現状である.そこで本研究では,異なる温度で鍛造および溶体化処理を行い,その後,同条件にて時効処理を施したTi-17鍛造材のミクロ組織と力学的特性の関係を調査・検討した.
供試材には,(株)神戸製鋼所製Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr(Ti-17)鍛造材を用いた.Ti-17の化学組成をTable 1に示す.
Chemical composition of Ti-17 in mass%.
Fig. 1に本供試材に施した均質化処理(HT)および熱間鍛造(HF)の模式図を示す.本供試材に対して,真空中にて1203 Kで2 h保持後,空冷(AC)のHTを行った.次に,同材料に対して1023 K,1073 Kおよび1173 KでのHFを行い,Fig. 2に示すようなパンケーキ形状のTi-17熱間鍛造材とした.また,本HFでは,加工率およびひずみ速度をそれぞれ75%および0.033 s−1とした6).以後,各温度でHFを行った試料を,それぞれHF/1023 K,HF/1073 KおよびHF/1173 Kと呼称する.
Schematic drawing of homogenization treatment (HT) and hot forging (HF).
Overview of pancake shaped Ti-17 after hot forging.
Fig. 3にSTおよびATの熱処理工程の模式図を示す.各HF後の供試材に対して,βトランザス温度(1163 K)以下である低温(L)側1073 Kおよび高温(H)側1143 Kでそれぞれ4 h保持後,水冷(WQ)の溶体化処理(ST)を施し,全ての試料に対して893 Kで8 h保持後,ACの同時効処理(AT)を施した.以後,低および高温側で溶体化処理を施したTi-17をそれぞれL/STAおよびH/STAと呼称する.また,各試料について,例えばHF/1023 K H/STAおよびHF/1173 K L/STAのように呼称する.
Schematic drawing of solution treatment (ST) and aging treatment (AT).
種々のHFで各STAを施した供試材を機械加工により小片とし,それらをポリエステル樹脂で樹脂埋めを行い,#4000までのエメリー紙による湿式研磨および二酸化シリコン混濁液を用いてのバフ研磨を施し,フッ硝酸水溶液(1:3:6)を用いて腐食した.同面を光学顕微鏡(OM),X線回折装置(XRD)を用い,ミクロ組織評価を行った.この場合,試験条件として,X線管球電圧30 kNおよび同電流10 mAにて,X線回折角2θ = 30°~90°およびスキャンスピード2θ = 10°/minの条件で室温にて測定を行った.
2.4 力学的特性評価硬さ試験では,上記ミクロ組織で用いた種々のHFで各STAを施した供試材の各試料を#4000までエメリー紙により湿式研磨した後,マイクロビッカース硬さ(HV)試験機を用い,試料表面近傍から中央部に向けて測定を行った.HV試験機条件として押込み荷重1.96 Nおよび保持時間10 sの条件にて行った.
引張試験では,種々のHFで各STAを施した供試材を機械加工によりFig. 4(a)に示すドッグボーン型引張試験片を作製し,同試験片の表面を#1500までのエメリー紙により乾式研磨を施した.引張試験では,容量100 kNの(株)島津製作所製インスロン型引張試験機を用い,室温(295 K)の大気中にて全ひずみ1.5%までひずみ速度0.5%/minで行った後,全ひずみ1.5%以降はひずみ速度5%/minで行った.
Geometries of (a) tensile and (b) fatigue specimens.
疲労試験では,種々のHFで各STAを施した供試材を機械加工によりFig. 4(b)に示すようなドッグボーン型疲労試験片を作製し,同試験片表面を#4000までのエメリー紙による湿式研磨およびSiO2懸濁液によるバフ研磨を施した.疲労試験では,容量50 kNの(株)島津製作所製電気油圧サーボ式疲労試験機を用いて,周波数10 Hz,応力比R=0.1とし,室温(285 K)の大気中にて行った.疲労破断後,その破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察を行った.
Fig. 5に種々のHFで各STAを施したTi-17の低倍率におけるミクロ組織を示す.全てのミクロ組織においてHFによる伸張した旧β粒を呈しており,同粒内における針状α相およびα粒界が確認できる.XRD回析の結果,H/STAにおいてβ相の回析ピーク強度がL/STAより大きかったが,HF温度の違いにおける構成相および回析プロファイルに大きな変化はなかった.
Optical micrographs of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA (×100).
Fig. 6に種々のHFで各STAを施したTi-17の旧β粒のアスペクト比を示す.HF温度が上昇すると,アスペクト比が大きい旧β粒(最大で0.18)の数が増加する傾向にある.
Relationship between aspect ratio of prior β grain, ARpβ, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
Fig. 7にHF/1173 Kで各STAを施したTi-17の高倍率におけるミクロ組織を示す.全ての熱処理条件において,主としてFig. 7(a)に示す針状α+β相領域の他に,Fig. 7(b)に示す少量の等軸α+β相領域およびFig. 7(c)に示す伸張した旧β粒を囲む粒界α相で構成されていることがわかる.等軸α+β相領域は旧β粒界近傍に存在する傾向を示しており,針状α+β相領域のα相に比べてアスペクト比が著しく大きいことがわかる.また,全ての熱処理条件において旧β粒を囲む粒界α相は連続あるいは不連続(ネックレス形状)な形態を呈しており,ST温度の上昇とともに,粒界の連続化が確認できる.
Optical micrographs of (a) acicular α phase, (b) equiaxed α phase and (c) grain boundary α of HF/1173 K subjected to L and H/STA (×1000).
Table 2に上記ミクロ組織から算出した各試料における針状α相の体積率を示す.各L/STAおよびH/STAにおけるHF温度の変化と針状α相の体積率に大きな違いはないと言える.一方,L/STAからH/STAにおけるST温度の上昇と共に,針状α相の体積率が著しく減少している.これは,βトランザス温度(1163 K)に近づくとともに,α相からβ相への変態量が増加するためと考えられる7).
Volume fraction of acicular α phase, Vaα, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
Fig. 8に種々のHF後L/STAを施したTi-17における針状α相アスペクト比を示す.HF温度が増加するとアスペクト比が小さいα相の割合が増加する傾向にある.言い換えると,HF温度の上昇に伴い,針状α相の形状が細長くなると言える.これは,HF温度の上昇に伴い,ミクロ組織中のひずみ導入量が減少し,そのためアスペクト比が比較的小さい針状α相を示すと考えられる.さらに,その後の熱処理において粒成長するため,さらに同比が小さい値を示すと考えられる.また,H/STAにおける針状α相のアスペクト比の変化はL/STAのそれとほぼ同様の傾向であった.
Number ratio, Naα, and aspect ratio, ARaα, of acicular α phase of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L/STA.
Fig. 9に種々のHF後L/STAを施したTi-17における等軸α相の体積率を示す.HF温度が上昇すると,等軸α相の体積率は減少する傾向にある.一方,H/STAにおける等軸α相の体積率は,1%以下の極めて低い値であった.
Volume fraction of equiaxed α phase, Veα, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L/STA.
Fig. 10に種々のHFで各STAを施したTi-17の粒界連続性を示す.この場合,粒界連続性とは,分断された粒界α相の総長を同粒界α相が全て連結した総長で除した値を示す.HF/1023 Kの粒界連続性は,HおよびL/STAともに30%程度と高断続性を示しているが,HF温度の上昇とともに最大80%程度まで連続性が向上している.これは上述した針状α相のアスペクト比の変化と同様に,HF温度が上昇するとともに,加工時導入されるひずみは減少するため,溶体化処理後に粒界α相の分断が抑制され,連続性が向上したと考えられる.
Continuous ratio of grain boundary α, Gα, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
Fig. 11に種々のHFで各STAを施したTi-17のビッカース硬さを示す.H/STAしたHF/1073 Kにおいて,446 HVと最も高い値を示している.この場合,L/STAを施した各HFでのビッカース硬さは397-407 HVを示し,H/STAしたそれらは429-444 HVを示しており,H/STAにて30 HV程度の増加を確認でき,これは上述したようにH/STAにおける時効析出能が向上したためと考えられる.
Vickers hardness, HV, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
Fig. 12に,各STを施したHFでの引張強さ,0.2%耐力,伸びおよび断面減少率を示す.L/STAを施した各HFでの引張強さおよび0.2%耐力は,それぞれ1160-1210 MPaおよび1060-1120 MPaを示している.一方,H/STAのそれは,それぞれ1330-1390 MPaおよび1260-1320 MPaを示し,各強度それぞれ100 MPaおよび200 MPa程度の増加傾向を示している.この増加傾向は上述の硬さの変化と類似している.また,L/STAを施した各HFでの伸びおよび断面減少率は,それぞれ約13.2-14.5%および約21.5-25.0%を示している.一方,H/STAでは,それぞれ5.5-8.4%および9.8-11.5%を示し,各強度と逆の傾向を示している.L/STAの延性がH/STAよりやや向上した理由として,主としてL/STAの低時効硬化能に起因すると考えられる.言い換えると,高時効硬化能を有するH/STAでは,高強度で低延性を顕著に示したと考えられる.また,他の報告において,バーガースの関係$(\{1\bar 10 \}_{\rm \beta}//(0002 )_{\rm \alpha} )$に従いα相が析出した集合組織の影響等あるいは粒界α相が断続的かつ不明瞭化することで延性が改善するとの報告があるが,本研究においては特に後者における粒界α相の断続性と延性の改善の明確な相関関係は見当たらなかった8).
Tensile properties of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
Fig. 13に上記引張強さおよび伸びを用いた強度/延性バランスを改めて示す.種々のHFでL/STAを施したTi-17の伸びが10%以上であることから判断して,1 GPaを超える引張強度を有するL/STAの強度/延性バランスは,H/STAより優れていると判断できる.
Relationship between tensile strength, σB, and elongation, EL, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
これらビッカース硬さおよび各強度変化は,上記したα相(針状α相)の体積率に大きく起因すると考えられる.通常のα+β型チタン合金のミクロ組織では,初析α相領域が存在し,その周囲にβ相および微細析出したα相領域が存在する.このような組織では,強度に対しては微細析出したα相が支配的な影響をおよぼすとされている5).そのため,ST温度が高くなるとともに,β相量が増加することで,時効時においてβ相中の微細α相析出量が著しく増大すると考えられる9).
3.3 疲労特性Fig. 14に種々のHFで各STAを施したTi-17におけるS-N曲線を示す.この場合,各図のデータ点を丸字で囲っている表示は試料内部き裂発生を意味する.また,本S-N曲線における回帰式10)は,以下の通りである.
・HF/1023 K(H/STA)
\[\sigma_{\max} = -152.04 \times \log (N) + 1876.0\] | (1) |
・HF/1023 K(L/STA)
\[\sigma_{\max} = -110.88 \times \log (N) + 1569.7\] | (2) |
・HF/1073 K(H/STA)
\[\sigma_{\max} = -165.68 \times \log (N) + 1932.6\] | (3) |
・HF/1073 K(L/STA)
\[\sigma_{\max} = -149.92 \times \log (N) + 1696.6\] | (4) |
・HF/1173 K(H/STA)
\[\sigma_{\max} = -101.82 \times \log (N) + 1568.9\] | (5) |
・HF/1173 K(L/STA)
\[\sigma_{\max} = -142.07 \times \log (N) + 1663.5\] | (6) |
S-N curves of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
この場合,$\sigma_{\max}$は最大繰返し応力で,Nは破断までの繰返し数である.種々のHFでのHおよびL/STAを施したTi-17において,HF/1173 Kがそれぞれ最も高い疲労限(それぞれ約900 MPaおよび975 MPa)を示している.これら値を疲労比(疲労限/引張強さ)に直すと,それぞれ0.68および0.87であり,後者において高疲労強度を示す等軸α組織を有するTi-64のそれ(0.79)より高い値を示している11).ここで,Fig. 15に旧β粒のアスペクト比と疲労限の関係を示す.旧β粒のアスペクト比は最大で0.18を示し,同比の上昇とともに,疲労限も上昇傾向を示していることがわかる.さらに,L/STAでは,旧β粒中の等軸α相領域の低下にともない,疲労限が上昇する傾向も示している(Fig. 16).これら2つの組織因子の変化,特にき裂発生サイトと考えられる旧β粒内の粒界近傍の等軸α相の低下により,疲労特性が改善されたと考えられる.一方,Fig. 16からも明らかであるが,上記回帰式を用い算出したS-N曲線の標準偏差(Fig. 17)から10),種々のHFで各STAを施したTi-17では,HF温度が上昇すると共にバラツキが減少傾向にある.この場合,種々のHFで各STAを施したTi-17において,L/STAではHF温度の上昇に伴い,内部き裂によって疲労破壊は減少傾向にあるが,H/STAではHF温度の上昇にともなう内部き裂発生傾向は変わらないと言える.
Relationship between fatigue limit, σfl, and aspect ratio of prior β grain, ARpβ, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
Relationship between fatigue limit, σfl, and volume fraction of equiaxed α phase in prior β grain, Veα, of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L/STA.
Standard deviations, SD, obtained from S-N curves of HF/1023 K, HF/1073 K and HF/1173 K subjected to L and H/STA.
Fig. 18に種々のHFで各STAを施したTi-17における高サイクル側での巨視的疲労破断面および疲労き裂発生部における内部き裂発生点と表面き裂発生点を代表的に示す.疲労き裂は,試験片表面近傍または内部から発生し,その後疲労き裂は試験片中央部に向かって放射状に進展している.また,疲労き裂進展領域の破面においても,ストライエーションが観察される場合もあり,急速破断部にはディンプル破面が形成されていたことから,一般的な延性材料で見られる疲労破壊形態と言える.これは,低サイクルおよび高サイクル疲労寿命領域のどちらにおいてもほぼ同様の傾向を示していた.また,種々のHFでH/STAを施したTi-17の疲労破断面に比べてL/STAを施したそれらは,内部に2次クラックが多数発生する傾向を示していた.
Fractographs of HF/1173 K subjected to L and H/STA obtained from fatigue tests at high fatigue life region.
Fig. 19に各STを施したHF/1173 Kの疲労き裂近傍直下における断面のミクロ組織を示す.L/STAでは,α粒界付近に析出する等軸α相と針状α相の界面近傍にて疲労き裂が発生しており,一方,H/STAでは微細α+β相領域中に点在する比較的粗大な針状α相あるいは分断した粒界α相近傍からそれが発生していることがわかる.
Cross section of near crack initiation site of HF/1173 K subjected to L and H/STA (×1000).
以上のことより,種々のHFで各STAを施した場合における疲労特性として,まず種々のHFでL/STAを施したTi-17では,内部き裂発生率がHF温度の上昇と共に減少する.これは,疲労き裂発生サイトと考えられる等軸α相の体積率(Fig. 16)が,HF温度が上昇するとともに減少するため,内部き裂発生率が低下し,それとともに疲労限が改善されたと考えられる.一方,種々のHFでH/STAを施した場合では,内部き裂発生率はHF温度が上昇してもあまり変化しない.これは,高倍率のミクロ組織(Fig. 7(a))から,HF温度を変化させても微細α+β相内に比較的粗大な針状α相が点在していることから両相の強度差に起因した応力集中が発生するためと考えられる.
航空機用材料,特にファンおよびコンプレッサ部品用材料として開発されたTi-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr合金(Ti-17)に対して,異なる温度で鍛造および溶体化処理(ST)を行い,その後,同条件にて時効処理(AT)を施した場合におけるミクロ組織と力学的特性の関係について調査・検討し,以下の結論を得た.
(1) 1023 K,1073 Kおよび1173 Kで鍛造後,低温側(1073 K)および高温側(1163 K)で溶体化処理(ST)し,同一時効処理を施したTi-17(それぞれL/STAおよびH/STA)のミクロ組織は,低アスペクト比を有する(最大で0.18)旧β粒を呈する.さらに,L/STAの旧β粒中には,主に針状α+β相および少量の等軸α相が観察され,一方H/STAの旧β粒中では,針状および等軸α相の体積率が著しく減少し,主に微細α+β相領域が観察される.
(2) 上記各温度で鍛造後,上記各温度でSTを施し,同一時効処理を施したTi-17の強度特性では,H/STAを施した場合,ビッカース硬さ,引張強さおよび0.2%耐力(強度)は,L/STAを施した場合と比べて,それぞれ30 Hv,100 MPaおよび200 MPa程度増加する.一方,延性(伸びおよび絞り)は,強度の場合とは逆の減少傾向を示す.L/STAおよびH/STA間の強度特性における差異は,主ミクロ組織である,針状α相および微細α+β相領域の体積率の差異に起因すると考えられる.
(3) 上記各温度で鍛造後,上記各温度でSTを施し,同一時効処理を施したTi-17の疲労特性では,L/STAおよびH/STAの場合ともにHF/1173 Kの鍛造条件にて最も優れた疲労限を示す.これは,疲労限がL/STAでは主に等軸α相領域の体積率に依存し,H/STAでは針状α相および微細α+β相領域間の強度差に依存するためと考えられる.
供試材を提供して頂いた(株)神戸製鋼所 逸見義男氏および国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)御手洗容子氏に感謝する.また,本研究の一部は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「革新的プロセスを用いた航空機用耐熱材料創製技術開発」(管理法人:JST)によって実施されたことに謝意を表する.