Journal of the Japan Institute of Metals and Materials
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Special Issue on Recent Research and Development in the Processing, Microstructure, and Properties of Titanium and Its Alloys
Excellent Balance of Ultimate Tensile Strength and Ductility in a Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-Si Alloy Having Duplex α+α′ Microstructure: Effect of Microstructural Factors from Experimental Study and Machine Learning
Irvin SéchepéePaul PaulainYuka NagasakiRiku TanakaHiroaki MatsumotoVincent Velay
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2024 Volume 88 Issue 12 Pages 375-384

Details
Abstract

This research focuses on the systematic study of a Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-Si titanium alloy and the characterization of α+β (equiaxed and bimodal) and α+α′ (duplex) microstructures. It provides more insights on the outstanding advantages of the duplex (α+α′) microstructure, especially on its exceptional work hardening and strength-ductility balance. The heat treatment conditions required to form equiaxed, bimodal and duplex microstructures and their effects on the grain size and the phase proportion are discussed. It shows how the microstructural parameters can be controlled thanks to the heat treatment temperatures, the holding times and possible aging processes. The influence of such microstructural factors on the tensile properties of each alloy is investigated, especially on strength (proof stress, ultimate tensile strength), ductility (plastic elongation) and work hardening properties. The duplex (α+α′) microstructure is compared with the equiaxed and bimodal microstructures and its advantages are displayed, highlighting the better strength-ductility balance and superior work hardening properties of the duplex microstructure. Indeed, the deformed microstructure of the duplex (α+α′) microstructure reveals more homogeneous strain partitioning than that of the bimodal (α+β) microstructure. Thus, this work proved the potential of an optimized duplex (α+α′) microstructure for the enhanced tensile properties at room temperature. Finally, a machine learning model using gradient boosting regression trees is used to quantify the importance of the microstructural factors (type of microstructure, grain size and phase ratio) on the mechanical properties.

 

Mater. Trans. 64 (2023) 111-120に掲載.3.1.4項にてFig. 7(a)と表記.試料の呼称においてDuplex(α+α′)組織,Bimodal(α+β)組織など,構成相を付記.

1. 緒言

チタン(Ti)合金は,高耐食性,優れた高温特性,高い比強度[1-3]の優れた特性を呈すことから軽量構造材料で期待されている.チタン合金は,航空宇宙分野,生体医療分野,防衛産業分野など,多くの分野で適用される重要な材料であり,世界的に多くの研究が行われている[1, 3].中でもTi-6Al-4V(Ti-64)合金は,優れた特性のバランスを呈し,産業界で最も使用されているTi合金である[4-6].さらに,Ti-64合金に比べ高温特性を改善するために開発されたTi-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-Si(Ti-6242S)合金がある[7].しかし,鋼などの汎用金属と比較すると,Ti合金の加工硬化性は小さく[8]これを増加させることは(高強度-高延性を維持しながら)[9],均一変形性,靭性,耐破壊進展性,エネルギー吸収性[10]を改善するためにも重要である.

加工-熱処理プロセスによりTi合金において様々な微細組織を制御し,最適な機械的特性を得ることができる.つまり熱処理温度・保持時間のプロセス条件を適切に制御することで,微細組織因子(粒径や相分率など)を適切に制御・管理することが可能となる[11-13].これらの様々な微細組織因子は機械的特性に強く影響を及ぼす[12, 14].例えばHall-Petch則はミクロスケールでの微細組織因子をマクロスケールにおける機械的特性(この場合では結晶粒径と材料強度の関係性)を関係付けるためにも有名な関係式である[15-17].(α+β)型Ti合金では,機械的特性を制御するために平衡相(α相およびβ相)において組織制御は確立されている[18].本研究では,Ti-6242S合金における非平衡相(α′マルテンサイト(HCP構造))を起点とした新しいタイプの組織制御に着眼し,機械的特性のさらなる向上とそのバランスを高度化することを目指している.

一般にTi合金において,α′マルテンサイト組織における機械的特性は極めて悪いことが知られている.そのため,マルテンサイト組織自体で使用されることはなく,一方でβ相[19, 20]に分解され,利用される.しかしながら,α′マルテンサイトにてα相と共存したDuplex(α+α′)組織では極めて優れた機械的特性を呈す.Ti-64合金における研究成果では,Duplex(α+α′)組織において熱処理温度を調整することによりα相とα′の相分率を制御することができ,優れた加工硬化性にも伴い,良好な強度・延性特性[10, 21-23]を示すことが知られている.詳細には,著者らは以前にTi-64合金について,α+α′組織(Duplex(α+α′))における高延性の起源は,活発な{10$\bar{1}$1}双晶の活動(α′マルテンサイト変態前に保持された旧β粒域でのV濃化に起因する)と,その双晶運動(界面移動)がより容易になったことに起因することを報告している[21].加えて,Dumasらは最近,Ti-64合金にて{13$\bar{4}$1}双晶が内部で生成されたDuplex(α+α′)組織では,この{13$\bar{4}$1}双晶境界[10]の再配列過程が頻繁に起き高延性を呈すことを報告している.そのために,最適なα+α′組織を呈すTi合金では,従来の(α+β)組織よりも優れた強度-延性バランスおよび良好な加工硬化性を発現させることが期待できる.これまでのところ,Duplex(α+α′)組織を呈すTi合金における強度,延性,加工硬化挙動に及ぼす結晶粒径およびα′分率の影響について従来の平衡(α+β)組織と比較した体系的な研究成果の報告はほとんどない.加えて,Ti-6242S合金におけるα′マルテンサイト組織に着眼した機械的特性に関する報告はない.

Ti合金の合金設計においては,組成,微細組織,プロセス条件などの多くの作用因子を考慮する必要があり,これらの複雑な関係性を解明する必要がある.これらの作用因子間の関係性のほとんどが非線形的であり,精緻に予測することは困難である.そのため最近では,微細組織と特性の間の複雑な関係性をより精緻に明らかとするためにも材料科学の分野で機械学習を積極的に活用した研究が注目を浴びている.これまでの研究成果の事例では,Ti合金の引張特性または疲労特性をモデル化するために,化学組成[24],プロセス条件[25],またはその双方[26-29]での連関性について明らかとした興味深い結果が報告されている.他の研究成果においても,機械的特性の予測にて微細組織因子を使用した場合など,多様な観点から研究が実施されている[18, 30].これらの機械学習を利用した研究アプローチを駆使することで,所望の機械的特性を得るための微細組織・プロセス条件を予測する逆解析も可能となる[31].加えて,機械学習を利用した研究アプローチでは結果(特性)を予測するために活用されるだけでなく,予測パラメータにおける重要度を解析するためにも利用できる.例えば,著者らの以前の研究[18]では,Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Cr-4Mo(Ti-17)合金の(α+β)-ラメラ,Bimodal,および等軸微細組織における組織群において,強度での耐力にて多様な組織因子の中で初析α相分率が強度に強く影響することを示している.加えて,文献[30]の結果(Ti-64合金)では降伏強度において,β分率が最も強い影響度で作用し,他方で加工硬化性においては粒径,ひずみ速度,およびβ分率の組織因子の間でほぼ同等な影響度を示すことが示されている.

本論文では,Ti-6242S合金の等軸(α+β)組織,Bimodal(α+β)組織と比較したDuplex(α+α′)組織の体系的な研究に着眼する.これにより,Duplex(α+α′)組織で発現する優れた加工硬化性と強度-延性バランスの結果について報告する.本研究では,組成,結晶粒径,組織形態,相分率(α/β分率またはα/α′分率)が機械的特性に及ぼす影響を実験的に明らかとする.加えて,各種組織因子と機械的性質の連関性をより定量的に評価.解析するためにも機械学習を実施した.ここではTi-6242S合金の室温における機械的特性を高度化するためのDuplex(α+α′)組織の性質・可能性を明らかにすることを目的としている.

2. 実験方法

2.1 熱処理

本研究では,チタン合金Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-Si(Ti-6242S)について研究を実施した.本研究で使用したTi-6242S合金の化学組成(mass%)は,6.1Al,2.0Sn,4.1Zr,2.0Mo,0.12Si,0.1O,0.02N,残部Tiである.厚さ4 mm(W20 mm-L35 mm)のAs-received材を850℃で熱間圧延し(1パス0.5 mm,各パス毎の保持時間4 min),厚さ1.3-1.4 mmの圧延板を得た.この板材について,特定の熱処理条件の中で異なる組織を形成し,ここではβ変態点990℃以下の温度で熱処理を実施した.これらの熱延板を用いて,3つのタイプ(等軸(α+β),Bimodal(α+β),Duplex(α+α′))の微細組織を評価した.等軸組織を形成させるために,800℃または900℃の熱処理温度で,30-240 minで保持時間を調整して熱処理を実施,その後に冷却(C),より具体的には空冷(AC)もしくは炉冷(FC)した(Fig. 1(a)を参照).計11種類の熱処理条件で等軸組織を形成した.Bimodal組織では,等軸組織と同じ条件で熱処理し,その後にさらに時効熱処理を施した.ここでは,450℃,550℃,650℃の時効温度で,120 minの保持時間で熱処理後,油焼入れ(Qo)を行った(Fig. 1(a)参照).ここで,時効熱処理はアルゴン雰囲気中で実施している.この時効熱処理過程においては,α+βラメラが旧β粒の内部に生成され,9つの異なるBimodal微細組織を準備した.

Fig. 1

Heat treatment processes for (a) equiaxed (α+β) and bimodal (α+β), and (b) duplex (α+α′) microstructures.

加えて,初析α相とα′マルテンサイトから構成するDuplex組織ではα′マルテンサイト相を生成するために,合金を850-980℃の温度で15 min溶体化処理した後,氷水中に急冷(Qw)して組織制御を施した(Fig. 1(b)参照).ここで急冷は,準安定なα′を室温で安定に生成するために実施した(急冷しなければ,徐冷中に拡散が律速されα′ではなく平衡な(α+β)相が生成される).このDuplex組織では,9条件の熱処理条件で異なる組織を準備した.

2.2 組織評価

微細組織は,HKL Channel 5ソフトウェアを搭載した電子後方散乱回折(EBSD)分析器を備えた日本電子㈱JSM-7001F電界放出銃型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察・評価した.また,透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子㈱JEM 2100F)によりα′マルテンサイトの形態を観察した.組織因子(結晶粒径,相比)はImageJソフトウェアで定量測定した.各組織における平均粒径の測定では統計学的アプローチを採用し,より正確に測定を実施するために,1つの組織に対し総計80の結晶粒での測定となるように,2-3枚のSEM画像のそれぞれについて30-50個の結晶粒の表面積を測定した.ここでは平均結晶粒を球状の物体(2次元では円形)とみなし,以下の式により等価平均結晶粒径を計算した.$d_{\textit{eq}} = 2\sqrt{S/\pi } $Sの表面積(µm2))となる.

2.3 引張試験

機械的特性(0.2%耐力,引張強さ(UTS),破断伸び)は引張試験により測定・評価した.引張試験片(薄い酸化層を除去するために熱処理後の試料表面は機械的に研磨した)の寸法は,厚さ1.0-1.2 mmで幅2 mm,長さ10.5 mmで,引張方向が圧延方向(熱処理前)と平行になるように加工した.引張試験は室温-大気中で初期ひずみ速度5 × 10−4 s−1で実施した.

2.4 機械学習

機械的特性に及ぼす組織因子の影響をより定量的にも明らかとするために,機械学習を援用した統計的アプローチから解析した.ここではPythonのオープンソースscikit-learnライブラリ(v.0.24.1)を利用して,機械的特性を予測するための回帰モデルを構築した.

結晶粒径,相構成,相分率(α/β,α/α′)などの組織因子が引張特性に及ぼす影響をより定量的に解明するために,機械学習を用いた統計的アプローチを援用した.本研究では計37セットの組織因子と機械的特性の関係性から構成されたデータセットを基に評価している.ここでは29の出発組織のデータセット(等軸(α+β)組織:11組織,Bimodal(α+β):9組織,Duplex(α+α′):9組織)に対して,データサイズのバランスを考慮して他8組織の重複データを追加して機械学習解析を実施した.これらの8つの重複データについては,組織因子(結晶粒径と相量比)はおおよそ近い値を示すものの,Duplex組織を呈す試料の中で4つの機械的特性が異なるデータセットを追加で導入している.より詳細(重複データ)(Duplex(α+α′)組織に対して)には,同一な熱処理条件の試料に対して引張試験を3回実施しているため,これらの3つの試料においてもそれぞれでわずかに組織因子・機械的特性の値がわずかにでも変化しているために,それらのデータを重複データとして活用している(出発データから1つ,複製データから2つ).これらのすべてのデータセットにおいて耐力,UTS,塑性伸び,および加工硬化指数の変動係数は,それぞれ2.99%,1.76%,14.3%,7.45%であった.したがって,総計37セットのデータセットは等軸(α+β)組織11,Bimodal(α+β)9,Duplex(α+α′)組織18で構成される.ここでは,データセット数が非常に少ないために,ニューラルネットワークのようなアルゴリズムは不適であり,実際,このようなアルゴリズムが適切に回帰性能を上げるためには,より大きなデータセット数を要する.その結果,決定木のような複雑な数理モデルを使用しない比較的単純なモデルが適している[32].この決定木モデルの中では,回帰の安定性と精度の観点から,勾配ブースティング・アルゴリズムが最適であると判断される[33, 34].これらの機械学習から得られる特徴量の重要度解析(パラメータ間の依存度の影響が小さい順列型重要度を導出している[35])により,各組織因子が機械的特性にどのように影響するか相関性を定量的に明らかにすることが可能となる.

3. 結果と考察

3.1 実験結果

3.1.1 代表的な微細組織

本研究では,異なる微細組織を呈すα+β型Ti合金であるTi-6242Sの特性を評価した.特に,等軸(α+β)組織,Bimodal(α+β)組織,およびDuplex(α+α′)組織に着眼している.前者2つは平衡組織であり,他方で後者のDuplex(α+α′)組織は準安定組織である.本合金におけるβトランザス(約990℃)以下の温度で熱処理を施すことで2相(α相,β相)が共存する.主相であるα相は六方最密充填(HCP)構造を有し,SEM写真からは黒色相に相当する(Fig. 2(a)参照).他方でβ相は体心立方(BCC)結晶構造を有し,SEM写真では白色の相に相当する.

Fig. 2

SEM micrographs of the (a) equiaxed (α+β) microstructure and (b) bimodal (α+β) microstructure. Herein, heat treatment conditions are also depicted (d stands for grain size, AC for air cooling and Qo for oil cooling).

等軸(α+β)組織について,代表的な組織形態をFig. 2(a)に示す.この等軸組織では,球状の主相α粒によって特徴付けられ,その径が熱処理条件によって異なる[1, 3].ここで,α粒は保持時間が長いほど粗大化することが確認された(静的再結晶過程).本研究の結果では,所定の処理温度(900℃)において粒径は2.50 µmから3.94 µmまで粗大化する.さらに,処理温度(800℃または900℃)を変更することで,粒径も顕著に異なってくる[1, 3].保持時間が同じ条件では,800℃の方で900℃での粒径値より微細化される(800℃-240 minと900℃-240 minと比較した場合の粒径値はそれぞれ2.46 µm対3.94 µm).一方で,相分率は同一な熱処理温度であれば保持時間には依存しない(900℃の各保持時間に対して,α相分率は約76%).一方で熱処理温度を変更することで,相量比は変化する[1, 3].900℃ではα相分率は76%で,他方で800℃でそれは87%であった.一般的に等軸微細組織・球状化結晶粒組織では,引張特性で高延性(伸び)を示す傾向にある[1, 3, 26].よく知られているとおり,形態・粒径に代表される組織因子は強度や延性などの機械的特性に強く影響を及ぼし,適切に制御することが重要である[1, 3].この組織の機械的特性に及ぼす影響(実験結果)については,3.2節で後述する.

さらに,代表的なBimodal(α+β)組織をFig. 2(b)に示す.このBimodal(α+β)組織の生成を目的に時効熱処理を施しており,この時効により旧β粒の内部にαラメラが生成される.この旧β粒内で生成するαラメラのサイズ(幅)および分率も,時効熱処理条件に依存する.この時効熱処理温度の影響では,代表的にFig. 2(b)のSEM写真15(b-1)と(b-2)で示している.650℃の時効熱処理温度では,550℃の時効温度よりもより多くのαラメラが生成する.この時効熱処理過程において,650℃時効でも直前での熱処理組織における結晶粒径や初析α相分率には影響しない.Fig. 2(b)では,異なる保持時間(それぞれ240 min,90 min,30 min)における組織(b-1),(b-3),(b-4)を比較すると,保持時間が240 minの際,90 minや30 minの場合よりも微細なラメラが生成されていることがわかる.Bimodal(α+β)組織の場合,(α+β)ラメラの形成に伴い強度は大幅に増加するが,延性は等軸組織に比べ低下する[36, 37].機械的特性の詳細な結果については,後述する.

Duplex(α+α′)組織について,Fig. 3にいくつかの代表組織を示しており,急冷(焼入れ)により,残留βから針状α′マルテンサイト(HCP)変態が起きていることが特徴付けられる.Fig. 3では,白色の領域が針状α′マルテンサイトが生成した領域に相当する.α′マルテンサイトは従来,単一組織では強化される一方で,延性は著しく低下されることが知られている[38].しかしながら,Duplex(α+α′)組織では,αとα′が共存するため,両相が同じHCPであることからも,粒界での適合性が担保される.そのため,延性の改善が観察されるようになる.このDuplex(α+α′)組織ではα′由来で著しく高い加工硬化性と高延性を呈すことが報告されている[10, 19-21].このα′マルテンサイトの形態については,Fig. 3(b-2)のTEM像から極めて微細な針状α′マルテンサイトが旧β粒中にて形成されていることが観察できる.このα′マルテンサイト域では,フリンジ回折コントラストが強く観察され,これは高密度の転位が蓄積されていることを示唆している.このTi合金で生成されるα′マルテンサイトの典型的な特徴として,β/α′マルテンサイト変態の過程で多数の{10$\bar{1}$1}双晶が格子不変変形モードとして生成することが挙げられる[39].等軸組織と結果と同様に熱処理温度の低下に伴い初析α相(黒色相)の分率は増加し,この熱処理温度に依存した相量比の変化はFig. 3で確認できるとおりである.ここでは保持時間が短い(15 min)ため,結晶粒成長も主に加熱温度に影響される.

Fig. 3

SEM micrographs of the duplex (α+α′) microstructure. (a) 980℃-15 min-STQ (Solution treated and quenched), (b) 950℃-15 min-STQ, (c) 900℃-15 min-STQ, (d) 880℃-15 min-STQ. And (b-2) bright field TEM image on the 950℃-15 min-STQ sample.

以下では,結晶粒径,相分率,およびDuplex(α+α′)組織の機械的特性(強度,延性,加工硬化性)に及ぼす影響について詳細に報告する.

3.1.2 引張特性

耐力,UTS,塑性伸び,加工硬化性などの機械的特性を評価するために,圧延材の圧延方向に沿って一軸引張試験を実施し,組織の影響を評価した(Fig. 4).加えて機械的特性に及ぼす結晶粒径および相量比の影響も評価した(Fig. 5).

Fig. 4

Examples of nominal stress-plastic strain curves of (a) equiaxed (α+β), (b) bimodal (α+β), (c) duplex (α+α′) microstructures having different treatment conditions.

Fig. 5

Effects of (a) grain size on proof stress and (b) primary α fraction on work hardening for the various microstructures.

Fig. 4(a)では等軸(α+β)組織の場合における代表的な塑性応力-ひずみ曲線(全11種類の中から代表的な結果を表示)を示している.ここでは2つのグループに分けられた特徴があることがわかる.例えば900℃の熱処理温度で保持時間(30-240 min)を変化した試料では,中程度の強度を呈しながらも高い加工硬化特性を示している(Fig. 4(a)).このような特性は,β分率が高く(約24%),粒径が粗大であること(2.5-4.0 µm)に起因する.他方で,800℃での熱処理材および炉冷(空冷より遅い冷却)材では,900℃での熱処理材と比較して加工硬化性は低い一方で強度は高かった.この特性はβの相分率が低く(約12%),微細粒組織(2.0-2.7 µm)であることに起因する.

Bimodal(α+β)組織を呈す代表的な試料の応力-ひずみ応答についてFig. 4(b)にプロットしている(計9試料).時効処理の影響では,Fig. 4(a) Fig. 4(b)を比較することで評価できる.予想されるとおり,同様な熱処理条件(例えば900℃-240 min-AC)からの時効処理(450℃,550℃,650℃)で著しく高強度化される.強度はいずれの条件でも改善されるものの,一方で前熱処理の保持時間240 minでは高延性は維持されるが保持時間30 minのBimodal(α+β)組織ではわずかに延性は低下し,90 minの保持時間の場合ではより大きく低延性化される.ここで低延性で高強度な試料では,初析αが微細(約2.7 µm)で,他方で初析αの相分率が小さい(約76%)組織で観察されている.対照的に,初析α粒が粗大(4.2 µm)で,初析αの相分率が大きい(約80%)組織では,高強度-高延性のバランスに優れる特徴を示す.

Duplex(α+α′)組織では,熱処理温度を850℃から980℃まで変化,保持時間を15 minで固定して熱処理・溶体化処理を施しており,微細な結晶粒組織が観察されている.そのため,準備した9種類のDuplex(α+α′)組織において,結晶粒径(初析α粒)と相量比の関係では比例関係が観察された.溶体化熱処理温度が高い場合では,α′マルテンサイトが多量に生成し,初析α相の粒径が粗大化している.代表的な応力-ひずみ曲線をFig. 4(c)(980℃-15 min-STQ)に示すが,特に高強度ではあるものの加工硬化性が小さいことがわかる.他方で溶体化処理温度を低下させることで,わずかな強度低下と加工硬化性が改善される機械的特性の変化が観察される(Fig. 4(c)での950℃-15 min-STQ).より詳細には,加工硬化性が著しく増加し,これは,主にα′マルテンサイト量が減少し,初析α相量に対する量比のバランスが最適化されることで得られる特性である.このような機械的特性の遷移過程は880-920℃の間の温度で起きている(Fig. 4(c)では,880℃,900℃の試料の結果が表示されている).詳細には(溶体化熱処理温度の低下に伴い),耐力が低下するものの高いUTSは維持されており,特に加工硬化性が著しく改善される.このような特徴は,とりわけα′マルテンサイトの相分率が40-50%付近で得られている.

組織因子を変数として機械的特性をまとめるために,Fig. 5は(a)初析α相の粒径を変数とした耐力(d−1/2(µm−1/2))との関係,(b)初析α相の相分率を変数とした加工硬化指数nとの関係性をまとめている.ここで,nは耐力とUTSの差Δと相関したΔ[log(σtrue)]/Δ[log(εtrue)]の関係式から見積もられた.

Fig. 5(a)から,耐力と初析α相の粒径の関係性では等軸(α+β)組織でのみ良い相関性が観察され,Hall-Petch関係による強化がこの等軸組織でのみで適用されることを示唆している.一方でBimodal(α+β)組織およびDuplex(α+α′)組織では,分散した結果である.またFig. 5(b)に示されるように,初析α相の相分率と加工硬化指数nの関係性では,初析α相の分率が増加するとともにnが減少する様子が観察される.したがって,β相量が増加すると,α相に比べてβ相で多重すべりがより活性化されるために,より均一変形に寄与することが理解できる.Duplex(α+α′)組織に関しては,α相分率が約85%までに増加するとnが著しく増加し,その後では加工硬化指数nが低下する興味深い現象が観察される.等軸(α+β)組織での結果でも指摘したように,初析α相はnが増加する主因子としては全く作用しない(β相で作用する).したがって,Duplex(α+α′)組織で観察された初析α分率の増加に伴うnの増加は,α′マルテンサイトおよびα/α′分率のバランスに起因したものと推察される.一方でFig. 5(b)から,Bimodal(α+β)組織での加工硬化挙動(均一変形性と関係)は単純にBimodal組織中での初析α/(α+β)ラメラの相量比にはほとんど支配されないことを示唆している.

3.1.3 強度-延性バランスおよび動的な加工硬化性

ここでは,多様な組織因子が強度-延性バランスに及ぼす影響,およびひずみ量に対する加工硬化性の動的な変化についてまとめる.本研究で調査した等軸(α+β)組織,Bimodal(α+β)組織およびDuplex(α+α′)組織について定量的に比較した結果をFig. 6に示している.これより,明らかにDuplex(α+α′)組織において極めて優れた特性を示すことが観察できる.ここではとりわけ,高延性が示される特徴を呈す等軸組織と比較してもDuplex(α+α′)組織においてさらに優れた延性(塑性伸び)を呈すことが特徴である.加えて,Duplex(α+α′)組織ではBimodal(α+β)組織とも同程度な優れた強度(UTS)を示すことも特徴である.このDuplex(α+α′)組織で発現する優れた強度-延性バランスの結果は,Fig. 6(a)で観察されるとおりである.

Fig. 6

(a) Plastic elongation - ultimate tensile stress (UTS) balance for different microstructures and (b) Dynamic work hardening rate evolution for different microstructures.

加えて,動的な加工硬化度を表したFig. 6(b)で示されるとおり,Duplex(α+α′)組織では等軸およびBimodal(α+β)組織と比較して加工硬化性もまた優れている.実際に動的な加工硬化度を示した曲線(真ひずみ量0.7以上)からもDuplex(α+α′)組織にて高い値で長いプラトー域が示されている.

3.1.4 幾何学的に必要な転位密度分布

本項ではBimodal(α+β)組織に比べDuplex(α+α′)組織にて高延性を示す要因について,変形組織のひずみ分布から考察する.Fig. 7は,引張変形前および塑性ひずみ5%での引張変形後((a)Bimodal(α+β)組織,(b)Duplex(α+α′)組織)((a)900℃-30 minの熱処理後,650℃-120 minの時効処理した試料,(b)950℃-15 minでの氷水に溶体化焼入れ処理材)のEBSD局所方位マップで得られた角度頻度をまとめている.これらの熱処理材の塑性流動特性はFig. 4に示した通りである.Fig. 7(a)はα相とβ相における頻度分布,一方でFig. 7(b)ではα相とα′マルテンサイトにおける頻度分布を示している.同じHCP構造から構成されるDuplex(α+α′)組織については,初析α相とα′マルテンサイトについて,それぞれEBSDデータから20個の領域を抽出して解析し,その後にこれらの20領域のデータを統合化することで各相の頻度分布(Fig. 7(b))を得た.各構成相の変形前後の変化に着眼すると,すべての相でピークシフトが大きく,塑性変形に伴い局所ひずみが蓄積されていることを示唆している.これら2つの組織を比較すると,興味深いことに,Bimodal(α+β)組織では,主要構成相であるα相と比較してβ相で大きなピークシフトが観察される.一方,Duplex(α+α′)組織では,両構成相でのピークシフトの度合いが同様である.この結果は,Duplex(α+α′)組織では構成相間において均質なひずみ分配挙動が示され,その結果として,均一変形性が増加していることを示唆している.Fig. 8では,初析α相で蓄積される幾何学的に必要な転位(GND)密度の分布を示し(黒色の領域では(a)(α+β)-ラメラ域,(b)α′領域に対応している),これは以下の式で見積もられた.Calcagnottoらによると,局所的なミスオリエンテーション角度は,2つのタイプのらせん転位成分を含むような一連の“cylinder-torsion”のねじり型でのサブグレイン粒界を構成していることから以下の式からGND密度を推定している[40]:

  
\begin{equation} \rho_{\textit{gnd}} = \frac{2\Delta \theta }{\mu b} \end{equation} (1)

ここで,μはEBSDのステップサイズに相当する単位長さ(本研究では = 0.15 µm),bはバーガーズベクトルの大きさ(= 2.95 × 10−10 m)である.

Fig. 7

Distributions of local misorientation estimated by EBSD for (a), (b) the primary α phase and (a) β phase in lamellar (α+β) region and (b) α′ martensite in the duplex (α+α′) microstructure of the Ti-6242S alloys before and after tensile deformation at 5% plastic strain. Specimens for (a) 900℃-30 minAC-650℃-120 minOC, (b) 950℃-15 min-STQ.

Fig. 8

Distribution of GND density for primary α phase in microstructures after deformation at a plastic strain of 5% of specimens for heat treatment of (a) 900℃-30 min AC-650℃-120 min OQ, (b) 950℃-15 min-STQ. (online color)

Fig. 8よりBimodal(α+β)組織では不均質なGND分布(ひずみが多く蓄積された結晶粒とひずみの少ない結晶粒から構成された不均質性)が,一方でDuplex(α+α′)組織では明らかに均質なGND分布が観察される.したがって,針状α′マルテンサイトでは,均質にひずみ分配するための緩和機構として有効に作用したことを示唆している.つまり,初析α相とα′マルテンサイト間において変形過程におけるひずみ分配挙動にて均質で連続的にひずみ分配が起きていることを示唆している.今後は,このDuplex(α+α′)組織で発現される高加工硬化性と局所域での均一変形の起源をより詳細に明らかとするためにも,今後の研究では,相界面付近におけるα′マルテンサイトの局所変形モードにおける作用機構を解明する.

以上より得られた引張特性をまとめると,Duplex(α+α′)組織のα′マルテンサイト由来で加工硬化性が著しく増加し,均一変形と良好な延性をもたらすことが明らかとなった.加えて,Fig. 5から,加工硬化性を向上させるためには,α/α′量比の最適化も必要であることも示された(加工硬化指数を最適に向上させるためには,初析α相分率が85%程度が最適であることが明らかとなった).先述した緒言にて紹介したとおり,α′マルテンサイト由来で発現する特異な双晶変形である{10$\bar{1}$1}または{13$\bar{4}$1}での双晶は,加工硬化率の向上[10, 19]に重要な役割を果たすはずである.この点に関して,Dumasらは,{13$\bar{4}$1}双晶界面から構成する3バリアントクラスターが塑性過程で高い加工硬化率に寄与することを指摘している[10].つまり,この{13$\bar{4}$1}双晶界面が再配向する挙動は,初析α分率が85%付近で最適に活性化されることが推察される.重ね,これはDuplex(α+α′)組織のα′マルテンサイトで生成する上述した3バリアントクラスター({13$\bar{4}$1}双晶界面から構成)が形成したことに起因する(Fig. 5(b)のように適切な相量比で発現).一般的にα′マルテンサイト変態においては12種のバリアントが形成される.そのために,Fig. 5(b)のような結果に繋がるような高い加工硬化特性を示すためにはバリアント選択制を制御した組織制御({13$\bar{4}$1}双晶界面から構成)を行うことが必要となる.この概念を発展化させることでTi-6242S合金においてさらに均一変形性を高めることが期待でき,将来的な研究ではこれをさらに進展させる予定である.

3.2 機械学習を援用した組織因子と引張特性の定量的関係性

3.2.1 作用因子の重要度

本研究で用いた勾配ブースティング決定木のアーキテクチャをFig. 9(a)に示し,また得られた特徴量解析の結果をFig. 9(b)にまとめており,各組織因子の特徴量の重要度をまとめている.ここでは,形態(等軸(α+β),Bimodal(α+β),Duplex(α+α′)),α相分率(初析α相の割合),初析α粒の平均径のこれら3つの組織因子を用いた.この特徴量では,初析α相の分率については逆に等軸組織ではβ分率の影響にも相当し,またBimodal組織では(α+β)ラメラの割合,Duplex(α+α′)組織ではα′マルテンサイトの割合の影響にも相当することとなる.

Fig. 9

(a) Gradient boosting regression tree diagram, (b) Feature importance results of the microstructural parameters.

結果に対する教師あり機械学習での直接的な“lecture”では,出力結果に対してモデル自体が精緻に予測するためにも各パラメータがどの程度重要となるかを決定するものであり,これは留意すべきである.結果として,各パラメータにおいては構成モデルにおける敏感性を指し示すこととなる.

機械学習を援用した結果,塑性伸びの回帰では組織の種類(形態因子)が最も重要な影響因子であることが判定され,一方で初析α分率と結晶粒径の影響度は小さいことがわかった.これは,3つの組織(等軸組織,Bimodal(α+β)組織,Duplex(α+α′)組織)の間でも組織因子の影響(実験結果)で強く相関性が観察されない結果とも一致する.つまりは組織での形態因子が特性に強く影響することを暗に意味する.耐力については,形態因子およびα相分率の両者がとりわけ支配因子として重要である.一方で,粒径の影響度は極めて小さいこともわかる.これについては先述した実験結果からもわかるとおり,等軸組織においてはHall-Petch則に従う相関性があったにも関わらず,一方でBimodal(α+β)組織およびDuplex(α+α′)組織では粒径との相関性がほとんど観察されないために,総合的に粒径の影響は小さく,逆に形態因子が重要と判定されたものと推察される.これより耐力の回帰においては,粒径よりも形態の方が影響因子として重要視されることがわかった.他方でUTSにおいては,α相分率が最も影響度の高い重要因子であると判定され,この結果では特に等軸組織およびDuplex(α+α′)組織で得られた実験結果と相関した結果である.ここでの回帰結果で,粒径の影響度はα相分率の結果と比較して2倍程度重要度は低いものの,粒径の影響が無視できるほどに小さいわけではないことは付記しておく.最後に,加工硬化度の結果においてはα相分率および粒径の両者の影響度が高く判定されている(どちらかというとα分率の方で重要度が高い).直感的には,αの相分率の重要度は粒径に比べより大きく支配的であるように思われるが,相分率と粒径の線形的な関係性(特にDuplex(α+α′)組織で観察)を鑑みると,回帰の結果として粒径の重要度が過大評価された可能性も高いことは指摘しておく.以上から,機械学習の解析アプローチを駆使することにより,組織因子と機械的特性の関係性をより精緻に関係付けることができ,加えて,両者の相関性を定量化した組織因子の影響を解析することができた.

3.2.2 交差検証

実施した機械学習モデルの精度を検証するために,80%の実験データを訓練用として,一方で20%の実験データをテスト用に分割して交差検証を実施した.本研究ではデータセット数が極めて少ないために,交差検証の結果では考慮した分割数にも強く依存する.そのため,より精緻に交差検証を実施するためにもここでは独自な交差検証手法(ここではLeave-P-Out交差検証法に近い手法)を用い,合計1000通りの分割を作成・すべてのパターンで交差検証を実施した(Fig. 10(a)).これより耐力,塑性伸び,加工硬化度,およびUTSの結果について,それぞれ0.85,0.57,0.48,および0.41の平均スコア(決定係数R2)が得られた.また検証スコア(R2)における分割した結果はFig. 10(b)に示すとおりである.

Fig. 10

(a) Cross-validation scheme, (b) Testing scores distributions for the different mechanical properties.

さらに,MSE(平均二乗誤差)はモデルの妥当性を議論する上で有効な指標であり,耐力,UTS,塑性伸び,および加工硬化指数のMSEはそれぞれ38.3(MPa),41.9(MPa),2.54(%),0.047(−)の誤差が確認された.またモデルには反映されないデータ(テストデータ)を用いて目標値を予測した際,相対誤差に変換した結果,それぞれは4.26%,3.85%,28.5%,16.0%であった.実際には,機械学習での予測モデルが完全に適合できているのかを精度よく確認することは困難であるものの,これらの相関係数(R2,MSE)の結果を鑑みて,ある程度信頼できる機械学習の結果が得られたと判断できる.しかしながら,さらに信頼性を高めるためにはサンプルデータや組織因子の数を増やすなどして,本質的にデータセット数そのものを増加するなどの改善が必要であることは言うまでもない.

交差検証にて異なるテストスプリットから得られた重要度解析の結果では,データセット全体から推定される重要度の結果とも同様であった.そのため,テスト検証において充分な信頼性あるスコアが得られていない場合であっても(データセットが極めて少ない状況),本研究ではある程度信頼できる重要度解析ができていた.繰り返しにはなるが,様々な機械学習のアルゴリズムの中で本研究で採用した勾配ブースティング決定木は,組織因子(例えば粒径とα相分率)が機械的特性(耐力,UTS,塑性伸び,加工硬化性)にどのように影響するかを推定する上で補完的な手法になり得る.粒径およびα相分率はともに機械的特性に強く影響するため,実験結果のみからでは影響度・関係性を定量化することは困難ではあるが,機械学習を駆使することで精度よく影響度を定量化できたことは価値ある結果であると判断できる.

4. 結論

Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-Si(Ti-6242S)合金の等軸(α+β),Bimodal(α+β)組織およびDuplex(α+α′)組織における特性を体系的に評価した.本研究では,結晶粒径,組織形態,α/βまたはα/α′の相量比などの組織因子を,静的熱処理条件を多様に制御することで様々に変化させ,これらの組織に対して引張特性(強度,延性,加工硬化性)を評価した.例えば,Duplex(α+α′)組織の熱処理では,溶体化焼入れ処理温度を低下することで,初析α相の結晶粒径が微細化され,他方で生成するα′マルテンサイトの形成量が低下する(逆に初析α相の分率が増加する).

多様な組織因子と引張特性の関係性について,等軸組織における関係性では,微細化に伴い強度は制御(増加)できること(Hall-Petch則),またβ相によって加工硬化性が改善されることが示された.等軸(α+β)組織は,Bimodal(α+β)組織およびDuplex(α+α′)組織と比較して,強度は平均的ではあったが,加工硬化性に優れ,特に高延性(高い塑性伸び)であることが特徴付けられた.一方,Bimodal(α+β)組織の場合では,高強度(ただし加工硬化性は小さい)を示す特徴がある.実験結果においては機械的特性と組織因子の関係性で強い相関性は観察されていない.他方で,Duplex(α+α′)組織については,α′マルテンサイトの生成量により,強度および加工硬化性が大きく変化することが明らかとなった.さらに,Duplex(α+α′)組織では総じて良好な延性を呈しており,加えて強度と加工硬化性のバランスに着眼すると,特に優れた特性を呈していたことがわかった.

まとめると,本研究で準備した3つの組織形態を比較すると,Duplex(α+α′)組織にて特に優れた加工硬化性と強度-延性バランスを呈すことが明らかとなった.

本研究ではまた機械的特性に作用する組織因子の影響・関係性を定量的に解明するために,機械学習を援用して評価・解析した.ここでは勾配ブースティング決定木を用いた機械学習により,機械的特性(耐力,UTS,塑性伸び,加工硬化性)における組織形態(形態種),結晶粒径,相量比の影響度(重要度)を評価した.Ti-6242S合金の機械的特性における作用機構の理解を深めるために,組織因子の特徴量の重要度を分析し,加えて交差検証法により回帰した結果の妥当性を検討した.その結果,耐力においては精緻に予測・回帰することができた,一方で塑性伸び,加工硬化性,UTSにおいてはある程度よい精度で回帰することはできるものの,より信頼性を向上させるためにもデータセット数を増やす必要があることが示された.

本研究の一部は,(公財)軽金属奨学会課題研究(2022-C2-1)の助成を受けて実施された.ここに謝意を表する.

文献
 
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