2023 Volume 87 Issue 9 Pages 249-257
SUS301, SUS304 and SUS316L steels with different carbon content, austenite stability and grain size were prepared, and their mechanical properties were investigated by In-situ X-ray diffraction in tensile tests using Synchrotron radiation. In addition, the occurrence and growth of necking immediately after yielding was investigated using a CCD camera.
As is well known, the yield point increased with decreasing in grain size. Increasing rate of the yield point was dependent on carbon content, and the slope (Hall-Petch coefficient) increased with increasing carbon content. In SUS304 and SUS316L ultrafine grained structural steels, necking occurred immediately after yielding, the nominal stress decreased, and the necking progressed and fractured. On the other hand, in SUS301 ultrafine grained structure steel, after yielding at 1600 MPa (upper yield stress), a necking occurs and the stress decreases slightly (lower yield stress), but the progress of the necking stopped and propagated in the longitudinal direction of the specimen. The nominal elongation was Lüders deformation of 20%, followed by uniform deformation with a total elongation of 35%. This phenomenon is due to the large amount of strain induced martensitic transformation. In-situ X-ray diffraction results of tensile tests in SPring-8 showed that 65% of austenite was transformed to martensite. On the other hand, its volume fraction for SUS304 and SUS316L ultrafine grained structural steels were 18% at most. From the point of true stress-true strain curve, the plastic instability condition is satisfied because their work hardening rate is extremely small. Therefore, after the necking occurs, it breaks as it progresses. In SUS301 ultrafine structured steel, the work hardening rate is small just after yielding and the necking occurred immediately. However, its work hardening rate became large immediately after necking started. When the carbon content is high, the grain size is ultrafine, and the austenite stability is low, high yield point of 1600 MPa and large Lüders deformation can be obtained.
オーステナイト系ステンレス鋼について,Torizukaらは,オーバル孔型およびスクエア孔型を組み合わせた温間溝ロール圧延を行うことで,効率よく大ひずみを導入し,1 µm以下の超微細組織の生成に成功している1-9).しかし,フェライト単相(C = 0.02 wt.%)の場合,結晶粒を20 µmから0.7 µmまで微細化しても降伏応力は,300 MPaから700 MPaに増加するものの1000 MPaは超えない1).C量を0.02 wt.%から0.45 wt.%まで増加させてようやく降伏応力は1000 MPa程度である.また,C量が0.02 wt.%以上のフェライト鋼では,降伏応力にほとんど差が生じていない.これは,フェライトの場合,固溶C量が0.02 wt.%と限界があるためであるが,オーステナイトの場合,固溶C量は2 wt.%程度と極めて大きい.したがって,多量のCを固溶できるオーステナイト系ステンレス鋼では,1200 MPaをはるかに超える可能性がある.
実際,Furukaneらの報告では,SUS316L(C濃度0.02%)オーステナイト系ステンレス鋼の結晶粒微細化に関して,Fig. 1に示すように,降伏点が約1200 MPaに上昇した.その反面,降伏後すぐにくびれてしまい,一様延性は全くなかった10).Fig. 2に,種々の結晶粒径を持ったオーステナイト系ステンレス鋼の降伏応力と全伸びの関係を示すが,高い降伏点を持つ材料は延性が低い11-18).さらに,Furukaneら19),Izutaら20)は,結晶粒微細化がオーステナイト相の加工安定性を向上させ,TRIP効果が抑制することを報告している.つまり,高降伏点化のための結晶粒微細化は,加工誘起変態を生じにくくさせる.

Nominal stress - nominal strain curves of as-warm rolled material and annealed materials at 700℃, 800℃ and 900℃ in SUS316L steels10).
オーステナイト相の安定性が比較的低いSUS301を用いた場合,結晶粒微細化と加工誘起変態を両立できると考えられる.Huangらは,SUS301を用いて,ECAPと焼鈍により超微細粒組織を得ることができ,高強度(上降伏点1200 MPa)・高延性(全伸び35%)で,リューダース変形が発現することを報告している21).また,GaoらはSUS304において,冷間圧延による加工誘起変態と焼鈍による逆変態の組み合わせにより超微細粒組織を生成し,高強度(上降伏点1100 MPa)・高延性(全伸び45%)で,大きなリューダース変形の発現を報告している22).いずれの研究も結晶粒の微細化と加工誘起変態の重要性を指摘しているが,降伏点が上昇する機構やリューダース変形の発現機構について,詳細の検討はできていない.特に,降伏直後のリューダース変形発生時の解析ができていない.
そこで,本研究では,結晶粒微細化と加工誘起変態の両立に関して,SUS301,SUS304およびSUS316Lを用いて,結晶粒径,C濃度,オーステナイト安定性を変化させ,力学特性に及ぼす影響を調査した.特に,変形中の加工誘起変態挙動を詳細に調べるためにSPring-8の高輝度X線を用いて,引張試験を行いながら透過型X線回折を行い,高延性化の機構,特に,リューダース変形と加工誘起変態の関係を詳細に調べた.CCDカメラを利用した画像解析装置により,引張中の試験片の形状変化も詳細に調べ,リューダース変形と関連付けた.
さらに,超微細オーステナイト組織を有するSUS301において,結晶粒微細化により1500 MPaを超える降伏応力と加工誘起変態による高延性が同時に得られるかも調べた.
本研究では,市販のSUS301,SUS304,SUS316L鋼線材(直径6 mm)を使用した.Table 1にそれらの化学組成を示す.Table 1に示したMd30はASTMの粒度番号を8.0として計算したものである23).Md30は,それぞれ,57℃,−56℃,−94℃であり,オーステナイト安定性に大きな差がある.

これらの試料の結晶粒を微細化するために,温間溝ロール圧延(Warm Caliber Rolling, WCR)を行った.素材を500℃に加熱・保持後に,1パス目にオーバル孔型,2パス目にスクエア孔型を用いて2パスタンデム圧延を行った10).この工程を3回繰り返し,2.7 mm × 2.7 mm,長さ500 mm以上の角棒を作製した.次に,結晶粒径を変化させるため,角棒を700℃,900℃,1100℃で30 minまたは60 min保持し,水冷を行った.
これらの試料の組織観察は,SEM-EBSDにより行った.観察面は,圧延最終パスにおける荷重方向(ND方向)である.
2.2 引張試験In-situ X線回折による加工誘起変態挙動調査引張試験In-situ X線回折はSPring-8のビームラインはBL19B2で行った.Fig. 3に測定系の模式図を示す.試験片中央に入射X線が当たるように垂直に設置し,試料後方に2次元検出器PILATUS300Kを設置した.PILATUS300Kは,デバイ・シェラー環(Debye-Scherrer ring)を2次元的に検出できるため,ラインプロファイル解析への集合組織の影響を軽減することができる.入射X線のエネルギーは30 keV(波長0.413 Å),ビームサイズは1mm × 0.2 mm,露光時間は10 sで行った.また,結晶粒が粗大な試料に関しては,回折条件を満たす結晶粒数を増やすため,引張試験機を揺動しながら測定を行った.揺動方向は引張方向と一致させ,揺動幅は2 mm,揺動速度は0.2 mm/sとした.引張試験片は,平行部長さ6 mm,平行部幅1.25 mmで,X線を透過させるために板厚0.5 mmとした.この板状試験片を,RD方向が引張方向と一致するように,放電加工で作製した.引張試験はひずみ速度は,6.8 × 10−4 s−1で行った.

Schematic illustration of transmission type X-ray diffraction measurement system in BL19B2 of SPring-8.
一部の試料において,引張変形を途中で停止させ,試験片の任意の部分にX線を照射した.用いたビームラインはBL46XUで,入射X線のエネルギーは30 keV(波長0.413 Å),ビームサイズは0.05 mm × 0.2 mmである.
2.3 CCDカメラを用いた試験片形状変化計測引張変形中のくびれ形状の計測を行うため,Fig. 4に示すように,2台のCCDカメラと画像計測センサ(㈱KEYENCE製 XG-X2700)を設置した.正面と側面から試験片平行部の両端エッジ座標を計測しながら引張試験を行った.CCDカメラにより得られたグレースケール画像の白黒の濃淡の変化が最も大きい箇所をエッジ座標とした.そのため,試験片の背後に黒い背景を設置し,試験片には光を当てることで,濃淡の変化が明瞭になるように工夫した.撮像および画像解析は0.5 sごとに行い,分解能は0.01 mm/pixである.引張試験片は2.2節で示したものと同じ形状とし,ひずみ速度は6.8 × 10−4 s−1で行った.また,試験片平行部に標線を設置し,その先端を追跡することで,標点間距離の変化を計測した.

Schematic illustration of measurement of change in specimen shape by CCD camera during tensile test.
Fig. 5に,SUS301,SUS304,SUS316LのWCR前((a),(f),(k)),WCR後((b),(g),(l)),700℃焼鈍後((c),(h),(m)),900℃焼鈍後((d),(i),(n))および1100℃焼鈍後((e),(j),(o))組織のEBSD-IPFマップを示す.WCRにより,結晶粒径1 µm以下の超微細オーステナイト組織が形成できた.WCR後の700℃,900℃および1100℃焼鈍により,等軸化と粒成長が観察された.等軸化は再結晶に起因すると思われる.また,焼鈍温度を高くするにつれて結晶粒が粗大になった.

SEM-EBSD IPF maps of the microstructures of as-received materials, warm rolled materials and annealed materials at 700℃, 900℃, 1100℃ in SUS301, SUS304 and SUS316L (5000x). IPF maps were plotted referring to the ND.
Fig. 6,Fig. 7,Fig. 8に,WCR材および焼鈍材の公称応力σn-公称ひずみεn曲線とその結晶粒径依存性を示す.Fig. 7,Fig. 8は,丸棒引張試験片(直径1 mm,平行部長さ5 mm)を用い,ひずみ速度1.7 × 10−5 s−1で行った結果である.いずれの鋼も結晶粒径が小さくなるにつれて降伏点は上昇している.ここで,結晶粒微細化による高降伏点化にともない,変形挙動に2通りの変化が見られた.1つは,明瞭な上降伏点と下降伏点を持ち,リューダース変形が現れるタイプであり,もう1つは,降伏点は持つものの,下降伏点は持たず,リューダース変形も現れないタイプである.

Nominal stress - nominal strain curves of warm rolled material and annealed materials at 700℃, 900℃ and 1100℃ in SUS301.

Nominal stress - nominal strain curves of warm rolled material and annealed materials at 700℃, 900℃ and 1100℃ in SUS304.

Nominal stress - nominal strain curves of warm rolled material and annealed materials at 700℃, 900℃ and 1100℃ in SUS316L.
Fig. 6は1つ目のタイプで,SUS301の結果である.まず,1100℃焼鈍により得られた粗大粒(CG)材では,290 MPa程度の低い降伏応力であり,降伏後は緩やかに加工硬化する連続降伏型の曲線であった.そこから高降伏点化にともない,降伏挙動は不連続降伏型にシフトしている.900℃焼鈍では,540 MPaの降伏応力を示し,わずかな降伏点降下と短いリューダース変形が見られた.700℃焼鈍材では,1020 MPaの降伏点を示し,降伏点降下量が大きくなり,リューダースひずみも大きくなった.超微細粒(UFG)材では,大きな降伏点降下と全伸びの半分を占めるリューダース変形が発現した.その結果,1640 MPaという最も高い降伏応力を示すにもかかわらず,全伸び35%という高い値を示した.また,不連続降伏型の応力-ひずみ曲線の場合,降伏点が高いほうが降伏点降下量は大きく,リューダースひずみが大きいことがわかる.
Fig. 7,Fig. 8に示すSUS304とSUS316Lでは,結晶粒微細化にともない降伏応力は上昇し,UFG材では1000 MPaを超える高い値を示した.しかし,一様延性がなくなり,降伏後すぐにくびれが生じて進行し,破断した.これは,Fig. 1で示したFurukaneら10)の結果と同様で,高降伏点化はしたが,加工硬化はしない.
3.3 結晶粒微細化強化に及ぼすC濃度の影響結晶粒径と降伏応力の関係を次式に示すHall-Petch式で整理した.
| \begin{equation} \sigma_{y} = \sigma_{0} + k/\sqrt{d} \end{equation} | (1) |

Hall-Petch relationships in SUS301, SUS304 and SUS316L.

Change of Hall-Petch coefficient with carbon content in austenitic stainless steels.
Fig. 11に,SUS301(UFG)のX線照射位置における,リューダース前線通過前後のラインプロファイルを示す.リューダース前線通過前では,FCC(γ)相の回折ピークのみ見られることから,γ単相であることがわかるが,リューダース前線通過後では,γ相の回折ピーク強度が減少し,BCC(α)相の回折ピークが生じていることがわかる.これは,変形中に加工誘起マルテンサイト(α′)が生じたことを示している.

X-ray diffraction profiles of the microstructures of warm rolled material in SUS301 before and after passing of Lüders front at the X-ray irradiation position.
α′相の体積率Vα′は,試料がγ相,ε相およびα′相の3相のみから構成されるとし,次式を用いた31).
| \begin{align} V_{\alpha'} &= 1/n \sum\nolimits_{j=1}^{n} I_{\alpha'}^{j}/R_{\alpha'}^{j}\Big/\Big(1/n \sum\nolimits_{j=1}^{n}I_{\gamma}^{j}/R_{\gamma}^{j} \\ &\quad + 1/n \sum\nolimits_{j=1}^{n}I_{\alpha'}^{j}/R_{\alpha'}^{j} + 1/n \sum\nolimits_{j=1}^{n}I_{\varepsilon}^{j}/R_{\varepsilon}^{j}\Big) \end{align} | (2) |
Fig. 12に,SUS301,SUS304,SUS316LのUFG材およびSUS301のCG材のσn-εn曲線(a)と,引張変形中のVα′の変化(b)を示す.SUS301(CG)は,変形中にα′相が緩やかに生じており,高ひずみ域まで高い加工硬化能を有している.一方で,SUS304(UFG)とSUS316L(UFG)では,変形中にα′相は生じなかった.しかし,SUS301(UFG)では,リューダース変形前線が通過した瞬間に急激に加工誘起変態し,65%のα′相が生じた.リューダース変形前線ではこのような瞬間的加工誘起変態が生じたと思われる.

(a) Nominal stress - nominal strain curves and (b) change in volume fraction of strain-induced martensite with nominal strain of warm rolled materials in SUS301, SUS304 and SUS316L, and annealed material at 1100℃ in SUS301.
Fig. 13に,SUS301(UFG)のσn-εn曲線と,各点における正面の試験片形状を示す.それぞれ,(a)引張開始時,(b)上降伏点,(c)下降伏点,(d)リューダース変形途中,(e)一様変形途中,(f)破断直前である.上降伏点から下降伏点にかけて,試験片平行部下側で,リューダース帯が引張軸に対して約60°方向に発生した.その後すぐにリューダース帯が引張軸に対して垂直になるように広がり,同時に大きなくびれが生じた.さらに,そのくびれが長手方向に伝播していく様子が観察された.そのくびれが平行部上側まで到達するとくびれの伝播が停止し,その後,試験片全体が一様に変形する様子が観察された.最終的には,最初にくびれが生じた位置に近い所で2度目のくびれが生じ,そのまま進行して破断した.

Nominal stress - nominal strain curves and image of specimens at each point during tensile deformation of SUS301 with ultrafine grain structure.
降伏直後の試験片の平行部の幅の変化をより詳細に解析した結果をFig. 14に示す.図中の数値はεnを示し,幅は試験片エッジ座標から算出した.まず,試験平行部の端で幅の減少が見られた(εn = 0.03).これはひずみから考えて,上降伏点から下降伏点で生じるくびれの発生に対応している.次に,幅の減少は止まり,くびれの進行は止まった(εn = 0.04).次に,幅の減少している領域が長手方向に進行していった(εn = 0.03).これは,リューダース変形に対応しており,幅の減少量は一定である(εn = 0.09).リューダース変形後(εn = 0.20)は,平行部全体で一様に幅の減少が見られた(εn = 0.27).εn = 0.35で見られる大きなくびれは,破断直前の2度目のくびれに対応し,その位置で破断した.

Change in width of specimen at each nominal strain of SUS301 with ultrafine grain structure.
Fig. 15に,SUS316L (UFG)の試験片形状の変化を示す.それぞれ,(a)引張開始時,(b)最大荷重点,(c)くびれ進行途中,(d)破断直前である.Fig. 16に示す試験片平行部の幅の変化からも,降伏後に試験片平行部の端(上側)でくびれが生じた(εn = 0.03).しかし,SUS316Lの場合,1度目のくびれがそのまま進行し,破断した(εn = 0.07-0.08).同じ位置で幅が減少し続け,伝播せずに破断したことがわかる.また,SUS304 (UFG)においても,SUS316L (UFG)と同様の結果が得られた.

Nominal stress - nominal strain curves and image of specimens at each point during tensile deformation of SUS316L with ultrafine grain structure.

Change in width of specimen at each nominal strain of SUS316L with ultrafine grain structure.
リューダース変形は主にフェライト鋼で見られる現象であるが32-36),オーステナイト鋼もリューダース変形発現の報告がされている21,22,37-39).リューダース変形発現には高い降伏点と加工誘起変態も必要である.しかし,リューダース変形前に生じる降伏点降下の発生について明確にする必要がある.次式で示す塑性不安定条件の観点から検討する必要があり,
| \begin{equation} \text{d}\sigma_{t}/\text{d}\varepsilon_{t} \leq \sigma_{t} \end{equation} | (3) |
| \begin{equation} \varepsilon_{t} = \ln(w_{0}/w) \end{equation} | (4) |

Nominal stress - nominal strain curves and true stress - nominal strain curves of warm rolled materials in SUS301 and SUS316L.
Fig. 18に,くびれが深さ方向へ進行しているときのSUS301とSUS316LのUFG材のσt-εtでプロットした結果を示す.図中には,式(5)のHollomonの式で近似した曲線も示す.
| \begin{equation} \sigma_{t} = C\varepsilon_{t}{}^{n} \end{equation} | (5) |

True stress - true strain plots during necking progress in the depth direction of warm rolled materials in SUS301 and SUS316L.
本引張試験In-situX線回折は,必ずしもくびれ部のX線回折を行っているわけではない.したがって,くびれ部で全く加工誘起変態が生じなかったかは不明である.そこで,SUS304とSUS316LのUFG材については,破断した部分にX線を照射した.また,SUS301(UFG)では,引張試験を下降伏点で停止し,くびれ部にX線を照射し,破断部のVα′を測定した.Fig. 19に,それらの試験片画像と,その画像中の赤丸で示したくびれ部および破断部のVα′を示す.いずれのステンレス鋼でも加工誘起変態が生じていることがわかり,くびれ部および破断部の変態量はオーステナイト安定性の低い鋼種ほど多かった.Fig. 12(b)で体積率に変化がなかったSUS304とSUS316Lも加工誘起変態が生じていた.しかし,その変態量は18%,4%と,SUS301と比べると少なく,その結果,十分な加工硬化が得られず,そのままくびれが進行してしまい,破断したと考えられる.

Image of test specimen of SUS301 with ultrafine grained structure that was stopped at lower yield point and fractured test specimens of SUS304 and SUS316L with ultrafine grained structure, and the martensite volume fraction in the necking part of SUS301 and fracture part of SUS304 and SUS316L.
一方で,オーステナイト安定性の低いSUS301では,くびれ部で77%のα′相が生じており,十分な加工硬化が得られ,くびれの進行を止めることができた.さらに,隣接する未変態部分にくびれが伝播するが,加工誘起変態が生じてくびれの深さ方向には進行しない.この過程を繰り返すことで,リューダース変形という局所的な変形が生じた.
以上の結果を模式図で整理したものをFig. 20に示す.図は左から右へ変形が進行するように試験片を描いている.SUS301(CG)では,くびれが生じず,加工硬化にともなう一様変形である.SUS301(UFG)では,降伏直後にくびれが発生し,加工誘起変態にともなう十分な加工硬化により,深さ方向のくびれの進行が停止する.さらに,長手方向へのくびれの伝播(リューダース変形),その後の加工硬化にともなう一様変形が生じる.SUS304(UFG)およびSUS316L(UFG)では,降伏直後にくびれが発生し,加工硬化不足によりくびれが深さ方向へ進行する.

Schematic illustration of change in specimen shape during tensile test of SUS301 with coarse grained structure and SUS301, SUS304 and SUS316L with ultrafine grained structure.
また,3.2節で示したSUS301の降伏点と降伏点降下量およびリューダースひずみの関係についても,式(3)で議論できると考えられる.式(3)から,より高い降伏点を有するほうが,くびれの進行を止めるために必要な加工硬化量(左辺)が多くなる.その加工硬化量が得られるのに必要な変態量が得られるまでくびれは進行し,その結果,くびれが深くなる.このくびれの深さは,降伏点降下量に対応している.さらに,深いくびれが伝播することで,その分リューダースひずみも大きくなることが考えられる.リューダース変形は,試験片平行部全体が上降伏応力まで加工硬化すると終了する.その後,さらに加工誘起変態により一様変形していく.リューダース変形時と一様変形時に変態するオーステナイトが存在する理由として,炭素などの濃度や粒径がオーステナイト粒ごとにばらつきがあり,オーステナイトの安定性のばらつきが生じているためと考えられる.
本研究では,C濃度,オーステナイト安定性の異なる3種のオーステナイト系ステンレス鋼SUS301,SUS304,SUS316Lを用いて,それらの超微細オーステナイト組織を生成し,力学特性の変化を調査した.それぞれの試料を,引張試験In-situ X線回折とCCDカメラを用いた画像計測引張試験を行い,加工誘起変態挙動および試験片形状変化を評価した.
(1) オーバル/スクエア孔型を用いた温間溝ロール圧延により,1 µm以下の超微細オーステナイト組織が得られた.SUS301のUFG材は,1640 MPaという高い降伏点と35%という大きな全伸びを同時に示した.さらに,大きな降伏点降下と全伸びの半分を占めるリューダース変形が発現した.
(2) C濃度が高いほど,Hall-Petch係数を増大させることがわかり,C濃度が高いSUS301では,結晶粒微細化により効果的に降伏点を向上させることができる.
(3) 結晶粒微細化により高降伏点となった場合,必ず降伏点降下が生じる.これは,くびれの発生による見かけ上の応力低下であり,真応力は低下しない.
(4) くびれが深さ方向に進行しないのは,加工誘起変態が生じて加工硬化するためである.SUS301のようにオーステナイト安定性が低く,加工誘起変態が十分多く生じる場合,リューダース変形が発現し,試験片平行部全体が上降伏応力になるまで加工硬化する.
(5) SUS304やSUS316Lのようにオーステナイト安定性が高い場合,十分な加工誘起変態が生じず,くびれが深さ方向に進行していき破断する.
本研究を行うにあたり,SPring-8の高輝度放射光回折実験に関して,高輝度光科学研究センター佐藤眞直様,Rosantha Kumara様に多大なご協力を頂き,厚く御礼申し上げます.SPring-8の課題番号2020A1813,2021A1655,2021B1934の成果である.本研究の一部は,戦略的基盤技術高度化支援事業および池谷科学技術振興財団(助成No. 0341193-A)のご支援を受けて行われました.