Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Volatile Separation and Recovery of Iridium from Oxygen Evolution Electrodes Using Calcium Oxide
Kosuke TakahashiRyoji SanekataTakashi Nagai
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2023 Volume 87 Issue 9 Pages 243-248

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Abstract

Iridium, a platinum-group metal, is used in the form of a mixture of iridium and tantalum oxides in the catalytic layer of oxygen-generating electrodes owing to the unique catalytic properties and chemical stability of Ir.

The recovery of Ir from end-of-life products is important because of its low production, uneven geographical distribution of Ir sources, and high supply risks. However, recovery of Ir requires the dissolution of Ir in an aqueous solution, a procedure which involves the use of a strong acid and is, therefore, dangerous and environmentally hazardous.

Moreover, if metals other than Ir dissolve in the aqueous solution during the recovery of Ir, harmful effluents and gases would be generated and the separation of Ir from other metals would be difficult.

In this study, we developed a method that involves the extraction of only Ir from the catalyst layer of an oxygen-generating electrode and simultaneous recovery of Ir as a Ca-Ir composite oxide, where the composite oxide is soluble in hydrochloric acid. Only iridium oxide was volatilized from the catalyst layer of the oxygen-generating electrode and brought into contact with CaO via the gas phase. The composite oxide obtained was dissolved in hydrochloric acid and analyzed; the analysis revealed that Ir was highly soluble in hydrochloric acid and that the composite oxide did not contain Ta.

1. 緒言

白金族金属(PGM)の一種であるイリジウム(Ir)は,耐熱性,耐食性および特異な触媒特性を有しており,工業電解プロセスにおいて重要な酸素発生用電極に用いられている.この電極は,Ti基体上にIrO2-Ta2O5からなる触媒層が被覆されており,Ir:Taがモル比で7:3の場合に最も高い触媒活性を示し,酸素発生過電圧が低くなる.Ta2O5は,酸素発生に対する触媒活性は持たないが,酸素発生に対する耐久性の向上のために添加されている1-3.よって,Irを使用した酸素発生用電極は,酸素発生過電圧が低いことから工業電解プロセスの省電力化に寄与し,耐久性も高いことから長期的な使用も可能であり,環境・エネルギー問題への対策が迫られる昨今では,さらに用途が拡大すると考えられる.しかし,Irは白金精錬の副産物であるため,年間産出量が数トン程度と非常に少なく,増産も難しいとされている.また,資源も南アフリカなどの特定地域に偏在しており,安定供給には懸念があるため,使用済み製品からのリサイクルが重要である.Irをリサイクルする際の分離工程では,湿式法にてIrを回収するため,溶解する必要がある.しかし,IrおよびIrO2は化学的に安定であるため,溶解には酸化剤を含む強力な酸を使用しなければならず,危険性や環境負荷の大きさが問題となる.また,Irを溶解する際に,Ir以外の金属元素も溶解し,浸出溶液中に混在する場合がある.これにより,有害な廃液やガスが発生する恐れがあり,分離精製においても回収率や純度低下の要因となる4,5.そのため,溶液化前にIrのみを分離・回収し,酸溶解性を向上させることが望まれる.

本研究では,酸素発生用電極の触媒層からIrO2のみを酸化揮発させることでTa2O5と分離し,揮発したIr酸化物は酸化カルシウム(CaO)との複合酸化物とすることで塩酸に易溶な状態で回収する方法を提案する.Irは高温において酸化し,揮発することが知られている.この特性を利用し,酸素発生用電極からIrO2のみを酸化揮発させることで,電極に混在するTa2O5などと分離しつつ,Irのみの回収が可能になると考えた.そして揮発させたIr酸化物ガスは,CaOに吸収させ,Ir-Ca系複合酸化物として回収する方法である.Irは複合酸化物を形成することで酸溶解性が向上し酸化剤を含まない酸に溶解可能になることが知られている6-9.本研究で生成するIr-Ca系複合酸化物についても塩酸で溶解可能であることが報告7,9されているため,危険性や環境負荷の低減が期待できる.

過去に野村らは,金属PGMを高温で揮発させ,気相を介してLaScO3やCaMnO3,(La0.7Sr0.2Ba0.1)ScO3−δδは酸素空孔量)などのペロブスカイト型酸化物に吸収させることで回収する研究を行っていた10-13.著者らも,ペロブスカイト型酸化物を利用したPGMの分離法の研究を行っていた14,15.しかし,これらの方法では,ペロブスカイト型酸化物を調整する必要があることや,溶液中に複数の金属が混在することになるといった課題があった.一方,吸収剤に単純酸化物を用いてIrの回収が可能であれば,吸収剤を合成する必要がなくなり,溶解した際に溶液中に含まれる元素もIrと他1種類の元素のみとなるため分離操作も容易になると考えられる.

そこで本研究では,単純酸化物であるCaOを吸収剤に用いて,酸素発生用電極触媒層からのIrの揮発分離やIr-Ca系複合酸化物としての回収について検討し,その最適な条件を調査した.

2. Irの新規回収法

Ir揮発分離回収法の模式図をFig. 1に示す.酸素発生用電極とCaOを非接触状態で配置し,高温に加熱する.電極の触媒層中のIrO2のみが酸化揮発し,それをCaOに吸収させることで複合酸化物として回収し,塩酸に易溶な状態で回収する方法である.吸収材としてCaOを用いるため低コストであり,単純酸化物を用いてIrを回収するため溶液からの分離精製も容易であると考えられる.

Fig. 1

Schematic diagram of Ir separation and recovery in this experiment.

Ir-Ca系複合酸化物として報告16のあるCaIrO3,Ca2IrO4,Ca4IrO6のいずれかが生成すると仮定し,これらの標準生成ギブズエネルギー($\Delta G^{\circ} $16を用いて,揮発したIrO3を回収可能か検討した.IrO3の吸収剤をCaOとした際は,式(1),式(2)および式(3)の反応により複合酸化物が生成すると考えられる.   

\begin{equation} \text{CaO(s)} + \text{IrO$_{3}$(g)} \to \text{CaIrO$_{3}$(s)} + 1/2\text{O$_{2}$(g)} \end{equation} (1)
  
\begin{equation} 2\text{CaO(s)} + \text{IrO$_{3}$(g)} \to \text{Ca$_{2}$IrO$_{4}$(s)} + 1/2\text{O$_{2}$(g)} \end{equation} (2)
  
\begin{equation} 4\text{CaO(s)} + \text{IrO$_{3}$(g)} \to \text{Ca$_{4}$IrO$_{6}$(s)} + 1/2\text{O$_{2}$(g)} \end{equation} (3)
Ir酸化物のガス種は,IrO2(g)およびIrO3(g)が知られているが,本研究では蒸気圧の高いIrO3を想定し,式(4)および式(5)の反応でIrが酸化揮発すると考えた.   
\begin{equation} \text{Ir(s)} + 3/2\text{O$_{2}$(g)} \to \text{IrO$_{3}$(g)} \end{equation} (4)
  
\begin{equation} \text{IrO$_{2}$(s)} + 1/2\text{O$_{2}$(g)} \to \text{IrO$_{3}$(g)} \end{equation} (5)
次に,式(4)および式(5)のどちらの反応で酸化揮発が起きるか検討するため,大気圧下であることを想定し,酸素分圧$P_{\text{O}_{2}} = 0.21$ atmとした場合のIrO2の分解を考えた.純IrからIrO2が生成する反応式を式(6)に示す.   
\begin{equation} \text{Ir(s)} + 1/2\text{O$_{2}$(g)} \to \text{IrO$_{2}$(s)} \end{equation} (6)
また,式(6)の反応における,平衡定数を式(7)で表す.   
\begin{equation} K = \mathrm{a}_{\text{IrO}_{2}}/(\mathrm{a}_{\text{IrO}_{2}} \times (P_{\text{O}_{2}}/P^{\circ})^{1/2}) \end{equation} (7)

  • K 平衡定数
  • a 活量
  • P 分圧(atm)
  • $P^{\circ} $ 標準分圧(atm)
  •  

ここで,IrおよびIrO2は個体であるため,a = 1とすると,K = 4.76となる.式(8)に標準生成ギブズエネルギーを平衡定数の関数として表す.   
\begin{equation} \Delta G^{\circ} = -\mathrm{R}T \ln K \end{equation} (8)

  • $\Delta G^{\circ} $ 標準生成ギブズエネルギー(J/mol)
  • R 気体定数(J/mol/K)
  • T 温度(K)
  •  

IrO2は,標準生成ギブズエネルギー($\Delta G^{\circ} $)が報告16されているため,式(8)により,IrO2の分解温度は1292 Kであると算出された.よって,1292 K以上の温度では,IrO2は分解して純Irとなり,式(4)の反応により酸化揮発すると考えられる.

ここで,大気圧下($P_{\text{O}_{2}} = 0.21$ atm)であると仮定した場合の,Irの酸化揮発反応式である式(4)および式(5)のIrO3の蒸気圧と,複合酸化物の生成反応式である式(1),式(2)および式(3)のIrO3の蒸気圧をFig. 2に示す.1292 K以降では式(4)の反応によりIrが酸化揮発すると考えられるため,CaIrO3は1442 Kまで,Ca2IrO4は1475 Kまで,Ca4IrO6は1510 Kまで複合酸化物と平衡するIrO3の蒸気圧の方が低く,安定であることがわかる.したがって,吸収剤にCaOを用いることで,1510 K程度までは揮発したIrO3を複合酸化物として回収可能であると推定された.

Fig. 2

Vapor pressure curves of IrO3 gas in equilibrium with the metal or its oxide and with the composite oxide at atmospheric pressure.

3. 実験方法

3.1 酸素発生用電極触媒層の模擬試料作製

既出特許17を参考にIrO2-Ta2O5系酸素発生用電極触媒層の模擬試料を作製した.この際出発原料には,ヘキサクロロイリジウム酸n水和物(H2IrCl·nH2O) 10 g,五塩化タンタル(TaCI5) 3.2 g,ブタノール(CH3(CH2)CH2OH) 100 mLおよび濃塩酸10 mLを用いた.これらを混合し,前駆体溶液を作製した.前駆体溶液は,シャーレに塗布し乾燥機で373 Kで乾燥しきるまで乾燥を行った.乾燥後,アルミナるつぼに入れ,723 Kで20 min加熱したのちメノウ乳鉢で粉砕し,IrO2-Ta2O5系酸素発生用電極触媒層の模擬試料(以下,模擬試料)とした.

次に,作製した模擬試料中のIrおよびTaの含有量を決定するため,山本らの方法18を参考に模擬試料0.1 gにアルカリ融解を施した.この際,質量比[模擬試料:過酸化ナトリウム(Na2O2)] = [1:50]となるようにニッケル坩堝に入れ,1073 Kで30 min加熱した.融解生成物は,王水200 mLで溶解させた.溶液は誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)によりIr濃度を測定し,式(9)を用いて模擬試料中のIr含有量を算出した.   

\begin{equation} C^{\circ}{}_{\text{Ir}} = \rho_{\text{Ir}} \times V \times r \times 10^{-3} \end{equation} (9)

  • $C^{\circ} {}_{\text{Ir}}$ 模擬試料中のIr含有量(g)
  • ρIr ICP-OESで得られたIr濃度(mg/L)
  • V メスアップ(L)
  • r 希釈率
  •  

アルカリ融解を行った結果,本研究で作製した模擬試料0.1 g当たりのIrの含有量は,0.0543 gであった.

3.2 Irの酸化揮発を利用した分離・回収

3.1節で作製した模擬試料とCaOを用いて,Irのみを分離して複合酸化物として回収する実験を行った.なお,実験では,CaCO3を使用し,熱分解させることでCaOとした.

加熱時の模式図をFig. 3に示す.大小2枚のアルミナ板(50 mm × 50 mm,50 mm × 25 mm)上に模擬試料とCaCO3をそれぞれ0.1 g,1 gずつ載せてアルミナボックス内に非接触状態となるように配置した.アルミナボックスは蓋をしたのち,電気炉を用いて大気雰囲気で加熱し,保持させた.

Fig. 3

Schematic diagram of inside the furnace during heating.

3.3 溶解方法

Ir含有複合酸化物の塩酸に対する溶解特性を調査するため,CaCO3側の試料全量をビーカーに入れ,塩酸 20 mLを加えてホットプレートにて,液温353 Kで3 h加熱溶解した.溶解後はろ過を行い,純水により100 mLに調整した.溶液は適宜希釈したのちICP-OESでIrおよびTaの濃度を測定した.得られたIr濃度から,式(10)を用いて模擬試料中のIr含有量に対するIr溶解率を算出した.   

\begin{equation} S_{\text{Ir}} = (\rho_{\text{Ir}} \times V \times r \times 10^{-3}/C^{\circ}{}_{\text{Ir}}) \times 100 \end{equation} (10)

  • ρIr 溶液のIr濃度(mg/L)
  • SIr Ir溶解率(mass%)

4. 実験結果

4.1 Ca-Ir系複合酸化物の確認および溶解性の調査

純Irの酸化揮発に最も適しているとされる1373 K19において24 h保持し,実験を行った.

加熱前後の様子をFig. 4に示す.加熱後の模擬試料は,白色に変化し,CaO側試料は,黒く変色していた.これは,模擬試料中のIrO2が酸化してIrO3となり揮発したことで,Ta2O5のみが残存して白色に変化し,揮発したIrO3がCaOと反応したため黒く変色したと考えられる.

Fig. 4

(left) Simulated and (right) CaCO3-side samples (a) before and (b) after heating at 1373 K.

加熱後のCaO側試料のXRD分析結果をFig. 5に示す.CaOと複合酸化物であるCa2IrO4,加えて不明ピークが確認された.よって,揮発したIrO3は,CaOに吸収させることで,Ca-Ir系複合酸化物として回収可能であることが示された.

Fig. 5

XRD profiles of CaCO3 side after heating.

Ir分離実験により作製したCaO側試料を塩酸に溶解した際のIr溶解率と,比較のためにIr分離・回収実験を行っていない未処理の模擬試料を塩酸に溶解した際の残渣の有無とIr溶解率をTable 1に示す.未処理の模擬試料は,3.5 mass%にとどまり,Irの溶解は困難であった.しかし,CaCO3を用いて分離実験を行った場合のIr溶解率は,91.1 mass%となり,未処理の模擬試料と比べ,溶解性は大きく向上した.また,溶解試験において残渣は確認されず,ICP-OES分析においてTaの溶解は確認されなかったため,Irのみを揮発分離させ,気相を介してCaOとの複合酸化物として回収する方法の有効性が示された.

Table 1 Iridium solubility rate for each absorbent.

4.2 Irの分離・回収の最適条件

Irの揮発分離およびCa-Ir系複合酸化物としての回収における最適な条件の調査のため,実験条件における加熱温度および時間を変更し加熱・保持を行った.

実験条件を温度のみ変更し,1073-1573 Kで24 hの加熱を行った際のXRD分析結果をFig. 6に示す.1273-1373 Kにおいて,Ca2IrO4の生成が確認された.一方,1423 Kおよび1473 Kでは,Ca4IrO6の生成が確認された.これらの複合酸化物の生成反応は,それぞれ式(2)および式(3)であると考えられる.また,1273-1473 Kにかけて,不明な回折線が確認された.これは溶解率の高い1323 Kおよび1373 Kにおいて強度が強いことから,この回折線も何らかのCa-Ir系複合酸化物であると考えられる.

Fig. 6

XRD profiles of heating temperatures (a) 1073 K, (b) 1173 K, (c) 1273 K, (d) 1323 K, (e) 1373 K, (f) 1423 K, (g) 1473 K, and (h) 1573 K at 24 h heating time.

次に,1073-1573 Kで24 hで加熱したCaO側試料の塩酸へのIr溶解率をFig. 7に示す.1073 KでのIr溶解率は0.1 mass%だったが,1173 Kから向上し始め,1323 Kにおいて最大の100 mass%を示した.しかし,1373 K以降でIr溶解率は低下し始め,1573 Kでは2.2 mass%まで低下した.Ir溶解率が低下傾向を示す要因として,以下のことが考えられる.

Fig. 7

Relationship between experimental temperature in 24 h heating and Ir solubility.

  • ①    蒸気圧による影響

    Ir溶解率が低下した1323 K以降において,Irが酸化揮発する際は,IrO2が分解し,式(4)の反応により揮発していると考えられる.ここで,実験条件は大気雰囲気であるため大気圧下($P_{\text{O}_{2}} = 0.21$ atm)であると仮定し,式(4)の反応のIrO3の蒸気圧と,Ca2IrO4とCa4IrO6の生成反応式である式(2)および式(3)のIrO3の蒸気圧をFig. 8に示す.IrO3およびCa2IrO4の蒸気圧差は,温度上昇に伴い低下し,1476 Kで逆転する.また,IrO3およびCa4IrO6の蒸気圧差も,温度上昇に伴い低下し,1511 Kで逆転する.これは,蒸気圧差の減少に伴い,CaOがIrO3を吸収する速度が低下するため,複合酸化物の生成量も減少し,Ir溶解率が低下したと考えられる.また,蒸気圧が逆転し,IrO3の蒸気圧よりも複合酸化物の蒸気圧が上回ったことで,複合酸化物が生成されなくなったことが考えられる.

Fig. 8

Vapor pressure curves of IrO3 in equilibrium with IrO3 and composite oxides.

  • ②    複合酸化物の分解温度による影響

    1073-1573 Kで24 hの加熱実験後のXRD分析結果(Fig. 6)より,1273-1373 KではCa2IrO4の生成が確認された.一方,1423 Kおよび1473 Kでは,Ca4IrO6の生成が確認された.Ca4IrO6は,分解温度が1510 Kと報告16されていることから,1323 K以降の温度では,分解温度に近づいたことにより,複合酸化物が生成されなくなったため,Ir溶解率が低下したと考えられる.Fig. 9に1573 Kの加熱前後の様子を示す.1373 Kの加熱において,模擬試料は白色に変化していた(Fig. 4)が,1573 Kでは,一部白色になるものの大部分が黒色のまま変化しておらず,IrO2が揮発せずに模擬試料側に残存していた.1573 Kでは,複合酸化物の分解温度に達しているため,揮発したIrO3がCaOに吸収されずにアルミナボックス内で飽和し,模擬試料からのIrO2の酸化揮発が抑制されたため,加熱後に模擬試料側にIrO2が残存したと考えられる.

Fig. 9

(left) Simulated and (right) CaCO3-side samples (a) before and (b) after heating at 1573 K.

次に,実験温度を最もIr溶解率の高かった1323 Kで,実験時間を6-24 hとして実験を行った際のIr溶解率をFig. 10に示す.Ir溶解率は,18 hまで直線的に上昇し,それ以降は緩やかに上昇した.そして,24 hにおいて,最大の100 mass%を示した.18 hまでは,表面付近のIrO2が酸化揮発することで,さらにその奥のIrO2が現れ,再び酸化揮発するため,Ir溶解率は,直線的に上昇したと考えられる.しかし,本研究で作製した触媒層の模擬試料には,Ta2O5も混在しているため,IrO2の酸化揮発が進むにつれて表面付近がTa2O5で覆われ,IrO2の酸化を阻害したため,18 h以降ではIr溶解率は緩やかに上昇したと考えられる.

Fig. 10

Relationship between experimental time and Ir solubility at 1323 K.

5. まとめ

Irが高温で酸化揮発する特性を利用し,酸素発生用電極の触媒層からIrO2を酸化揮発させ,CaOに吸収させることでCa-Ir系複合酸化物として回収可能であった.この複合酸化物は塩酸に溶解可能であり,特に,1323 Kで24 hの加熱を施した場合に高いIr溶解率を示した.また,Taの溶解は確認されなかったため,Irのみの分離・回収が可能であった.この方法では,使用済み電極からIrのみを回収できる点や,強力な酸を用いない点,CaCO3を用いている点から,効率性や安全性,コストなどの面で有用な方法である.また,気相を介しているため,酸素発生用電極以外の使用済み製品からも,同時にIrの回収が行えることが期待される.

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.

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