Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Effects of Grain Size, Thickness and Tensile Direction on Ductility of Pure Titanium Sheet
Hidenori TakebeKohsaku Ushioda
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2020 Volume 84 Issue 7 Pages 227-236

Details
Abstract

The effects of thickness (t), grain size (d), ratio t/d, and tensile direction on tensile properties were carefully examined using ASTM grade 1 pure titanium having strong B texture with controlled thickness (0.2-0.4 mm), grain size (20-175 mm), and t/d (2.3-19.4). 0.2%-proof stress followed a Hall-Petch relationship in each tensile direction regardless of thickness, and this indicates that 0.2%-proof stress does not depend on t/d. On the other hand, tensile strength and uniform elongation were confirmed to depend on t/d and significantly decreased in some thin sheets, in comparison with thick sheets with the same grain size, except for the case tested in the transverse direction. Namely, both tensile strength and uniform elongation exhibited a drastic decrease when t/d becomes smaller than the critical values. The critical value of t/d depended on tensile direction and decreased with an increasing tensile angle in the rolling direction. Local elongation increased with decreasing grain size except for the case tested in the transverse direction. In addition, local elongation was not related to t/d. Tensile properties that depend on t/d are inferred to be affected by work-hardening behavior, enhanced by twinning deformation in hcp titanium. However, the formation of deformation twinning in the surface regions was found to be suppressed, presumably due to the relaxed, constrained conditions. Consequently, the work-hardening rate decreased with decreasing t/d because of the attribution from the surface region where twinning deformation is retarded.

1. 諸言

チタンは高い比強度を有することから,航空機のエンジンブレード,油圧配管などの各種部品,自動車の駆動系部品や排気系部品,およびゴルフクラブなどのスポーツ用品といった様々な用途で軽量化を目的として用いられることが多い.また,チタンは優れた耐食性を有することから化学プラントの反応容器や熱交換器などにも用いられる.近年ではチタンの意匠性を利用した屋根などの建材に加えて,燃料電池車に搭載する燃料電池のセパレータへ適用され始めるなど,より薄肉での使用が増加傾向にある.また,現在の用途においてさらなる軽量化を目指す場合には,一層の薄肉化が必須である.一方で,薄肉化に伴って考慮すべき現象として機械的特性におけるサイズ効果が挙げられる.これまでに引張挙動に及ぼす薄肉化の影響については,様々な金属で報告されている.Takedaらは板厚(t)0.2-2 mm,平均結晶粒径(d)35 µmの工業用純鉄について,下降伏応力と引張強度は板厚にかかわらず一定であり,板厚が0.2 mmでは均一伸びと全伸びが低下すること,特に局部伸びの低下が大きいことを報告している1).これは板厚が薄い方が応力三軸度の影響によってボイドの形成および成長が促進されるためと考えられている.また,Fujitaらは平均粒径25 µmの純鉄において,上降伏及び下降伏応力はt/dがそれぞれ12,10を下回ると低下すると報告している2).この原因は,変形する結晶粒は最近接粒だけでなく長範囲で影響を受けているためとされている.その他の鋼に関する研究においても,同様の報告がなされている3-6).また,Miyazakiらは,純銅,銅合金(Cu-13at%Al)および純アルミについてもt/dがそれぞれの臨界値を下回った場合に流動応力が低下することを報告しており,これは変形する結晶粒に対する拘束が表面の影響を受け,発達する転位組織が異なったためと考えている7).FukumaruらはSUS316製細線において,線径(D)と平均結晶粒径の比D/dが5以下になると,0.2%耐力と全伸びが低下することを報告している8).これは表面を有する結晶粒では表面が転位運動の障害とならないためと考えられており,加えて塑性安定条件を満たしながらも破断に至ったことも報告されている.一方,チタンにおいては同様の報告がほとんどなく,著者らが純チタン薄板の引張特性について調査し,t/dが3を下回る場合に引張強度と均一伸びが急激に低下することを報告した9).ただし,著者らの報告では冷間圧延方向に平行な方向の引張特性の検討に限られており,強い面内異方性を有するチタンの検討としては限定された方向の特性のみであり,十分な検討とは言えない.また,他の金属での研究例では降伏応力や流動応力に関する議論が多くなされているが,延性に関する議論は少なく,十分に理解できていない点も残ると思われる.また,純チタンの変形機構としてはすべり変形と双晶変形の両方を考える必要があり,この点は従来研究において用いられてきた金属とは異なる特徴である.

そこで,本研究では純チタン薄板の引張特性に及ぼす板厚,結晶粒径,t/dおよび引張方向の影響について系統的に調査するとともに,延性におけるt/d依存性の発現機構を明らかにすることを目的とした.

2. 実験方法

2.1 試料

供試材にはTable 1に示す化学組成を有する市販の工業用純チタンJIS1種冷延焼鈍板(板厚0.5 mm,CPTi),および熱延板(板厚4 mm)を出発材に,Fig. 1に示す工程で製造した薄板(板厚0.2 mm,0.3 mmおよび0.4 mm,LPTi)を用いた.すなわち,LPTiの製造工程では,市販の熱延板にまず圧下率50-75%(板厚1 mm,1.5 mmおよび2 mm)の冷間圧延を行い,Fig. 1に示すように大気中で800℃,1 minの保持の後,空冷の焼鈍を行った.焼鈍後の脱スケールは,ショットブラストおよび3%HF+5%HNO3水溶液による酸洗により実施した.脱スケールの後に,これら板厚の異なる焼鈍板にさらに圧下率80%の冷間圧延を行い,板厚0.2 mm,0.3 mmおよび0.4 mmの薄板とした.その後,結晶粒径の制御のために620-820℃,1 hの真空焼鈍(Arガス中放冷)の熱処理を行った.全ての試料について,最後に,残留応力を除去するための500℃,1 hの真空焼鈍(真空中炉冷)を施した.

Table 1

Chemical compositions of test materials (mass%).

Fig. 1

Processing conditions for preparing specimens with different grain size.

2.2 組織観察

組織観察には,光学顕微鏡(OM: Optical Microscopy)および走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscopy)を用いた.SEM観察は日本電子(株)製JSM-7000Fを使用し,電子線後方散乱回折(EBSD: Electron Back Scattering Diffraction)法による結晶方位解析を行った.加速電圧15 kVで,板面法線方向(ND: Normal direction)と圧延方向(RD: Rolling direction)に垂直な板幅方向(TD: Transverse direction)から,板厚t × 10 mmの領域についてステップサイズ5 µmで,測定した.

観察試料はエポキシ樹脂に埋め込み,#120-#1500のエメリー紙によって湿式機械研磨を施し,その後,コロイダルシリカ懸濁液を用いた機械化学研磨を行った.最後に,3%HF+5%HNO3水溶液で腐食して,観察に供した.

2.3 引張試験

引張試験は,(株)島津製作所製5 kNオートグラフを使用した.試験片は,CPTiでは圧延方向に対して引張方向のなす角θが0°-90°まで15°毎,LPTiではθが0°,30°,45°および90°になるようにJIS13Bサブサイズ試験片(平行部幅6.25 mm,平行部長さ32 mm,標点間距離25 mm)を採取した.ストローク速度は1 mm/minであり,破断まで引張試験を行った.実測ひずみ速度は均一変形中で約5.0 × 10−4/sであった.Lankford(r)値は,θ = 0°,30°の場合にはひずみ10%,θ = 45°,90°の場合にはひずみ5%を加えた後の板幅および板厚の変化から算出した.ここで,θ = 45°,90°の場合にひずみ5%としたのは,この方向には10%の均一伸びが得られなかったためである.r値へのひずみ量の影響は無視できないが,本研究における延性に及ぼすr値の影響を議論する上では,問題ないと考える.

3. 結果

3.1 一般的な純チタン薄板(CPTi)の組織と引張特性

市販のCPTi冷延焼鈍板の結晶粒は平均粒径が約30 µmの等軸粒であり,t/dは約17である.また,集合組織は良く知られたSplit-TD型のB-textureであり,集積度が高い.

Fig. 2にCPTi材の引張特性と圧延方向に対する引張方向のなす角θの関係を示す.0.2%耐力はθが大きくなるほど大きくなり,一方,引張強度はθ = 45°で極小値を示した.均一伸びはθ = 30°まで増加し,45°で急激に低下し,その後はほぼ一定であった.局部伸びはθ = 45°で極大値を示し,θ = 60°-90°ではほぼ一定であった.また,r値はθに伴って増加した.以上より,θ = 45°において引張強度および局部伸びが極値を示した.このような引張特性の面内異方性は,CPTiにおける一般的に良く知られた結果である.

Fig. 2

Tensile properties of commercial pure titanium sheets as a function of tensile angle in the rolling direction. The cross head speed was 1 mm/min.

3.2 LPTi材のミクロ組織

Fig. 3にLPTiの代表的な全厚での光学顕微鏡組織写真を示す.焼鈍温度に関係なくいずれも等軸のα相単相組織であった.Fig. 4に平均結晶粒径と焼鈍温度の関係を示す.両者の関係は,板厚に関係なく同一に整理することができた.本来は,表面の結晶粒は粒成長の駆動力が内部の結晶粒と異なるため,表面が結晶粒成長の障害となり板厚が薄いほど細粒となりやすいと考えられる.しかし,本研究の範囲では,表面の影響を大きく受けることはなかった.本研究での最小平均粒径は,いずれの板厚でも焼鈍温度が620℃で約20 µmであり(Fig. 3(a), (c)),最大平均結晶粒径は0.2 mmt材で焼鈍温度740℃において約80 µm(Fig. 3(b)),0.3 mmt材で焼鈍温度780℃において約125 µm,0.4 mmt材で焼鈍温度820℃において約175 µm(Fig. 3(d))であった.これはt/d(板厚方向の結晶粒の数に相当)に換算すると,0.2 mmt材で2.5-11.7,0.3 mmt材で2.4-14.7,0.4 mmt材で2.3-19.4である.このように,板厚によらずt/dを大きく制御することができた.

Fig. 3

Optical micrographs of annealed pure titanium sheets of (a), (b) 0.2 mm and (c), (d) 0.4 mm in thickness. These were annealed at (a), (c) 620℃, (b) 740℃, and (d) 820℃.

Fig. 4

Average grain size as a function of annealing temperature.

Fig. 5に620℃および820℃で焼鈍した0.3 mmt材の(0001)極点図を示す.どちらも良く知られたα相の[0001]がNDからTDに約35°傾いたSplit-TD型のB-textureを有しており,平均結晶粒径が大きいほど最大強度が高くなった.

Fig. 5

(0001) pole figure of 0.3 mm-thick pure titanium sheets annealed at (a) 620℃ and (b) 820℃. The maximum intensities were (a) 14.3 and (b) 18.5, respectively.

このようにLPTi材は,CPTiと類似の集合組織を有していることが確認されたので,その引張特性の面内異方性もFig. 2に示したCPTiと類似の特性を示すことが予想される.したがって,LPTiの引張特性はθが60°以上では変化が小さいことが予想されることから,以降ではθ = 0°,30°,45°,90°の方向で評価を行うこととした.

3.3 LPTi材の引張特性

3.3.1 強度と結晶粒径,板厚,引張方向の関係

Fig. 6に,引張方向を圧延方向から種々変化させた場合の0.2%耐力(σ0.2)および引張強度(σB)と結晶粒径との関係を示す.0.2%耐力は板厚および引張方向に関係なくHall-Petch則で整理することができた.一方,引張強度は,細粒側では,Hall-Petch則に従ったが,粗粒側ではHall-Petch則に従わず,加えて,板厚と引張方向によってその挙動が異なった.θ = 0°では,引張強度は粗粒ほど低くなる傾向を示し,板厚が厚いほど高い値であった.θ = 30°および45°では,0.3 mmt材および0.4 mmt材において粗粒側で極大値を示し,その値は板厚が厚い方が高かった.θ = 90°では粗粒ほどわずかに低い値を示したが,広い範囲でHall-Petch則に従っていた.これらの理由は,純チタンでは,すべり変形だけでなく双晶変形も発生するためと考えられ,双晶変形が抑制される場合には,Hall-Petch則に従っていることからも,純チタンの引張強度は双晶変形挙動に支配されていることが示唆される.

Fig. 6

0.2%-proof stress (σ0.2) and tensile strength (σB) as a function of the inverse square root of the average grain size of annealed pure titanium sheets at 0.2 mm, 0.3 mm, and 0.4 mm in thickness. The tensile angles were (a) 0°, (b) 30°, (c) 45°, and (d) 90° in the rolling direction.

3.3.2 延性と結晶粒径,板厚,引張方向の関係

Fig. 7に伸びと結晶粒径の関係を示す.均一伸び(εU)は,θ = 0°および30°では結晶粒径が約50 µmまでは粗粒化に伴って急激に増加し,結晶粒径が70 µm程度で最大となった.θ = 45°では結晶粒径が約60 µmで急激に増加し,約100 µmで最大となった.また,θ = 0°および30°では,主に板厚の薄い0.2 mmt材の一様伸びは,いくつかの点(Fig. 6中の矢印)で明らかに板厚の厚い0.4 mmt材の結果よりも低い値を示していた.一方,θ = 90°では板厚に関係なく,また結晶粒径に関係なく,一様伸びは低くほぼ一定であった.一方,局部伸び(εL)は,θ = 90°の場合を除いて,いずれの引張方向でも板厚にかかわらず細粒ほど高くなる傾向を示した.しかし,θが大きくなるほどばらつきが大きくなった.また,θ = 90°の局部伸びは,結晶粒径依存性を明確に確認することはできず,ばらつきは大きいが結晶粒径によらずほぼ一定であった.板厚の影響に関しては,ばらつきの小さいθ = 0°,30°では,板厚が薄い方が局部伸びは2-4%程度低い傾向にあった.

Fig. 7

Uniform and local elongations as a function of the average grain size of annealed pure titanium sheets at 0.2 mm, 0.3 mm, and 0.4 mm in thickness. The tensile angles were (a) 0°, (b) 30°, (c) 45°, and (d) 90° in the rolling direction.

3.3.3 強度および延性とt/dの関係

Fig. 8に規格化した0.2%耐力と引張強度,Fig. 9に均一伸びおよび局部伸びとt/dの関係を示す.ここで,Fig. 6Fig. 7に示したように引張特性は結晶粒径の影響を受けているため,ヤング率での規格化では結晶粒径の影響を除外できず,t/dの影響を抽出できない.そこで,0.2%耐力の規格化には,板厚の厚い0.4 mmt材の結果から得られるHall-Petch則を基準に,また引張強度および伸びの規格化については,0.4 mmt材の実験結果から予測される近似線(Fig. 6およびFig. 7の実線および破線)を基準に用いた.Fig. 8に示すように,0.2%耐力は,引張方向に関係なく試験範囲では一定であった.一方,引張強度は,θ = 0°-45°でt/dが4-5付近から小さくなると低下し始め,θ = 90°では一定であった.Fig. 9に示すように,均一伸びは,θ = 0°および30°でt/dが4付近から小さくなると低下し始め,θ = 45°および90°では一定であった.局部伸びは,他の特性とは異なり,臨界値となるt/dは確認されず,ばらつきが非常に大きかった.以上より,引張強度や一様伸びが低下し始める臨界のt/dは引張方向によって異なり,θが大きいほど臨界値が小さくなる傾向が認められた.また,局部伸びではt/dとの相関が確認されず,影響がないと考えられる.以上のように,t/dが臨界値を下回る場合,延性改善を目的とした粗粒化が,強度とともに延性も低下させる.細粒化によって,高強度と延性を両立させることができ,この点は,薄板材料における特筆すべき点である.

Fig. 8

Normalized 0.2%-proof stress and tensile strength as a function of the ratio of sheet thickness to average grain size (t/d)(a) θ = 0°, (b) θ = 30°, (c) θ = 45°, (d) θ = 90°.

Fig. 9

Normalized uniform and local elongation as a function of the ratio of sheet thickness to average grain size (t/d)(a) θ = 0°, (b) θ = 30°, (c) θ = 45°, (d) θ = 90°. The arrows indicate that it exceeds 1.5.

4. 考察

本報告においては,主に延性に及ぼす板厚,結晶粒径,t/dおよび引張方向の影響について議論する.降伏挙動に及ぼす影響ついては,次報で詳しく述べたい.本報告では,特に延性を,降伏から最高荷重点までの加工硬化挙動,およびそれと密接に関係する均一伸び,さらには最高荷重点から破断までの局部伸びに分けて議論する.

4.1 加工硬化挙動,均一様伸びに及ぼす板厚,結晶粒径,t/dおよび引張方向の影響

引張強度と均一伸びはt/dが臨界値を下回ると急激に低下し(Fig. 8およびFig. 9),その臨界値には引張方向依存性が確認された.t/dが臨界値を下回ると急激に低下する傾向は種々の金属材料を用いたMiyazakiらの報告とほぼ一致しており,Miyazakiらのモデルからすれば,変形する結晶粒の拘束に寄与する領域の広さで説明することができる.Miyazakiらは,表面における結晶粒のように拘束力が小さい場合には結晶粒の粒界近傍でのみ転位セルが形成され,板厚の内部の結晶粒のように拘束が強くなるとその範囲が広がると報告している7).また,FukumaruらはSUS316製細線において,表面は転位運動の障害とならないことから表面を有する結晶粒の転位密度は相対的に低く,表面を有する結晶粒の割合が増加する(D/dが小さくなる)と加工硬化率が低下すると考えている8).純チタン薄板においても同様に転位密度や転位組織形成がt/dにより異なることは考えられるが,純チタンでは双晶変形が生じるため,この影響を無視することはできない.Fig. 10に結晶粒径が約80 µmの真応力-真ひずみ曲線およびそれから求まる加工硬化率を重ねて示す.本研究においても,θ = 0°-45°において(Fig. 9(a)-(c)),t/dが小さくなることで加工硬化率は低下しており,特に真ひずみ10%以上の領域での低下は著しい.その結果,引張強度や均一伸の低下に大きな影響を与えたことが示唆される.一方,θ = 90°では真ひずみが10%になる以前に急激に加工硬化率が低下しており,t/dの違いによる大きな差は認められない.したがって,加工硬化率の結晶粒径およびt/d依存性は確認されなかったと考えられる.このように,引張方向によって挙動が異なるのは,以下に述べるように強い集合組織を持つチタン板の双晶変形の挙動と深く関係すると考える.Fig. 11に,板厚0.3 mm,結晶粒径80 µmで,ほぼ臨界値であるt/d = 3.7の試料をθ = 0°方向に20%引張変形させた後の変形双晶の形成をIPF(Inverse Pole Figure)マップで示す.また,局所的な変形の程度をKAM(Kernel Average Misorientation)マップで示す.KAM値は主に結晶粒界と双晶境界の近傍で高く,本試料においては表層と内部の結晶粒において明瞭な差は確認されなかった.この結果は,変形双晶が加工硬化率の向上に大きく寄与していることを示しており,変形双晶が導入されると動的微細化の効果によって加工硬化率が増加したと考えられる.Fig. 12に,結晶粒径80 µmの板厚0.2 mmおよび0.4 mm(各々のt/dが2.5および5.0)の試料を,種々の方向に引張変形した時の引張ひずみと結晶粒1個あたりの平均の変形双晶数の関係を示す.測定視野はL(NDと引張方向を含む)断面のt × 8 mmであり,表面を含む結晶粒は100-140個,表面を含まない結晶粒は50-220個が含まれる領域である.いずれの引張方向においてもひずみ量の増加に伴って変形双晶が増加している.また,θが大きくなるほど変形双晶の形成が著しく抑制されていることが認められた.これは,θの増加に伴う加工硬化率の抑制と同様の傾向であり,強いB-textureを持つチタンにおける加工硬化挙動に及ぼす動的微細化の重要性を支持する.また,Fig. 12から,表面を含む結晶粒(solid印)での変形双晶とそれ以外の結晶粒(open印)での変形双晶は明らかに表面を含む方が少なく,表面を含む結晶粒では双晶変形が生じにくいことがわかる.Fig. 13に種々の方向に10%引張変形後のL断面でのミクロ組織を示す.変形双晶は不均一に存在しており,特定の結晶粒に多数存在している.変形双晶の発生は,結晶粒径10,11)や結晶方位12)の影響を受けることが知られているが,必ずしも粗大な結晶粒に変形双晶が多く観察されるわけではない.また,Ishiyamaらは等価な双晶系ではシュミット因子の大小で発生する変形双晶が説明可能であるが,異なる双晶系が発生する場合ではシュミット因子の大小だけでは説明できないことを報告している13).純チタンの双晶系は変形初期に(11-22)双晶が発生し,変形が進むと(10-12)双晶が発生するようになる.したがって,真歪10%を超えるような場合にはシュミット因子だけで説明することは困難と考えられる.変形双晶が発生するためには,粒界や双晶境界での応力集中が必要と考えられ,多結晶体では周囲の結晶粒による拘束条件の違いが変形双晶の発生に大きく影響すると考えられる.しかし,表面を含む結晶粒の場合には,周囲の結晶粒による拘束が弱いために双晶変形の発生が抑制されたと推察され,これによってt/dの低下,すなわち表面の寄与の拡大によって加工硬化率が低下したと考えた.θ = 0°-45°における加工硬化挙動はおおむね上記のような機構で説明できる.一方,集合組織が著しく発達したチタン板では,θ = 90°の場合には変形双晶の形成が抑制されるため,加工硬化率は極めて低く(Fig. 10(d)),結晶粒径や板厚などの影響が表れる前に早期に局部変形に移行したと考えた.

Fig. 10

True stress/true stain curves of pure titanium sheets together with the work hardening rate of dσt/dε. The tensile angles were (a) 0°, (b) 30°, (c) 45°, and (c) 90° in the rolling direction. The grain size of the specimen was around 80 µm.

Fig. 11

(a) IPF and (b) KAM maps of pure titanium sheets after 20% tensile deformation. The crystal orientation of the IPF map was colored in terms of ND.

Fig. 12

Change in the number of deformation twins per grain as a function of tensile strain of pure titanium sheets at 0.2 mm and 0.4 mm in thickness. The grain size was 80 µm. The tensile angles were (a) 0°, (b) 30°, (c) 45°, and (c) 90° in the rolling direction.

Fig. 13

Optical micrographs showing the deformation twinning of titanium sheets at 0.2 mm and 0.4 mm in thickness after 10% tensile deformation; the specimen thicknesses were (a), (c), (e), (g) 0.2 mm and (b), (d), (f), (h) 0.4 mm. The tensile angles were (a), (b) 0°, (c), (d) 30°, (e), (f) 45°, and (g), (h) 90° in the rolling direction.

以上は,一様伸びにおよぼすt/dの影響について主に論じた.一様伸びは,Fig. 7に示したように,θ = 90°引張の場合を除いて平均結晶粒径の増大とともに向上した.この理由については,粗粒化に伴う降伏比(σ0.2/σB)の低下や変形双晶の発生頻度の増加が関係していると推察され,既に提案されている機構14)の通りである.

4.2 局部伸びに及ぼす板厚,結晶粒径,t/dおよび引張方向の影響

局部伸びに関する影響因子はいくつか報告されている.Mizunumaらはr値,ひずみ速度感受性指数m値が影響することを報告しており15),一方,Takedaらは板厚によって破断限界が影響を受けることを報告している1).また,著者らはネッキング領域の板厚分布が結晶粒径によって変化することを指摘しており9),これはMizunumaらもくびれ開始後のひずみの拡散の度合(ひずみの拡散性)が局部伸びを支配すると考える説と基本的に同じである.また,Morrisonは,鋼の細粒化により,絞り(局部伸び)が向上すると述べている16).したがって,局部伸びは,ネッキング領域の広がりと相関があることが予想される.そこで,まず,破断限界とネッキング領域の大きさの関係を,板厚,結晶粒径およびr値の観点から検討した.

Fig. 14に破断時の板厚および板幅ひずみと結晶粒径の関係を示す.板厚ひずみはばらつきが大きく傾向は不明瞭であるが,θに関係なく結晶粒径に対してほぼ一定であると考えられる.一方,板幅ひずみは結晶粒径が大きくなるほど低下しており,θが大きくなるほど大きくなっていた.この結果は,チタン板の引張破断が板幅方向のひずみが破断を律速することを示唆しており,r値が高い(θが大きい)ほど破断時の断面ひずみが大きくなったと考えられる.しかしながら,破断限界の観点からは,細粒材でθ = 45°の局部伸びが最もr値の高いθ = 90°の局部伸びを上回ることを説明できない.次いで,ネッキング領域の大きさを比較した.均一変形では平行部内の板厚および板幅は一定とすると,これらの分布の引張方向における広さでネッキング領域を知ることができる.Fig. 15に板厚および板幅の分布を示す.板厚分布は細粒材の方がばらつきは小さく,やや広い領域で分布を有する傾向にあった(Fig. 15(a),(b)).一方,板幅の分布では板厚よりもより明瞭に細粒材の方が広い範囲でひずみが分布していることがわかる(Fig. 15(c),(d)).すなわち,ネッキングが細粒化により抑制され,その結果既に報告9,16)があるように局部伸びが細粒化により向上したと考える.一方,θ = 45°でネッキング領域が最も広いことは特筆される.これは局部伸びの傾向に一致しており,他の指標では説明できなかった現象も説明することができる.以上より,局部伸びを支配するマクロな因子は,ネッキング領域の大きさと考えられる.

Fig. 14

Thickness and width fracture strain as a function of grain size. The tensile angles were (a) 0°, (b) 30°, (c) 45°, and (c) 90° in the rolling direction.

Fig. 15

Distribution of the (a), (b) thickness and (c), (d) width of the fractured tensile specimens as a function of distance from the fracture surface; the thickness of the initial specimens was (a), (c) 0.2 mm and (b), (d) 0.4 mm.

Mizunumaらは,ネッキング領域の大きさがr値とm値によって支配されているとしている.しかし,既に述べたようにr値やm値だけではθ = 45°で局部伸びが最大となる挙動を説明できない.上述したように,局部伸びの本質は,ネッキング後のネッキング部と非ネッキング部の強度差が問題であり,ネッキング部の硬化が相対的に低いと,ネッキングが生じやすいと考えられる.チタンでは,双晶変形が非常に重要な役割を演じると考え,本研究ではネッキング後の双晶変形の発生頻度に着目した.双晶変形は4.1節で述べたようにt/dの影響を受け,また結晶粒径10,11),引張方向,ひずみ速度17-20),温度14,20-22)の影響も受ける.一般的に,チタン薄板では,双晶変形は結晶粒径が大きいほど,引張角θが小さいほど,ひずみ速度が速いほど,温度が低いほど促進される.この中で,引張方向と局部伸びの関係に焦点を当てる.Fig. 9に示したように,双晶変形はθが45°以下の引張方向では活発に発生するために加工硬化率が大きく,θがそれよりも大きい場合には著しく抑制される.一方,r値はθが大きいほど大きくなるため,Fig. 2で局部伸びがθ = 45°で最大となったことは,双晶変形の発生頻度とr値の兼ね合いによってネッキング領域がθ = 45°で最大となったためと予想される.θが45°以下では細粒ほど局部伸びが大きくなり,θ = 90°では結晶粒径依存性はなかった点について考察する.一般的な結晶粒径と局部伸びの関係では,ボイドは粒界近傍で発生するため,応力集中し難い細粒ほどボイドの成長が抑制され,ネッキング領域は広がると考えられる.しかし,すべり変形が主体となるθ = 90°では結晶粒径の影響がみられず,チタンにおいては一般的に説明されるボイド形成に関しては影響が小さいと仮定した.また,双晶変形が発生しやすいθが45°以下で結晶粒径依存性があることから,双晶変形の発生に結晶粒径が影響していると仮定した.その場合,θが45°以下では,ネッキング後の双晶変形の発生頻度が細粒ほど高くなる必要がある.粗粒の場合,変形初期に双晶変形が活発であり,ネッキング後では変形初期の著しい動的微細化などによってむしろ双晶の発生が抑制され,加工硬化率の低下が大きくなる可能性がある.θ = 90°では,引張方向の影響で著しく双晶変形が抑制されるため,結晶粒径の影響自体が出ないと考えることができる.上述した仮説はあくまで推測の範囲内であり,詳細は今後の課題としたい.

t/dの影響が局部伸びには現れていない点は,いずれも,発生した双晶境界によって動的微細化が進行したためにt/dの影響が抑制されたと考えることができる.変形時の加工発熱に関しては考慮しておらず,いずれも核心には至っていないが,双晶変形の観点で局部伸びの挙動を十分に説明できることが示唆された.

5. 結言

純チタン薄板の引張特性に及ぼす板厚t(0.2-0.4 mm)と結晶粒径d(20-175 µm)およびt/d(2.3-19.4)の影響について,冷間圧延方向と引張方向のなす角θが0°,30°,45°,90°の場合について調査し,以下の結論を得た.

(1) 引張特性は,引張方向が変化することでSplit-TD型の集合組織に起因して各種特性が変化する.0.2%耐力とr値はθの増加に伴って増加する.引張強度はθが45°で極小値を示す.均一伸びはθが45°付近まで増加し,その後急激に低下してθが60°以上ではほぼ一定となる.局部伸びは,θとともに増加するが,45°で極大値を示す.

(2) 引張特性に及ぼす板厚tと結晶粒径dの影響をこれらの比t/dで整理すると,θ = 0°では板厚に関係なく整理でき,t/dが4付近を下回ると急激に引張強度と均一伸びが低下した.しかし,θ = 0°以外の場合には,板厚に関係なく整理することはできず,t/dは引張強度や均一伸びの直接的な支配因子ではない.tが薄く,t/dが小さい場合には,表面の影響を受ける結晶粒の割合が増加するためと考えた.

(3) 表面を有する結晶粒もしくはその周辺の結晶粒では,隣接粒による拘束が弱くなり応力集中しにくくなることで変形双晶の形成が抑制される.その結果,t/dの低下(表面の寄与の増大)によって,バルク全体として変形双晶による動的微細化効果が減少する.したがって,t/dが小さい領域では加工硬化率が低下し,引張強度と均一伸びが減少したと推察した.

(4) 局部伸びの支配的要因はネッキング領域の大きさである.双晶変形に着目することにより,局部伸びの結晶粒径依存性や引張方向依存性を説明することができ,チタンの局部伸びがr値だけではなく,双晶変形挙動に支配されていることを明らかとした.

文献
 
© 2020 The Japan Institute of Metals and Materials
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